000話 プロローグ
初投稿です。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
チュンチュンと、桜の木の上から小鳥の愉しそうな鳴き声があたりに響いている。
ニャッニャッと、散歩中に虫を取る猫が、飼い主から「虫はやめるのじゃー!」と注意されている声も、どこからか聞こえてくる。
そんな、何とも平和な日常の一コマが繰り広げられる学園への通学路。
ある男が、目の前にヒラヒラと落ちてきた1枚のトランプカードを見つめていた。
この世界では珍しくもなんともないトランプカードのはずだ。なのに、彼はその1枚がどうしても気になってしまっていた。
「ダイヤの……3?」
男はそのトランプカードに、何か特別な意味を感じとっていた。微妙な数字である。世界に浸透しているトランプゲームをいくつか思い浮かべてみるも、あまり目立って活躍するようなものとは思えなかった。
しばらくカードを見つめていた彼の横を、一人の可憐な少女が通り過ぎていく。
まるで夜を鮮々と映したような二つ結びの黒い髪が、風になびいて羽ばたくように揺れた。すれ違いざまに、彼女の華やかな香りが男の鼻先を掠めていった。
男は彼女の横顔をまじまじと目で追ってしまい、思わず話しかけたくなる感情に駆られる。何てことはない、美しい黒髪の日本人であるだけなのに。彼女はまるで妖精のような幻想的な雰囲気をまといながら、どこか故郷のような懐かしさを感じさせ……。
「日本? 故郷?」
彼の血が、何かを訴えかけるようにドクンと脈打った。
日本……日本人……学園……トランプ……ゲーム……ダンジョン……。
思い浮かんできた単語がグルグルと頭を駆け巡り、一つに集約されたその瞬間、彼は確かな答えに辿り着く。
「あぁ、俺は転生する前、日本人だったんだ。ここは、世界中に不思議なダンジョンがある、あのゲームの世界なのか」
男は、自身が転生者であることを悟った。
◇
『最!果てのダンジョンへ!!』
このゲームは、学園生活とダンジョン攻略、恋愛シミュレーション要素まで詰め込まれた、まさに無限に遊べるローグライクゲームだ。
ちょこちょこ冒険以外でも人気の要素があり、時を忘れて千回以上遊んでしまうプレイヤーが続出したシリーズのタイトルでもある。
敵モンスターの魔物娘のキャラデザが秀逸で、一部の界隈では薄い本が厚くなるほど愛されたと聞き及んでいる……詳シクハナイヨ、ウン。
ストーリーもなかなかの厚みがあって、世紀末みたいな日々を迎えちゃうエンドもあれば、大団円なハッピーエンドとかもあったはずだ。
前世の俺は小さい頃に結構ハマっていた記憶がある。
結局、全クリまではできてなかった気がするが、それほどまでにボリューム感のある大作だった。
大人になってからも、懐かしさのあまり続編やリメイクに手を出したが、まとまったプレイ時間を確保できず、最期まで未クリアのままだったな。
そんな心残りが、俺をこの世界に導いたのかもしれない。
俺は元いた世界で命を落とし、愛してやまなかったゲーム世界のモブキャラへと転生したみたいだ。
さて、俺にはモブキャラとして過ごしてきた記憶もある。今、常識やら何やらがごっちゃになって整理が大変であるが、どうやら、モブにしては特殊な境遇であったようだ。
ゲームではあまり手をつけられることのない、異国で受けられるサブクエストのラビリンスだか、迷宮だかでほんの少し登場するモブキャラだが、ゲーム主人公とは名字が同じという目立った共通点があり、実は遠い親戚にあたる、みたいな触れられ方をしていた気がする。
正直、まともに憶えているキャラじゃないが、そこはまぁ、この際ヨシとしよう。だが、気にしなくちゃならない要素が、このモブキャラの記憶にあるのだ。
俺、現在、多額の借金中である。
それも、幼馴染の元婚約者から。
なんかもう、前世の俺からすれば「何じゃそりゃ」と頭を抱えたくなる状況だが、少しだけ「モブ俺氏」の背景をこのまま掻い摘んで説明させて欲しい。
この世界での俺は元・華族。
だが、家は取り潰され、今はただの平民だ。
元お坊ちゃんな少年がややスレてしまった感はある。それでも、亡き父の無念を晴らすべく、ダンジョン攻略を志す漢らしさは評価したいところだな。
そのダンジョンに入るための探検の認可や冒険者の資格を取りたくて、学園に入学したって感じだな。
ただ、問題は入学費や授業料といった諸経費を、富豪の幼馴染、それも元婚約者のお嬢様から借りている崖っぷちとも言える現状だ。
「ダンジョンでめっちゃ稼いで返せばいい」とか、「特待生になれればすぐ返せるよな」とか、「最悪、ギャンブルで儲ければなんとかなるかも」という、鬼が笑うような杜撰な計画だったようだ。
今の俺からすれば「お前、本当に大丈夫か?」と不安しか覚えない。
ただ、前世の記憶を取り戻し、ゲーム知識というチートを手に入れられたのは、モブ俺氏にとってもラッキーだっただろう。
日本人としての俺は、ゲーム感覚でダンジョン攻略を楽しみたいし、前世でできなかった全クリを達成したい。
この世界の俺としても、ダンジョン攻略をして亡き父の無念を晴らしたいって感じで、WIN-WINというやつである。
まぁ、自我は一つでどっちの記憶もあるってだけだから、ただのWINかもしれないが……って、そうだ。今日は物凄く大事な日だったことを忘れていた。
というのも、明日からの学園生活のクラス分けのため、実技試験という名のチュートリアルが、ダンジョンで行われるのだ。
この試験で好成績を出してA組になれないと、目当ての特待生奨学金は残念ながら狙えない。
ここで問題なのが、この世界って女キャラが優遇されてて力が強く、男キャラは貧弱で縛りプレイ寄りなことなんだよな。記憶を取り戻した俺からすると、本来は特待生のA組どころかZ組まっしぐらだ。
そう、本来は、だ。
チュートリアルは最初のジョブを決定づける重要なイベントであり、明確な採点基準が存在する。
そして、評価を爆上げする方法……言うなれば裏技的な攻略法を俺は知っている。
「くっくっくっ、ゲーム知識を思い出したからには序盤から無双も夢じゃ無いな……あっ、このカードは記念のお守り代わりに拾っておくか」
俺は先程の猫の飼い主、ピンクアホ毛のじゃロリが落としていったトランプカードを拾い上げ、幸運を祈るように胸ポケットへと仕舞い込んだ。
この世界はトランプをモチーフにした世界観設定が多く、トランプカードなんて公園とかにも良く落ちてるほどありふれてるので、まぁ貰っちゃっても大丈夫だろう。流石に今から追いかけて返すのは難しそうだしな。
そしてこんな小さな行動が、俺の運命を試練に満ちた大冒険へと変えてしまうことなど、このときの俺は知る由もなかったのだ。
かくして、賽は投げられた。
このプロローグには色んな小ネタを入れてみました。
不思議のダンジョンがお好き方に、「おっ!」と思っていただけていましたら嬉しいです。




