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あの日

第13章 あの日


――三年前、冬。


空気は吸うだけでも肺が凍てつきそうな日。

白い息が風に舞いそれすらもかき消すかのような雪。


瑠華は震える手をこすり合わせながら

ふと目に留まった公園の自販機で飲み物を買おうとした。


「寒いなぁ...」


 学校の登校中、学校全体で広まった変な噂のせいで

行く気にもなれない。

「私が三股してるなんて噂...したことないのに」


 家にも戻りたくもない、

でもこの寒さの中外にもいられない。

胸が苦しくて、誰とも話したくなくて、一人になりたくて

公園に無意識に目を向けたんだと思う。


「ココア...これにしよう」


その時だった。


ピッ。


「...あれ?」


私の指と同じタイミングで、横のボタンが押された音がした。


隣の自販機を見たとき、そこにいたのは名も知らない男の子だった。

だが、顔は何回か見たことがあった。


頬を赤くして、手をこすって、どこか優しい目をしている男の子。


缶が落ち男の子が持ってる缶は私と同じココア。


「そのココア、おいしいですよね!」

2人が同じ飲み物を買うことに驚いた私は、

自分でも驚くほどに、明るい声が出てしまった。


「甘くってでもその中に深い苦みがあるっていうか..」


男の子は目を見開いて私を見つめる。


――何言ってんだろ私、飲んだこともないのに焦って変なこと言うし

私と話してくれる人なんて...


「はい!おいしいですよね!」


そう何も悪気のない彼の声に

寒いはずなのに胸がやけどするくらい熱くなった。


――あっ。


その瞬間私の暗かった世界に光が差した。

あの時の感情を鮮明に覚えている。


 赤くなった顔を隠すかのようにすぐに笑って立ち去った。

だが、彼の顔が忘れられず鞄に入っていたスマホで彼を撮ってしまった。


寒い中かじかむ震える手でスマホを構えシャッターを押す。


 それはベンチに座りながら雪に降られ

ココアを飲む男の子の写真。

それを私は一生の宝物にすると決めた。


あの日、初めて誰かを好きになった日。

何をしても楽しくなくて、嫌だった日常が救われた日。


たった一言で全部の重りや不安が軽くなるほどに。


 だけど、それ以降彼と話すことはなくなり、

名前だけを知ったくらいだった。


中学卒業すると同時に彼は引っ越してしまった。

最後に見たのは、

振り向かない彼の背中。


声をかける勇気なんてなかった。


――あの日からずっと君が好きだった。


そんな中、チャンスが訪れる。


 それは親の仕事の都合上、引っ越しをすることになった。

もしかしたら彼と同じ場所になるのかもしれないなんてことは頭の片隅に入れていただけだった。


そんな数多くある県や町が同じになるなど、

そのまま私は苗字が変わり高校に入学した。


入学式当日運命はつなぎ合わされた。


その忘れられない顔を見た私の心臓は張り裂けそうなくらい早く鼓動していた。


そして三年間。

手帳の奥にしまった写真と、あの冬の日のココアの味を忘れずに。


だから今日。

春祭の終わりの時間で、

校舎裏で話しかけた時。


胸の中にあった想いという想いが溢れ出そうだった。


その想いを全てぶつける。


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