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手紙

それから、季節はあっという間に過ぎ去った。


桜は、青々した緑に染まった。


私は、46歳の誕生日を向かえた。


今日は休みで、私は同棲中の彼とこの場所に、朝から来ていた。


先生を埋葬した場所に…。


深呼吸して、ゆっくりと手紙を開いた。


【伊納円香様】


俺と一緒に過ごした日々は、幸せでしたか?俺は、とても幸せでした。

あの日、加奈枝があんな風になった日。上條と円香が一生懸命に助けようとしてくれてる姿に、俺は胸がいっぱいになった。

この二人は、きっと医療の道に進むのではないかって本気でそう思ったんだ。

それぐらい、二人は命に真っ直ぐに向き合っていた。

もし、そうなっていたら俺は、幸せな先生だと思う。

だって、そうなる前の二人を見れたのだから…。


ありがとう、上條、円香。


ペラッ…。次の手紙を見つめる。


ずっと円香に話していなかった話をこれからしようと思う。


俺が、加奈枝と付き合ったのは、42歳の時だった。


学校の先生じゃなくて、俺には夢があったんだ。その夢と先生の狭間で苦しんでいた俺に、「頑張らなくていいんですよ」と笑いかけてくれたのが、早乙女加奈枝だった。


俺は、それからすぐに加奈枝を好きになった。


7つ下の加奈枝に44歳になったら、プロポーズをして結婚しよう。それが、俺の新たな夢にかわった。


プロポーズをしたけれど、加奈枝の顔は曇っていた。


返事は、あの日にもらう予定だった。


なぜ、加奈枝が死を選んだのか理解出来なかった。


お葬式の日まで…。


ペラッ…。私は次の手紙を捲った。


お葬式の日、加奈枝がなぜ、自殺を選んだのかわかったんだ。


それは、加奈枝のお姉さんとお母さんが話していたんだ。


「お母さん、加奈枝。前野先生にお別れ言うつもりだったんでしょ?何で、こんな事になってるの?」


「歩君が、迎えに来るっていってたのにね。事故で、亡くなってしまったでしょ?あの夜。絶望した加奈枝から、電話がきたの。歩君に再会した時に、38歳になるまでに迎えにくるって話されたって。言ってたから…。」


俺は、誰かの代用品だった事を初めて知ったんだ。


ショックだった。


だから、あの日から、俺は円香にも…。


ペラッ…。次の手紙を捲った。


加奈枝があんな事になって、暗闇の中を手探りで歩いていた俺にとって、円香の告白は驚くほど真っ直ぐに俺の心を突き抜けたんだ。

あの夏に時間をかけて、一つになれた時も幸せでいっぱいだった。


そんな日々を重ねても、俺の中を占めてるのは加奈枝だった。


加奈枝を失くし、真実を知り、絶望は加速していったんだ。


とめられない絶望と埋まらない穴の中と真っ暗な闇の中…


かろうじで、手繰り寄せれたのは円香の白くて細い腕だけだった。


円香を加奈枝の代わりにした。


もう、円香の名など呼ばなかった。


ちゃんと円香が泣いているのを気づいていたよ。


それでも、円香は受け入れ続けてくれた。


ようやく一筋の光が降り注ぎそうになった日に、円香は学校を卒業した。


外に行けば、俺なんか好きじゃなくなるって思ったんだ。


ペラッ…。私は次の手紙を捲る。


なのに、円香はまだ続けたいと言った。


それが、凄く嬉しかったんだ。


45歳の俺なんかの傍に円香がいてくれる


それだけで、嬉しかったんだ。


なのに、あの日菅野がやってきた。


円香は、俺に迷惑をしていると言われた。


物理的に距離が離れると、人は相手を信じられなくなる。


嫌、そうじゃない。


俺が、円香を加奈枝の代わりにしていたから信じられなかったんだ。


俺は、その写真と菅野の言葉を信じた。


校長先生から、伊納円香との交際はやめるようにという話をされていたんだ。


円香の言葉を信じられなくなっていたのは、俺自身のせいだった。


加奈枝の名を呼んで、肌を重ねる事に、ズレを感じていたのを円香も気づいていただろ?


そのせいで、信じられなかったんだ。


私は、次の手紙を捲る。


もう、涙で文字が滲んできていた。

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