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傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第三章 コルマノン大騒動
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110 シアンの瞳

 ゆらりと風鈴が揺れるような穏やかな動きで、ランドルはシアンへ一歩を踏み出した。直後、シアンへ向かって高速の白い斬撃が放たれる。


「……っ!」


 シアンはギリギリのところでその斬撃を大鎌で弾いた。


 そして同時に、大鎌のサイズを小さく変化させる。このまま振りの大きい大鎌のままでは不利だとシアンは判断したのだ。ランドルの鋭く素早い斬撃に対応するには、もっと小回りの利く武器のほうが向いているだろう。


「やりますが……ここッ!」


 斬撃を弾いて下がるシアンに、ランドルの鋭い斬撃が放たれた。鎌では守り切れない、横腹を狙いすまして放ったそれは、確かに彼女へ命中するとランドルはかつての経験より確信していた。


「――!」


 ――だからこそ、その直前に剣を握る指を鎌で切断され斬撃を反らされた時、ランドルは目を見開いた。そして遅れてくる痛みに思わず剣を落としてうめき声をあげる。


「あぁぁああ!!!」


「……」


 カランと床に落ちる剣。木霊する男の絶叫。シアンは冷静に、鎌を握りしめて振りかぶる。


「命までは取らないよ」


 シアンはそのまま絶叫するランドルの首へと、鎌から鉄の棒に姿を変えた『液状武装』を叩きつけた。ランドルの絶叫はその時点でプツリと切れ、彼は意識をなくして無機質な地面へと倒れた。


「……ふぅ」


 シアンは息を整える。そして未だに疲れを感じない自らの体に首を傾げた。


「……なんだろう。調子がとてもいいな……」


 この屋敷に来る前の一戦でもそうだった。シルヴァは特に言及してこなかったが、彼の傷を癒した術。それは"すでに失われてしまったと思っていた力"を介したものだった。


 ハーヴィンの時も、『オルレゾー』の時も、それ以前の時も、シアンはその力を使えなかった。今でも全部が全部扱えるわけではないが、どこか懐かしいそれが体の中で蘇っているのを感じる。


 さらに『千里眼』と『未来視』という、シアンでさえ把握できていない能力にさえ覚醒しかけていた。


「この感じなら……」


 シアンは瞳を閉じて、音の消えた地下道の静寂を感じる。


 以前に『オルレゾー』で行った『千里眼』の発動。当時は無意識に発動し、その時はとても衰弱していたこともあって、シアン自身でも発動していたことに気づかなかった。


 しかし今なら。シアンは精神を集中させ、一気に目を見開いた。


 視界がずっと先へと飛んでいく。地下道の先へと移り、曲がり角を曲がって鉄格子の扉。格子の隙間から見える、小さな牢獄のような檻の部屋。四つある檻の中には、顔中血だらけになったディヴィがいて、その檻の前で二人の男が通路の方を不安げに見つめていた。


「……っ!」


 そこで視界が逆流し、それはシアンの瞳へと戻った。


 ――視えた。自分から『千里眼』の力を扱うことができた。シアンは一人でぐっと両手を握りしめ、小さくガッツポーズをする。嬉しそうに獣耳がピクピクと揺れた。


 この先にいるのは、傷ついて捕らわれたディヴィ。


 そして彼が放り込まれた檻の前にいた二人の男。シアンは片方に見覚えがあった。


 それは、『食事処-彩食絹花』でシアンが吹っ飛ばしたアント・ライニーであった。もう一人の男は彼と着ている服や顔立ちが似ていたことからして、恐らくアントの父親、ステフ・ライニーであろう。


「護衛の人とかはいないのかな……あっ、この人だったのか」


 その無防備といえる状況を少し疑問に思ったシアンだったが、すぐ自ら納得した。ランドルは元々彼らの護衛だったのだろう。だが気配でシアンが来たのと察して、二人を巻き込まずにシアンを始末しようと、迎撃をしにここまで来たということか。


 それに地下室に入る前、そこに続く階段には警備がいた。手薄といえば手薄だが、大半の使用人たちは屋敷の庭へと集められている。ゆえに、この程度の戦力しか用意できなかったのかもしれない。


 何やともあれ、シアンには好都合だった。『液状武装』を握りしめ、シアンは気を張る。


 地上ではシルヴァが命懸けで戦ってる。彼だけに頑張らせておくわけにはいかない。


 シアンは一歩を踏み出した。早くディヴィを助け出し、この屋敷から脱出を――。


「……っ!」


 ――その瞬間、地面が揺れた。

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