第27話 ガチ鳥の怪8
不動明王さえ居なければこっちのもんだ。誰が何と言おうと復讐は果たさせて貰うぜ!
そう、この場に命もコヨミも居ない。
社長が現れる少し前にコヨミが倒れてしまい、命が付き添いで病院へと行ってしまった為だ。
テメェ…
目の前で展開された悲劇を止められなかったとあって怒り心頭のレイは美しい波紋が妖しく光る一振りの日本刀を出現させ、その切っ先を社長に突き付ける。
「覚悟は出来ているんだろうな!言っておくがこの刀はナマクラじゃねぇぞ!?」
「フンッ!今俺を成敗したところで何も変わらんよ!」
触れるだけで鳥の羽さえも切れてしまうのではないかと思う程の切れ味を思わせる刀を前であっても臆する事もないどころか眉一つ動かさず平然としている社長はレイが即斬しないと確信している様子だ。
もし、レイが社長を即斬してしまえば握っている西村山親子の魂諸とも地獄行きは間違いなく、魂を解放すると同時に社長のみを斬る等といった芸当は出来ない。
やっぱりこうなるのかとため息を吐きつつ後は任せろと言うとアッサリと刀を消したレイは森田警部に向き直り
「どおやって終わらせる?」
と、詰め寄る。
その前に…
「社長!本当にこの人は死んだのか?」
レイへの返答にも困ったのもあるが、本当に人殺しを働いたとは思えない森田警部は社長に問い質す。
「まだ死んではおらんよ…」
所謂仮死状態と言うヤツなのだろう。本当には殺していないみたいだ。
社長の返答にホッとしたは良いが危機的状況には変わり無い。
「この人には罪はないよ。今すぐ戻すんだ!」
森田警部からしたら悪いのは遠矢であり、鶴乃屋であってガチ鳥は悪く無いとの見解なのでこの抗議は当然であろう。
然し、社長からしたら事件を起こした発端を作ったのは明らかにこの男なのだし許す訳には行かない。
このままでは何処まで行っても平行線を辿る水掛け論でしかないのは周知の事実であり、何処かで妥協点を見つけるしかない。
「じゃあ、勝野はどおだ?そもそも鶴乃屋が諸悪の根元だぞ?西村山より罪は思いぞ?」
苦し紛れに勝野の事をどお考えているのかと訊ねたが、鶴乃屋が全国展開した時点でみず乃にやった様な悪事を何度も働いている為に怨霊化した者達が何人も取り憑いているらしく自らが手を下す迄もない状況らしい。
どんなに嘘を吐き通そうと怨霊達がそれを許する訳がなく一寸先は闇状態だとの事。
黙っているつもりではいるのだがなぁ…
二人のやり取りを静観していたレイではあるが、店長の頑張りを知っているが為に助けたいと言った気持ちが働いているのも事実。
もどかしさを感じつつも口を出す事はしないのであった。
「じゃあ、大澤はどおするつもだ?」
森田警部のダメ元の質問に案の定既に魂を握っており真っ先に殺すつもりの様だ。
「これ以上話をしても埒が明かないんじゃねぇの?社長の好きなようにさせたらどおだよ?」
幽霊が生者を殺す事を見逃す様な事はしたくないが、復讐する権利は我に有り状態だし気持ちは解るしな。
然し、諦める事を知らない森田警部は24時間の猶予をくれと社長を拝み倒すと言った行動に出る。
森田警部の懇願にしぶしぶ了承する社長に感謝しつつも早速行動に移る。
先ず最初に店長の家族へと連絡したは良いが、事情を話す事なく事件の事で話を訊こうと店を尋ねたら既に死んでいたと伝えたのだ。
そしてその場を部下に任せ、次に向かったのは西村山遠矢が収監されている留置場。勿論、遠矢と話をするためである。
幸い、雨音署にも留置場は在るので俺と社長も同行したのだが、俺は取調室の壁越しに、社長は森田警部の中に潜んで話を聞いていたのだが
「幽霊なんか居てたまるか!最近、頑張り過ぎていたみたいだから大方過労死でもしたのだろうよ」
今回の一部始終を伝えても悲しみすら覚えていない様子の遠矢。
はぁ?居てたまるかだとぉ?コイツ間違いなく見えてる部類の人間だよな?俺と目を会わさない様にしてるしよ。
まぁ、この手の輩は認めるのが怖いから去勢を張っているだけの奴が多いよな?だとすると…
居直った様な態度にカチンと来た俺だが、第三者の立場の俺が出ていっても事態は変わらないどころかややこしくなるのが関の山なので、社長をけしかける事にした。
フッ…お前さんはなかなかの悪戯好きみたいだな…解った…
俺の提案に不敵な笑みを浮かべ頷く社長は森田警部の中から出て遠矢の目の前で手を振ったり耳元で囁く様に
「幽霊が居ないのなら…俺は誰でしょう?」
とか言って遠矢を弄りに掛かる。
突然の社長の行動に驚いた森田警部にすかさず俺が頼むから邪魔しないでくれと一言言った後、社長に化けて遠矢の背後から低い声で
「俺の命を返せ」
と言ってやった。
いやぁ~…社長がこんなに悪戯好きな奴だったなんて思ってもみなかったよ。
恨み辛みを込めた声で脅かしているけど嬉々として遠矢に絡み付いているのが手に取る様に解る。
その様子を目を丸くして見ている森田警部。
「や…ヤメロ…やめてくれ~!!」
突如始まった社長と俺の即興ホラーショーの恐怖に半狂乱になり、叫び声を挙げたと思ったら股間から湯気を発生させて失神した遠矢。
どおやら、幽霊は怖い、怖いから存在を認めない。そう言った部類の人間だった様だな?
お前らやり過ぎだと森田警部から軽く怒られたが、殺した訳ではないから良いじゃんよ。
「あ~ぁ…誰が掃除すると思ってんだよ…全く…」
ぼやきながらも遠矢を覚醒させ、態とらしく「何を見たんだ?」と問う森田警部に恐怖が抜けきっていない遠矢がヤツが出た!ヤツが俺を道連れにしに来やがった!と青ざめた顔でブツブツと呟きだす。
「俺は被害者の恨みまで感知しない。お前が裁判で裁かれて罪を償おうが殺された人達の恨みは消えない」
お前の身勝手な行動で息子さんが不幸な目に遇ったんだよ!
と、諭す様に語るが、社長は今でもお前さんを恨んでいるし、何時でもお前さんを道連れに連れて行く事も出来るぞ!?と脅しも忘れない。
「む…息子は本当に殺されたのか?」
花岡玉斉からは元々この地に住み着いている霊の仕業だと聞かされていた。
然しそれは祓いきれなかったと言う自責の念と自称雨音No.1の祓い屋だと言う無価値なプライドから来るハッタリであった。
当時は幽霊を見えもしなかった遠矢はその言葉を鵜呑みにし、信用したのだ。
遠矢が幽霊を見える様になったのはそれから間も無くの事で、社長が遠矢の魂を半分掌握した為の副産物なのだ。
先程絡んで来たのは紛れもない社長であり、声も聞こえたら触れられた感触もあった。自ら起こした愚行が息子を喪うといった結末を迎えた事を受け止めなければならない。
ガックリと肩を落とし、項垂れて確認する遠矢に事実だと告げる森田警部。
「・・・そうか・・・」
短くそう言って口を閉ざす遠矢に社長に対して謝罪する気は有るか?と問い質す森田警部に
「無い…奴らを殺した事を俺は後悔していない」
少し迷った素振りを見せた遠矢であったが後悔も贖罪の気持ちも微塵も無いと言い切る。
決まりだな・・・文句は無いな?
ヤレヤレ…好きにしろ…
社長が話し掛けると打つ手なしと言わんばかりに肩を竦める森田警部。
その夜、遠矢と大澤は留置場にて突然死を迎える事となった。
死因は心不全。
これにより、2人の突然死は社長の怨念による死だと街中の人達の噂になり、都市伝説の1つとして語られる事となったのであった。
遠矢の死により店長の魂は解放され、無事に蘇生したは良いが、事の全てを知りこれ以上は店を続けられないとガチ鳥を閉店し、鶴乃屋に至っては数々の悪事が明るみに出て全店閉店へと追い込まれる事となったのであった。
それから数日後
コヨミは命さんが守る不動神社へと生活の場を移したので詳細が解らなくなってしまったが、別れ際に必ず強くなって帰って来るからと俺に誓っていた事から心配する事は無いだろう。
店長一家はと言うと、近隣住人による風評被害が強くなり逃げる様に雨音から出て行き、行方知れずになってしまった。
事件は不本意な決着となってしまったが、社長一家のその後はと言うと、祠に封じられた家族は時間と共に浄化され無力化されるとの事ではあるが、問題は社長である。
「目的は果たせたんだ。地獄でも何処でも行ってやるよ」
閉店した鶴乃屋の前でドカッと胡座をかき腕組みをして居直る社長。
そりゃぁ、恨みを晴らしたから満足なのだろうが俺の中で何とも言えないモヤモヤが残ってしまった。
俺は神様ではないから社長をどおこうする事は出来ないので黄泉送りの陣にジャッジさせるのみ。
殺された恨みが無ければコンビで生者に悪戯して遊べたかも知れない。そう考えるとこのまま黄泉送りするのは残念でならないが、本人がこの世に残る気は無いと言い切るので仕方がないよな。
と…そこに
「お父さん…なの…?」
黄泉送りの陣を発動させようとした俺の背後から女性の声が聞こえてくる。
その声に反応してしまった俺は陣の発動を中止して振り向くと信じられないと言った表情の中年の女性と森田警部と箕浦刑事が立っていた。
「そ…その声は…恵美か…恵美なのか?俺が見えるのか?」
「見えるよ…間に合って良かった…」
行方不明となっていた社長の娘の消息を追っていた刑事さんの話しでは、事件の事を知った恵美は夫と相談し、料理修行しながら海外を転々とし、三年前に北海道の港町の和食の店で働いていたとの事。
そして昨日、漸く消息を掴んだ箕浦刑事が恵美に連絡し、慌てて飛んで来たとの事だ。
恵美の登場により、興を削がれた形になった俺は暫し二人を見守る形になってしまう。
「みず乃は私が復活させますので安心してください」
恵美にとって憧れであり目標であった父親の指導は受けられなかったのは心残りではあるが、何時までもこの世に遺させる訳にも行かない。
小一時間程親子の会話をし、お別れの言葉を述べる恵美に頼んだぞと力強く頷き、レイに向かって
「やってくれ」
と短く言う。
あ…あれっ!?
社長の言葉を受けて黄泉送りの陣を発動させると案の定無数の黒い手が出現したのだが、黒い手は社長が抱え込んでいた遠矢と大澤の魂のみを持ち去ってしまったのだ。
これには俺も真智子も驚いた。
黄泉送りの陣は対象の霊の罪をジャッジしてあの世に送るか地獄へ送るか審判するための陣。
殺された事を考慮しても社長は地獄行きになると思っていた俺と真智子であったが、社長はどちらにも連れて行かなかったのである。
まさかの執行猶予ってヤツ?
ボソリと呟く真智子もまた初めての事象だったらしく混乱している。
し…執行猶予って…あのなぁ…アレは只の陣でスマホやPCで言う所のアプリみたいなモノなのだろう?まるで裁判官が裁判しているみたいじゃねぇかよと混乱する真智子にツッコミを入れると
裁判官と言うよりは閻魔大王が直接ジャッジしているのじゃないの?
と適当な返事をしてくる。
閻魔大王…じゃあ、今後は黄泉送りの陣ではなく閻魔と呼ぶか…等と考えていた俺に
「どおやらこのままではどちらにも行けないらしい。あの世に行きたければお前さんに協力せよだってよ!」
と言う社長。
どおやら、社長には閻魔を通じて何者かの声が聞こえたらしい。
まぁ、それならそれで困った時には協力して貰えるから良いけどよ…何だかなぁ…
「それじゃあ、今後は私達に協力して貰おうかしらね」
成り行きを見守っていた箕浦刑事がチート能力を手に入れたと言わんばかりに話し掛けてくる。
参ったね…どおも…
とてつもなく面倒な事になりそうな気配を察知した俺は「やなこった!」と言い残し、社長の首根っこを捕まえて雨降山へと移動したのであった。
第2章はこれにて終了です。
第3章に突入する前に魔界のお話を少し書きます。




