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魔王と勇者の過去 後編

 魔王を殺し、俺が新たな魔王となった数年後、ついにこの時がやってきたのだ‥‥勇者と殺し合う、この時が。


「お、久しぶりだな~、何年ぶりだ?まあ、どうでもいいが」

「‥‥‥‥」

 

 魔族の死体を踏みながらこちらに近づいてきた。

 勇者は成長してる。前に会ったよりも更に‥‥強い。


「なんか喋れよ~。僕お前と会えて今テンション高いんだからな。悲しくなるぞ?」

「‥‥ハァ‥‥」


 よくもまあ、ベラベラと喋っていられるんやな、この勇者は。早く戦って終わらせたい。負けて死にたい。父親を殺してからずっとずうーっと思っていた。だからさっさと喧嘩売って、お前らが想像してる魔王のまま死んでやる。


「‥‥勇者は六人殺した。アンタで七人目や」

「ほ~、それはそれは」


 あまり効かない。それもそうやな、こいつが勇者と言われてること自体がおかしいんや。

 勇者なんて何人もいる。神の加護が与えられた人間が勇者と言われ、もてはやされ、国に操られ、そして自由を奪われる。


「どうしたんや。世界のために俺を殺せとでも言われたんか?」

「いや、違う。確かに僕は魔王を殺せと言われた。けど、僕はお前を”倒し”に来た!」

「それの何が違うっちゅうんや」

「分からなくてもいいぞ。僕は皆からおかしいと言われてるからな!」


 自覚あったんかいな‥‥。アヴニールは呆れる。


「それにしてもお前強いな~、お前の父親より何倍も強い!本当に弱いのか?」

「あ~、そうそう弱い弱い。助けて~‥‥弱いから命だけは~」

「え、急にどうしたの‥‥、キモ‥‥」

「お前が弱い言うたからやろ!!」


 クソ‥‥いつの間にかこいつのペースにはまっとる!!そろそろここから出てってほしい。今すぐに!


「‥‥ハハッ、茶ぁしばくのはここまでやで。言うたやろ。俺は勇者を六人殺したんや」

「‥‥で?」

「次はお前やッッ!!!」


地獄(フロゲス・ ティス )の炎(・コラシス)


 炎が勇者を包んだ。

 ゴオッ

 魔王城の壁が、床が、天井が、溶けた。

 まさしく地獄の炎‥‥。あたり一面が炎と化した。


「ま、アンタは死にはしないわな」


 燃え盛る炎の中から水の膜をまとった勇者が出てきた。


水の結界(スフェラ ・ネルー)


 この魔術で、勇者は自分の周りにある炎を全部蒸発させたのだ。


「おい、お前‥‥神の加護持ってるだろ」

「何のことや」

「神の加護を持ってるやつはな、魔術を使うときに杖が無くても魔術を発動できるんだよ」

「‥‥人間は魔術を使うときに杖を使うんか?」

「そりゃそうだろ。杖に魔力を込めて使うんだから。お前の部下にも杖持ってる奴いただろ‥‥」

「すまん。部下のことは見てないんや」

「わぁお」


 職務放棄‥‥と勇者は呟く。

 仕方ないやろ。興味ないんやから。


衝撃波(キマ・ プロクルシス)』×40


 少しムカついたので、40回打つことにした。

 この魔術は目に見えない‥‥。そしてどこから来るかも分からない最悪の魔術‥‥。衝撃波なので一見弱そうに見えるが、魔力を込めればダイアモンドだって壊せるほどの強さになるのだ。


「これを40回‥‥アンタの結界は持つかな?」


 ずっと展開していたのだろう結界も4発目で砕けそうになっている。

 勇者の顔に少し焦りが出てきた。


「いつ来るかも、どっから来るかも分からない攻撃なんていやわな」


 まあ、どうあがいても結界は破れるだろう。結界を張るのにだって詠唱に時間が掛かる。

 勇者の結界が破れた。これで終わりか。


衝撃波(キマ・ プロクルシス)』×40


「‥‥はあ?」


 なんと勇者はアヴニールの放った魔術を返してきたのだ。

 魔王と勇者の『衝撃波』がぶつかりはじけて消える。


「あっぶねー、死ぬとこだった!」

「お前‥‥」

「どお?傑作でしょ」

「どこがや」

「やあっぱ今日は気分がいいわ~。でもお前は一つ見落としがあるな」

「‥‥なにがや」

「俺が放った数は40回だよ」


 ハッとした。俺が放った魔術も40回‥‥そのうちの12回は結界で消滅した‥‥。ということは!俺のところにも12発くる‥‥!


 キィィィィィィン‥‥なんとかギリギリで結界を張れた。我ながら運の良さに感心する。


「当たらなくて良かったね~。良かった良かった!」


 後ろから声がする。 

 勇者‥‥!?いつ俺の後ろに‥‥。


「でも僕は真正面から戦うような奴じゃないからさ。いつの間にか、結界の中に入ってることもあるんだぞ?」


灼熱の弾丸(カフティ・ スフェラ)


 赤く熱を纏った小さい弾は、魔王の体を打ち抜いた。



「なんでや‥‥」

「ん~?」

「何で俺を殺さなかったんや」


 俺は生きていた。正確に言えば生かされていた。打ち抜かれた場所が腹のあたりだったのだ。


「言ったろ~?僕はお前を”倒す”って!」

「あ~‥‥そういう意味かよ‥‥」

「でも殺すか封印したことにしなくちゃいけないから、魔力は半分この魔石に入れて持ち帰るね」

「好きにし」


 何なんや、この勇者は‥‥俺が会った中で一番頭がおかしい。


「やっぱアンタ、おかしいわ」

「そうか?でもお前だっておかしいだろ。だってお前は一人だったじゃないか。ずっとずうーっと、一人だったんだろ?」

「‥‥アンタが言うなや‥‥アンタだって一人で俺を倒しに来たんやないか‥‥」


 一対一で負けたこの勝負。負けた原因は、なんやったんやろな‥‥。


「完敗や、俺の負けや」

「そうか。じゃあ、そろそろ帰る」

「待てや。最後に名前教えろ」

「‥‥ゼスティ。ゼスティ・ネオ・ハスライム。この世でたった一人の、英雄の名だ!」


 これが歴代で一番強い、『孤独の勇者』と言われた男と、歴代で一番強い、『最弱の魔王』と言われた二人の過去であった。

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