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呑気な冒険者たち  作者: さかもと希夢
船旅は困惑を乗せて
97/224

<4>

 アンナとレフにベットから引きずり出されて、エドワードお薦めの夕日をたっぷりお見舞いされたフランツは、むっつりと押し黙ったまま船室内に取り付けられたベンチ状の椅子に座っていた。

 隣には、まだ興奮醒めやらぬといった感じのアンナがいて、正面にはレフがアンナと同じく目を輝かせて座っている。

「綺麗だったね、レフ!」

「本当にいいものを見ました。故郷に帰ったら自慢します」

「私も自慢しよう! 海って本当に綺麗だね」

 ふたりの幸せそうな会話が、フランツの気に微妙に障る。

 そんなに夕日が見たかったら、二人で見てくればよかったのにと思わなくもない。 

 確かにエドワードが言うだけあって、遮るものがない水平線上に沈む夕日は、この世のものとは思えないくらい綺麗だった。

 綺麗だったが辛かった。とにかくもの凄く辛かった。

 数日きちんと寝ていないのだ、夕日もいいが体力の方が問題だと思うのだが、どうもアンナにはそんな常識が通用しないらしい。

 フランツと同じように休もうとしていたのに、無理矢理に甲板に連れて行かれたリッツも、今はただ黙って目を閉じて座っている。

 何やら考え込んでいるようだが、それが何かはフランツには分からない。

 エドワードは、アンナとレフの話題に、のんびりとした口調で関わっていた。

「地平線と水平線、全然違うだろう?」

「ええ、陛下。水平線は夕日を反射しますから、全く違います」

「地平線に沈む夕日かぁ……。私、山に沈む夕日ばっかりしか見たこと無いよ。山なら夕日より朝日の方が感動的だよ。一瞬だけだけど、山がね、金色に染まるんだよ」

「そうか。だが海から出る朝日も、見事だぞ?」

「わぁ……見たいなぁ」

 平和で長閑な光景だ。長閑でいいから、もう寝かせて欲しい。そんなフランツの願いも虚しく、アンナは大きなバスケットをとりだした。

「ねぇ、もう夕飯時だよ。ご飯食べよ」

 中にはアニー特製のサンドイッチや、ホットサンドがたっぷりと詰まっているが、フランツは食事よりも睡眠が欲しい。

 だけどアンナに食べるなとはいえない。

 ウキウキとバスケットを開けようとするアンナの手は、意外なことにエドワードに制された。あまりないことなので、アンナがきょとんとエドワードを見上げる。

「その前に話しておかねばならないことが……」

 そう言いかけた時、船室のドアがノックされた。何故かリッツが大きく反応して目を開ける。

「切り出すのが遅すぎるぞ、エド。夕日の話なんてしてるからだ」

 不機嫌そうに低くそう言ったリッツは、ため息を付きながら、着ていたシャツのボタンを上から二つほど外し、ジャケットの前を開けた。

 それからおもむろに床にかがみ込むと、リッツの得物である大剣を、ベットの下に押し込んで隠した。

 その代わりに荷物からナイフをとりだして、ジャケットのポケットに入れる。よく分からない行動に、フランツとアンナとレフは首を傾げる。

「予想外だった。もう少し後だと思ったがな」

 声を顰めてエドワードが呟くと、ため息混じりにリッツが文句を返す。

「俺もそう思ってたさ。おかげで夕食を喰いそびれちまった」

 また二人しか分からない会話をしている。どうやら何かを企んでいるらしい。

「すみません、乗船券をお見せ頂きたいのですが」

 ノック以後誰も返事をしないから、多少苛立ち紛れに、扉の外から大きな声で誰かがそう言った。

 その声にエドワードが、気のいい老人のような口調で答える。

「すみませんな、少々お待ち頂けますかな?」

「分かりました。では少し後にします」

 扉の外の声がそう告げて、足音が遠のく。リッツが立ち上がって扉に耳を当てた。

「……隣の部屋から先にやってるな。すぐに来るぞ」

 不機嫌そうにリッツがエドワードに告げた。この船は貨客船とはいえ、船室四、客数十六しかない貨物メインの船だ。

 もし全部の部屋の乗船券を見ても、すぐに終わってしまうだろう。腹立たしげに元の椅子に座ったリッツは、大きくため息を付く。

「とんだ災難だぜ」

 そんなリッツに反して、エドワードはどことなく楽しげなのは気のせいだろうか?

「まあいいじゃないか」

「いいわけないだろうが。エド、俺は二食抜くことになるぞ。下手すりゃ三食抜きだ」

 じっとりと重苦しい目付きでリッツはエドワードを見据えた。苦笑しながらエドワードは腕を組む。

「明日の夕飯は、お前の好きな物を何でも奢ってやる」

「よっしゃ。その言葉、忘れんな」

 誰も二人の会話に入れないうちに、二人の間で何やら契約が結ばれたようだ。

「何? 何があるの?」

 アンナがリッツに向かって尋ねた。いつもは陽気にアンナに対応するリッツだが、軽く肩をすくめてため息混じりに小声で答える。

「……詳しく説明してる時間はない。後で詳細はエドに聞いてくれ。とにかく、船員がここにいる間は一言もしゃべるな」

「どういうことだ?」

 眉を顰めてそう尋ねると、リッツはこちらを振り向いた。

「後でエドに聞いてくれ。フランツ、レフ、特にアンナ、俺のことは知らないふりをしろ。俺はあくまでも今日、この船の上で出会った他人だ。いいな?」

 だがこの言葉には、アンナが不本意そうに立ち上がって文句をいう。

「何で? ウソを付くのはいけないことだよ?」

 真っ直ぐにそう見つめられて、リッツはため息混じりに頭を掻きながら答えた。

「ウソじゃない。これは俺の最後の任務なんだ。ウソじゃなくて作戦だ」

「作戦?」

「そうだ。いいかアンナ、人のために付くウソはいいウソだと教えたろ? それと同じで作戦としてウソを付くのは、悪い事じゃない、正しいことだ」

 いつも通りの勝手な理論を、リッツはアンナに昏々と諭した。だがアンナは分かったような分からないような顔で、首を傾げている。

「分かったか?」

 念を押すようにリッツに聞かれて、アンナはコクリと頷いた。

「つまり、作戦でウソを付くことは、人のためなんだね?」

 理屈ではなく感覚で理解したらしいアンナがそういった。本当に分かっているのかは疑わしい。

「そういうこと」

 笑みを浮かべてリッツは、アンナの頭をポンと叩く。リッツからすれば、アンナのその程度の理解で及第点だということだろう。

 それにしてもフランツは不思議でしょうがない。

 アンナはリッツの説明を、何故か毎回きちんと信じてしまうのだ。フランツからすると穴だらけの説明だから、なぜ理解できるのか謎だ。

「それで私は何をしたらいいの?」

「とにかく黙っていてくれ。俺は一番お前が心配だ」

 確かにアンナにウソをつかせることが、何よりも一番難しい。だから黙っていてくれることが、一番重要な仕事だろう。

 二人のやりとりの直後、扉が再び叩かれた。

「乗船券を拝見します」

 意を決したように、リッツが大きく深呼吸するとエドワードに向き直った。

「んじゃエド、後頼むわ」

「ああ、任せろ」

「お客さーん!」

 苛立ったように船員が声を荒げる。それと同時にリッツは椅子に浅く腰掛け、背もたれに体を預けた。長い足を思い切りだらしなく組む。

 先ほどシャツのボタンを外したせいで、いつもより数割り増しで、だらしなく見えている。

「はいはい今開けますよ」

 人のよい老人の振りをしながら、エドワードが扉を開けた。

「乗船券を拝見します」

 多少苛立った顔で船員がそう言った。

「はいはい。お手数おかけしますな」

 エドワードがにこやかに、四枚の乗船券をとりだして船員に渡すのが見えた。

 ……四枚? ここには五人いるのに。

 フランツがそう気が付くよりも早く、船員が気が付いた。

「……四名様ですね?」

 不信感も露わにそう尋ねる船員に、エドワードは微笑む。

「はいはい、私の連れはこちらの三人ですよ」

 エドワードが指さしたのは、アンナとフランツとレフの三人のみ。リッツは数に入っていない。

「ではこちらの方は?」

 船員に指さされて、だらしなく座っていたリッツが顔を上げた。船員を見上げる。

「俺か?」

「ええ」

 その瞬間にリッツの顔に、小悪党じみた笑みが浮かんだ。

「なあ、このじいさんの連れはガキ二人だぜ? ガキ二人で一人分にしてくれよ。そうすりゃ一人分浮くだろ?」

「何をおっしゃいます、若い方」

 慌てたような顔でエドワードがアンナを庇う。何なのだ、この芝居は。フランツは内心呆れて言葉が出ない。

「その浮いた分は俺の分ってのはどうだ? なあ、いいだろそこのあんた」

 リッツが前屈みになり、膝に肘をついて船員を上目使いに見上げて、口元に笑いを浮かべる。どう見ても立派な悪党だ。

 リッツの変わり身と演技力に、フランツはいつも驚かされ、呆れさせられる。

 そういえば何かの事件の際に、リッツは堂々とこう言っていた。『俺が役者にならなかったのは、芸術界最大の損失だな』と。

「ご老人、この方はお連れではないのですか?」

「違います。先ほど初めて甲板で出会ったのですが、ここまで入り込んでいらっしゃって……」

 この間まで国王としての威厳に満ちていた男の、卑屈なまでの怯えた演技に、フランツは呆れるしかない。

 確かにリッツとエドワードは親友だ。こういう悪巧みにおいてさえ、立派な相棒に成りうるのだから。

「おい、そこのお前。乗船券を見せろ」

 威圧的になった船員に、リッツは舌打ちをして顔を背けた。

「乗船券を見せろと言っているんだ!」

 船員がリッツの前に立ち、リッツの肩を揺すった。

 フランツはちらりとアンナを見た。自分以上に動揺してハラハラしているアンナが何か口走らないかと、フランツまで不安になってくる。

 船室内に異様な緊張感が満ちていた。その中で唯一平然として見えるのはリッツのみだ。そのリッツは、野卑な笑い声を上げた。

「何がおかしい!」

 そう怒鳴った船員に、リッツはきっぱりと言い放った。

「ねぇよ、そんなもん」

「何ぃ!」

「ねぇもんはねぇよ。船はもう出ちまったんだろ? 引き返せねえんだから、諦めてこのガキどものうち一人分を俺によこしゃあいいんだよ」

 立ち上がったリッツの指先が、フランツの鼻先に突きつけられた。咄嗟のことに思わずのけぞる。

 一瞬だがそれを見たリッツが苦笑した。だがその時間は本当に短く、あっという間に小悪党に戻った。

「お前、無賃乗船者だな?」

「だったらどうした!」

 リッツの挑発的な言葉に、扉の外で待機していたもう一人の船員が入ってきた。船員は二人とも船乗りだ、屈強な体をしている。

 この演技が最終的にどうなるのか全く分からないフランツは、不安になった。まさか船の外に放り出される、なんてことにはならないだろうか?

「何だよ、俺をつまみ出そうってのか? そう簡単に放り出されてたまるかよ!」

 そう怒鳴るとリッツは、立ち上がり先ほどジャケットのポケットに仕舞ったナイフをとりだした。

 身長が思った以上に高い事に、一瞬引いた船員だったが、笑えるくらいに隙だらけの素人の構えを見せるリッツに安心したのか、再びじりじりと間合いを詰め始める。

 乱闘が起こりそうな気配に、エドワードがフランツの方を無言で見て、下がるように促した。黙って頷くと一歩下がる。

「来るんじゃねぇっ! ガキどもが怪我するぜ!」

 思い切り悪党な口調で、リッツはナイフを振りかざす。まさかこの状況を楽しんでいるのだろうか。

 それにしても王国最強を自負する剣の使い手たるリッツが、素人丸出しの構えを見せるなんて、見慣れな過ぎておかしい。

 それを分かってやってるのだから、リッツはたいしたものだ。確かに演技力においては、芸術界に通用するかもしれない。

 だがナイフに警戒している船員は、間合いを詰めるだけでしかけてこない。

 それに気が付いたのか、リッツはわざと落ち着かない雰囲気を装って、視線を彷徨わせる。

 リッツが視線を後ろの方に向けた次の瞬間、リッツは船員二人にあっさりと殴られて取り押さえられた。

「しまったっ!」

 わざとらしく落としたナイフは部屋の隅まで転がる。ナイフを持っていたら、かえって相手に怪我をさせてしまうそうだから、あえてそうしたのだろう。

 この状況でその判断、やっぱりリッツを敵に回すのは恐ろしい。

 そんなことをフランツが考えている間も、船員は二人がかりで、危険な無賃乗船者をボコボコに殴りつけた。

「やめろよ、痛てぇだろっ!」

 リッツは必死で抵抗する振りをする。

 あのリッツ・アルスターが、一般人にあっさり取り押さえられるとは、おそらく演技でもなければ二度と見られない光景だろう。

 共犯者だと思われるエドワードの方を見ると、堪えきれぬ笑いで口の端を震わせつつ、アンナを両手で取り押さえている。

 エドワードはおそらく、反射的に声をあげてリッツを助けようとしたアンナの口を、咄嗟に塞いだのだろう。

「くそっ! 放しやがれっ!」

 船員に両側から押さえ込まれて、リッツはじたばたと暴れている。

 本当はあっさり二人を伸せるだろうにと思うと、何だかその光景が滑稽すぎてどうしようもない。

「お客様、ご迷惑をおかけしました。よい船旅を」

 船員がリッツを取り押さえたまま、そうエドワードに告げた。

「ありがとうございます。お世話をおかけします」

 アンナを抱えたまま、律儀にエドワードがそう言って頭を下げた。その顔に演技の安堵感に混じって、本当の感情が見え隠れする。

 それは……隠しきれない笑いだ。本当にエドワードという人は、リッツに対しては、相当人が悪い。

 船員を口汚く罵りながら引きずられていくリッツを、居残る全員がじっと見つめている。

 その視線に気が付いたのか、リッツはドアが閉まる直前にこちらに向かって船員に気が付かれぬよう、軽く片目を閉じてウインクして見せた。

 どうもそれは心配するなということらしい。

 扉が閉じられ、リッツの騒いでいる声が小さくなって聞こえなくなってから、エドワードがそっとアンナを放した。

「エドさん! リッツどうなっちゃうんですか?」

 アンナがオロオロと、そうエドワードに詰め寄った。

「アンナ、まあ落ち着こう」

「落ち着けないです! どうしてリッツ抵抗しなかったんですか? どうして連れて行かれちゃったの? どうして悪い人みたいな事したの?」

「アンナ」

「まさか海に放り出されたりしないですよね? 海に落とされたら、大きな魚に食べられちゃいますよ! そうしたら釣り人に釣り上げられて食べられちゃったりして……」

「何でそうなるんだ」

 大混乱のあまり、よく分からない想像をしているアンナに呆れて、小さく一人突っ込んでしまった。

「エドさんってば!」

 エドワードに詰め寄ったアンナに、エドワードは絶妙のタイミングでサンドイッチを差し出す。

 あまりにタイミングの良さに、アンナは咄嗟にサンドイッチを受け取った。

「……」

 説明を求めていたアンナが、サンドイッチを前に押し黙る。

 食べ物を大切にするアンナには、それを投げ捨てて怒ることも、握り潰して怒ることもできるわけがない。

 エドワードは勿論、それを知ってサンドイッチをアンナに突きつけたのだろう。案の定アンナは、サンドイッチを手に途方に暮れた。

「とにかく私の説明を聞いてくれ」

 押し黙ったアンナが、恨めしそうな顔でエドワードを見上げている。サンドイッチで黙らされたことが悔しかったようだ。

 もしかしたら仲間のことよりもサンドイッチをとってしまった自分が情けないのだろうか?

「そもそもこの船の乗船料は、いくらだか知っているか?」

 エドワードはそう切り出した。

 そこで初めてフランツ達は、この船を手配したのがリッツではなくエドワードで、乗船料が条件付き無料なことを知った。

 しかもその条件が、船倉にある麻薬を一晩かけて探すことだというのには驚いた。船倉に入るためには、何か事を起こして放り込まれるのが一番手っ取り早い。

 だからリッツが無賃乗船者としてここで暴れて、船倉に潜入したのだということらしかった。

「それなら、いってくださればよろしかったのに」

 ため息混じりにレフがそう言った。

「適任者はここにいます。体力に自信がありますし、光の一族よりは相当に鼻が効きます。寒さもあまり感じませんし。よりにもよってあんなに暗くて狭いところにリッツをやらなくてもよかったのに。恩人が閉じこめられているのは落ち着きません」

 レフにとってリッツは、尊敬すべき精霊族で恩人、それは当たり前のことだろう。

 だがエドワードは少々考えが違うようだ。改まった口調で、エドワードはリッツよりも大きいレフを見上げた。

「私はね、獣人族である君が、これ以上私の国で辛い思いをして欲しくないと思っている。地下に閉じこめられ、人間への憎しみを植え付けられるような事を経験した君は、もう何もせずに旅を楽しんでくれればいい」

 威厳と優しさに満ちた言葉に、レフは困ったように肩を落とした。

「しかし陛下」

「私はもう国王ではない。それにレフの国の王でもないぞ。陛下ではなく、エドワードでいい」

 その言葉にレフは目を見開いた。

「しかしそれでは……」

「構わんよ」

「……はい、エドワード」

 素直にそうレフはそういった。フランツもそろそろエドワードの呼び名を、陛下からエドワードさんに戻さなければならないだろう。どこで誰が聞いているか分からないのだから。

 そんなやりとりの間も黙りこくっていたアンナが、ポツリと呟いた。

「……リッツ、大丈夫かなあ」

 心配そうな口調に、エドワードが笑顔で答える。

「大丈夫だ。あいつは丈夫だからな」

「でもでも、お腹空いちゃいますよ。三食も抜くなんて可哀相ですよぉ。私、二食抜くだけで辛かったもん」

 そういえばアンナは、数ヶ月前に地下宝物庫強盗団に捕らえられて数食抜かれている。だが……。

 フランツはあえて尋ねた。

「食事の問題?」

「だって……リッツ丈夫だって分かってるもん。海に放り出されたらどうしようって思うけど、そうじゃなかったら一番の問題はお腹空く事だよ?」

「そう……なのか?」

 食事の一食や二食抜いたところで、フランツにはたいした問題ではないが、アンナは違うらしい。深刻に考える部分が、フランツとは違いすぎる。

 そんなフランツの考えなど知るよしもなく、アンナは大きくため息を付いた。

「いいのかなぁ、自分たちだけ食べちゃって。何か悪いよねぇ……」

 その言葉に全員の視線が一斉にアンナに集まる。アンナは悩ましい顔で、先ほどエドワードに持たされたサンドイッチをじっと見つめている。

 どうやらお腹が空いたから、食べたいらしい。

 それに気が付いたエドワードは、堪えきれずに吹き出した。

「構わんだろう。さあまずは腹ごしらえをしよう」

 フランツもその言葉にため息を付きつつ同意した。リッツのやることだ、問題ない。例え何かあっても自分で何とかするんだろう。そういう男だ。

 とりあえず自分たちにやることはないのだから、食事して寝てしまうに限る。

 フランツは自分の好物の、サーモンフライのタルタルソース掛けに手を伸ばした。

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