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俺が生まれるまで

 今話限りのあらすじ。


 三十路の社畜、田中は不注意で交通事故にあってしまった。







 ……ここは何処だ?

 俺は今、暗い場所に居た。


 そこはまるで、暖かい海のようだった。

 しかし体を動かそうとするが、動かせない。

 ただ俺の周りに壁があることだけは分かった。


 ……そうだ、俺は交通事故で死んだはずだ。

 首が折れ曲がったのに、何故か生きている。


 ……ここは、SF作品のカプセル型医療器具の中か何かだろうか。外からくぐもった声が聞こえる。


 この暗い場所の外から聞こえる声が、何を言っているかは全く分からない。


 聞こえないのではない。聞こえた声は、そもそも日本語ではなかった。


 ここは外国なのだろうか。

 SF医療カプセルが実用化したとは聞いたこともないし、海外の最先端医療でもおかしくはない。


 日本でSF医療器具の治験をする為に、外国人の医師が来ている可能性もある。


 いや、もしかしたら宇宙人かも知れない。

 SF医療器具ではなく、人間実験観察セットの可能性もあるな……。そう考えると怖くなってきた。


 俺は周りの声が宇宙人ではない可能性を祈った。

 だが1日か2日くらい経ったかも分からないくらい時間が経過して、不安が強くなってきた。


 なので俺は、周りの声の正体が宇宙人である可能性を減らす為にリスニングを頑張った。

 しかし全く分からない。


 当然だ、俺は三十路のおっさん。しかもうだつの上がらない社畜だ。未知の言語を、門前の小僧ごっこなんかで理解出来る訳が無い。


 そんなことが出来るなら、俺は翻訳家にでもなったほうがいいだろう。




 しかし、それから何日か経って。


 俺は自分の耳を、脳を疑った。

 全く分からない言語が、突然理解出来るようになったのだ。しかも話の最中でだ。


「〜〜〜じ!早く茶を淹れんか!このグズ!」


 こんな感じでだ。この声はおっさんが誰かを叱咤しているな!とは思ったが、だからといって急に理解出来てしまうのはどう考えてもおかしい。


「も、申し訳ございません!辺境伯閣下!」


「全く、カップが空になっているだろうが!しかも茶を淹れるのに、水生成の魔法なんぞ使いおって!最近の流行りが何だとかほざくな!このレストランはカスだ!お前もそう思うだろう!」


 ファンタジーな事を言うおっさんの声が、俺の方を向いた。


「ええ貴方様、全くですわ!紅茶のお代わりもまともに給仕出来ないなんて!お里が知れますわ!水生成の魔法を出すなんて、なんとまあ貧乏くさいこと!」


 いつも声がやたら響くおばさんがそう言った。


「儂の妻は、(はら)に子供が居るのだぞ!なのにこんな飯を食わせおって!弁償しろ!責任者を出せ!」


「ヒィッ!何卒!何卒お許しを!」


 ……(はら)に子供が居る?まさかな。

 試しに、思いっきり壁を蹴ってみた。


「まあ貴方様!大人しいあの子が動きましたわ!」


「おお!そうかそうか!それは素晴らしい!……おい、貴様!儂の子に免じて許してやる!さっさと会計を済ませろ!ほら、これで足りるだろう!」


「あ、有難き幸せ!白金貨ですね!お釣りをお持ちしますので、しばらくの間お待ち下さい!」


 理解力に乏しい俺でも分かった。




 どうやら俺は、異世界転生したらしい。




 しかも俺の勘違いじゃなければ俺の両親は貴族で、辺境伯という位らしい。


 辺境伯は国境の管理をする仕事を賜っており、めちゃくちゃ偉いのだとか。

 伯爵より上、侯爵と同じくらい、公爵より下。


 ……まあ、この世界では偉いか知らないけれども。聞いてる限りでは、この世界でも少なくとも高位の貴族らしい。


 貴族の階級はとてもややこしい、国が違えば何もかもが違う。誰でもとりあえず閣下と呼ぶ国もあれば、長男は卿で次男以下が閣下と呼ぶ国もある。


 なのでこの世界の辺境伯が、左遷された貧乏伯の可能性もある。……いや、白金貨の両替に店が手間取っているとか聞こえるから貧乏ではなさそうだ。


 ……つまり、俺は人生勝ち組!?


 そう考えたらワクワクしてきた。前世では社畜に過ぎなかった俺が、今世ではお偉い貴族。


 しかもこの世界には魔法があるのだとか!


 魔法!どんな使い方をするのだろうか!

 とりあえず今日から瞑想しなければ。


 創作では大体の魔法使いは瞑想を関連付けられている。生まれる前に瞑想慣れしてたら、超有利だ!


 それに魔法と関係なくとも、無駄にはならない。リラックスすることはとても大事だ。


 そんなこんなで、俺は瞑想しまくった。

 流石に魔法は使えなかったが、瞑想し続けた結果いい事があった。




 出産の激痛に、泣くだけで済んだ。

 マジで痛くって、前までの俺なら気絶していた。


 考えてみてくれ、あんな細い所から赤子の頭が出てこれる訳ないだろ!

 人間は、チューブわさびじゃないんだぞ!


「オギャアアアアッ!(いでぇえぇえ!)」


「おめでとうございます!元気な男の子です!」


「出来したぞ、シンセ!」


「ゼェ!ゼェ!フーッ!や、やりましたわ……!」


 母がゼェゼェと息を荒げる。その声はまるで、戦場から帰ってきた戦士のようだった。


 出産って、マジで戦いなんだな……。


 俺は母親の凄さに感動しながらも、それはともかくとして今世では好きに生きると決めた。


 母親の凄さよりも、自分のほうが大事だ。

 特に前世はあんなに苦労したんだ、きっと今世も自殺せず頑張った俺へのご褒美だ。


 俺は激痛の中、そう思うことにした。




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