(7)エピローグ
9月9日。
先月末に このゲームに関して重大な事件が発生した。
原作者で編集責任者、総監督でもある、そんな立場にいたヒトが亡くなったのだ。
完成版は出来なくなった。
しかし、チュートリアルと完成版の中間、とでもいうモノがあったようだ。それが先日発売された。
それはSBRディスク三枚組で成り立っていた。とんでもない容量だ。実際はその容量を目一杯使っている訳ではないようだが。
そこが未完成部分なのかも知れない。
これの特徴は、タイマーが付いていることだろう。もちろんソフト的にである。
どういうモノかというと、ゲームをする時間、じゃないな 午後九時以降には起動スイッチが入らなくなくなっている。
そして午前〇時には強制終了だ。
安全措置だという。
実際に やって見て納得した。
時間感覚が狂うのだ。知っらない間に時間が経っていた。
原作者、と呼んででおこう。女性であったらしい。
彼女は どのようなモノに完成させたかったのだろうか。
今の、この状態は彼女の望む状態じゃなかったのは確かだろう。
彼女は、享年百五四歳。
その凶報を医師に通報したのは、彼女専用に調整された『介護用アンドロイド』であったという。そのアンドロイドは、その知らせを医師に伝えた後、自死――いや、自壊か――した。
アンドロイドの頭脳からゲームの進行状況、ひいては完成版の予想まで、ひょっとしたら出来てたかも知れなかったのだが、完全に消去されていたようだ。
まあ、終わったことを嘆いても仕方がない。
では、チュートリアルと この半完成版の相違点を述べて見よう。
まず、吹き出しの説明文が かなり減った。予定された完成版では、完全に無くなる筈だったものだ。
次にアバターの自由度が格段に上がった。それが良いことなのか 悪いのかは分からないが。
妹は「対話イベントが無くなった」と言っていたが。オレには意味不明だ。
何でも、女子キャラ専用のイベントの中でも、かなり大切なモノだったらしい。
妹よ、頑張れ!
後に聞いたところでは、自動的にはイベントが発生しなくなっただけらしい。
妹曰く、とんでもないことになったらしい。一つひとつ手探りで進まなければならないそうだ。いや いや、これは大変だぁ。
次に『第二王子』扱いが、少しばかり緩くなった。ヒロインと同じで冒険者になれなくなったようだが、更正の可能性が出来たようだ。
全体に、全てのキャラが『人間味を帯びた』ように感じたのはオレだけではなかったようだ。様々なブログにも同様の感想が述べられている。『リアリティが増した』と。
さて、これが一番大切、とも言えないのだが。予想した完成版とは絶対違うだろう事柄がある。
自身に限りだが『スキル、ステータス、その他のデータ』を見ることが出来る。
これは『本来の完成版』では消去する予定だったものだ。
実のところ、オレを含む殆どのゲーマーはホッ胸を撫で下ろしている。あの状態――イベントが自動的に発生しないこと――で、自身の能力を把握できないのは致命的だったからである。
妹は「『幼なじみ』が残っている」と喜んでいたが、オレには何のことだか よく分からない。
さてゲームの内容について話しておこう。
ハッキリ言って『別のゲーム』である。
非常に難しいゲームになった。イベントが分からないからだ。
元のゲーム、チュートリアルでは、吹き出しでイベントを紹介してくれていた。
それがない。
ある程度はチュートリアルを参考に進められるが、追加や削除されたイベントが分からない。
相手の反応が全く予想できないのだ。コレには困った。
早々に『チュートリアル』に戻ったゲーマーも、かなり多いと聞く。オレと同じい感想を持った者達以外は。
そう、オレはゲームを開始して その気持が吹っ飛んでしまった。
何なんだこれは。
世界設定が恐ろしく細かくなっているのだ。
それにNPCの完成度が格段に上がった。チュートリアルでも、あまり違和感なく話していたのだが、コレはレベルが違う。
まるで生きているヒトと話しているようだ。AIのデータが格段に増えたのだろう、生活感まで感じられるようだ。
だが、本当にここまで必要なのだろうか。
まぁ、あのスタッフでは、あり得ないことではなかったのだが。
一番大きな違いを発表しよう、画像の出来が違う。チュートリアルでも、相当なものだったのだが、これは、どう言ったら適切なのか迷ってしまう。
コレを作成したスタッフは、ハッキリ言って異常だ。フルダイブ型VRでもここまでは出来ないだろう。この完成度は何なんだ。
フルダイブでは、脳に刺激を与えて、一種の幻覚症状を起こさせるのが通常だ。理想の状態を、いわば夢想しているのだから、映像の完成度は非常に高い。
だがこのゲームはそうではない。夢想ではないのだ。一つひとつ、全てのパーツを創らなければならない。
この作業には どれほどの作業量と時間、集中力を必要としただろう。コノ人も異常だ。しかも、たった一人で完成させようとしていたようだ。
そう、このゲーム、画像に関しては完成していたのだ。SDVDの一枚半は、これで埋められたいた。総容量八00PBには驚いた。
しかし、ここまで出来ていながら未完成なのだ。完成版とは どんなモノを想定していたのだろう。原作者は、本当はどんなモノを造りたかったのだろうか。
オレは、妹の、あの言葉が脳裏から離れない。
「そうだね、世界を創りたかったんじゃない?
今の映像とキャラクタの自由度は異常よ。普通、ここまで自由度を上げる? ゲームの域を超えていると思うな。
完成版だとスキルやスレータスは非表示だったのでしょ。コレには残ってるけれど、本来ないはずだもの。
あーあ、一度やってみたかったな『完成版』。どんなのだったんだろう」
全く同感である。オレもその世界を見てみたかった。
ああ、この日記は これで終る。
最終記録、完了だ。
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ここは、ああ……。
そうか。