魔王と勇者の過去 中編
■
「またや‥‥」
窓から外を見る。そこには大量の死体をせっせと運んでいる魔物達がいた。
もうこれで何百、何千の魔物の死体が運ばれてきたか‥‥。今回の戦は勇者も加わっている。やはり勇者がいるだけで被害の数がけた違いだ。
「アヴニール様、仕事中です。手を止めないでください」
「ハイハイ」
お付きが注意してくる。
イラつくなぁ、どうにもやる気にならない。こいつは俺のことを下に見てる。自分の方が強いとでも思っているのだろう。本当にイラつく、イラつく、不快や。
筆を机に置いた。
「アヴニール様!きちんと仕事をして下さい。次の魔王はあなたなんですよ。魔王として役目を―――」
お付きの頭と胴体が別れた。ベチャ‥‥と床に倒れる。
「そうだよなぁ、次の魔王は俺や。なら、俺は何してもええよなぁ?」
幸せと平和がほしいなら俺が持ってきてやる。
そのために――—現・魔王を殺さねば。
■
「戦場というのはここか」
アヴニールは今、人間と魔物の戦場に来ていた。アヴニールの周りには人間と魔物の死体が大量に転がっている。
その奥には土煙が舞っているので、今はあそこに魔王の勇者はいるのだろう。
「どうやって殺そうか‥‥」
いや、それよりもまずは勇者や。勇者の姿が見えなければ俺も進めない。
ジィ‥‥と目を凝らす。魔力は分かるが、多すぎて本人がどこにいるか分からない。何で隠したりしないんや勇者。
「やけど‥‥俺よりかは少ないな」
俺の魔力は生まれつきや。魔物も魔族も、魔王でさえ、魔力を増やすことはできない。勇者は神の加護があると聞いたことがある。魔力が多いのはそのせいやろうか。
お、勇者はあれか。高貴そうな顔しとるな~。今は父上と戦ってんのか、いっそ殺してほしい。
「‥‥‥‥ッ」
勇者と、目があった。マズイ、みすぎた。慌てて隠れる。
てか何で見つかったんや!父上と戦ってる間によそ見か!?自分死んでまうぞ!
「何で戦いながら笑えんのや‥‥戦闘狂かなんかか?」
おかしい奴が勇者になった。なんやあの勇者は‥‥、戦い方が普通の騎士とは違う。品だ。品性の欠片もない。
普通の騎士はまず、騎士道というものがある。丁寧な剣さばき‥‥魔界では無駄が多いと有名なもんだった。
やけどあいつは違う。避けるたびに相手に土をかけ、石をぶつけ、何よりも味方の死体を盾として使う。それが当たり前かのように‥‥かも常識のように‥‥。
「すご‥‥‥‥」
今までで一番興奮したかもしれない。決してその戦い方は美しくないのに、諦めないあの勇者の根性に、俺は驚きを隠せなかった。
■
「撤収!!一時中断だ!!」
アヴニールが来て数時間の戦いの末に、一時撤収という形で終わってしまった。
だが、これはアヴニールにとっては好機だった。
「今がチャンスやな」
休憩している魔王に近づく。
「父上、見事なもんでした。勇者ともいい線行っとりましたよ」
「おお!アヴニール!ワシの戦い見とったか!せやかてあの勇者‥‥品性の欠片もない!!不愉快や!思い出すだけで腹が立ってきた‥‥!!」
「では、父上、斬り足りないなら俺と一つ、戦いませんか?いつか俺も戦わなくてはいけない日が来ますし」
「ふむ‥‥そうやな!!お前に稽古してやろう」
「よろしくお願いします」
あー、本当にアホやな、この魔王は。これから俺に殺されるとも知らずに。
■
「それじゃ、行くで!!息子やからと手加減はせえ、受けてみい!!!」
魔流剣術——『堕とし撃ち』
ホンマに手加減するつもりないな、この親父!!慌てて渡された剣で受け止める。
バチバチッ、火花が飛び散る。アヴニールの剣にヒビが入った。
「オラオラァ!!こんなもんなんか!!親として恥ずかしぃわぁ!!」
「‥‥‥‥そう、ですか‥‥」
父の剣を弾き飛ばす。
「!?」
「俺も、アンタみたいなものが家族で恥ずかしいわぁ」
魔流剣術——『堕とし撃ち』
剣を魔王の頭に突き刺した。
■
「これどないしよ」
まあ‥‥ほっといてもええか。
「かーえろ」
「おい、その死体僕にくれないか?」
「!?」
慌てて戦闘態勢に入る。どこや、どこにいるか分からない。
「そんな警戒すんなよ~。僕が傷つくだろ~?」
木の上から飛び降りてきた。その少年は、勇者だった。
「ゆう、しゃ‥‥!」
「せいかぁい!てか見てたぞ。なんせ僕が抜け出して寝てるところに親子喧嘩(?)始めるんだから」
「そうか‥‥で?なんでこいつの死体が欲しいんや」
「そりゃあ、魔王が死んだって知らしめるためだろ。それに君はいらないようだし、このまま僕が倒したってことにしてやってもいいよ」
「分かった。ほな、やる。勝手に持ち帰っとき」
くだらない会話に付き合うつもりはない。大体この状況を他の者に見られたらどうする。危ういとは思わないのか。
「うっしゃー、じゃあまたな、平和好きな魔王さん」
ああ、もう二度と会いたくない。本当に怖い。今は俺よりも弱い。やけど、次会うとき、アイツは俺を超す。俺は負ける。そんな予感しかしなかった。
まあ、その予感は惜しくも当たるんやけど。




