表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

(7)エピローグ


 9月9日。

 先月末に このゲームに関して重大な事件が発生した。

 原作者で編集責任者、総監督でもある、そんな立場にいたヒトが亡くなったのだ。


 完成版は出来なくなった。


 しかし、チュートリアルと完成版の中間、とでもいうモノがあったようだ。それが先日発売された。

 それはSBR(高密度ブルーレイ)ディスク三枚組で成り立っていた。とんでもない容量だ。実際はその容量を目一杯使っている訳ではないようだが。

 そこが未完成部分なのかも知れない。


 これの特徴は、タイマーが付いていることだろう。もちろんソフト的にである。

 どういうモノかというと、ゲームをする時間、じゃないな 午後九時以降には起動スイッチが入らなくなくなっている。

 そして午前〇時には強制終了だ。

 安全措置だという。

 実際に やって見て納得した。

 時間感覚が狂うのだ。知っらない間に時間が経っていた。


 原作者、と呼んででおこう。女性であったらしい。

 彼女は どのようなモノに完成させたかったのだろうか。

 今の、この状態は彼女の望む状態モノじゃなかったのは確かだろう。


 彼女は、享年百五四歳。

 その凶報を医師に通報したのは、彼女専用に調整された『介護用アンドロイド』であったという。そのアンドロイドは、その知らせを医師に伝えた後、自死――いや、自壊か――した。

 アンドロイドの頭脳からゲームの進行状況、ひいては完成版の予想まで、ひょっとしたら出来てたかも知れなかったのだが、完全に消去されていたようだ。


 まあ、終わったことを嘆いても仕方がない。


 では、チュートリアルと この半完成版の相違点を述べて見よう。


 まず、吹き出しの説明文が かなり減った。予定された完成版では、完全に無くなる筈だったものだ。


 次にアバターの自由度が格段に上がった。それが良いことなのか 悪いのかは分からないが。

 妹は「対話イベントが無くなった」と言っていたが。オレには意味不明だ。

 何でも、女子キャラ専用のイベントの中でも、かなり大切なモノだったらしい。

 妹よ、頑張れ!


 後に聞いたところでは、自動的にはイベントが発生しなくなっただけらしい。

 妹曰く、とんでもないことになったらしい。一つひとつ手探りで進まなければならないそうだ。いや いや、これは大変だぁ。


 次に『第二王子』扱いが、少しばかり緩くなった。ヒロインと同じで冒険者になれなくなったようだが、更正の可能性が出来たようだ。

 全体に、全てのキャラが『人間味を帯びた』ように感じたのはオレだけではなかったようだ。様々なブログにも同様の感想が述べられている。『リアリティが増した』と。


 さて、これが一番大切、とも言えないのだが。予想した完成版とは絶対違うだろう事柄がある。

 自身に限りだが『スキル、ステータス、その他のデータ』を見ることが出来る。

 これは『本来の完成版』では消去する予定だったものだ。

 実のところ、オレを含む殆どのゲーマーはホッ胸を撫で下ろしている。あの状態――イベントが自動的に発生しないこと――で、自身の能力を把握できないのは致命的だったからである。

 妹は「『幼なじみ』が残っている」と喜んでいたが、オレには何のことだか よく分からない。


 さてゲームの内容について話しておこう。

 ハッキリ言って『別のゲーム』である。

 非常に難しいゲームになった。イベントが分からないからだ。

 元のゲーム、チュートリアルでは、吹き出しでイベントを紹介してくれていた。

 それがない。

 ある程度はチュートリアルを参考に進められるが、追加や削除されたイベントが分からない。

 相手の反応が全く予想できないのだ。コレには困った。

 早々に『チュートリアル』に戻ったゲーマーも、かなり多いと聞く。オレと同じい感想を持った者達以外は。


 そう、オレはゲームを開始して その気持が吹っ飛んでしまった。

 何なんだこれは。

 世界設定が恐ろしく細かくなっているのだ。

 それにNPCの完成度が格段に上がった。チュートリアルでも、あまり違和感なく話していたのだが、コレはレベルが違う。

 まるで生きているヒトと話しているようだ。AIのデータが格段に増えたのだろう、生活感まで感じられるようだ。

 だが、本当にここまで必要なのだろうか。

 まぁ、あのスタッフでは、あり得ないことではなかったのだが。


 一番大きな違いを発表しよう、画像の出来が違う。チュートリアルでも、相当なものだったのだが、これは、どう言ったら適切なのか迷ってしまう。

 コレを作成したスタッフは、ハッキリ言って異常だ。フルダイブ型VRでもここまでは出来ないだろう。この完成度は何なんだ。

 フルダイブでは、脳に刺激を与えて、一種の幻覚症状を起こさせるのが通常だ。理想の状態を、いわば夢想しているのだから、映像の完成度は非常に高い。

 だがこのゲームはそうではない。夢想ではないのだ。一つひとつ、全てのパーツを創らなければならない。

 この作業には どれほどの作業量と時間、集中力を必要としただろう。コノ人も異常だ。しかも、たった一人で完成させようとしていたようだ。


 そう、このゲーム、画像に関しては完成していたのだ。SDVDの一枚半は、これで埋められたいた。総容量八00PB(ペタバイト)には驚いた。


 しかし、ここまで出来ていながら未完成なのだ。完成版とは どんなモノを想定していたのだろう。原作者は、本当はどんなモノを造りたかったのだろうか。

 オレは、妹の、あの言葉が脳裏から離れない。


「そうだね、世界(、、)を創りたかったんじゃない?

 今の映像とキャラクタの自由度は異常よ。普通、ここまで自由度を上げる? ゲームの域を超えていると思うな。

 完成版だとスキルやスレータスは非表示だったのでしょ。コレには残ってるけれど、本来ないはずだもの。

 あーあ、一度やってみたかったな『完成版』。どんなのだったんだろう」


 全く同感である。オレもその世界(、、)を見てみたかった。


 ああ、この日記は これで終る。


 最終記録、完了だ。


 ■■■

 ここは、ああ……。

 そうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ