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過ぎていく日々

僕は、ゆっくりと上條さんのお陰で立ち直ってきていた。


上條さんは、あの日【好き】とは言ったけれど、付き合ってとは言わなかった。


健斗さんが、亡くなって一年が経った。


「凄い、雨だったな」


「はい、タオル」


どしゃ降りの雨の中、法事は終わった。


上條さんは、わざわざ休みをとって出席してくれていた。


「冴草さん、凄い人だね」


「健斗さんは、いい人でしたから」


「何かわかるよ。俺にも…」


上條さんは、いつの間にか他人行儀な私から俺にかわっていた。


「そう言われて、嬉しいです」


「そっか、よかった。」


タオルで、僕の頭を拭いてくれてる。


「すみません」


「大丈夫、大丈夫」


「上條さんは、僕とどうなりたいのですか?このままで、いいんですか?」


「このままでもいいよ。俺は、別に気にしないよ」


「そんなんで、いいんですか?」


「冴草さんの事、忘れられないだろ?俺には、わかってる。だから、大丈夫だよ。気にしないでよ」


「上條さん…。ゆっくり前に進んでもいいですか?」


「俺は、いつでも待ってるよ」


僕は、上條さんと沢山話をした。


そうやって、話しているうちに僕は、いつの間にか復讐を考えなくなっていた。


それでも、時々暗闇に引き戻されそうになって、僕は上條さんにあいつを殺したいって叫ぶ夜があって…。


そしたら、上條さんは僕を抱き締めて毎回こう言うようになったんだ。


「浜井さんが、殺りたいなら手伝ってあげるよ。俺ならスマートに殺せると思うんだ。」


僕は、その言葉を聞くと安心して眠りにつけた。


僕と同じ熱量で、犯人を殺してくれると言う人がいるだけで心が救われていくんだ。


上條さんにすっぽり包まれているだけで、幸せがどんどん流れてくるのを時々感じていた。


それは、健斗さんを裏切る行為な気がしていた。


上條さんは、その気持ちを理解しているから、それ以上踏み込んでこなかった。


好きだって言ったのも、あの時だけだった。


イチゴは、上條さんをとても気に入っていた。


上條さんが、くれる優しさを僕は、どんどん欲しがっていた。


時々、上條さんは、患者さんを救えなかった事に押し潰されそうになって、ふがいないと自分を責めていた。


僕は、こんなお医者さんを初めて見た。


健斗さんの最後が、上條さんでよかったと心から思えた。


上條さんの中は、今でも結斗さんでいっぱいで…。


結斗さんとは、約五ヶ月しかいれなかったのを聞いた。


それを聞いた時に僕は、なんて贅沢なんだと思った。


だって僕は、健斗さんと10年以上の年月を過ごしたのだから…。


10年なんていれない人だっているのだ。


上條さんは、いつだって優しく僕に寄り添ってくれたんだ。


昔のカメラを現像した写真を上條さんは、僕に見せてくれた。


初めて見た五木さんは、上條さんが、話してくれた通りの人だった。


本当に、息がつまる程に美しかった。


五木さんの話をする上條さんは、とても綺麗だった。


亡くなった人には、勝てないと言うけれど…。


そもそも、勝つつもりなんてなかった。


上條さんの大部分は、五木さんが占めていて僕は、そのおこぼれをもらってるに過ぎなかった。


時々、酔っ払った上條さんは僕を見つめるけれど…


その目は、僕を見ていないのがわかるんだ。


それをきっと今までの人は嫌だったんだと思うんだ。


「上條さん」


「どうした?」


「僕、もっと長く健斗さんといるもんだって思っていたんですよ」


「うん、わかるよ」


「だって、こんな事が起きるって誰が想像してましたか?」


「そうだね」


「上條さんだって、そうでしょ?五木さんと五年だって十年だっていれたでしょ?」


「逆にいなかったせいで俺は、忘れられないんだと思うんだよ。短かったから、忘れられなかった。もっと長くいたら、すれ違ってたかもしれないよ。」


「そんなことないですよ。僕たちだって10年以上いたんです。上條さんだっていれたんですよ」


「ありがとう、優しいね」


上條さんは、頭を撫でてくれた。


僕は、やっぱり上條さんの優しさに惹かれている。

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