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炎焔の鎧  作者: なとな
第2章 偉大な力
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第2章16話 聖水癒受

 アウレリウスの剣がセレナに振り下ろされる瞬間、手が届かねえ。焦る心を抑え、拳に炎を集中させる。さっき似たことができた。今度は意識してやるんだ。汗と血で濡れたシャツが体に張り付き、鎖で擦り切れた袖口が風に揺れる。腹が丸出しのベストが邪魔だが、今はそんなこと気にしてる場合じゃねえ。ズボンの焦げた裾が鼻をつき、膝の切り傷がヒリつく。


「貫け! 蒼炎焔の鎧エンフレクス・アルマ・カエルレア!!!!」


 蒼い焔をまとった拳から炎が一直線に伸び、アウレリウスの黒い鎧を貫通した。衝撃で奴の双剣が地面に落ち、緑の魔力が薄れていく。同時に、俺の蒼い焔の鎧も砕けるように霧散する。熱が体を包み、革靴の踵が完全に剥がれて足裏が石床に擦れる。この技、俺が出せるもんじゃねえ。この力は俺のもんじゃねえらしいが、今だけは感謝しよう。おかげでみんなを守れた。俺は倒れたアウレリウスに背を向けて歩き出すと、後ろから奴の声が響いた。


害虫にんげん! 害虫にんげん! 害虫にんげん! 害虫にんげん!」


 アウレリウスの体がどんどん蒸発していく。血と埃で汚れた革ブーツが最後に溶け、奴が最後の力を振り絞ってセレナを斬ろうとする。今なら間に合う!


「喰らいやがれ!!!!!」


 いつもの紅い炎焔の鎧(エンフレクス・アルマ)で足に炎を集中させ、飛び上がる。勢いでズボンの焦げ跡がさらに広がり、石壁に叩きつけられたアウレリウスが呻く。


「無事か? セレナ?」

「え……うん、ありがとぉ」


 セレナが震える声で答える。緑のチュニックが乱れて、スリットから少し肌が覗く。彼女が慌てて裾を押さえると、顔が赤くなった。俺はセレナをおんぶし、ルーナの方へ向かおうとした。そこにカイラさんが現れた。緑のドレスが汗で濡れ、葉模様の刺繍が薄暗い遺跡で映える。


「さすがだ、アクイラ。蒼い炎、綺麗だったよ」

「俺だけの力じゃありません、セレナのおかげです」


 俺がそう答えると、カイラさんは「そうか、そうかもな」と笑った。彼女の半袖から覗く肩が汗で光ってるのが目に入る。


「まさかこのような形で計画が頓挫するとはな……素材にんげん共め!」


 アウレリウスがそう言い残して完全に蒸発した。黒い鎧の残骸すら消えちまって、これで終わった。赤毛の獅子のレグルスさんについては、回復した全員に説明した。魔獣化した人間が人を襲う衝動に襲われることも含めてだ。レグルスさんは元の姿に戻り、赤茶色のチュニックが汗と血で汚れてるが、穏やかな顔をしてる。


「ではこれからレグルスを殺すか生かすか決めよう」


 カイラさんの言葉にみんな暗い表情をした。マーレアさんはレグルスさんに抱きついたまま動かねえ。淡紫色のスカートが彼の体に絡まり、泣きそうな顔が隠れてる。本人の意思とは関係なく魔獣にされた傭兵。人間の意識を残し、意思疎通もできる。


「私は殺したくないです」


 セレナがそう言うと、リーシャも頷く。エリスとルーナはどうなんだろうと思い、二人を見る。すると二人が同時に言った。


「私も同じ意見よ」「私もです」


 名前のわからないエルフたちはカイラさんの意思に従うそうで、あとはマーレアさんだ。


「生きてもらいます。貴方にはまだお願いしたいことばかりですから」


 どうやら全員一致で決まったようだ。だが、レグルスさんだけは違った。


「殺せ。俺は今もお前たちを殺したいと感じてるんだ。俺は誰も殺したくない。だから、俺を殺して終わらせてくれ。後生だ」


 レグルスさんの表情は穏やかだった。その言葉を聞いて、マーレアさんが泣き崩れる。


「私は……貴方を殺せません」

「そうか、では俺はどうすればいい? 魔獣にされたまま生きながらえろと? 俺は君の手で終わらせてほしい。残酷なことを言ってすまない」

「…………レグルス、愛しています。だから…………貴方を戦士のまま、英雄のまま。生を終わらせてあげます」


 マーレアさんが手持ち鋏を掲げる。銀のネックレスが涙で濡れて光ってる。


「鋏よ、感情を断ち切り、心を解き放て。感情断斬エモティオ・セヴェリオ」「ダメです!!!!!!!!!!」


 マーレアさんの魔法を遮ったのはルーナだった。薄い水色のローブが瓦礙で裂けて、短くなったスカートが彼女の動きに合わせて揺れる。腰の白い紐が汗で濡れて張り付いてる。


「ルーナ様? ですが彼の気持ちを尊重したい。彼を魔獣として生かしたくない。人を襲う存在で人生を終わらせたくないんです。どうか、私の感情を捨てさせて介錯させてくださいませんか?」


 マーレアさんがいつもの上品さとは違い、ボロボロ泣きながら懇願する。だが、ルーナはいつもより強い表情でマーレアさんを見つめた。


「私が何とかする。絶対何とかする。何とかできる。私は……見てて。清らかなる水よ、我が仲間に癒しをもたらし、あらゆる状態を回復せしめよ。聖水癒受サクロアクア・レストレイト


 煌びやかに輝く聖水が、レグルスさんを、俺たち全員を包み込む。空気が澄み、戦場の血と汗の匂いが消えていく。俺のシャツの焦げた袖が熱を失い、ズボンの切り傷が癒える感覚がする。ルーナの魔法がまるで奇跡みたいだ。


「貴女は、いえ、貴女様は……ルーナ様、貴女様はいったい……いえ、貴女様はそうなのですね」


 マーレアさんが驚いた表情を見せる。その理由は俺にもすぐ分かった。カイラさんの方を見ると、彼女も気づいたようだ。この聖水癒受サクロアクア・レストレイトって魔法、ルーナの固有能力なのかもしれねえ。回復効果に加えて、状態異常の解除や体力の完全回復まであるみたいだ。


「レグルスさん」

「ああ、すまないな。助かった」


 レグルスさんが元の人間の姿に戻った。赤茶色のチュニックに血痕が残ってるが、獅子の毛は消えてる。全員が驚き、マーレアさんは涙を流しながら跪いた。ルーナは魔力を使いすぎたのか、その場に倒れ込んだ。俺は彼女を抱えて集落まで戻ることにした。薄い緑の下着がチラリと覗くが、今は気にしてる場合じゃねえ。


「ルーナ様、ありがとうございます」


 マーレアさんが涙を流しながらルーナに礼を言い続ける。俺たちは集落へ戻り、風の聖女さんの元へ向かった。白いローブが風に揺れ、金の刺繍が夕陽に映える。襲撃にあってたみたいだが、聖女さん一人で完全防衛を成し遂げてた。フレイルを手に持った彼女が俺たちに歩いてきた。


「おかえりなさい、皆様。それからアクイラさんもご無事でしたか」

「はい、俺は大丈夫でした。それにみんな無事です」


 その日は集落で全員一休みすることになった。ルーナは消耗しきって目を覚ます気配はねえが、生きてるのは分かる。俺は彼女を民家に運び、布団に寝かせた。翌日、集落の人たちから祭りに誘われた。襲撃を防いだ感謝の意を込めて宴を開きたいそうだ。俺たちは承諾し、準備の間にルーナの様子を見てた。


「んぅ……」

「目覚めたか? まだ寝てていいんだぞ」


 俺がそう言いながら彼女の頭を撫でると、ルーナは嬉しそうに笑う。薄い灰色のチュニックが汗で濡れてて、少し透けてる。そこにマーレアさんがやってきた。


「アクイラさん、ルーナ様の聖水癒受サクロアクア・レストレイトですが、彼女の意思に反するタイミングでは使わせないでください。きっと彼女は最後までこの魔法を使うつもりはなかったのですから」

「ええ、この魔法は……分かってます」


 あえて口にしなかった言葉。それを誰かに聞かれたら、ルーナは不自由を強いられるだろう。


「私は、ルーナ様の意思を尊重したいですわ。ルーナ様がお望みなら、口外するつもりはございません」


 マーレアさんがそう言ってくれて、俺は頷いた。


「ありがとうございます」


 ルーナが意識を取り戻した頃、祭りの準備が整った。集落の人たちに案内されると、そこには山盛りの料理と飲み物が並んでる。肉の香りが漂い、酒の匂いが鼻をくすぐる。


「それでは皆さん! 傭兵様方が我々を救ってくださったことへの感謝の意を込めて宴を開きたいと思います!」


 里長の言葉を合図に皆が拍手する。俺たちは席に着き、料理を勧められた。酒が強いらしく、エリスとリーシャは少し飲んだだけで顔を赤くしてる。


「アクイラ! ちゅー!」


 エリスが酔って絡んできた。淡いクリーム色のブラウスが汗で張り付き、スカートのフリルが揺れる。俺は軽くキスしてやると、リーシャが羨ましそうに見てた。濃い茶色の革鎧が汗で光り、緑のスカートが少しずれて膝の革パッドが覗く。俺はリーシャにも軽くキスを返す。


「アクイラさん! 私にもちゅーしてください!」


 エリスが積極的で可愛いが、ルーナが不満そうな顔をしてる。俺はルーナにも軽くキスしてエリスを離した。俺の周りにルーナ、カイラさん、リーシャ、エリスが集まってくる。名前のわからないエルフたちはカイラさんの意思を尊重するらしく、止めねえ。風の聖女さんとマーレアさん、レグルスさんは別の席で話してる。積もる話もあるだろうし、あそこは挨拶したらすぐ離れるつもりだ。俺はルーナの腰に手を回し、カイラさんが腕を絡ませてくる。柔らかい感触が心地いい。


「アクイラさん、もっと近くにいてほしい」


 ルーナがそう言って体を寄せてくる。薄い水色のローブがさらに捲れ上がり、淡い灰色のチュニックが汗で体に張り付いてる。俺は彼女の頭を撫でると、ルーナは目を細めて笑う。エリスとリーシャが羨ましそうに見てるが、ここは我慢だ。すると、カイラさんが耳元で囁いた。


「私もたまにはそうしてほしいな」


 その言葉に笑いそうになったが、なんとか堪えて彼女の肩を抱いた。女たちが酔ってきたところで、民家に運ぶ。スペースの都合で、カイラさんはエルフたちに預け、残りの三人を連れてった。

 酔い潰れた三人を布団に並べる。右からエリス、ルーナ、リーシャだ。俺は疲れもあって、そのまま横に寝転がった。寒かったのか、ルーナとエリスが俺に密着してくる。ルーナのローブがさらにずり上がり、薄い緑の下着が少し見えた。彼女が慌てて布団で隠すと、エリスが「アクイラさん、あったかいです」と笑う。リーシャも寝返りを打ってルーナに寄り添う。

 朝、リーシャに軽く小言を言われたが、エリスは顔を赤くして笑ってる。ルーナは「一緒に寝ると安心する」と穏やかに笑った。昼過ぎ、集落から帰る準備をした。俺、ルーナ、リーシャ、エリスの四人でルナリスへ向かう。風の聖女さん一行は故郷である集落に残り、マーレアさんとレグルスさんが了承してた。カイラさんは単独で周辺調査へ行った。セレナは昨晩別れて以来、見てねえ。もう会えねえのかと思ってた。


「ちょっと待って! アタシも連れて行ってよ! アタシも傭兵になる!」


 大荷物を持ったセレナが駆け寄ってきた。チュニックが汗で少し乱れて、スリットが広がり気味だ。


「……傭兵、嫌いなんだろ?」

「アタシが傭兵になって、少しでも傭兵って良い人だって増やしてやるんだから! だからアクイラさんの街にアタシも連れてって」


 こうして俺たちは五人でルナリスに帰った。

名前: レン

二つ名: 双剣士

性別: 男性

種族: エルフ

年齢: 約370歳

職業: 上級傭兵ランクルビー

所属: 森姫カイラの部下(親衛隊の一人)

武器: 双剣(二振りの軽量な長剣、素早い連撃が得意)

服装: 灰色の袖なしチュニック(肩と胸に薄い鉄板、汗で光沢)、膝までの黒い布製ズボン(両太ももに革補強)、革ベルト(双剣の鞘付き)、軽量な茶色の革ブーツ

外見: 銀髪に青い瞳、中性的で整った顔立ち、細身だが筋肉質、長い耳が戦闘で微かに揺れる

性格: ネガティブで自己評価が低く、影が薄いが仲間への忠誠心は強い

戦闘スタイル: 双剣を駆使した素早い連撃と冷静な戦術で敵を翻弄

特技: 状況判断(戦場での敵の動きを即座に読み、最適な対応を取る)

弱点: 目立つことを極端に嫌い、注目されると冷静さを失う

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