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赤子って、暇に見えて忙しい




 俺が生まれてから数ヶ月。


 乳を飲み、ハイハイの練習をする日々が続く。


 乳母のおばちゃんはおしめを変えるのが上手で、抱っこも普通の赤子なら一発で眠れる凄腕だ。

 乳母は美人が良かったが、乳母としての腕がこの人以上の乳母は居ないだろうと俺は確信した。

 仕方ないので、乳母が大阪に居そうなおばちゃんでも渋々我慢することにした。


 そしてハイハイの練習だが、とても大変だ。

 すぐ疲れる。そのせいで寝てしまう。

 寝る子は育つと言うが、まさかハイハイの練習疲れで眠るものだとは思わなかった。

 そりゃあ、寝る子は育つだろう。


 起きては乳を飲んで動き回る。ハイハイ出来ずに力尽きて寝る。退屈で鬱になる生活だ。


 しかしハイハイしかすることがないから、俺は無心でハイハイを練習しまくった。




 楽しみが全くなくって発狂しそうなある日。

 俺はついに離乳食を食べることが出来たのだ!


 美味い!ただの潰した苺だが、美味い!

 久しぶりに食べた乳以外の食事が、こんなにも刺激的だとは!もう毎日食べたいね!


「あら、坊ちゃまは食べるのが上手ですねぇ。」


 元社会人だから当然だ。……そんなことはどうでもいい!頼む、俺にもっと食べ物をくれ!


「あらあら坊ちゃま!こんなに手を伸ばして、もっと苺を食べたいのですか?今はお体が小さいですから沢山は差し上げられませんが、大きくなられたら食べましょうね〜!一日2粒までにしましょうね~!」


 ち、畜生!俺の苺が遠退いていく……!

 俺は苺をもっと食べたかったのに……!


 翌日、俺は小賢しい手段を講じた。

 そう、デカいやつを選んで食べるのだ!


「坊ちゃま、今日は葡萄でございます!」


 無警戒な乳母が、俺の前に葡萄の房を見せる。

 クックック!隙あり!

 俺は素早く大きめの粒を見定め、むんずと掴む!


「あらあら坊ちゃま、まだ加工していませんからダメですよ〜!坊ちゃまが取った2粒、食べられるようにして来ますからね〜!」


 そう言って乳母が葡萄を台所に持っていく。

 今日は大きいの2粒だ!俺は喜んだ。


「はい、葡萄ですよ~!」


 しかし俺に差し出されたのは、ジュースだった。

 え?果肉は?ジュースも嬉しいけど、果肉は?


「坊ちゃまの食べれない部分は入っていませんから、安心してお召し上がりくださいねぇ〜!」


 うん、葡萄の果肉って弾力あるもんね、赤子には食べられない部分だよね……。


 ……まあ、落ち込むことはあった。

 だが苺の時とかはこの作戦を頑張った。

 出来るだけ素早く、あの苺は美味そうだとかあの苺は小さいとかあの苺はデカいとかを判断する。


 その結果、果物への理解が深まったのだ!

 今の俺に、果物選びなんて造作もない。


【綺麗な大粒の苺】


 俺の前にこう出てくるからだ!


 ……いや、おかしいだろ!何だこのプレート!?

 他の果物を見ても出てくるこのプレート、あまりにも不自然で人工物感が半端ない。


【大粒の苺】

【綺麗な小粒の苺】

【傷ついた苺】

【イチゴモドキ】

【綺麗な苺】


 なんか変なの混じっているし……何これ……。

 果物以外には出てこないので、果物限定の能力なのかもしれないけど……何これ……。


 気になった俺は、人でも同じ事を試した。


 あの兵士は強そう、あの兵士は弱そう。


 そうやって窓の外にいる兵士を見ていたら、案の定謎のプレートが出てきたのだ。


【兵士】

【乳母】

【辺境伯】


 しかも今度は乳母まで範囲内だ。親父もバッチリ辺境伯扱いで出てきた。


 何より凄いことに、知らない人にも出た。

 窓の外を歩いていた人に【男爵】と出てきて、その後お出迎えのメイドが男爵閣下と呼んでいたので間違いはなさそうだ。


 俺はしばらくこのプレートについて悩んだ。




 そして数日後。今日は初めての読み聞かせだ。

 乳母が本を出して読み始める。


「昔々、我らが王国を襲う恐ろしい魔王が居ました。その魔王は『魔物凶暴化』のスキルで、各地に存在する魔物をとても強くしました。」


 子供に読み聞かせるにしては難しい言葉が出てくるが、そこはなんの問題もない。


 気になったことは、この世界はスキルがあるという発言だ。技能とか手法ではなく、わざわざスキルと言ったからにはゲーム的なスキルだろう。

 ……きっとあの謎のプレートも、スキルだろう。


「しかし異世界より召喚された勇者様が、そのユニークスキル『光剣』によって魔物達を薙ぎ払いました!そのお姿に感動した聖女様が、勇者と共に旅をして魔王討伐へ出発しました!」


 ……ユニークスキルとか言ってるし、本当にゲーム的な感じらしい。


「勇者様と聖女様は強大な魔物も、その力を持ってして倒していきました。食事も褥も共にしたお二人は、正に一心同体で戦い続けました。」


 子供に読み聞かせる本なのかこれ?


「そして魔王との戦いが始まりました!勇者様の腕は千切れ、魔王の足はへし折れる決戦です。しかし聖女様の聖魔法により、勇者様は戦いの流れを優位に運びました。」


 ……いや、異世界ではこれが普通のか?


「そして勇者様は魔王の首を刎ねて、その心の臓をえぐり出しました。聖女様によって塩漬けにされた魔王の首は陛下のもとに届き、そのまま魔王は封印されました!めでたしめでたし!」


 ……俺はとりあえずキャッキャしといた。


「やっぱり男の子は勇者様が大好きなんですね〜!言葉の分からない子も、このお話を聞いたら皆喜んでくれるんですよね〜!」


 そんなに人気なのか。っていうか、言葉の分からない子供も勇者の話が好きってどういうこと……?


 と、ともかく!

 俺は対象をちょっとだけ分かるプレートの対象を拡張させたり、新たなスキルの獲得を目指した。


 スキル獲得をするなら魔法系が欲しいが、魔法に関する本を読ませてもらえないと難しそうだ。

 会話が出来れば、読ませてくれるかもしれない。


 結果、俺はスキル獲得のためにも発声練習をし始めた。それと並行して、周りの道具や生き物を観察して区分する。他に何か出来そうなことも探す。


 赤子って、暇そうに見えて忙しいんだな。




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