第十三話
「やっときたか、Faker」
「もうちょいはよ来んかい!」
呆然と立ち尽くす俺にかまわず、オボロとDizzyはFakerに向かい文句を垂れる。
「ごめんね~遅くなっちゃって!でも今はそんなこと話してる場合じゃ無いと思うけど?」
見れば、痛みでのたうち回っていた白蛇はFakerに対して明らかに怒りをあらわにしており、深紅の眼光でにらみつけていた。
俺はここでやっと自分のやるべきことを再確認する。
ほおを叩き気合いを入れる。
カザキは助かっている。死んでいない。冷静になれ。
ただ白蛇は許すな。自分の持てる力をすべて使い絶対に殺せ、殺せ、殺せ。
ありったけをぶつけろ・・・!!
頭は冷静になったまま、だが怒りは収まらぬまま、俺は白蛇に向かい駆けだしていた。
まずは相手のヘイトを管理する。俺が攻撃した後にさっきまでと同じようにヘイトをループさせれば良い。
頭の中で整理して出た答えを伝えようとしたが、俺が走り出したのを見てか各々が攻撃の構えをとっていた。
まずは俺が側面から鎌で2撃入れる。反撃を喰らわない限界が2撃であるというのはゲージが半分になるまで、つまり先ほどの戦いで理解していた。
白蛇がこちらに振り向きつつ尻尾を動かそうとするのが見えたがすかさずオボロが背後から攻撃を入れる。
その斬撃は早く、どれだけ切ったかはわからないが確かにダメージを与えていた。
次はDizzy、そしてFakerと囲むように順々に攻撃してはバックステップで距離をとるということを繰り返したため、白蛇はその場で尻尾を振るい回転した。
俺たちはいったん大きく距離をとることになったが、オボロだけはその攻撃を跳躍で回避したためすかさず反撃の一太刀を浴びせていた。
ヘイト管理のため俺たちも再び囲むように動こうとするが、オボロを孤立させるように今度は蛇が取り囲む。
助けるためにその側面を攻撃してみるが、常に回転しているため斬撃が弾かれてしまう。
「オボロ!」
とりあえずは叫び、オボロの安否を確認した。
だが返事は返ってこず、その沈黙を破るかのように白蛇は地面に大きく潜る。
「大技がくるぞ!離れろ!」
「クソ!」
Fakerのその声に反応し、俺たちはまた大きく後退した。
オボロが無事かどうか心配でままならなかったが、カザキの声が聞こえた瞬間にその不安は消し飛ぶ。
「大丈夫です!オボロさんの姿見えました!!一瞬でしたが、HPは緑だったのでこの技にはギリギリで耐えれると思います!一応、私が回復結晶の準備をしておくので皆さんは集中してください!」
その言葉通り、数秒後オボロが白蛇に打ち上げられ、なんとか受け身をとりこちらに戻ってきた。
HPはレッドゾーンに突入しており先ほど受け身がとれていなければ危なかった。
「大丈夫か・・・?」
「ああ、なんとかな。それと完全な攻略法がわかった。俺の指示通りに動け」
オボロはカザキによる結晶と自分のポーションで回復しつつ、俺たちにそう言った。
指示を言う時間を与えてくれるのかと思ったがなかなか白蛇は襲ってこない。
白蛇に目をやると口のあたりにいくつもの斬撃のあとがあり苦しんでいる様子だった。
いつの間に攻撃をいれていたかわからないがゲージもラスト1本になっている。
ラスト1本。
オボロの攻略法を聞き、勝利を確信した。
作戦をオボロから聞いた後、俺たちは指示に従い、白蛇を囲んで攻撃していた。
1人が孤立しないように、俺とオボロ、FakerとDizzyのペアでヘイトを管理している。
カザキとフェルルは後ろからの援護に徹している。先ほどの反省を踏まえ、ヘイトを貰わない程度にチクチクとダメージを与えているような感じだ。
今までの行動パターンを抑え、結果的に最終ゲージのレッドゾーンまで追い込む。
前のボス、グランドウルフはここで最後のあがきをしてきた。
今回もあの白蛇はあがくのだろう。
「最後のあがき、来るぞ!」
俺が叫んだタイミングでオボロは後退しつつ最後の指示を出した。
「今だ!」
カザキの方を見ると、フェルルの上に乗りいつでも逃げれる体制になりながら、今までの矢の輝きとは格の違う1本の矢を引いていた。
フェルルもカザキの下で光の球を凝縮させている。
「ライトニング・レイ!!」
光の球が、カザキの放った黄金の矢を囲むように飛んでいく。
それらは見事に、何か行動を起こそうとしていた白蛇の額に直撃する。
大きく蛇はのけぞったが、これだけでは白い怪物は倒れなかった。
あれだけ一撃の威力を高めた攻撃だったのだ。
当然、白蛇のヘイトはカザキとフェルルに向く。
白蛇は顎で地面をえぐりつつカザキに突進してきた。
先ほどと似た状況。
だが、今回はオボロがその進路にいる。
俺は進路の少し横から回転しつつ鎌を振るい、蛇の首に斬撃を入れた。
「硬いッ・・・」
だが、黒板をひっかいたような嫌な音が鳴るだけでたいしたダメージにはならない。
一方オボロは太刀を構えたまま動こうとしない。
ただ一言「頼んだぞ」と言い、蛇に飲み込まれていった。
「任せろ・・・」
動揺するでも悲しむでも無く、俺は小さく笑い跳躍した。
オボロを飲み込んだ白蛇は予想外なようで、動きが止まる。
その後、すぐに悶絶した。
オボロが内部から首を切ったのだ。
すべて作戦のうちだった。
白蛇が大技で倒せ無かったことも、オボロが飲み込まれたことも。
すべてはこの一撃のための作戦だ。
一撃のダメージは俺が一番高い。
故に、最後の一撃は俺が担う。
「オオオオォォォォォッ!!!!」
通常よりも高く跳躍した俺は何度も何度も回転し、十分に遠心力を味方につけ、必殺の一撃を白蛇の首にぶつける。
「ギシャア・・・」
断末魔はまるで子蛇のように小さく、その大きな頭は無様に転げ落ちた。
そして、白蛇がポリゴンに変わっていった。
倒した。
倒したのだ。
周りから笑みがこぼれる。
ポリゴンの中心にいるオボロに駆け寄り、声をかける。
「良い作戦だった。大丈夫か?」
「お前もよくやったな。俺のクランに入れてやる」
普段はクールな剣士が、少しだけ笑みを見せたような気がした。
『エルムテルダム郊外、湿地帯のボスが討伐されました。湿地帯の中間ポータルが使用可能になります。次の街、ウルへと転移できるようになりました。』
「エルムテルダムでやり残したことがあるから街に帰ってるよ。じゃ、お疲れい」
そう言って、Fakerは去って行く。
「Faker、お前も俺のクランに入れ」
後ろからオボロが声をかけるがFakerは手を振るだけだった。
それにしてもなかなかの死闘だった。
これから先もこれ以上のボスがどんどん出現するとなるととても気が滅入りそうになる。
「クレンさん、また助けられちゃいましたね」
一段落ついたところで俺の横にカザキが座る。
「今回は俺が助けたわけじゃ無いけどな。良かったよ、死ななくて」
俺は特に何も考えずカザキの頭に手を置いた。
少しカザキの顔が赤くなり、ここで俺も自分がしていることに気づく。
急いで手を引っ込めるがその様子を遠くにいるDizzyに見られていた。
何か言ってくるわけでも無く、遠くでニヤニヤしている。
お調子者が・・・と思いながらも今回の戦闘のことで感謝もあるため態度には出さなかった。
「ポータルが使えない・・・」
一人だけポータルの方に歩いていたオボロがふと声を上げる。
「そんなわけ無いだろ。前は簡単にできたぞ」
俺とカザキもポータルに近づき操作するが、ロックされている。
なぜだ・・・と思考しようとしたときには答えが聞こえていた。
『街の外にいる皆さん、早くエルムテルダムへ戻りなさい。今から1時間後に初めての街防衛戦を行います。チュートリアルなどはありません。また、この防衛戦を勝ち抜いたとき次の街への転移が可能となります』
最後に『せいぜい頑張ってください』と笑いながら付け足し、頭の中に直接響く声は聞こえなくなった。




