表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎焔の鎧  作者: なとな
第3章 祝福の証
34/122

第3章1話 新生活

 ルナリスの街に戻って数日が経った。セルヴァスの集落に行く前と大きく変わったことが一つある。それは我が家に居候が増えたことだ。

 元々は俺一人で暮らすのにちょうどいい小屋だったが、今じゃ賑やかな連中で溢れかえってる。きっかけはルナリスの街に着いたその日だ。俺たち五人――俺、ルーナ、セレナ、リーシャ、エリス――は酒場で腹を満たそうと街を歩いてた。その時、ふとした疑問が浮かんで、俺はセレナに声をかけた。


「セレナ、お前は住む場所決めているのか?」

「うん、アクイラの家に住もうと思ってるよ!」

「はぁ!?」


 彼女がさも当然のように言い放つもんだから、思わず聞き返してしまった。セレナは首を傾げて、茶色のウェーブ髪が肩に揺れる。薄緑のチュニックは動きやすそうに体に馴染み、膝丈のスカートが軽やかに風に揺れてた。腰に革のベルトを締め、足元は擦り切れたショートブーツ。狩人らしい質実剛健な格好だが、街の喧騒の中でもその自然な魅力が際立ってる。


「だってアタシ、他に行く場所ないし? なんなら集落は通貨を使わないから無一文だもん。だから住ませてよ」

「いや、でもなぁ……」


 俺は渋ってた。確かにセレナは可愛い。森のような緑の瞳と、しなやかな体つきは目を引くし、戦場での頼もしさも分かってる。でも俺の家にはすでにルーナが頻繁に泊まりに来るし、カイラさんも三日に一度は顔を出す。小屋はそこまで広くはない。リビングと俺の寝室、それから客室が一つあるだけだ。まあ、その客室は最近じゃカイラさんの定位置になりつつあるけどな。でも、寝泊まりくらいならどうにかなるか。小屋は俺が自分で建てたものだし、増築すればいいだけの話だ。


「わかった、じゃあセレナも住めるようにするよ。そういえばリーシャたちはどうしてるんだ?」

「私たちは街の宿を二人で借りているよ」


 リーシャが答えた。彼女は灰色のロングチュニックに黒のレザーベストを重ね、裾にスリットが入ったスカートを履いてる。金髪が街の日差しに映えて、騎士らしい凛々しさが漂うが、普段着らしい気軽さもある。隣のエリスは緑のショートチュニックに茶色のタイツ、腰に小さなポーチを下げた軽快な姿で、ポニーテールが元気に揺れてた。

 なるほど。宿に金をかけるなら、増築ついでに客間を増やすのもありか。


「お前らもルナリスの街にいる間は家に住むか? 増築してからになるけど」

「え? よろしいのですか?」


 エリスが目を丸くして聞き返してきた。


「ああ、構わないよ」


 俺がそう答えると、リーシャとエリスは顔を見合わせて嬉しそうに笑った。そんな二人を横目で見てたルーナは、銀髪を揺らして面白くなさそうな顔をしてたけど、俺は気にしないことにした。彼女は青いローブ風のチュニックに白いスカーフを巻いてて、普段着でも幻想的な美しさが際立ってる。街行く男たちの視線がチラチラ集まるのも無理はない。

 それから俺たちは酒場で腹を満たし、宿に戻った。そして翌日から我が家の増築作業が始まった。といっても、地属性魔法で植物育成が得意なギルドの受付嬢、リズさんに頼んで木材を生成してもらったのが大きい。彼女はエメラルドグリーンのロングドレスに白いエプロンを重ねた姿で、手際よく魔法を操ってくれる。イグニスや他の仲間にも組み立てを手伝ってもらい、あっという間に増築が完成した。

 我が家はリビングと俺の寝室に加え、調理場を拡張して広くした。カイラさんが使ってた客室はそのまま残し、二階を新設。セレナ用の部屋と客間を三つ用意した。そのうち二つをリーシャとエリスに貸し出し、一つは予備だ。いや、本当はルーナ用に考えてたんだけど、結局彼女は俺の寝室に泊まるのが常になってるからな。

 ちなみに、風呂場は木製の壁で囲った簡素な作りだ。湯を沸かすのは面倒だが、仲間が増えた今は誰かが手伝ってくれることが多い。トイレは小屋の脇を流れる川に直接落とす方式で、質素だけど実用的だ。

 その日の夕方、風呂場から水音が聞こえてきた。誰かが入ってるらしい。気になって覗いてみると、ルーナが体を洗ってた。銀髪に水をかけて泡立ててる姿が目に入る。彼女はこっちに気づいてないようで、俺は少しだけその様子を見てた。

 ルーナは丁寧に洗うタイプだ。頭から始めて、次に腕や足を順番に。湯気の中で銀髪が濡れて張り付き、白い肌がほんのり赤く染まってるのが分かる。普段の幻想的な雰囲気とは違って、日常的な一面が見える瞬間だ。

 覗き穴を作って正解だったな。

 翌朝、リーシャとエリスは早々に依頼に出かけ、俺はルーナとセレナの三人で朝食を取ってた。調理場を改装したおかげで、テーブルを囲むスペースも広くなった。ルーナは青いチュニックに白いスカーフ、セレナは薄緑のチュニックにスカートという姿で、朝の陽光が二人を柔らかく照らしてる。そこへセレナが話しかけてきた。


「アクイラ、今日はどうする?」

「そうだな。俺はギルドに行こう」

「私も行く」


 ルーナとセレナがついてくることになった。ちなみにカイラさんは今日もいない。彼女は今どこにいるんだろうな? まあそのうち会えるだろうし、気にしないことにした。リーシャとエリスは基本的に別行動だ。

 ギルドに着くと、早速依頼を探す。中級傭兵ランクエメラルドの俺と、見習い傭兵ランクアメジストのルーナ、セレナの三人だ。セレナも無事傭兵登録を済ませたが、登録料は俺が払った。無一文だったからな。

 ルナリス周辺の依頼をいくつか見繕い、受付のリズさんに依頼書を渡すと手続きが始まった。


「アクイラさん、新人育成でも始めたのですか?」

「そういうわけではないんだけどな」


 俺は苦笑しながら答える。リズさんは緑のロングドレスにエプロン姿で、編み込んだ金髪が優雅に揺れてる。依頼を受けるのは簡単だ。依頼書を渡すだけでいい。でも、どうしてこうなったのかは俺にも分からない。ただ普通に暮らしてただけなのに、いつの間にかこんな大所帯になってたんだ。


「そうですか。どちらにせよ、人手が多いことに越したことはありません。傭兵登録と新人育成は大歓迎ですよ!」


 リズさんは嬉しそうに言う。確かに人材不足の傭兵業界じゃ、新人育成は重要な仕事の一つだ。でも俺はやりたくてやってるわけじゃなくて、集まってくるからやってるだけなんだよな。


「では、依頼を受理しましたので行ってらっしゃい!」


 俺たちはギルドを出て、依頼の場所へと向かった。

 今回受けた依頼はブロコラーモンスの討伐だ。ブロコラーモンスは簡単に言うと、ブロッコリーみたいな魔獣だ。見た目はでかい植物で、根を足のように動かして歩く。攻撃手段は花蕾から放たれる魔法エネルギーで、周囲の植物を操ったりする。茎や葉は強力な防御手段になって、攻撃を跳ね返す厄介な相手だ。

 街を出て森へと足を踏み入れる。背の高い木々が茂り、地面には落ち葉や草が生えてて歩きにくい。でも俺たちの足取りは軽かった。ルーナのローブチュニックが木々の間を抜ける風に揺れ、セレナのスカートが軽快に翻る。


「アクイラ! 見つけたよ!」

「おう! 任せろ」


 セレナの報告を受けて、俺はすぐさま走り出した。こちらに気づいてない魔獣に容赦なく一撃を叩き込む。炎を纏った拳が命中すると、ブロコラーモンスは簡単に焼けていく。でも俺だけで討伐しても意味がない。今回は俺とルーナの陣形にセレナを加えたパターンの戦闘を練習する依頼だ。セレナの動きを確認しつつ、戦闘パターンを固めたい。


「セレナ! 頼む!」

「分かった。任せてよ!」


 彼女は頷くと目を閉じて集中し始めた。風属性の感知魔法を無詠唱で発動してるんだろう。そして奥の茂みへボウガンを向ける。


「風よ、我がボウガンの矢に加わり、疾風となれ。《ラピデウス・フラクトゥス》」


 セレナが呪文を唱えると、矢の先に風が集まり、放たれた矢は一直線に飛んで茂みに隠れたブロコラーモンスの茎を貫いた。


「よし! 命中したな」


 それから俺たちは次々と魔獣を倒していく。でもしばらくすると、地面が大きく揺れて巨大な植物が現れた。でかいブロコラーモンスだ。

 その時、セレナが茂みに飛び込んだ瞬間、スカートが木の枝に引っかかって勢いよく捲れ上がった。パンツがチラリと見えて、彼女は「あっ!」と短く叫んで慌ててスカートを押さえた。顔が真っ赤になってる。


「アクイラ、見ないでよ! 恥ずかしいんだから!」

「戦闘中だろ、気にするな!」


 俺はそう言いつつ、視線が自然と彼女の方にいってた。ルーナが「水流を放ち、魔獣の注意を引きつける。セレナは恥ずかしそうにしながらもボウガンを構え直して応戦した。


「お、大きいね。でもアタシたちの敵じゃないよね?」


 セレナが不安そうに言うから、俺は問題ないと頷いた。彼女は笑顔になり、ルーナはむっとした顔で俺に近づいてきた。戦闘中はやめてほしいけど、それだけ余裕が出てきたってことか。


「セレナ。援護を頼む」

「分かった!」


 セレナの返事を聞いて、俺はルーナに合図して同時に走り出す。俺を中心に左右対称に動く、これは二人で戦う時の陣形だ。俺は拳、ルーナはロッドを構え、同時に攻撃を仕掛ける。


「いくぞ!」

「うん!」


 ルーナがロッドを振って水流を生み出し、魔獣に放つ。だが魔獣は根で弾き飛ばした。その隙に俺が炎を纏った拳を叩き込むと、炎と水のエネルギーが合わさって爆発的な威力でブロコラーモンスを襲った。でも致命傷にはならず、魔獣は怒り狂って暴れ出した。俺たちは距離を取って再び攻撃を仕掛ける。


「アクイラ! あれ、試そうよ!」


 セレナが声をかけてくる。あれって、蒼い鎧のことか?


「よし! 頼むぞ! 炎の守護、我が身を囲みて鎧となれ。炎焔の鎧(エンフレクス・アルマ)

「頼んだよ! 風よ、我が呼び声に応えて、突風を巻き起こせ。突風召喚テンペスタス・インヴォケート


 俺の身体に突風が纏い、紅い炎は蒼く染まる。


蒼炎焔の鎧エンフレクス・アルマ・カエルレア!!」


 炎の鎧が蒼く染まり、一気に火力が上昇した。どうやら安定してこの状態を作れるみたいだ。火力の高い炎で巨大ブロコラーモンスを一瞬で焼き尽くした。


「やったぁ! 成功だね!」

「ああ、そうだな」


 俺がそう言うと、セレナは嬉しそうに飛び跳ねた。ルーナも満足げに頷いて、俺はその姿に苦笑しながら討伐の証拠となるブロコラーモンスの根を採取した。そして俺たちは街へと戻ることにした。

傭兵強さ順

紫花のマーレア>森姫カイラ>双剣士レン>獅子の戦士レグルス>銀鉾のシルヴィア>風の聖女ゼフィラ>毒剣のユウキ>海銃のミズキ>波濤の影忍ネレイド>灼熱の拳アクイラ>青毒のナリア>鋼腕のイグニス>地の聖女ベラトリックス>突撃のリーシャ>風刃の騎士ゼファー>火炎剣士ヴァルカン>華の射手エリス>風迅セレナ>幻想の巫女ルーナ


こう見ると二つ名って大事ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ