第31話 闇に蠢く者2
病院ですぐさま検査が行われ危険な状態だと診断されたのか緊急手術が始まる。作倉はどおやら癌に犯されているようだな。
然も肝臓癌のステージ4で転移もしていている様子。
この症状は…
作倉の病状を見て、思わずハッとなる俺と真智子。
そう、コヨミが倒れた時の状況と酷似していたのだ。
まぁ、命さんの話では過労との事であったのでそれを信じる他はないのだが、心配事が増えてしまったのは確か。
「この男…あまり長くはないわね」
病院のベッドの上に横たわる作倉を見下ろしながら真智子がボソりと呟く。
見ての通りステージ4でこの状態では仕方がないのだろうが
この男…本当に癌だけで此処まで衰弱しているのか?
との感想が俺の正直な所だ。
等と思案しながら作倉を見ていた俺を呼び寄せる様に手招きする影。
誰だ?と思いながら無視しようと思ったのだが、その影の正体は何と社長であった。
聞くと恵美さんがおめでたであるとの事で検診の為に病院へ来た所に俺の姿を見掛けて声を掛けたらしい。
事の経緯を説明すると暫しの間、作倉をじ~っと見つめていた社長が成る程と妙に納得した様に俺に向き直り作倉をよぉ~く見ろと言い出す。
じぃ~~・・・
社長に言われて作倉を凝視する俺と真智子…
ン?こ・・・これは・・・
良く見ないと解らないレベルなので見落としていたが作倉の頭の先から細長い糸の様な物が伸びて先が消えていて何処に繋がっているか解らない。
「それは魂の糸だよ」
前回の事件の時に2人の魂の半分を握っていた社長だから解った事であるのだが、てか、この糸の先に何が有るってんだ?
糸の先は消えてるし
不思議な現象に?マークがダンスし出す俺に多分と前置きをしながらも「その糸の行き先は霊界だ」と説明する社長。
霊界…天国が在る天界と地獄への分岐点に存在する世界。
通常、人は死ぬと霊界に行き、そこから天国か地獄のどちらかに行く事になる。
然し、霊界にも例外の場所が存在している…
そこにはSSR級最上位クラスと言うよりはLR級に届こうかと思えるほどの強い怨念を持つ幽霊が留まる吹き溜まりみたいな場所との事で俺はその場所を霊界の底と言う意味を込めて界底と呼ぶことにした。
「奴等もそんな場所で留まるのは不本意だろうが、あまりにも強すぎる恨みのおかげでその先に進めないのだよ。そして、恨みを持つ者に復讐をしているんだ。」
どおやら幽霊は霊界に行っただけでは成仏したとは言えないらしい。
人が死ぬと通常は霊界に行きそこから天国や地獄へと行った後、生まれ変わり次の人生を謳歌すると言ったループを繰り返すのだが、俺達がランク付けした幽霊はそのループから何らかの理由で外れた存在で外れるタイミングも人間界と霊界と其々違う。
つまりは人間界でループから外れたら俺達の様に人間界に留まり、霊界で外れたら界底に落ちるって解釈で良いのか?何れにしてもループから外れるとロクなことにはならないみたいだ。
これは、ランク分けの定義も後で設定し直す必要が有りそうだな。
それはさておき、社長の話を総合すると作倉の場合はその界底に住まう者に魂の一部が捕らわれていて捕らえた者に何かされているらしい。
界底がどんな場所でどんな幽霊が居るのか興味は有るのだが、どおやら行くことは不可能との事。
「俺も良く解らんのだが、界底の住人は人間界に来る事は出来るが、俺達の様に人間界に留まる幽霊は界底には行けないらしい。」
と、言うことは、界底に行くには霊界に行かなければならないと言うことか?まぁ、どおせ手遅れなのだし、手出しは出来ないから何もしない方が良いと言う社長。
シッカシ…向こうから干渉出来るけど此方から干渉出来ないって…どんだけ都合良すぎる世界だよ…オイ…
ン?…ちょっと待てよ?
何で社長がそんな事知ってんだ?当たり前の様に話すからそうなのかと訊いていたけど、妙に詳しいじゃねえかよ…
その事を突っ込むと少し前に店のお客に取り憑いていた悪意丸出しのSSR級をぶっちめた時に界底の話を聞いたとの事であった。
って、事は作倉に対して俺が出来る事は
1・完全放置
2・作倉の身辺調査をしてどおして恨みを買っているのかを調べる。
3・界底に行き元を断つ
の3つか…
まぁ、界底に行って帰って来れる保証も何もないのだから3は外しても良いかな?
それに、俺が作倉を助ける義理はないのだしよ。
そうすると選択肢は1のみになるような気がするのだけど?う~む…
此処は…
そんな事を考えていたら作倉が目を覚ました。
何があったのか思考が着いてきていない様子でしきりに周囲を見渡して状況の確認をしているぞ。
どおやら作倉は病院に居る事を理解するとナースコールを押して看護師を呼んでどういう事かと問い質している。
状況からするとどおやら作倉は換金所からその先の記憶は無いらしく、事の経緯を訊いて驚いていて、更に医師から病状と余命を伝えられ、妙に納得した表情になる。
その後、作倉は1週間で退院し、治療に専念するかと思いきや、回数は減ったものの相も変わらずパチンコ屋通いを止めていない。
これはもしかしなくても依存症ってヤツなのか?
確かにそうなのだろうが、何か変だ。
そう感じた俺は作倉と言う男を注意深く観察した。
すると、真智子が作倉のメガネがカメラになっている事に気が付いたのだ。
だから何?と思うだろうが、答えはウーチューブと言う動画サイトに有った様だ。
作倉はメガネ型カメラで撮影したスロットやパチンコの動画を編集し、ウーチューブで流していたのだ。
チャンネルと呼ばれる専用の場所で動画をアップして流す訳だけど、チャンネル登録者数も20万人を超え1動画あたりの平均再生回数も30万再生を超えると言った人気ぶりだ。
「趣味が実益に変わるってのは良いことだと思うけど、命を削ってまでする事なのかしらね」
その事実を知った時、真智子が首を捻りながらそう言った。
確かにそうだ。
俺達は作倉の生活状況まで見てはいないので何とも言えないが、通院はしていない様子なのだ。
って言うか、コイツ余程死にたいみたいだな?
「レイは優しいね…でもね…こういう輩は何を言っても無駄だから無視が一番よ」
諦め口調で真智子が言う。
その後、作倉は2ヶ月もしない内にワンダーランドに現れなくなり、他の客の噂ではパチンコ動画の編集中に息を引き取っていたらしいとの事。
これで界底に蠢く者達の手掛かりも切れたと
思っていたのだが・・・
どおやらその考えは甘かった様だ。




