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石物語  作者: 遥風 悠
13/14

最後の戦いへ

 【第一の番人、マリス】


 指揮棒を軽く振り上げた状態で一拍置き、開戦を表すかのように振り下ろした。そこから発生する波紋。水面に水滴を落とした時の様な波の輪が4人に襲い掛かる。ただしその波紋の見え方は各々に異なるようで、しっかりりと細見できるセシリア、何となく空気の振動を目と耳で感じることができるエルとクリアンカ。それに対して何ら違和感を感じられない、攻撃性を察知できない、波紋を目視できないオルガであったから、マリスの攻撃に対して構えることすらできなかった。オルガをエルが、セシリアをクリアンカが護衛しては波紋攻撃を遣り過ごした。4人を通過した波紋は背後で小爆発。他の3人とは違い攻撃を把握できていなかったオルガは、オッ、と振り返り、

「よく分からんが、大した威力じゃねェな。」と呟くのだった。それを聞いていたセシリアからは溜め息ひとつ。


 「よし、俺がいこう。」

「エル、ひとりでいきますか?」

「うん、ちょっとやらせてもらっていいかな。」

「それは構いませんが・・・」

「無理しないで、引くときは引きなさいよ。」

「うん、わかってる。その時は頼むよ。」率先して戦いを挑むのはエル。その心中。おそらくマリスは中距離からの波紋攻撃を主軸に戦ってくるだろう。直前の一発で見切ったとはさすがに言い切れないが決して避けきれない速度ではなかった。相手を寄せ付けないように連撃か。逆に言えば距離を詰めてしまえばこっちのもの。法術士同様、接近戦に持ち込めばこちらのものと踏んだエルは自らが適任だと考えた。

 エルがレイピアを構える。他の3人は数歩後ろに下がり意思表示。幾らか距離を置いた所でマリスもタクトを構えた。指揮者が演奏を司る直前の緊張感が一幕、時を止める。

 オルガ、セシリア、クリアンカの3人はやや遠くから黙って戦況を見守っていた。一定の距離を保ちつつタクトを振り波紋を繰り出し続けるマリスに対し、エルは攻撃を見極め回避してはいるものの間合いを詰めることができない。反撃ができぬまま地上で追いかけっこが展開されていた。追うエルに追われるマリス、けれど攻撃を仕掛けるのはマリスばかりで防戦一方のエル。波紋攻撃によって誰もいない所に小爆発や衝撃波が(こしら)えられるだけだった。(らち)があかない、千日手かという気配が漂い始めた時、動いたのはエル。特に魔導石の力を解放したわけではない。様子見からギアを上げただけ。突然の加速でマリスの視界からエルの姿が消え、一驚を喫すると共に指揮棒が止まった。次の瞬間にはエルが間合いを詰め標的を捉えた、はずだった。しかし今度はエルの視界からマリスが消失する。エルの脳みそが思考を止めた。それでも体が反応するから戦いに身を投じてきた戦士は恐ろしい。エルの細剣を逃れたマリスが現れた場所は空中、そこから放たれた衝撃波。背後上空、死角からの波紋に対して振り返り両腕を交差させて防御したものの、ぶっ飛ばされるエル。

 テレポーテーション。


 エルの作戦に誤りはなかった。波紋による中距離攻撃に特化するマリスは接近戦に持ち込まれれば為す術なし。並以上の近接攻撃に対抗する手段を持ち合わせてはいなかった。ただし、マリスとの距離を詰めることは至難の業。理由は明白、それはマリスの特殊能力。瞬間移動。エルは自分の把握した現状を確認すべく一旦仲間の下へ引き返していった。

 「大丈夫、エル?」セシリアが傷の手当てをしようと近付いたが、エルは軽く手を挙げて遠慮の意思を示した。そもそもほとんどダメージは受けていない。代わりにちょっとした依頼をするのだった。

「ねぇ、セシリア。シャボン玉をかけて欲しいんだけど、お願いできるかな。」意外なリクエストだった。

「それは構わなけど――」

「お前ェ、空中戦でもおっ(ぱじ)めるつもりか?」オルガが問う。

「まさか。空に逃げられた時、追撃できたらと思って、一応さ。空中戦じゃ分が悪いし。」そう言いながらエルはくるぶしに翼を仕込んでいた。

「ゴメン、もう一度ひとりでやらせてよ。やられたまんまじゃ悔しいから。それとさ・・・マリスの最後の技って・・・」

「うん。瞬間移動だと思うわ。」セシリア。

「テレポートで間違いないと思います。」クリアンカ。

「見えん。」オルガ。

 ニカリと笑い、エルが番人マリスのところへ戻っていった。



 「あら、まだお独り様なのね。みんなに助けてもらった方が宜しいんじゃなくて。」

「ねぇ、マリス。あれって瞬間移動だろ?」

「んっ、そうよ。だからあなたがどんなに頑張っても私に触れることすらできないの。どんなに速く動けたとしてもね。」

「うーん、それは困っちゃうけど、まぁ、やってみるよ。それじゃあ、いくよ。」そう言うとエルは、会話できる距離まで縮まっていた間合いを後方に跳んで自ら広げた。

「ウフフ・・・律儀な子ね。」そう独り言を言うと、マリスも指揮棒を構えて戦闘態勢に入った。

 まず仕掛けたのはマリス。タクトを振りながら、踊るように波紋を作り出してきた。けれどもエルには当たらない。まるで準備体操(ウォーミングアップ)でもするかのように涼しい顔でマリスの攻撃を見切るエル。その場からほとんど動くことなく、正面からの波紋攻撃ではエルを捉えることはできなかった。そんなことを行動で示したエルが反撃に出た。『朔風の足袋』が小さく翻ったかと思うと軽やかに大地を蹴りマリスに向けて駆け出した。

「なっ!」マリスの予想を遥かに超えるスピードだった。エルが何かを企んでいることは火を見るよりも明らかだったのに、まるで対応できなかった。それこそ瞬間移動でもしたのではないかと。エルが律儀な正確じゃなかったら勝負が決していたかもしれない。マリスは反射的にテレポートしていた。

 でもね、坊や。どれだけ速くても消えることはできないのよ。

 勢いよく地面を蹴って飛び出したエルの目の前からマリスが姿を消した。姿と共に気配も完全に消失し、次の瞬間戻ってくる。多くの場合は敵の視野の外、背後だったり上方だったり。それが分かっているだけでも次の動作の大きな助けとなるのだが。それともう1つ、瞬間移動した張本人も標的を見失わざるを得ない、基本的には。

 エルの突撃を瞬間移動で回避したマリスが現れたのは上空10メートルの位置。と、ほぼ同時、少なくともマリスが波紋を打ち出す間すら与えぬ内にエルは身体を反転させ、跳ね上がり、レイピアを突かんとしていた。

「冗談じゃないわ・・・」

 トュン―またマリスが消えた、故にエルの細剣が空を切った。マリスが次に現れたのは地上。このコンマ数秒の間にマリスの表情は切迫したものに変化していた。即座に空を蹴りマリスを追撃するエル。ドュンと、エルが土埃を上げて着地した時マリスは再び空へ。間髪入れずにエルが追いかける・・・

 距離を置いて戦況を見つめる3人。彼らには2人の姿を見極めることはできなかった。光の点滅が繰り返され、時折煙のようなものが発生している。どちらが優勢かも分からないし、攻撃が当たっているのかも見えていない。それほどの次元だった。



 「瞬間移動する敵が出てきたらどうするかだって。変な質問する奴だな。・・・ふむ、分かった分かった―――対抗策としては3つか。理想としては瞬間移動に瞬間移動で対抗できれば良いのだろうが、お前には無理だな、アッハッハッハ・・・そんな顔で睨むな睨むな。2つ目、コイツが一般的なんだが、相手のテレポート範囲全域に法術なり結界なりを張り巡らせる。法力や法術の特徴にもよるが、やり方次第じゃなかなか有効だぞ。ただし、こっちもエルには無理だろうな。アッハッハッハ・・」

「カイツ~、いい加減、俺にできる方法を教えてくれよ~。」

「ああ、そうだな。お前にピッタリの方法があるから安心しろ。ただその前に、テレポートにも2種類あるから、そいつから説明してやろう。」


 瞬間移動には2種類ある。ひとつは術者が消えた一瞬、術者自身の視界がゼロになるもの。つまり、術者も一瞬相手を見失うことになる。こちらは『陽』の瞬間移動と言われ、瞬間移動としてはこちら側が一般的。もうひとつは『陰』の瞬間移動。敵を視界に捉えたままテレポートすることができる。前者と後者とでは同じ瞬間移動でも天と地、月とすっぽんほどの差がある。

 マリスさん、あなたの瞬間移動が『陽』で良かった。俺にも勝機がありそうだ。



 エルは留まることなく動き回った。エルの攻防一体ともいえる突貫に対して、瞬間移動で対抗するマリス。背後をとらんとエルの後方へ。しかし視界が開けてもそこにエルはいないのだ。マリスが消えると同時に、もしかしたら消える寸刻前にエルも居場所を変える。何処へ?どこだっていいのだ、マリスの目を欺ければ。これが後者のテレポートであったならば通用しない。戦いにおいて敵を一瞬でも視界から外すことは論外。瞬間移動する側も、される側も。最速の鬼ごっこを地上で空中で繰り返すエルとマリス、その均衡が崩れてきた。くるぶしの翼としゃぼんを見事なまでに使いこなすエルが徐々に自分のペースへ持ち込んでいく。追う側と追われる側がはっきりしてきた。速き者と遅き者。そして、強き者と弱き者へと繋がっていくはずだった。エルの動き、攻撃に対して回避する為だけに繰り返される瞬間移動。マリスは防御に徹するだけ。もはや波紋攻撃は見られない。さぁ、エルがマリスを間合いに捕らえた。

 「疲れたー!ダメだ~~~。」空中でマリスの背後を完全に掌握したエルは、細剣で一撃を仕掛けるかと思われた。けれどもエルは(すんで)のところで刃を止め、一声発してピューっと落下していった。唖然としたのはマリス。空に浮いたまま落ちていく細剣の戦士を見送っていた。ひと突きしようと思えば突けたろうに。

 エルが地上に落っこちて、息を切らせながら座り込むとしゃぼんと翼が消え去った。オルガ、セシリア、クリアンカがゆっくりと歩み寄る。

「ハァ、ハァ・・・ゴメン・・・ちょっと体力がもたないや・・・」どうにか言葉にするとエルは大の字で倒れ込んだ。

「なかなかおもしれェもんを見せてもらったぜ。大したもんだ。まぁ、俺にはほとんど見えてなかったんだがよ。」一同から笑いが起こり、息が上がっているんだからあんまり笑わせないでくれと文句も出された。マリスはその様子をじっと見つめていた。

 クトリ・・・あまり聞きなれないかつ、ほとんど聞き取れない小さな音。けれど聞き慣れない故に各人の耳に大きく響いたのかもしれない。三人がひとりの人物に刮目した。

「次は私が行きましょう。私の戦い方をお見せします。」クリアンカが大きな鎌を構え、石版の番人が待つ空へと昇っていった。


 中間距離というのだろうか。マリスとクリアンカは随分離れて対峙していた。マリスの攻撃は届くだろうが、といった所。タクトを振り上げるマリスに、サイズを構えるクリアンカ。遠くから見守る3人には見慣れない距離感だった。クリアンカは雷属性の法術で仕掛けるのだろうか、とても鎌では攻撃が届かない。そうこうしている内に火蓋が切って落とされた。

「そのままでいいのかしら、リリトの坊や。いくわよ。」にこやかに宣言したマリスのタクトから波紋が繰り出された。対するクリアンカに法術を唱える気振(けぶ)りは見られない。眼鏡に触れない。

「鎌が伸びるんじゃねェか。」

「刃の部分が飛んでいくんじゃないかな。」

「馬鹿なこと言ってないで、黙って見てなさい。」全くセシリアも大変である。

 そんな会話を余所に、クリアンカの鎌が黄金(こがね)色に輝きだした。そして、

「雷紋。」落ち着いた声色とともにサイズを振ると、鎌と同色弧線が放たれた。クリアンカはマリスの波紋に狙いを定めた。マリスの波紋とクリアンカの雷紋がぶつかり、各々がきれいに相殺された。ここから中距離を保った攻防が展開される。


 波紋vs雷紋。まずはその威力。力比べでもするかのようにぶつかっては消えていく二種の中距離攻撃は互いに引かず、押せもせず。共に生まれては消えていく。生み出されては消されていった。これを見る限り威力といった面ではほぼ互角と言える。しかし次第に衝突位置が、徐々にけれども確実に、クリアンカの側へ寄っていった。押しているのはマリス。威力ではなく速度において均衡が崩れ始めた。ただし波紋と雷紋自体のスピードではない。技の発生速度。見た目通り至極当たり前のこと、指揮棒と大鎌の重量、そして大きさ、扱い易さの違いだった。段違いに小振りなタクトが波に乗る。テンポが上がり、呼応して波紋にも勢いが出てきた。クリアンカも大鎌を振り続けるも追いつかない。両者の優劣は2人の表情を見ても明らかだった。眼鏡の奥で鈍く瞳を光らせて鎌を降るクリアンカと、笑みを浮かべて舞うかの如くタクトを滑らせるマリス。

「鎌は重いでしょうに――」距離の攻防戦を制したマリス、対して武器の回転数に劣るクリアンカは今いる位置からさらに上空へと退避した。


 見上げるマリスと見下ろすクリアンカ。けれどもその境地はまるで逆だった。退かせたマリスと立ち退いたクリアンカ。2人の表情も対照的。

「鎌を下に向けて振り下ろすことで重さのハンディを減らそうというのかしら、リリトの坊や。もう、あなたにはそれしか選択肢が残っていないのかしら?」

 クリアンカが先刻同様に雷紋を繰り出し始めた。マリスも黙って応戦する。上方から下方に鎌を振り下ろして重力を力に変えられる分、多少は振りが速くなっただろうか。それでもやはりというべきか、波紋と雷紋の差、タクトとサイズの差が埋まることはなかった。各々の武器がひと振りされる毎に繰り出される波紋と雷紋。その発生速度の差が縮まるはずはなかった。


 「十重(とえ)雷紋。」声が少しだけ大きくなっていただろうか。大鎌の一振りで二つの雷紋、三つの雷紋、四つ、五つ、六つ目・・・クリアンカが意図したわけではないが結果として()められたマリス。リリトの坊やは逃げ惑っていたのではなかった。

「役者ね、ムカつくわ。」爆発的に増殖した雷紋に対してマリスも波紋をぶつけるが、如何せん数が多すぎた。三つ、四つは掻き消せても二つ三つの雷紋が襲いかかってくる。身を翻して遣り過ごしながらどうにか反撃を試みるも、波紋と雷紋の数の差は鎌が一振りされる度に倍加していった。そしてとうとう、応対しきれなくなったマリスはテレポートによって距離をとらざるを得なくなった。

「憎たらしいわねでもこれで勝ったと思わないでよ。」しかめっ面で吐き捨ててマリスは地上へ移動した。

「別に鎌が重いから上空へ飛行したわけではありません。姫へのお膳立てといった所でしょうか。悪く思わないで下さいね、石版の番人さん。」

 マリスのテレポート先には既に、セシリアによって結界の網が張り巡らされていた。


 「炎氷硝煙(えんぴょうしょうえん)。」

 マリスが地上に現れた途端にその一面を霧と見紛う細かな煙が覆い尽くした。モクモクといった印象は無し。さっと広がり気が付けば煙幕が張り巡らされていた。

「これは・・・?」そう思ったのは合成法術に包まれたマリスだけではなく、エルもオルガもクリアンカも見たことのない奇怪な法術。標的を攻撃するような法術ではない。攻撃力はゼロと言えよう。合成法術『炎氷消炎』とは視界を奪い、嗅覚を奪い、聴覚を奪い、法力を奪う。故にマリスの瞬間移動という特殊能力が一時無効化された。だから、クリアンカの猛攻から地上に逃れた直後不可解な煙に囲まれたマリスが咄嗟にとったテレポートは発動されなかった。先の感想はその時に漏れたものだった。その一言すらもぶっ飛ばす一撃が戦いを終わらせるのだった。


 煙が蔓延するのに要した時間は一瞬だったが、消え去るのに費やされた時もまたごく僅かなものだった。まずは衝撃波、髪が一方に強く流れる程の風が吹き抜けたかと思うとムォンという低音の爆発音と共に煙幕が晴れた。空に立つクリアンカも、煙を起こしたセシリアも、その煙に包まれたマリスも展開の早い出来事に驚きを隠せなかったが、座り込んだエルだけは一部始終を見逃さなかった。

「決まりだ。」大の字から上半身を起こした状態で呟いたエルだけはオルガから注意を逸らさなかった。煙だけに意識を奪われなかった。まるで意味不明、不可解な煙幕の中に独り後込(しりご)む事無く突っ込んで、番人の目の前に大剣を突き付けたオルガ。

「決まり、だろ?」

「そうね・・・」


 煙が霧散した。オルガの何でもない突撃を躱すとか波紋を放つとか、そんな選択が頭を過ぎるまもなく大剣の戦士が眼前にいた。これが彼らの作戦だったのだろうか。いや、彼らの驚いた表情から察するに違うだろう。合成法術によって生み出された謎の煙に逡巡することなく駆け込んできた。姿はおろか気配すら掻き消してしまう煙だから、私の姿は法術が発動される前の位置を記憶していたよう。最もそこに突撃できる奴を無謀、無鉄砲の馬鹿野郎というのだが。敗北を認めるしかあるまいて。



 (かなえ)の沸くが如し、とでも言うのだろうか。でも、騒がしいだけでなく、賑やかさのおかげで一晩、魔界や竜族から心を引き離すことができた。皆が旅立ちを支えてくれているようだった。石版を受け取ったその日の夜、マリスの酒場で美味しい食事と酒をご馳走になった。4人は特等席、すなわちカウンター席へと誘われ、その他大勢は後ろの方で底抜け騒ぎをしていた。随所にラルホーの声も聞こえた。

 翌日マリスに案内された場所にはもはや見慣れた?転送装置が現れた。次なる番人の居場所に転送してくれるというのは大変有難いのだが、なぜか先頭を歩いているのはマリスと、魔導石店のドワーフだった。旅の無事を祈って門外不出の魔導石を、などということは一切なく、単なる見送りだけだった。昨日の酒が随分と残っているようで(というより朝まで飲んでいたようなのだが)、真っ赤な顔してラルホーと叫んでいるだけだった。商店の並ぶ殷賑(いんしん)な通りから離れ、落莫(らくばく)とした区域へ。とある小屋には特に隠されることもなく、転送装置が設置されていた。


 「忘れ物はないかしら。気を付けてね。」そう言うマリスはまるで母親のようだった。そういえば4人に母親の記憶はない。だから余計に響いたのだろうか。そのギャップにみ呂い雨を感じたのだろうか。戦いの時とは違って円かな笑顔、酒場の女主人の時とは違って高すぎるテンションも酔いも抜けていた。

「マリス、次の石版の在り処は――」セシリアの質問に対してマリスは神妙な面持ちで答えた。

「気を付けなさい。貴方達の送り先は『絶望の町』。恐ろしく気分の悪い所。できることなら行かせたくないのだけれど、仕方ないわね。」

「気分の悪い町、とおっしゃいますと・・・」クリアンカも気になった様子だ。

「あまり口に出して説明したくはないの、という感じで濁さしてもらおうかしら。」

「ラルホー・・・」若干シリアスな話をしていたからだろうか、ドワーフの口癖なのか挨拶なのか、聞き飽きたセリフが聴き慣れぬ低い音域で割り込んできた。マリスも含めて皆がドワーフに注目する。そこに立っていたのは初めて真面目な表情を見せるドワーフだった。

「たとえ何が起ころうとも、心を無くしてはならん。心を失っては絶対にいかんぞ。」聞き慣れたらるホーのトーンとは真逆、静かで重くて慎重で抜け目のない発言に視線が集う。どこか悲しく寂しい目をしたドワーフ。

「音楽はいいぞ」。自分の手を離れた心すらも執り成してくれる。耳を塞がなければ音色だけは決して裏切らない。

出し抜けに訳のわからないことを言い出したドワーフに、マリスも含めた全員が戸惑ってしまった。お構いなしに話を発展させるドワーフ。

「感情をなくしてはならん。何が起ころうとも、心だけは――その為の音楽、その為のシアル=ムジカである。」

「えっと・・・あの、その・・・えっ?」エルを始め、誰も言葉が出てこなかった。この時はまだエルもオルガも、セシリアもクリアンカも、ドワーフの意図を、真意を理解できずにいた。それ明けの局面を経験したことがなかったから。まだまだ青二才ということなのだろう。

 転送装置で次なる町、『デス=ポワール』へ送られた4人。

「心を亡くすなよ。たとえ仲間が消えたとしても。自分だけでも逃げて逃げて、生き延びろ。」


                                【音楽の町、シアル=ムジカ 終】






【絶望の町、デス=ポワール】       


 何を持って絶望とするか。何によって絶望するか。この町の主の意図する絶望は直ぐに伝わってきた。転送先は町の入口。死臭、だろうか。とても足を踏み入れたくはなかったが、他に行くあてもない為、突き進むしかなかった。昼か夜かも分からない。辺りが薄暗い。直前までにいた町がシアル=ムジカだったということも余計にこの町の陰鬱さを引き立てていた。ただ覚えておくといい。絶望を通り超えるとその感情は怒りに変わる。そう安々と絶望に屈する連中ではなかった。

 打って変わって静かな町だ。人っ子ひとりいないのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。半壊、全壊した屋舎、建造物が並び、それだけならどうということもないのだが、至る所に死体が吊るされていた。どういう町なのだ、一体。何を目的に造られたのか、第二の石版管理者が潜んでいることは間違いないはずなのだが。歩いても歩いても視界に入ってくるのは吊るされた死体ばかり。男性、女性、子供、動物、エルフにリリト、魔獣に魔族等々・・・気分は最悪だ。一行に閑話が生まれるはずもなく、死体に迎えられる中、沈黙とともに歩を進めた。まっすぐ胸を貼るように歩くエル、セシリアは下を向いてなるべく視界を狭め、オルガは石版の番人を見つけ出しボコボコにすべく首を振りながら、クリアンカは鎌から右手を離さなかった。


 ふと、エルが小太刀を振り切った。吊るされた一体の死体の綱が切られ、グニュリと音を立てて土の上に崩れ落ちた。その死体の顔はカイツ。(たち)の悪すぎる作り物には違いないのだが、エルの感情を逆撫でするには十分だった。続いてクリアンカ。リリト族の幼子だろう、翼の生えた小さな子供達の死体が複数連なっていた。鎌をひと振り、けれども落下した死体に見向きもせず歩を進めた。こんな所にリリトの子供がいるはずもないと言わんばかりに。さらに追い討ちをかけるようにエルフが吊るされ、ヨンレンが吊るされていた。

 綱を切る前にオルガが切れた。

「下らねェ!!」突如オルガがダインスレイブを抜いた。その殺気を察したクリアンカはエルと姫の手を取って上空へと逃れた。どうにか羽をばたつかせて高度を保つクリアンカの下ではオルガが綱を切るのではなく、周辺の家屋ごと力任せに吹き飛ばしていた。オルガの怒りが目に見える形で現れてしまった。クリアンカは距離を置いてエルと姫を地上に降ろす。

「出て来いっ、クソが!この場でぶっ殺してやるっ!!」オルガが(たけ)た。その声は静かで暗くて、見通しの良くなった絶望の町デス=ポワールの闇夜に吸い込まれていく。そしてこの絶叫は確実に万人の下へと届けられていた。


 「セシリア、明かりをつけろ。できるな。」オルガが命令した。実はあまりオルガに命令されたことのないセシリア。これだけでオルガの胸クソの悪さは伝わった。セシリアは黙って炎の球を天に放り投げた。差し当たり極小の太陽といったところか。けれども残念ながら、光が差したとは言い難かった。光が降り注ぎ視界が開けた結果、絶望の町が広がった。道沿いにどこまでも続く死体、死体、死体。セシリアは思わず下を向いて目を瞑ってしまった。いくらか見えない方が良かったのかもしれない。こういう時こそ野郎の出番である。気配を探るエルとクリアンカ。2人共オルガよりは器用に探れるし、今のセシリアよりは巧みに敵の位置を知ることができる。そう思っていた。そう思っていたことが数秒後には恥ずかしてく堪らなくなってしまうのだが。甘っちょろい精神力の持ち主ではなかった。生半可な覚悟で男共と行動を共にしているわけではなかった。セシリアは集中力を高めていた。結果、当然の如く誰よりも早く、番人の正確な位置を掴むことができた。


 「離れてろ。戦いやすいように片付けてやる。こんなゴチャゴチャした所じゃ戦りにくくて仕方ねェ。」そう言うが早いか、オルガが大剣をぶん回した。ぶん回し続けた。誰も止める者はなく、オルガの気が済んだ時にはセシリアの明かりも手伝って、見通しの良い戦場が完成していた。

 「お目見え・・・ですね。」そういうクリアンカの目付きも鋭い。その眼光の先には独りの老人が立っていた。灰色のフードで全身を覆ったその風貌から法術の類を扱う者なのだろう。

「我が名はネロ。第二の石版の管理者なり。」名を名乗ったネロに対しズカズカ歩み寄るオルガ。

「管理者様の選定基準みてェなモンは何なのかね。胸糞悪くて仕方ねェ。」オルガだけではないが、ご機嫌は最悪だ。一刻も早く戦いを終わらせ、こんな町とオサラバしたい。そんな望みはネロが叶えた。

「ワシが選ばれた理由は強さ故。いざ、参る。」エル、クリアンカ、セシリアの三人はあっという間の開戦に二足三足たじろいだのに対し、オルガは待ってましたとばかりに踏み込んだ。先刻振り回した大剣の握りを改めて固める。

「上等だっ!ボケ、ハゲがーーー!ぶっ殺してやるから覚悟しやがれ!!」ネロという老人、別にボケてはいないし、頭部の様子はフードに隠れて分からない。ひとまず感情を無くす心配はなさそうだ。


 法術士や傀儡師、ネクロマンサーの類であれば姿を現さず、というのが法定のはずだったが、ネロと名乗った石版の番人は堂々と自己紹介を済ませた。加えて仕掛けてきたその攻撃はやはり傀儡師、町中に吊るされている悪趣味な仕込みが動き出した。

「どっかで見たことのある技だな、くそったれめ・・・」

「そうね、でもワンランクもツーランクも上のネクロマンサーと思った方がいいわ。糸がついていないのと・・・多分こいつら、全て造られた人形。とんでもない方力の持ち主かもしれないわ。

「馬鹿野郎。敵を褒める奴があるか。今すぐ叩き切ってやる。」そう吐き捨てたオルガはネロ目掛けて走り出した。

「待って、オルガ。冷静に!お願い、落ち着いてよっ!!」セシリアの懇願にも似た忠告に耳を貸すことなく、大剣の戦士は主人を(かくまう)うように動き出した死体の山に突っ込んでいった。セシリアの法術で少しだけ明るくなったデス=ポワールに、セシリアの呼び掛けが吸い込まれていく。と、セシリアの両脇を心強い風と翼が駆け抜けた。エルが、クリアンカが、一足先に突っ走ったオルガを追って傀儡の群れへ消えていった。

 感情を失うことなどない。爆発させることはあっても、心をなくすことなどありはしないのだ。


 ワシも魔族、魔獣の類ではないからな、死体やグールを扱うのはさすがに気が引ける。人だからな、一応。既に死人ではあるが。ワシの能力は膨大な時と法力を蓄積することで強き人形を作り出すこと。誰もが怖気(おぞけ)立った死の魔導石。これがワシの属性だというのだから参ってしまう。この人形、実際に会ったことのある者、戦かったことのある者、共闘したことのある者なれば、高い精度をもって再現することも可能。言わずもがな、相当な時間と法力が必要となるが、死人には好都合な条件といえよう。量よりも質。さぁ、見せてもらおうか。現代(いま)を生きる勇者の力と心を。守れるのか、自分と仲間を。



 容姿は多様ではあるが、動きはどいつもこいつも似通ったものだった。遅い、鈍い。はっきり言って戦闘能力は低い。お話にならない。エル、オルガ、クリアンカの敵ではなかった。まずはエルとクリアンカで道を拓く。打ち合わせたわけではないが空気がそうさせた。オルガの為に道を作れ。第二の石版管理者、ネロへと続く道を。

 もはやちょっとやそっとの実力者ではエルの姿を補足することはできなかろう。細剣と小太刀の二刀で敵の間をすり抜けながら突いていく。裂いていく。主に頭部への致命傷を与えながら先に進むエル。以前の戦いでアンデッドとの戦い方はしっかりと学習できたようだ。果たして斬られた、突かれたと認識できたマリオネットは何体いたのだろうか。

 さらにはクリアンカ。法術は使用せず『インヴェルノの大鎌』で掃除していく。鎌をひと振りすると軌道の残像が出現、しばし間を置いて傀儡の胴が真っ二つ。一振りで五体、十体、効率の良い戦いである。『雷紋』を放った際よりもサイズの動きはゆっくりとしたものだったが、エルと共に、着実にネロへと続く道を作っていった。

 そして止めと言えるだろう。

「フレイム・オーケストラ!」後方よりセシリアが法術を発動させた。エルとクリアンカは巻き添えを避けるべく右に左に逃れたが、オルガはそのまま炎の中を驀進した。

「バカ・・・」セシリアの呟きなど到底届くはずもなかった。


 オルガの視界にはネロあるのみ。そのネロは斬馬刀を前にしても逃げる素振りすら見せなかった。そしてオルガの『ダインスレイヴ』が標的をしっかりと捉えた。大剣が振り切られた回数は三度。木霊した金属音も三回。軽快に、全て受け切られたということだ。ただしそんじょそこらの法術士や結界師、ネクロマンサーが簡単に受け流せるような甘い太刀筋ではないはず。

「強く凶暴な太刀。けれども、この世に悪の栄え続けた例なし、とは言いませんが、私めが葬ってしんぜよう。主の大剣は危険極まりない。今この場で滅せねばなるまいて。我が名はヨンレン・ロック・グレイブール。ただしこの名を覚えておく必要はありません。何故なら貴様はここで息絶えるのだから。あの世にこの名を持っていく必要もありません。地獄には私が堕とした輩が沢山いるでしょうからね。」とにかくよく喋る剣士。ネロに向けられたオルガの剣撃を全て受けきったのは紛れもないヨンレンだった。


 多大な時間と法力をかけてホムンクルスを造り上げる能力を持つネロ。雑魚ゾンビ程度なればさほど時間を費やさずに準備することもできるが、高い次元の戦いではそんな戦力が無意味であることををネロはよく知っていた。ネロの能力、それは膨大な時間と法力をかけて強力な、時と法力に見合った人形を造り出せることだった。加えてモデルが存在すれば、そのモデルを厳密に再構築することも可能。その者と共に時を過ごし、その者の能力を知っていれば知っているほど、限りなくオリジナルに近しい状態で再生できるのだ。ヨンレン・ロック・クレイブール。かつてネロと共に魔界へ乗り込んだ剣士。ネロは命を失い、ヨンレンは生き延びた。現在はガレオス城の執事をこなす隼の剣士がネロと共に、オルガ達の前に立ち塞がった。ただし色彩はない。渋色一色のヨンレン。皮膚も髪もタキシードも、長さだけはオルガの斬馬刀に匹敵する長い長いレイピアも。それでも外見は紛れもなくヨンレンだった。


 クリアンカはヨンレンと会ったことはない。それでもエルやセシリアの微妙な狼狽は察していた。かつて自らの手で(しい)したフォルテナ。あの心境を嫌でも思い出してしまう。簡単に言えば非道く戦り辛い。積み重ねた記憶は消えることなく、タイミング悪く濃度を増していく。皮肉なものである。無論、アンデッドということは百も承知しているものの、エルもクリアンカも同様の感情を抱いていたオルガは大丈夫だろうか。そんな心配を余所(よそ)に、となる所はさすがにオルガと言えよう。それとも単に戦いが好きなだけか。多分、後者が正解だろうか。

 「若ェ時のヨンレンが相手か。腰痛もなかろうて。クックック・・・おもしれェ、いっちょ揉んでやるか。」ただし回りを驚かせたのは、特にエルとクリアンカにとって意外だったのはオルガの次の言葉だった。

「エル、クリアンカ、気を付けろよ。奴は一対複数の天才だ。属性は水。油断するんじゃねェぞ。」

 てっきり手を出すんじゃねェぞとでも言い出すのかと思っていたが。それだけヨンレンは強敵だということなのか、一刻も早くネロをぶった斬りたいのか。


 ネロは一時後退し、ヨンレン独りが前線に残った。長い長い細剣を構えて。オルガ曰く、一体複数の天才。蒼き隼。その言わんとする所はすぐに分かった。

「どこまで耐えられますやら――」ヨンレンの振り切る細剣からは水を属性とする無数の隼、広範囲に拡散していく。狙いはもちろんエルで、オルガで、クリアンカ。エルは横へ、クリアンカは上へ逃れるも、数え切れない水色の隼全てから脱することはできなかった。すぐに囲まれ隼が勢いよく通り過ぎていく。これは無傷で、というわけにはいかないようだ。オルガに関しては片腕で顔を覆う程度、元より避ける気はないらしい。そして目線は隼の群れに気を取られることなく、ヨンレンだけを押さえていた。どことなく穏やかな表情で。

「随分と久々だな、ヨンレンと()うのは。少々骨が折れそうだが、コイツらがいりゃ、どうにかなるだろう。ちゃっちゃと片付けるぜ。」ドカドカと走り出すオルガ。猪突猛進という言葉が似合う剣士である。

「威勢の良い剣士殿ですね。余程の力自慢と見ましたが。良いでしょう、ここまで来られたら少し稽古をつけてあげましょうか。パワーとはひとつの強力な武器、飛びぬけた怪力とは真似し難い一つの才能には違いありません。ですがね、対処しやすいのです、パワーファイターというのは。しかも不思議なことに、脳みそまで筋肉でできている方が多いんですよね。」

 戦いの主導権を握ったのはヨンレン。水属性の隼によって三人を近寄らせない。チリチリと軽傷が積み重なっていく。エルとクリアンカも距離を縮めようとしたり中距離砲を用いて隙を作ろうとする、ヨンレンの動きは機敏だった。どうにか接近を試みてもあっさりと距離を取られてしまうし、中途半端な砲撃は隼に吸収される。加えて油断するとオルガが何も考えずに突っ込んでいこうとするから考えものだ。悩みの種が尽きない。のんびりじっくり長期戦というわけにはいかなかった。

 動いたのはクリアンカ。眼鏡に触れた。

「飛雷針。」上空より無数の小さき槍、雷を属性とする法撃が放たれ反撃を開始した。ヨンレンはすぐさま法術をクリアンカに絞り込む。空中で衝突する水の隼と雷の槍。トキトキと小さな破裂音が連発する。

「なかなかやりますね。」ヨンレンの一言はクリアンカに向けられた一言か、エルの動きまで察知してのことか、それとも二人の連携か。水色と黄金色の法撃応酬の中、エルがヨンレン目掛けて猛突進してきた。そして小太刀『アディリスの牙』より放たれた剣技『ティエラ(土属性)・ファング(牙)』。ヨンレンは身を(よじ)って直撃を回避するも、左肩へのダメージは避けられず。されにこれでは終わらない。

 言わば、豪雨に巻き込まれたヨンレンと豪雨に突っ込んだエル。エルとヨンレンに雷の槍と力をなくした水の隼が降り注いだ。

「全く、オルガといいエルといい、無茶をしすぎですよ。」『飛雷針』を打ち止めたクリアンカには行方を見守ることしかできない。数刻の間、水と雷の残骸が地面とエルとヨンレンを激しく打ち付けた。遠目に見守るセシリアも息を飲む。そして雨上がりの後に浮かび上がったのは『ティエラ(土属性)・スクード(盾)』で耐え忍んだエルと、ほぼまともに水雷の雨を受けたヨンレンの姿だった。

 「勝機っ!」オルガが二の足を踏むことはない。傷ついたヨンレンに向かって突進――それをエルが両手を広げて制止。

「な、おいっ。」思わず急停止するオルガ。さらにエルはなかばオルガに突進する形でオルガを抱えヨンレンから離れていった。その直後ヨンレンを中心に大爆発が起こった。巻き込まれればオルガとて洒落にならない程の大爆発が。エルの背後、オルガの視線の先で地面が吹き飛んだ。


 「無事かの~、ヨンレン。」

「いや~、(かたじけ)ない。これは少々厄介な相手ですな。強くそして若い。威勢が良いというか怖いもの知らずというか。無鉄砲というのは時に侮り難いですな。」

「戦いの最中、喋りすぎるのは主の悪い癖だ。疲れるだろうて。」

「おっと、これはこれは・・・ただ、喋っている方が調子が良いのですよ。集中力が増すと言いますか、判断力が研ぎ澄まされると申しますか。うまく説明できませんが。」

 

 ネロの法力と経験を持ってすれば、ヨンレンに被害が出ぬよう大爆発を引き起こすことも可能。ネロの魔法攻撃は爆発のみ。大or小。それを精密この上なく使いこなすことができる。見事なものだ。セシリアですらそう納得するしかなかった。いや、法術に精通しているセシリアだからこそ、か。ただしそれは手を休める理由にはならない。敵が二体固まっているのだから。

「aqua―儚き結晶の弾丸。」今度はお返しとばかりにセシリアの法術が火を、否、氷を吹いた。巨大な氷柱(つらら)が降り注ぐ。この雨は洒落にならない。

 ネロとヨンレンが天を仰ぎ見る。首の角度は同じ。2人共逃げる素振りを見せない点も同様。巨大な氷柱が音を立てて降り注がんとする。もはや逃げきれない。どう出るか。視線が集まる中ネロとヨンレンは華麗かつ効率的にセシリアの法術を打ち破った。ネロがチョイと手をかざすと己に降りかかってくる氷柱がいとも簡単に爆発、次々と粉々に砕けていった。一方のヨンレンは斬る、断つ、割る。長い長いレイピアを使って器用に、余裕を持って騒々しく氷柱を回避した。相も変わらずペチャクチャと。

「いやはや、なかなか見事なものですね。あの娘さん、まだお若いのに随分と強力な法術を使えるようで。大したものです。これはちょっと油断できませんね、ね、ね、ネロ。」喋りながらもヨンレンの操るレイピアは着実に氷を破砕していった。

「悪いのぉ、ヨンレン。こちとら必死で、とてもお主の雑談に付き合っている余裕はない。話しかけないで頂けるかな。」

「ほっほっほ・・・それは失礼しました。ではではぼちぼち、私めが動きましょうかね。」そう言うとヨンレンが走り出した、氷の雨の中を。オルガ目掛けて。

 独り馳せるヨンレン。氷の雨も何のその、苦にせず避けながらオルガを目指す。

「上等だ、来いよ。」『ダインスレイブ』と『ドラグヴェンデル』の大剣二本を構えるオルガ。迎撃態勢を整え自らも駆け出していった。エルとクリアンカが、あっ、と思ったときには氷の雨に突っ込もうとする所だったから、セシリアは法術をネロに絞った。一気に決着をつけようと、エルとクリアンカもオルガに加勢しようとした時、2人がいきなり爆発に巻き込まれた。

「やれやれ・・・氷柱を防ぎながら2人分の足止めはキツイのー。少々本気を出さねばならんようじゃの。」ネロの引き起こす小爆発がエルとクリアンカに移動することを許さない。幾発も幾発も執拗に、まるで2人の再会を邪魔するなとでも言わんばかりに。


 時と時空を超えての再開、というのは冗談にもならない。偶然ヨンレンとオルガが対面する構図が描かれただけ。ヨンレンが最も料理しやすい相手としてパワーファイターのオルガを選択した、それだけのこと。オルガにヨンレンの記憶はあっても、傀儡のヨンレンにオルガの記憶はない。ネロにオルガの記憶はないのだから。


 今度はオルガがガッチリと受け止めた。長いレイピアの一太刀を、重量のある大剣であっさりと。

「女々しい剣だな、オイっ。」吐き捨てるオルガに対して

「そうでしょうか。」建を受け止められたはずのヨンレンに余裕が見られた。止められた細剣から挙止動作なく蒼き隼が湧いて出てきたから堪らない。数歩、後退りしたあとは声を出す間もなく隼に包まれて後方へ飛ばされた。

「いかがですか、女々しい剣もなかなかのものでしょう。存分に味わってくだ・・・!?転んでもタダでは起きない性分ですか。ふふふ・・・見た目通りですね。」

 オルガは隼に囲まれながらギュルギュルと後転を5、6回転繰り返した後、腰を落として踏ん張りを効かせ、反撃の一発を放つのだった。

「till the end of the spiral!」二刀の内の一刀、『ダインスレイヴ』から螺旋の剣撃が放たれた。周辺にはびこる水属性の隼達を蹴散らし、また巻き込みながらヨンレンに襲い掛かる。

「豪剣、剛力というのは本当に厄介ですね。全てを一太刀で跳ね返してくる。」水色の隼を渦巻き状に散らして向かってくるオルガの剣技をヨンレンはジャンプ一番かわして、次の攻撃を打ち込まんと空中で細剣を構えた。その時には既に、オルガの追撃が迫っていた。


 『ダインスレイヴ』に続いて『ドラグヴェンデル』から間髪入れずに繰り出された『till the end spiral』が空中へ逃れたヨンレンに直撃した。ヨンレンの動きが明らかに鈍る。そこに追撃をかけるはエルとクリアンカ。先にエル、続いてクリアンカが駆け抜けざまに一発ずつ見舞った。そして最期の一撃はオルガだという暗黙の了解はオルガ自身が1番分かっていたのだろう。エルとクリアンカの動きと合わせるかのように、ダメージを受けて落下するヨンレンへと接近した。その手には二太刀の大剣。今のヨンレンに防ぐ手立ては残っていない。ただ敗北を待つだけ。しかしながら、である。彼を守る者は残っているのだ。

「させんよ――」ネロが爆発を引き起こす。遠隔法撃はお手の物。エル、クリアンカ、オルガの三人が近しい距離に介しているのだ。一網打尽という奴だった。ヨンレンが直撃に巻き込まれぬよう、などということは朝飯前。爆風に吹き飛ばされて、ということはあるかもしれないがそれ位は目を瞑ってもらおう。目的を達する為、敵を倒す為に。果たして、セシリアの見守る先で大爆発が引き起こされた。瞬く間に炎と煙で何も見えなくなってしまった。セシリア独りが取り残されてしまったかの様。ネロの爆撃が語り掛ける。これが剣士と法術士の連携だ。これが共闘、これが仲間。これが剣と法の融合なのだ。


 爆発後の煙が霧散する。そこにヨンレンの姿をした傀儡の存在は見当たらなかった。クリアンカは空中に留まっている。エルとオルガは落下していく途中だったが、別に逆さで落ちているわけではない。無難に着地を決めることだろう。さて、各人の周囲には法術『玲瓏の木漏れ日』が。いわゆるバリアだ。地上ではセシリアが『ノワールの杖』で天空を貫くように構えていた。ちょっとドヤ顔か。攻めるばかりが法術ではない。これが私たちの共闘だ、とでも言わんばかりに。

 エルとクリアンカがヨンレンに一太刀ずつ食らわせ、オルガが止めを刺した。傀儡は跡形もなく砕け散り、同時に、ネロ側からすれば間に合わなかったということになるのだろうが、ネロの法術により大爆発が引き起こされた。エル、オルガ、クリアンカ共に殺気の察知には長けていたが、法術の探知、法撃の感知に関しては褒められた水準に達してはいなかった。だから、

「えっ?」

「はっ?」

「あんっ?」という始末だ。セシリアの法術による援護がなければ大ダメージが必死だったろう。恐らくはネロがどれ程の法力の持ち主であるかもセシリア以外は把握できていない。と、いうことすらもセシリアの頭には叩き込まれているわけで――

 

 ネロのような援護射撃を決して否定するわけではない。それ所か戦いの中で最低限必要とされる連携に他ならない。ただし、である。これだけ攻撃的な三人の面倒をみなくてはならない。援護射撃よりも援護障壁の方がよっぽど有効だと言えよう。



 落下していくオルガ。その先にはネロが待っていた。攻撃する気配はない、互いに。ダスンと着地したオルガの両手に大剣は握られているが、ネロに刃を向けるようなことはしない。

「まだやるか。」

「いや、こうなってはワシに勝ち目はない。」

「ひとつ教えろ。何故ヨンレンのことを知っている。」

「・・・かつて共に戦った。魔界にも入った。」

「そうか・・・」

「ヨンレンのことを知っておるようじゃな。」

「まぁ、な・・・」

「彼は元気か。」

「ああ、最近は腰が痛ェってよく騒いでいるな。」

「ふっふっふっ・・・そうか。年を重ねられるというのは幸せなことじゃな。」

「かもな。」

「さて・・・と。これが石版じゃ。持っていくが良い。次の場所へは転送装置で連れて行く。ついてまいれ。」


 一足飛びに話が進んでしまったようで、エルとクリアンカ、遅れてセシリアが追いついた時には話が済んでしまっていた。


 「何故こんな町を作った?」そう訪ねたオルガの目の前には転送装置。間が空いてネロが答えた。

「ワシの・・・故郷に似せたかった。それだけじゃ。大意はない。」

「・・・・・・そうか。達者でな。」

「生きて帰れよ。」

 エル、オルガ、セシリア、クリアンカの4人は第二の石版を手に入れた。そして最後の石版の下へ。

                            

                               【絶望の町、デス=ポワール 終】



 

                


【最後の石版を求めて ~ 再び魔城門】            


 疲労はあった。肉体的というよりも精神的な色が濃いだろうか。薄暗い町から届けられた先は一転して真っ白な世界だった。目がおかしくなったかと勘違いするほどに白き世界。眩しすぎる空。どこか見覚えのある神殿。そう、ここは天界。という事は、である。待ちかねていたティモシーが4人を迎えるのだった。

「皆さん、お疲れ様でした。ご無事のようで何よりです。」戸惑う4人に構わずのほほんと話し始める天使に、下界の民の疲労感はどこかへ吹き飛んでしまった。また、勝手知ったる土地へ転送されたという安堵もあった。だから疑問も素直に口にすることができた。

「ティモシー、これは一体・・・」問うたのはエル。

「皆さんがこちらに戻られたということは、2枚の石版を手に入れた、ということですね。」

「うん、2枚ともセシリアが持っているけれども――」相も変わらず大事なものはセシリアが所持、保管するようだ。

「では、これを。最後の石版になります。どうぞ、セシリアさん。」一味の空気を知ってか知らずか、ティモシーはセシリアに石版を託した。書物でも渡すかのようにポンと。あっさりと魔界への切符が揃った。そしてティモシーに導かれるまま、一行は天界の第十一宮殿へと歩を進めるのだった。



 ここは天界の第十一宮殿最奥部。宮殿内には天使がひとり、下界の民が4人。他には誰もいない。宮殿内も外部同様白の世界、眩しい環境に違いはなかったが、トントン拍子で発展する天使の導きにそんな事は気にならなくなっていた。これから何が起こるのか、それのみに各人の思考が働かされていた。その答えと言えるだろう。宮殿最奥部、目の前には神々しい輝きを放つ一本の聖剣が祭壇に突き刺さっていた。聞き古した、説話で幾度となく語られた筋書きをティモシーが決定づける。

「あちらの祭壇に刺さっているのが聖剣エクスカリバーです。皆さんのお力になるのは間違いないとは思うのですが、果たして抜けるかどうか――」レールは敷かれた。あとはその上を走れるかどうかということなのだが。

「ふ~ん、聖剣・・・ねぇ。」のっしのっしと聖剣に向かっていくのはオルガ。ただでさえ眩しく感じる宮殿内でも聖剣から光が溢れているのが見てとれた。他ならぬティモシーの言うことだ、嘘偽りはなかろう。祭壇から抜くことができれば、エクスカリバーが手に入るのだ。

 オルガに改まった様子はなかった。そもそもいきなり聖剣がどうこう言われてもお困ってしまうことは確かなのだが戸惑うことなく聖剣の前に立つオルガ。座持ちのつもりなのか背を向けるのではなく、回り込んでエクスカリバーとオルガの様子、表情がよく見える位置取りを選んだ。ただし両手で柄を丁寧に握りこんで、ということはない。雑に片手で聖剣の柄を掴むと、よっ、と力を込めた。黙って見守る見物客。ティモシーに関しては、オルガさん、もう少し厳格に風儀正しく改まってお願いしますよ、といった感想かもしれないが、そんな所に気を回すオルガではなかった。

 「おっ、抜けたぞ。そんなに力を入れたわけじゃねェんだが・・・お~い、ティモシーよ~、これでいいのか?」

「・・・・・・・・・」誰ひとり声を出せぬ状況。ティモシーは驚きのあまり翼が開ききってしまっている。そんな輩を尻目にオルガはといえばブンブン・ビュンビュン、聖剣を振り回して手応えを確かめるのだった。


 エルが近付いてきた。ちょっとニヤニヤしているか。素振りの巻き添えを食わないようやや距離を置いて、

「どう、オルガ?聖剣様の感触は?」

「む~~~、悪くはねェんだがよ。軽い。軽すぎてオモチャみてェな感じがして、俺には馴染めそうに無ェ。エル、お前ェも振ってみろよ。ほれっ。」エクスカリバーをポイっと投げ渡すオルガ。ティモシーの羽がビクッと震えた。まさか聖剣様もこんな扱いを受けるとは思っていなかっただろう。それともこれらを踏まえた上で、彼らを勇者として認め、選んだのだろうか。

「う~ん・・・」エルが唸っている。オルガの放った聖剣をヒョイと受け取ったエクスカリバーを振り回して一言。

「ダメだ。俺には重すぎるや・・・クリアンカも試してみなよ。」そう言ってエルはやはりエクスカリバーを放り投げた。受け取ったクリアンカも一応は聖剣を振ってみるが、

「申し訳ない。やはり私は槍と鎌しか扱えません。剣はちょっと・・・」そう言いながら伝説の聖剣を一通り眺めると、

「姫は当然、剣などという物騒な代物は扱えませんから――オルガっ、とりあえずお返しします。」 クリアンカ、貴方もなの、とセシリアが思ったかどうかはいざ知らず、ビョンと投げられた可愛そうな聖剣は刃がオルガに向いたまま結構な勢いで飛んでいった。それを人差し指と中指で受けたオルガは軽く投げ上げ柄に持ち替えると、ズドゥンと祭壇に差し戻した。終了だ。


 石版を携えて魔城門へ向かうことはいつでもできる。転送装置を用いれば、瞬きしたらあっちの世界に着いている。準備完了というやつだ。そこでティモシーに勧められるがまま、疲れた身体を休めることにした。ティモシーが先頭を征き、ゆったりできる場所へ案内してくれるという。そんなティモシーの翼はどこか淋しげだった。古より天界に伝わる伝説の武器をぞんざいに扱い、持ち出しもあっさりと却下して祭壇に刺し戻す。最も標準的な武器なのだ、ちょっと位修練を積もうと感奮しても、とも思ってしまう。ただティモシーの本心はエル達の力になれなかったことに対しての感情なのかもしれない。むしろ、あっさりとエクスカリバーを見限ってしまう所に頼り甲斐を感じるとも言えるのだが。何はともあれ、4人共に、強くなった。底が知れぬ程に。竜族に打ち勝ったあの時よりもずっと。



 「魔城門の門番にちょっとした借りがあってよ。一刻も早くぶん殴らねェと気が済まねェんだ。」こんなことを言って4人は天界を去っていった。ティモシーも鬼神竜シルドラとは会ったことはあるが、オルガとは気が合いそうな感じがしたのは気のせいだったようだ。

 二日間身体を休めたエル、オルガ、セシリア、クリアンカはついに魔城門、そしてその先の魔界へ向かって歩きだした。薄暗い町から明るすぎる天界、白き世界から暮色蒼然としたとば口へ。平均的な光量の空間を出歩いていない気がしないでもないが致し方あるまいて。大半の者が出会さない空間に趣いているのだから。

 さて、魔城門へと戻ってきた。思い出深い噴水もある。蹴り飛ばされて突っ込んで、かなりド派手に破損していたはずだが、しっかりと修繕されていた。水が勢いよく吹き上げられては落ちていく。妨げられることなく、また、急くこともなく。

 シルドラは元気にしているだろうか。また飯も食わずに本を読んでいるのだろうか。あのツラで、スキンヘッドのグラサン野郎が読書家だというのだから笑ってしまう。別に鬼神竜に会いたいわけではない。いなければそれで構わないのだが、借りは返しておきたい。散々っぱらボコボコにされたのだ、2、3発殴り返したって罰は当たらないのではなかろうか。魔界に足を踏み入れる前にちょっとウォーミングアップでもしておきたい。セシリアを除く3人はおおよそ似たようなことを考えていた。慢心ではない、過剰な自信を持っているわけではないが、強くなったという自負はある。魔族だろうが竜族だろうが互角以上に戦ってみせる。そのことを証明してみせよう。門の前にはグラサンスキンヘッド、六神竜のひとり鬼神竜シルドラが立っている。これはセシリアを含めた4人が同じく胸の内に思っていることだった。英霊界に送ってもらったことについてはお礼を言ってもいいか、そう感じていた。だからゲートキーパーが代わっていることに少なからず驚かされてしまった。立っていたのは黒装束の男。名前は確か、ドゥンケルハイト。シルドラの付き人の様な存在だったはずだ。ご主人様はどうしたのだろうか。


 「戻ったか。早かったな――」黒装束に身を包んで目しか晒していないドゥンケルハイトがぼそぼそと、誰に対してというわけでもなく零した。

「シルドラはどうした?オルガがお礼参りに戻ったぞ。」

「4、5回あの世が見えたって言ってたもんね。あっはははは・・・」エルが悪戯(いたずら)な笑顔を見せながらオルガを突ついた。

「ああ、これでもかってくらいボコボコにされたからな。面でも拝んといてやらねェとな。」

「全く、鬼の力を解放してもらってその言い草。シルドラ殿も大変ですね。」クリアンカも笑いながら会話に参加する。回数に違いこそあれ各人噴水まで蹴り飛ばされた割に会いたがっている空気が感じられた。

「はいはい、分かったからちょっと引っ込んでて。ごめんなさいね、石版を持ってきたわ。門を通して頂けるかしら。」単細胞3人組を()けてセシリアが要件を述べた。

「ほう、まだそんな遊びを――(そんな玩具、あってもなくても関係ないのだが・・・)いや、何でもない。良かろう、主らが望むのならば止めはしない。一度見てくるのも悪くはあるまいて、魔界を。とりあえず石版は預かっておく。管理者に返しておこう。」



 「シルドラ。オルガ達が門を抜けていきましたよ。」ドゥンケルハイトが報告する。

「そうか。」

「オルガはあなたに挨拶したがっていましたが。」

「ふん、別に俺は会いたくねぇ。奴らが魔界へ行こうが行くまいが知ったこっちゃねぇ。」

「はいはい、分かりました。では私が石版を返しておきますので。」

「ああ、頼む。」

「ドゥンケルハイトよ・・・」

「はい。」

「強くなっていたか。」

「気になるなら自分でお確かめになればいいものを。」

「・・・・・・・・・」

「強くなっていましたよ。だから通しました。」

「そうか。」

「それでも――」

「分かっている。石版を頼む。」

「はい。」


 そうか。やはり行くのか、魔界へ。首を突っ込まなければ素通りできるものを。なぜわざわざ関わりを持ちたがるのか理解に苦しむ。理解し難くはあるが不思議と不快感はない。一度終曲を知るのもよかろう。奴らなれば可能性はあろう。まだまだ強くなれる。序曲を終えるには然るべき時機と言えるのかもしれぬ。死ぬなよ、若すぎる勇者達。生きてればこそ、命あってこそ。命なくせばそこですべてが終わる。時に人間はそんな簡単なことまで忘れてしまう。生きる勇気を持ち続けよ。


                           【最後の石版を求めて ~ 再び魔城門 終】


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