第六十話
翌朝。
王立グランセル魔導学園の空は、重く晴れていた。
晴れているのに、軽くはない。
青は見えている。
雲も薄い。
けれど、朝の空気には、どこか湿った重さが残っていた。
校舎の石壁は朝日を受けて明るく見えるのに、その影は妙に濃い。
中庭の芝は夜露で光り、風が通るたび、細かな雫が静かに震えた。
噴水の水音は、いつもと同じだった。
跳ねて。
落ちて。
また跳ねる。
その音を思い出しながら、レオン・ヴォルツは寮の部屋で手帳を開いていた。
昨日の最後の一文。
噂は足音より早く来る。
早く来た言葉ほど、すぐに事実へせず、一度足元に置いて確かめる。
昨日、ヴォルツ家から何か来たという噂が学園内を走った。
来たらしい。
来るらしい。
事務棟が忙しいらしい。
紋章を見たらしい。
誰も確認していない言葉が、廊下を渡り、教室をかすめ、中庭まで届いた。
けれど、正式通知はなかった。
レオンのもとにも。
教師からも。
職員からも。
何も来なかった。
噂は噂のまま終わった。
だが、胸の中には残った。
ヴォルツ家。
父。
家名。
成果。
協力関係。
正式記録。
そして、まだ来ていない反応。
レオンは手帳の余白へ、今日の最初の言葉を書いた。
噂が去った後に、本物が来ることもある。
書いてから、しばらくその文字を見る。
昨日の噂が誤りだったからといって、今日も何もないとは限らない。
昨日来なかったから、今日も来ないとは限らない。
噂を否定できても、現実を否定できるわけではない。
そのことを、レオンはもう知っている。
ローゼンベルク家の一次返答の時もそうだった。
封書騒動があり、別件があり、演習があり、その後に本物が来た。
だから、今日も。
何かが来るかもしれない。
来ないかもしれない。
それでも、今日を始めるしかない。
レオンは制服へ袖を通した。
灰色の布が肩に乗る。
いつもと同じ重さ。
けれど、今日のそれは、少しだけ家の重さにも似ていた。
◆
寮の廊下は、昨日より静かだった。
噂が空振りに終わったことで、生徒たちも少し慎重になっているのだろう。
しかし、完全に消えたわけではない。
声はまだある。
ただ、昨日より低く、細くなっている。
「昨日のは違ったらしいな」
「教師が正式通知なしって言ったし」
「でも、ヴォルツ家からはいつか来るんだろ?」
「そりゃ来るだろ」
「今日かもしれないし」
「また噂で騒ぐなよ」
また噂で騒ぐなよ。
その言葉には、少しだけ昨日の反省が混じっている。
学園も学んでいる。
噂を事実にしないこと。
未確認のものを膨らませすぎないこと。
それでも、気になるものは気になる。
レオンも同じだった。
廊下の窓から見える事務棟の方角へ、視線が流れそうになる。
流れかけて、自分で戻した。
事実。
まだ正式通知はない。
状態。
気になる。
行動。
中庭へ向かう。
◆
中庭には、フィーネ・ルークがいた。
噴水のそば。
手帳を胸に抱えている。
今日は、レオンが近づく前に彼女の方から顔を上げた。
「おはようございます」
「ああ。おはよう」
声は落ち着いていた。
けれど、彼女の指先は手帳の角を強く押さえていた。
「昨日の噂、少し落ち着きましたね」
「そうだな」
「でも、私は今朝の方が少し怖いです」
「なぜ」
レオンが聞くと、フィーネは水面を見た。
「昨日は、噂だと分けられました。でも今日は……噂が消えた後に、本物が来るかもしれないと思ってしまって」
レオンは静かに頷いた。
「俺も同じことを考えた」
「そうですか」
フィーネは少しだけ息を吐く。
「今日の私の共有は、“昨日の噂を否定できたからこそ、次に本物が来た時に揺れそう”です」
「良い共有だ」
「はい」
彼女は手帳を開き、書いた。
噂は消えた。
でも本物が来ないとは限らない。
本物かもしれない時ほど、段階確認。
レオンはその文字を見て、短く言った。
「今日も段階を飛ばさない」
「はい」
◆
アルト・レイヴンは、少し緊張した顔で来た。
昨日より慌ててはいない。
だが、緊張は残っている。
「おはようございます」
「ああ」
「おはようございます、アルトさん」
アルトは二人の前に来ると、まず深呼吸した。
「昨日、噂で支援が硬くなるって共有しました」
「ああ」
「今日は、噂じゃなくて本物が来た時のことを考えて、もう硬くなりそうです」
「まだ来ていない」
「はい。わかってます」
アルトは苦笑した。
「でも、身体の方が先に準備してる感じです」
その言葉は、かなり正確だった。
不安は頭だけではない。
肩に来る。
呼吸に来る。
指先に来る。
魔力の流れにも来る。
「なら、今日の支援は最初に硬さ確認だな」
レオンが言うと、アルトは頷いた。
「はい。良く見せようとしない。硬くなったら言う。今必要な支援を出します」
「それでいい」
フィーネも微笑む。
「昨日より、言葉が早く出ましたね」
アルトは少し照れた。
「少しずつ、です」
◆
ユーリス・ベルクは、今日は軽く手を振りながら来た。
だが、顔を見ると、少しだけ眠そうだった。
「おはよう」
「ああ」
「おはようございます」
「おはようございます、ユーリスさん」
ユーリスは噴水の水面を覗き込んで、すぐに言った。
「昨日の噂、夜まで頭に残った」
「お前もか」
「うん。笑って流したつもりだったけど、寝る前に思い出した。ヴォルツ家、いつ来るんだろって」
彼は肩をすくめる。
「今日の俺の共有。軽くしてるけど、内側では待ってる」
フィーネが頷く。
「軽さと内側が違う時ですね」
「そう」
ユーリスは指を鳴らしかけ、やめた。
「軽くしてるから大丈夫、ではない」
「良い」
レオンが言うと、ユーリスは少し笑った。
「最近、俺の自己分析うまくなってない?」
「ああ」
「そこは否定しないんだ」
「事実だ」
ユーリスは少しだけ照れたように笑った。
◆
四人は噴水のそばで、今日の確認をした。
昨日の噂は正式通知ではなかった。
だが、ヴォルツ家から何も来ないと確定したわけではない。
今日も来ないとは限らない。
来るとも限らない。
本物かもしれない時ほど、段階を確認する。
フィーネ。
噂を否定できた後の本物が怖い。
アルト。
本物を想像して支援が硬くなりそう。
ユーリス。
軽くしているが、内側では待っている。
レオン。
家の反応を想像して判断が重くなりやすい。
確認が終わると、フィーネが小さく言った。
「今日、来るでしょうか」
その問いは、誰にも答えられない。
レオンは少しだけ沈黙してから言った。
「わからない」
「はい」
「だから、来るかどうかではなく、来た時に段階を飛ばさない準備だけする」
フィーネは頷いた。
「はい」
◆
東棟へ向かう道は、昨日より静かだった。
しかし、その静けさは、噂が消えた静けさではない。
噂の後に残った慎重さだ。
生徒たちは、レオンたちを見る。
声をかけたいが、昨日のこともある。
簡単には言えない。
その空気が伝わってくる。
すれ違いざま、ある生徒が小さく言った。
「昨日は、悪かったな」
誰に向けた言葉かは曖昧だった。
だが、レオンは足を止めず、軽く頷いた。
悪意ではなかったのだろう。
不安と関心が形を持たないまま広がった。
教師が言った通りだ。
責めるだけでは足りない。
だが、分ける必要はある。
フィーネが小さく言う。
「今の言葉、少し軽くなりました」
「ああ」
アルトも頷く。
「謝ってくれる人もいるんですね」
ユーリスが言う。
「昨日ちょっと騒ぎすぎたって、周りもわかってるんだろ」
学園全体も、少しずつ戻っている。
◆
教室に入ると、カイル・ローダンがいつもの席で待っていた。
ハルト・グレイナーは腕を組み、机の端に寄りかかっている。
レオンたちが入ると、ハルトが先に言った。
「今日はまだ何も来ていない」
その言い方は乱暴だったが、事実確認としては助かる。
レオンは頷いた。
「助かる」
ハルトは少し目を逸らす。
「別に」
カイルが続ける。
「昨日の噂で、学園側も注意を強めている。正式通知があれば、噂より先に教師から伝えられる可能性が高い」
「可能性か」
レオンが聞く。
「確定とは言えない。だが、手順上はそうなる」
カイルは淡々と答える。
「今日の危険は、待機疲れだ」
「待機疲れ?」
アルトが聞く。
「不安、未着、前触れ、安堵、先取り、噂。ここ数日、第五班はずっと外部反応に備え続けている。備えは必要だが、備え続けること自体が疲労になる」
レオンはその言葉を聞いて、胸の奥で納得した。
疲れている。
それは確かだ。
大きく崩れてはいない。
でも、ずっと構えている。
カイルは続けた。
「疲れている時に本物が来ると、反応が遅れる。あるいは過剰になる」
ユーリスが苦笑した。
「じゃあ今日、本物来たらけっこう嫌だな」
「いつ来ても嫌だ」
ハルトが言う。
「それはそう」
ユーリスが頷いた。
◆
一限目。
教師は黒板へ文字を書いた。
待機疲労。
教室が静かになる。
「正式記録提出後、外部反応を待つ状況が続いている」
教師は淡々と話し始めた。
「未着、不安、安堵、先取り、噂。関係生徒だけでなく、周囲にも心理的負荷が蓄積している」
レオンは静かに聞く。
まさに、朝から感じていた疲れだった。
「備えることは重要だ。しかし、備え続けることには疲労が伴う」
黒板に三つの言葉が書かれる。
構え続ける。
疲れる。
反応が乱れる。
「ヴォルツ」
「はい」
レオンは立ち上がる。
「待機疲労がある時、第五班が気をつけるべきことは何だ」
レオンは少し考えた。
「疲れていないふりをしないことです」
教師は黙って続きを待つ。
「本物が来た時に備える必要はあります。ですが、ずっと緊張を保てるわけではありません。疲れているなら、疲れていると共有し、その状態を前提に動く必要があります」
一拍。
「疲れているから駄目、ではなく。疲れているなら確認を増やす、役割を分ける、無理に速く判断しない。そう扱うべきだと思います」
教師は頷いた。
「良い」
そして教室全体へ言った。
「疲労は失敗ではない。だが、疲労を隠すことは失敗に繋がる」
◆
午前の課題は、待機疲労対応演習だった。
内容は、長めの待機を含む標識移送。
演習開始前に数分間、班員は区画内で待機させられる。
その間、魔法装置が不確かな通知音や足音を流す。
その後、通常より少し遅れて課題が始まる。
疲れた状態で、初動を整えられるか。
それを見る課題だった。
第五班は区画内で待機した。
まだ始まらない。
前方には標識。
左右には魔法人形。
障害壁も見える。
だが、鐘が鳴らない。
遠くで足音がする。
通知音が鳴る。
何も起きない。
また足音。
また無音。
アルトの肩が少し上がっている。
フィーネは手帳を持っていないため、指先が少し迷っている。
ユーリスは軽口を言いかけて、飲み込んでいる。
レオン自身も、少し呼吸が浅い。
「状態共有」
レオンが言った。
フィーネが答える。
「待機で少し疲れています。開始時、初期報告が遅れるかもしれません」
アルトも。
「肩に力が入っています。支援が硬くなるかもしれません」
ユーリスも。
「待ち疲れで、開始した瞬間に走りたくなりそう」
レオンも言う。
「俺は、早く始めたい気持ちで判断を急ぐかもしれない」
共有が終わった瞬間、鐘が鳴った。
演習開始。
◆
フィーネは一瞬遅れた。
だが、遅れたことを隠さなかった。
「初期報告、少し遅れました。正面前衛、右軽量、障害壁中央。標識奥」
レオンは頷く。
「前衛は俺。ユーリス標識へ。ただし速度維持。アルト、右軽量。フィーネ、障害壁」
「はい」
「了解」
「はい」
ユーリスが走り出す。
速い。
自分で言う。
「走りたくなった。速度落とす」
アルトの土は硬い。
「支援硬いです。浅く調整」
フィーネが障害壁を見る。
「障害壁、未起動。足音音声あり、実体未確認」
足音音声。
実体ではない。
良い分類だった。
レオンは前衛型を受ける。
早く終わらせたい。
その気持ちが少し出る。
前へ出すぎる。
ユーリスが叫ぶ。
「レオン、急いでる!」
戻る。
「戻る。前衛を流す」
標識へ到達。
その時、魔法装置が音声を流す。
『外部連絡の可能性』
全員の動きが揺れる。
可能性。
内容不明。
レオンはすぐに言う。
「外部連絡の可能性。内容不明。課題継続」
フィーネも。
「障害壁、起動気配。左へ」
アルトが風を入れる。
「風、弱支援」
ユーリスが標識を抱えて左へ。
「台座まで六歩」
足音が近づく。
だが、演習の音声。
フィーネが言う。
「足音、実体未確認。右軽量は足止め中」
標識設置。
鐘が鳴った。
◆
教師が近づいてくる。
「第五班、評価、上」
四人が姿勢を整える。
「待機疲労による初動の乱れはあった。だが、事前共有により各員が自己補正できた」
「はい」
「ルーク、初期報告の遅れを隠さず修正。良」
「はい」
「レイヴン、支援硬化を自己申告し調整。良」
「はい」
「ベルク、待機後の速度上昇を認識し修正。良」
「はい」
「ヴォルツ、早く終えたい意識による前進を指摘で戻した。良」
「はい」
教師は全体へ言った。
「待機疲労は避けられない。重要なのは、疲労を前提に手順を増やすことだ。疲れている時ほど、確認を省くな」
その言葉は、今日の第五班に深く刺さった。
◆
昼休み。
食堂では、昨日より静かな空気が流れていた。
朝の噂は、教師の説明によって一度整理されている。
しかし、完全に消えたわけではない。
ただ、皆が少し慎重になっている。
「正式通知はまだないんだって」
「昨日の噂で先生も注意してたな」
「待機疲労って言ってた」
「ずっと構えてると疲れるよな」
「第五班、上評価だったらしい」
「疲れてても戻れるの、強いな」
第五班の席では、四人が少し疲れた顔で食事を取っていた。
ユーリスがパンを見ながら言う。
「待ってるだけで疲れるって、本当だな」
「はい」
アルトが頷く。
「何もしてないのに、肩が重いです」
フィーネが手帳を開く。
「疲れている時ほど、確認を省かない」
レオンも頷いた。
「今日の一番大事な言葉だな」
ユーリスが軽く笑う。
「疲れてると省きたいんだけどな」
「だから省かない」
「はいはい」
そのやり取りに、少しだけ笑いが戻った。
◆
放課後。
中庭には、エリシア・フォン・ローゼンベルクがいた。
今日は噴水の近くで、手帳を閉じて持っていた。
レオンたちを見ると、静かに会釈する。
「皆様」
「エリシア様」
フィーネが返す。
エリシアは少し疲れた顔をしていた。
「今日は、何も来ていないのに疲れました」
その正直な言葉に、アルトが深く頷く。
「俺もです」
ユーリスも。
「待機疲労ってやつですね」
エリシアは小さく笑う。
「今日の講義で聞きました」
「はい」
フィーネが言う。
「疲れている時ほど、確認を省かない」
エリシアは手帳を開き、その言葉を書いた。
「省きたくなりますね」
「なります」
アルトが即答した。
少し笑いが生まれる。
だが、その笑いの最中だった。
事務棟の方から、職員が一人歩いてきた。
手には、何もない。
封書も箱も持っていない。
しかし、第五班の方へ向かってくる。
全員の空気が静かに変わった。
レオンの胸が鳴る。
封書なし。
でも、口頭連絡かもしれない。
職員は近づいてくる。
フィーネが小さく言う。
「職員さんがこちらへ向かっています」
アルトが続ける。
「封書なし」
ユーリスも。
「内容不明」
エリシアも。
「段階を飛ばさない」
職員はレオンたちの前で止まった。
丁寧に頭を下げる。
「レオン・ヴォルツ様」
レオンは一歩前へ出る。
「はい」
「担当教師より伝言です。明日朝、第一時限前に東棟第二面談室へ来るようにとのことです。第五班各員も同席を求められています」
空気が止まった。
明日朝。
第一時限前。
第二面談室。
第五班各員も同席。
職員は続ける。
「内容については、担当教師より直接説明があります」
それだけだった。
職員は頭を下げ、去っていった。
封書はない。
だが、呼び出しは来た。
内容は不明。
ヴォルツ家かどうかも、まだ確定していない。
だが、タイミングから考えれば。
レオンは息を止めかけた。
フィーネが小さく言う。
「息を」
レオンは息を吸った。
アルトが震える声で言う。
「呼び出しは事実」
ユーリスが続ける。
「内容は不明」
エリシアも。
「ヴォルツ家とは限らない」
レオンは頷いた。
「明日朝、第二面談室。第五班同席」
そこまでが事実。
それ以上は、まだ推測。
だが、重い。
とても重い。
レオンは拳を握り、ゆっくり開いた。
「明日だ」
短く言う。
フィーネが頷く。
「はい」
アルトも。
「待ちます」
ユーリスも。
「今日は、ここまで」
エリシアは静かにレオンを見る。
「段階を、飛ばさずに」
「ああ」
レオンは答えた。
◆
夜。
学生寮の部屋。
レオンは手帳を開いた。
第六十話。
家の言葉は、静かに刃を持って届く。
朝。
昨日の噂は正式通知ではなかった。
だが、噂が去った後に本物が来ることもある。
噂を否定できても、現実を否定できるわけではない。
今日は来るかもしれない。
来ないかもしれない。
フィーネ。
噂を否定できたからこそ、次に本物が来た時に揺れそう。
本物かもしれない時ほど、段階確認。
アルト。
本物が来た時のことを考えて、もう支援が硬くなりそう。
良く見せるより、今必要な支援。
硬くなったら言う。
ユーリス。
軽くしているが、内側では待っている。
軽くしているから大丈夫、ではない。
カイル。
待機疲れ。
備え続けること自体が疲労になる。
疲れている時に本物が来ると、反応が遅れるか過剰になる。
ハルト。
今日はまだ何も来ていない、と先に事実確認。
講義。
待機疲労。
構え続ける。
疲れる。
反応が乱れる。
疲れていないふりをしない。
疲れているなら、疲れていると共有し、その状態を前提に動く。
疲労は失敗ではない。
だが、疲労を隠すことは失敗に繋がる。
午前課題。
待機疲労対応演習。
長い待機。
足音。
通知音。
何も起きない。
開始前から疲れる。
フィーネ、初期報告が遅れるかもしれないと共有。
アルト、支援が硬くなるかもしれない。
ユーリス、開始直後に走りたくなりそう。
レオン、早く始めたい気持ちで判断を急ぐかもしれない。
演習開始。
各員、自己補正。
外部連絡の可能性、内容不明。
課題継続。
評価、上。
疲れている時ほど、確認を省くな。
昼。
待っているだけで疲れる。
疲れている時ほど、確認を省かない。
放課後。
エリシア。
何も来ていないのに疲れた。
待機疲労。
職員がこちらへ。
封書なし。
内容不明。
レオン・ヴォルツ宛。
担当教師より伝言。
明日朝、第一時限前に東棟第二面談室へ。
第五班各員も同席。
内容は担当教師より直接説明。
呼び出しは事実。
内容は不明。
ヴォルツ家とは限らない。
明日朝、第二面談室。
第五班同席。
そこまでが事実。
レオンはペンを止めた。
ついに、呼び出しが来た。
封書ではなかった。
職員は何も持っていなかった。
それでも、言葉は届いた。
明日朝、第一時限前。
東棟第二面談室。
第五班各員も同席。
内容は、担当教師より直接説明。
ヴォルツ家とは、まだ言われていない。
父からの返答とも言われていない。
正式記録に関するものとも言われていない。
だが、タイミングが重い。
言葉の形が重い。
第五班全員同席という条件が、さらに重い。
家の言葉は、静かに刃を持って届く。
まだ刃かどうかもわからないのに、すでに胸が冷たい。
レオンは手帳の最後に一行を書く。
呼び出しは事実。内容は不明。
その下に、もう一行。
怖さで中身を先に決めず、明日、聞くまで段階を守る。
ペンを置く。
窓の外は夜だった。
星は見える。
だが、今夜の空は少し遠い。
明日。
第二面談室。
第五班全員。
フィーネも来る。
アルトも来る。
ユーリスも来る。
レオン一人ではない。
その事実が、少しだけ胸を支えた。
レオンは手帳を閉じた。
灯りを落とす。
暗闇の中で、噴水の水音を思い出す。
跳ねて。
落ちて。
また跳ねる。
明日、何が届くのかはわからない。
だが、聞く。
段階を飛ばさずに。
そして、戻る。
戻る場所は、もう一人分ではない。
そこに、第五班がいる。




