不毛な恋の諦め方
拍手に載せていたものを移動しました。
もう今更ですが近親相姦ネタなのでごにょごにょ
妹は普通に可愛い。
思えば今まで、弟妹たちに会ったことがあっただろうか。遠目に見たことはあっても、直接会うことは無かったような気がする。
――好きになれないと思ったからだ。
「おにーちゃんさ、ほんと不毛だよね!」
「マザコンは死ななきゃ治らないよ」
「死んでも治んないでしょー」
からからと笑っている妹の言葉に、そうかもしれないと思ったが――いくら何でも、生まれ変わってまでこんな不毛な恋はしたくない。
どうせなら、母とは親子としてではなく出会いたいものだ。
◆
世界にも終わりはやって来る。
老いのない精霊とはいえ、生に飽いて死ぬことは珍しくないし、精霊王ですらそうだった。
一番平和だった両親が死して、その数年後後を追うようにミサが亡くなって、また1人になった。
両親の死に目には会えなかったけど、ミサは晩年を共に過ごした。しばらく遭っていなかったけど、未だに恋人の1人もいないようだった。
「お兄ちゃん、……」
憔悴した妹は、ゆっくりと俺に手を伸ばして呟いた。
「……生まれ変わったら、今度はママじゃなくて、ミサにしておきなよ」
真意は、分からなかった。そしてその数日後、眠るように死に至った。
長い冬の後、リーベルは病に蝕まれてしまったらしい。大地は枯れ、海は渇き、空は濁った。母星の緩慢な死と共に、精霊の力は奪われていた。長く蓄えた力があればこそ、俺はその緩やかな滅亡を見届ける事を許された。
そして――
「お前もお気に入りなんだよな。つーか一家揃って倒錯しすぎだろ、いいぞもっとやれ」
――滅びたと思った神が、目の前に現れた。
愛の神と名乗るそれは、この世界の神に代わり、あの大戦が終わって以降この世界を管理していたという。そして今、彼は彼の元々居た世界とこの世界を統合しようとしているそうだ。
そうした後、どうなるのかは分からない。
けれど、俺にとっていいことが起きる、とだけ言った。
「一度だけ、だ。お前の愛した“家族”を、もう一度揃える機会をやるよ」
そして、神は――軽薄な笑みを浮かべて、俺の背を押した。
ぐるぐると視界が回り、そして、暗転。
◆
そこにいるのが母親であると、直感が告げていた。
思い出す。母が、あの世界へ来る要因となった死の原因は――謂れ無き恨みが巡り巡った八つ当たり。刺され、切られ、今際の際にまで父に脅されながら死んだ。心底かわいそうである。
母にぶつかりながら、女は手に持った鋭い針のようなもので母の脇腹を突いていた。鍛えられていない、やわらかいであろう腹。絹を裂くような悲鳴が聞こえた瞬間、勝手に体が動いた。
武器を叩き落して、女の腕を捻り上げる。しかし女はこちらを認識できていないようで、戸惑ったような声を上げながらも、未だ母に憎しみの篭った目を向けていた。
そのすぐ後に、父が現れた。一瞬目が合ったが、やはり気づいた様子はなかった。
そうして父と母がゆっくりと人生を歩んでいくのを、俺は数年の間、見続けた。
誰にも認識されないまま、両親がくっつくまでをじれったい思いで見続けて、そして。
あの神は、このことを言っていたのだろうか。
――時が来た。ゆっくりと意識が途絶えていくが、不思議と不快でもないし、怖くもない。
暗闇が迫り、やがて完全な無が訪れ、そして絶対的な安心を感じた。
おぎゃあ、と自分のものでないような声。
ゆっくりと記憶が零れ落ちていく事は怖いが、それでも、幸せは予感できた。
ぎゅ、と抱き付く。これがきっと最後。俺が俺として生きていられた、最期になる。
◆
覚えているのはたったひとつの、ある少女の遺言。
――今度はママじゃなくて、ミサにしておきなよ。
強烈な感情を誰に向けていたのかも忘れてしまったから、だから、その言葉に従った。妹を愛するのは、きっとその時よりもずっと楽なのだろう。
自分でそう言ったのだから、責任は取ってもらおう。
そう思いながら、新しい人生を歩んでゆく。少し嫌いで、大好きだった家族と共に。
→生存ルートへ
という締め方をしてみました。
お付き合いありがとうございましたー。またネタが出てくれば。