突撃! 旅路の晩ご飯1
2巻のおまけ話です。時間設定は、2巻の直後と3巻直前です。
旅路で3人はいったいどういうご飯を食べてるの?
そんなごく普通の旅路の晩ご飯のお話です。
コメディ要素盛りだくさん!
序章
さて、トゥシルの村を出た一行を最初に襲った困難は、大荷物である。サラディオからトゥシルへ至る道のりでは、ほとんど金がないので微々たる量だったが、今回は違う。
自分たちで買ったもの、貰ったもの……あわせると相当な量になる。あまりの量に呆然としたが、彼らが自分たちで買った物はなんとか三人で分け合うことが出来た。それ以外は、全て一つにまとめられて、彼らの目の前にど~んと鎮座ましましていた。
「村長、奮発してくれちゃってなぁ……」
リッツの呟きに、アンナとフランツも頷いた。確かに彼らは金品によるお礼の受け取りを拒んだが、これだけの荷物をみると、結局金品を貰っておいた方が迷惑をかけなかった気もする。
「ばらして持つか?」
考えつつ言ったリッツは、二人の困ったような表情を見て諦めた。この二人があとどれだけの荷物を持てるのかシミュミレーションした結果、この大きな袋の中身が減るのは微々たる量で、大半は自分が持つしかないと分かったからだ。
それならあえてばらすこともない。彼らは自分たちが買った荷物で、もういっぱいいっぱいなのだ。
といっても、たいした量ではない。
「……俺が持つってことになるか」
観念したようにリッツは言うと、荷物を担ぎ上げた。
「うっ……」
重い。これは重い。
しかし中身を減らしてしまうと、彼らには、違って意味での辛い危機がやってくるのだ。それだけは勘弁して欲しい。そんなわけでリッツは、その荷物全てを我慢して持つことにした。
「リッツ大丈夫? 何か持つ?」
心配して聞いてくれるアンナの心遣いは嬉しいが、彼はこんなの屁でもないような顔をしながら答えた。
「大丈夫大丈夫、心配ないって」
「そっかぁ、リッツ力持ちだもんね!」
素直に感動されてしまうと、子供相手に愚痴も言えない。
「ご愁傷様」
リッツの苦労を全て分かった上で、そんなことを言うフランツが、ちょっと憎たらしくもあるが、それはそれで仕方ない。体力がないフランツに荷物を持たせたりしたら、大問題だ。先に進めなくなる。
「さ、先に進もうぜ。少しでも次の街に近付くぞ」
リッツのひと言に、二人は頷いた。ここからの道のりは、今までの倍くらい長い。だからこその荷物の量なのだ。こんなところでもたもたしている暇はない。
三人は、とりあえず先を目指した。次の街ファルディナまで、一週間ほど。頑張って歩かなければ。まあ、それまでに荷物も少し減るだろう。
なんと言ってもこの荷物、大半が食料なのだから。
一日目 リッツ・アルスター
「さあて、飯にするか」
夕方近くになって、リッツは二人を振り返った。フランツはいつもの通りふらふらだ。アンナは元気そうに飛び回っている。荷物を持たせてもよかったかな、とチラッと考えたが、今更もう遅い。
「夕飯だが……」
どさりと荷物を降ろし、二人に真剣に話しかける。
「食事当番を決めようと思う」
「え~!」
「食事当番?」
アンナとフランツの驚きを無視して、リッツは話を続けた。
「昼食と朝食は、バターとパン、スコーンとハーブティでいいかもしれない。でもな、夕食は重要だぞ」
朝食は軽く取って歩くのを優先させるし、昼食は休憩を兼ねたもの。きちんと時間をかけて食事をとれるのは夕食しかないのである。
「どうやって決めるんだ?」
尋ねるフランツに、リッツは自信満々に答えた。
「くじだ」
そういうと、リッツは小枝を三本拾った。
「いいか、これを削って一~三まで番号を書くからな。一の奴は今日の夕食、二の奴は明日の夕食、三の奴は明後日の夕食って事になる。後はその順番の繰り返しだ」
「でもリッツ、リッツが書くなら順番が分かっていて不公平だ」
不満げなフランツに、リッツはこれまた説明を始めた。
「いいんだよ、俺が書くだろ、そしたらアンナとお前が引くんだ。俺は残り物。な、平等だろ?」
「……わかった」
リッツは鞄から小さなナイフを取り出して、枝の根本を平たく削った。
「フランツ、ペン貸してくれ」
座り込んで休んでいたフランツは、のそりと立ち上がって、リッツに愛用のペンを渡した。
「さあ、見るなよ」
枝の根本に、一・二・三と書き終えると、リッツはその枝たちを二人に差し出した。
「そら出来た、アンナからな」
「は~い」
アンナはひょいっと一本取った。
「あ~、三番だぁ。じゃあ私は明後日だね」
次に、フランツに差し出す。フランツは物憂いげに一本取り出した。
「二番か……」
となると、必然的に今日の食事当番はリッツということになった。
「俺かよ……ま、いいけどさ」
頭を掻きながら、リッツは立ち上がった。
「何にするかなぁ、晩飯」
まず竈を作って、火をおこすことにする。これが結構時間がかかるのだ。
「ぼけっとしてないで、竈作りくらい手伝えよ」
「は~い」
答えたアンナは、すぐさまリッツの隣にやってきた。その辺に落ちている石を拾い始める。
「フランツ、お前小枝拾ってくれよ」
フランツは、だるそうに頭を振り、ようやく立ち上がった。
「……拾ってくる」
森の方へ歩き始めたフランツに、リッツは後ろから忠告した。
「遠くへ行くなよ!」
「……子供じゃないんだ、やめてくれ」
リッツから見ると、フランツは十分子供の域に入る。だが、本当に問題なのは、森の中から何がでるか分からないところである。だがリッツの忠告は、本当の心配が少し、フランツをからかうのが楽しいのが大部分なのである。
「目の届くところで拾うんだぞ」
おもしろがって注意を続けると、こちらを睨み返してから、それでも律儀にフランツは小枝を拾い始めた。
「さあてと、やっぱり最初の夜は景気よくいきたいよな」
重たい荷物を開けて中を確認すると、考えた以上に充実した食料が色々と詰まっていた。
根菜類に、葉物。主食は、バケット・小麦粉・パスタ・米等々、調味料は塩・胡椒・砂糖は勿論、唐辛子・マスタードなども大量にある。加工食品の瓶詰めから、今は涼しいから大丈夫だろうと気を利かせてくれたのか、ウインナーまで入っているのはなかなかいい感じだ。小さくまとめてある箱には、たっぷりのハーブが入っている。
「やっぱり、肉だよな」
一人呟きを漏らしつつ、リッツは村をでる間際に自ら購入しておいた、大きなブロックの牛肉に適当に塩・胡椒を振りかけて馴染ませ、ハーブと一緒に鍋に放り込んだ。上からたっぷりのオリーブオイルを振りかける。ローストビーフを作ろうというのだ。
全部使ってしまうのは少々勿体なかったが、生肉なので早く使わなければいけない。それに残して置いても、フランツとアンナの手にかかると何になってしまうか分からないから、彼が食べたいものにしておいた方がいいのだ。
あんまり一気に使ってしまうと、後々厳しくなるのは分かっている。だが、節約節約では途中で気力が萎えてしまう。
やはり最初くらい景気のいい方がいいだろう。それにこれは、残れば明日の昼食にサンドイッチにしても食べられる。一石二鳥だ。
仕込みが終わって一息つくと、丁度いいタイミングで、フランツが小枝を抱えて戻ってきた。
「お、ご苦労さん」
受け取った小枝を竈にくべると、リッツはごそごそと火の元を探す。
「僕が付ける」
言うが早いか、フランツが手を竈に掲げた。
「炎の精霊よ」
ポッとフランツの手から生み出された炎が、竈の中に広がった。本当に彼は便利だ。
その炎を安定させるために、火トカゲ(サラマンダー)サラをランプから出して竈に入れた。
「きー、うれきー!」
火は安定するし、サラは満腹になる。これもまた一石二鳥だ。旅路では効率のよさが一番大事なのである。
「さてと、後何作るかなぁ」
竈の上に先ほどの鍋をセットした後に、リッツは再び荷物の中をかき回した。
「ん? 何だこれ」
見つけた包みは、やけに大きくて重い。外見からは全く分からないその包みを、リッツはそっと開けてみた。
「……薫製かすごい量だな」
中身は鶏が丸ごと一匹。多分これを荷物に入れてくれたのはルーベイ夫妻に違いない。
「もったいないな、取っとくか」
もう数日は大丈夫だろう。
だがこの鶏が後々大きな問題となってくるのであるから分からない。
とりあえずリッツは、主食の中からパスタを選んだ。具材として唐辛子とニンニクを選び出す。
「寒くなってきたから体が温まるもんがいいよな」
呟くとリッツはニンニクをナイフで器用に薄切りにし、唐辛子を輪切りにして種を取りだした。
「よし、準備完了」
後はローストビーフが出来上がってから、鍋を綺麗にしてお湯を沸かしてパスタを茹でる。
鍋が空いたらオリーブオイルでニンニクをこんがりあげて、唐辛子を放り込んで、パスタを入れて、仕上げにハーブを絡めてできあがりだ。
「さ、ローストビーフが出来るのを待つか」
薪の横でごろりと横になり、リッツはしばし休憩を取ることにした。仕込みさえ終わってしまえば、後は待つだけなのである。
一日目、リッツ・アルスターの献立。
ローストビーフ香草風味・たっぷりニンニクのペペロンチーノ
「いただきます」
美味しそうな匂いの漂う皿に、アンナは嬉々として手を付けた。たっぷりと盛られたペペロンチーノの上に、これまたたっぷりめにローストビーフが乗っている。
高級感はあまりないが、ボリュームはたっぷりだ。
「旅の初日は、体力付けなきゃな!」
リッツも自ら作った食事に猛然と取りかかった。
「美味しいねこれ、リッツ、今度作り方教えてね!」
「どっちの?」
「パスタだよ~」
アンナは、このちょっと辛目のペペロンチーノがたいそうお気に召したようだった。
「簡単だぞ、こんなもん。教えることもないしなぁ」
楽しく談笑する二人の横で、パスタに口を付けたフランツは、困惑したような顔をした。
「……」
ため息をついてフォークを置くフランツに気が付いたリッツは、彼に尋ねる。
「なんだよフランツ、喰わないのか?」
不思議そうに見つめるリッツとアンナの顔を見て、フランツは困ったような顔をして再びフォークを取り上げた。
「どうしたの? 美味しいよ?」
「……美味しいけど……」
歯切れの悪い彼の口調に、リッツの方が困惑した。もう一口自分の分を食べてみる。完璧なはずだが……。フランツを観察してみると、パスタを一口食べてはローストビーフを一口かじる、というパターンを繰り返していた。
「……まずいか?」
再び尋ねるリッツに、フランツはうつむき加減の顔を上げた。なんと顔面が紅潮し、顔中に汗が噴き出している。
「何だよ、どうしたんだフランツ。体調悪いのか?」
「フランツ、具合悪いの?」
皿を置いてフランツのところに来た二人に、フランツは観念したように口を開いた。
「……駄目なんだ」
すまなそうな、不機嫌そうな顔で彼は呟いた。益々訳が分からない。
「へ? 何が?」
「何が駄目なの?」
フランツは言いよどんだ。妙に恥ずかしそうに、だが意を決したようにその目がこちらを向く。
「……辛いのが……」
「え? なんて?」
小さくて聞き取れなかったフランツに二人は聞き返す。
「だから、辛いのが駄目なんだ」
一瞬の沈黙の後、リッツは笑い出した。
「何だよ~だからそんなに汗かいて食べてんのか」
「え~意外!」
フランツの性格を見ていると、辛いものが食べられないなんて夢にも思わなかった。あまりに意外でついついアンナと共に禁句を口にしてしまう。
「子供みたい」
「子供だな~」
いつもの通りのからかいのはずなのに、フランツは本気で頬を紅潮させて怒鳴ってきた。
「子供みたいっていうな、誰にだって苦手な物はあるだろ!」
逆ギレ気味のフランツに、笑いを納めきれないリッツが立ち上がって、竈のところに立った。
鍋に水を入れて、お湯を沸かし始める。
「ほれ、貸せ」
「いいよ」
「貸せって言ってるだろ」
「放って置いてくれ」
悔しさで顔が紅潮したまま、かたくなに皿を放さないフランツにため息をつくと、彼の皿を無理矢理もぎ取り、アンナと自分の皿に半々に分ける。二人の皿は山盛りになってしまった。
ローストビーフはそのままフランツの皿に残した。
「わぁ、これ全部食べられるかな」
アンナの歓声をよそに、フランツは両手の平をぐっと握りしめた。だが、リッツはそんなフランツを気にせずに、荷物の袋をかき回し始めた。
「お前、ハーブは大丈夫だよな? バジリコでも作ってやるよ」
「いいよ」
ふてくされたように、横を向くフランツを見て、リッツはアンナに目配せした。
「食べないとお腹すいちゃうんだよ、そしたら歩くの辛くなっちゃうんだから。そしたらね、苦しくなって、大変なんだよ。辛くなっちゃうんだよ!」
「……分かってる」
自分でもそれはよく分かっている。食は活力の元だ。
「だからね、何か作ってもらったらいいんだよ。ね?」
「……分かった」
アンナの説得に、フランツは下を向きつつ頷いた。
「じゃあリッツ、一人前他のパスタ追加ね!」
「おっしゃ、任しとけ!」
追加メニュー
バジルとニンニクのパスタ一人前
二日目 フランツ・ルシナ
「さあて、飯にするか」
夕方近くになって、リッツが二人を振り返った。フランツはいつもの通りふらふらなのに、アンナは元気に飛び回っている。昨日と全く同じ光景だ。
「疲れてるところ悪いけど、今日はフランツの番だぜ、飯」
振り返ったリッツの目を、フランツは恨みがましく見つめ返した。
「……分かってる」
昨夜、辛いのが苦手というまことに子供っぽい弱点を発見されて、フランツはちょっと食事に恨みを感じているのだが、だが決めごとは決めごと、いくらふてくされてみても、彼が食事を作らなくてはならないのだ。
ため息と共に荷物を降ろしたフランツの横で、疲れ知らずの二人が、元気に支度を始めようとしている。
「よ~しアンナ、竈を作るぞ! 終わったら俺が小枝を拾いに行くからな」
「うん、分かった!」
嬉々として作業を始める二人に向かって、羨ましげなため息をつきつつ、フランツはリッツの降ろした荷物の袋の横に座り込んだ。その有り余っている元気を少し分けて欲しい、と心から思う。
食事作りは、苦手ではない。師匠のオルフェに弟子入りして五年。初めは料理など出来なかったフランツだが、相当鍛えられた今では得意な方だといえるだろう。
だが、旅路の途中では勝手が違うし、疲れも違う。
「何を作るかな……」
中を確認すると、考えた以上に充実した食料が色々と詰まっていた。
根菜類に、葉物。主食は、バケット・小麦粉・パスタ・米等々、調味料は塩・胡椒・砂糖は勿論、唐辛子・マスタードなども大量にある。加工食品の瓶詰めから、今は涼しいから大丈夫だろうと気を利かせてくれたのか、ウインナーまで入っているのはなかなかいい感じだ。小さくまとめてある箱には、たっぷりのハーブが入っている。
「簡単なもの、これに限る」
何しろフランツは疲れているのだ。手間暇かけて料理を作っている余裕はない。だが、アンナたちの様子を見ていると、思いっきり手を抜くことも出来ないかもしれない。ここが苦悩するところだ。
「とにかく、満腹になればいい。見た目も派手だと更にいいか」
一人呟きながら、フランツは荷物をかき混ぜ続けた。手に触れた大量のジャガイモをまじまじと見つめて、取り出した。お腹は十分にふくれるだろう。なにせ芋は腹にもたれる。
「一人、三つずつとして、全部で九個……」
これなら主食にもなると勝手な解釈をして、フランツは横にジャガイモを転がした。お腹がふくれて、主食にもなる、理想だ。
だがそれだけでは、あまりにも寂しい。フランツは疲れた頭を駆使して考えつつ、荷物をかき回した。
「なんだろう、これ」
見つけた包みは、やけに大きくて重い。外見からは全く分からないその包みを、フランツは慎重に開けてみた。
「……鶏の薫製? こんなに沢山どうするんだろう」
中身は鶏が丸ごと一匹。多分これを荷物に入れてくれたのはルーベイ夫妻に違いない。
「アンナが使うだろ」
薫製だから、もう数日は大丈夫だ。それに鶏の薫製を捌いて何かに使うのも面倒だ。アンナあたりなら、面倒を惜しまずに料理する体力と気力があるだろう。何しろあれだけ元気なのだから。
フランツは何も見なかったふりで、鶏の薫製を丁寧に包み直して荷物に戻した。
……しかし、後でもたらされる不幸を、彼もまた知りようがなかった。
「ウインナーか」
フランツはウインナーを取り出してしげしげと眺めた。これならろくに調理しなくても食べられる。簡単で派手、これもフランツの理想の食材だった。
何となく料理の断片ができはじめてきたそんな感じだ。丁度いいことに、リッツとアンナも支度を終えたようだった。フランツは出来上がっていた竈の中に、サラを放した。
「うれきーっ!」
サラのはしゃいだ声が聞こえる。
「出来たぞ竈、サラも入ったからこれで大丈夫だ。遠慮なく料理してくれ」
「わかった」
リッツとアンナが作った竈に、水を入れた鍋をかけ、丸ごとジャガイモを放り込む。ウインナーは、残っていた小枝に一本ずつ刺すことにした。
後は大量のチーズを出して、細かくし、小さめの鍋に白ワインと一緒に入れれば、下準備は完了だ。
ぐらぐら沸き立つ鍋の横で、フランツはぼんやりと時を過ごした。片手に持った小枝で時折ジャガイモを突き刺して固さを調べる。彼が調理でやらなくてはならないことは、このぐらいなのだった。
かくして、フランツの晩ご飯が完成した。
二日目、フランツ・ルシナの献立。
茹でジャガイモ
ウインナーの串刺し
とろとろに溶けたチーズ
「はい、夕ご飯」
「……」
「フランツ~これだけ?」
不満そうなアンナとリッツにを無視しして、フランツは鍋からあげたゆでたてのジャガイモを、皿に盛りつけた。
「このチーズを好きなだけかけるんだ」
小鍋に沸くのは大量のチーズ。
「ウインナーは好きに竈であぶって、チーズに付けて食べてくれ」
「何だかすごいことになってるな」
苦笑するリッツを無視して、フランツは率先してウインナーを竈の炎にくべた。しばらく顔を見合わせていたリッツとアンナの二人も、仕方がないといった顔で、じっと黙ってウインナーをくべる。
パチパチと火の中で油がはぜて、いい香りが漂ってきた。その香りが三人の鼻腔を心地よく刺激する。
「まあ、これはこれでいいかもな」
野趣溢れるフランツの料理に、ようやくリッツが満足げにそういった。内心フランツはホッとした。体力の限界がもうすでに近づいている状態で作った料理に、なんとか二人は満足してくれたようだ。
「フランツ、ウインナーこのままつけてもいいの?」
焼き色好く出来上がったウインナーを片手にアンナが尋ねる。彼女は、チーズフォンデュなんて言う料理は見たことも食べたこともないから、分からなかったのだ。
フランツもそれに気が付いて、教える。
「いいよ。でも二度づけは駄目だから」
「…二度づけ?」
困惑するアンナにフランツが説明した。
「口に入れる前のウインナーは、チーズにつけていいけど、一度口に入れたらつけないことだよ」
「そっかぁ、分かった」
アンナは慎重にウインナーをチーズにつけた。とろとろとしたチーズがウインナーに絡んで、とても美味しそうな香りを放つ。
「美味しそうだよ、フランツ!」
感動するアンナを見ていると、それはそれで何だか満足だ。ちょっと嬉しいのを顔には出さずに、フランツは自分のジャガイモに、チーズをかけようとした。
「ちょっと待てフランツ、俺たちがチーズを好きなだけかけると、足りないぞ」
ジャガイモは一人三個、味のないジャガイモにチーズは不可欠だ。確かに、これでは足りない。
「足すか、チーズ?」
リッツは、袋からチーズを取り出した。だが残念そうな顔で再びそれをしまった。
「今使ったら、これからの朝飯、昼飯に使えなくなっちまうぞ」
「困ったな……」
悩む三人が、同時に思いついたのは、ジャガイモを美味しく食べる方法だった。
「バターだ!」
全員が全員、同じ食べ物の名前を口にして、顔を見合わせる。
「確か瓶詰めがまだあったよな、大量に」
色々と用途の多いバターは、普通の調味料以上に多くストックされている。
「これをかけて食べればいいんだよな、薄味だったら胡椒と塩も」
三人はバターを皿に取って、ジャガイモに載せた。これでジャガイモ問題は解決だ。
ジャガイモとウインナーを詰め込んで、満腹になった三人の前にもう一つの問題が頭をもたげてきた。ジャガイモにかけるほどはなかったが、ウインナーだけでは多すぎたチーズだ。
「……明日までは取っておけないよな」
呟いたリッツに、アンナとフランツは頷く。さめただけでも固まって分離しかける代物だ。今、この夕食で食べてしまわなければならないのは確実だ。
でもつける物がない上、全員が満腹に近い。この上また何かを出してきて、このチーズを食べきるのは、不可能かに思われた。
だが不幸なことに、このチーズを捨ててしまえる者は、この中に誰一人としていなかったのである。
フランツは節約屋でケチ、アンナは神の恵みを無に帰す事が出来ないし、リッツは勿体なくて嫌だ。これはなんとしてでも、お腹に納めてしまわなければならないだろう。
「喰うか」
決意に満ちたリッツのひと言に、意を決したように二人は頷いた。こうなれば喰うしかない。
「まずはつけるものだが……」
リッツが荷物をかき混ぜると、長さ五〇センチほどのバケットパンがでてきた。
「チーズフォンデュといったら、パンだろ」
三人は決意を込めてバケットパンを見つめた。いつも朝食に食べているそれが、まるで怪物のように圧倒的存在感を示して彼らの前にたたずんでいる。
これを征伐しなければ、彼らの夕食は終わらないのだ。
「……いいか、切るぞ」
リッツの手によって、そのバケットが真っ二つに両断され、瞬く間に角切りにされていく。一人の担当分は、大体四つから五つに決まった。
「……喰うぞ」
「ああ」
「うん」
決意に満ちた三人は、小枝で勇猛果敢にチーズフォンデュに挑みかかった。
追加メニュー バケットパン半分
「くっ苦しい……」
三日目 アンナ・マイヤース
「さあて、飯にするか」
夕方近くになって、リッツが二人を振り返った。フランツはいつもの通りふらふらだ。アンナはそんな二人を尻目に、楽しく飛び回っていた。毎度のおなじみ、夕方の風景である。
「は~い、はいはい! 今日は私の当番です!」
リッツが何かを言い出す前に、アンナは元気に諸手をあげて名乗り出た。
「はりきってんな」
笑顔のリッツの言葉に、アンナは頷いた。
「だって、まともなご飯作るの初めてなんだよ、嬉しいよ~。早く荷物見せて!」
はしゃぎながらアンナは、リッツに早く荷物を降ろすよう催促した。孤児院を出て以来、まともな食事を作るのは久し振りだ。しかも試したい新メニューがあるのだ。
「はいよ」
リッツは背負った重たい荷物を降ろすと、地面に座った。荷物がとっても重そうだ。二日分は食べてしまったから、少し減っているといっても、次の街への道のりはまだまだだ。重たいと言えば重たい。
それになんと言ってもこの道沿いに川がない。川へ出るには、森をいったん抜けなければいけなくて、それには往復一時間が掛かるから、リッツが背負っている荷物には、約一週間分の水まで含まれているのだ。
「重そうだねぇ。大丈夫?」
「大丈夫さ。心配すんな」
リッツが明るく笑った。出も微かに疲れた顔をしているのは気のせいだろうか。でもそこを突っ込んだら、なんとなくいけない気がする。
だからあえて明るく話題転換してみた。
「何にしようかなぁ。あ、リッツ竈早く作って~」
「……はいはい。フランツ、作るぞ」
「分かった」
竈を作るためにその場を後にした二人を後目に、袋を開いた。中を確認すると、考えた以上に充実した食料が色々と詰まっていた。根菜類に、葉物。主食は、バケット・小麦粉・パスタ・米等々、調味料は塩・胡椒・砂糖は勿論、唐辛子・マスタードなども大量にある。加工食品の瓶詰めと、小さくまとめてある箱には、たっぷりのハーブが入っている。
「わぁ……何使おう」
多すぎて目移りしそうだが、アンナには心に決めていた料理がある。そのために食料を少々持参していたのである。
「えへへ、ちょっと食べちゃったけど」
アンナが鞄から取り出したのは、細長いトマトの入った紙袋だった。フランツに貰ったお小遣いで自ら購入したのだが、道すがら少々小腹が減ったときにつまんでしまったので、量は三分の一ほど減っている。
「これだけあれば足りるよね」
アンナは明るくそう呟くと、他の材料をあさり始めた。
「ええっと、このパスタだよね」
アンナが取り出したのは板状のパスタ。つまりラザニア用のパスタである。実はアンナ、トゥシルのフィリアさんが作ってくれたラザニアがいたく気に入り、自分で作ってみたいと考えていたのだ。
そのために生トマトも購入していたのである。
「ええっと、あとベーコンと、ジャガイモと、タマネギと……キノコ!」
フィリアに聞いて作ったメモを見ながらアンナは材料を積み上げ始めた。何だかちょっと多い気がするけれど、孤児院での食事の支度に較べれば格段に少ない。
「ええっと、まずトマトを湯むきする……お湯沸かさなきゃ」
アンナが振り返ると、この二日でだいぶ慣れたリッツとフランツが、竈の石を積み上げたところだった。当然まだ小枝などは集まっていない。
「もう準備終わったのか? 早いな」
驚くリッツに、アンナは困った顔で笑った。
「終わってないよ。下ごしらえでお湯沸かしたいの」
仕方なくアンナはキノコを切ったり、タマネギを切ったり、ジャガイモの皮をむいてスライスしたりという作業を続ける。見る見るアンナの周りの皿は材料でいっぱいになった。
「よし、アンナいいぞ!」
リッツの声に振り向くと、竈の中でサラが楽しそうに鳴いているのが見えた。
「うん!」
まずアンナは、ミルクパンにお湯を沸かし始めた。そのままそれを忘れて再び切る作業に熱中する。随分時間がかかってしまった。
「アンナ、お湯」
何となくアンナの料理を見ていたフランツが、ぐらぐらと煮えくりかえるミルクパンのお湯を指摘すると、アンナは初めて沸いていることに気が付き、慌ててジャガイモを放り込んだ。
「大変そうだね」
座って見ていたフランツに、アンナはニコニコしながら答えた。
「楽しいよぉ~」
ジャガイモに火が通ったところで、アンナは一個一個丁寧にお湯からあげると、そのお湯の中に切り込みを入れたトマトを入れた。数秒で皮がめくりあがってくる。
「もういいかな」
また一つ一つトマトを取り出すと、冷えるのを待つ。熱いトマトの皮をそのままむけるアンナではない。
「いいよね、冷めてから剥いても」
呟きながら、アンナはトマトをじっと観察した。剥きたくてしょうがない。あのちょっと皮がむけて状態が、剥きたい気持ちをそそるのだ。
いうなればかさぶたをはいでしまう気持ちだ。
「う~ん、どうしようかなぁ……」
「……時間かかりそうだね」
動かないアンナを見て、フランツが寝転がるリッツを振り返った。
「だな」
リッツはよッと声をかけて起きあがると、大剣を手にした。
「じゃあ俺は稽古でもしてるか」
たまにリッツは剣の稽古と称して、大剣を振り回している。これが結構運動になるし、腕が落ちない秘訣だという。
「じゃ僕も」
疲れてはいるが暇である。しかも彼は寝てしまったら絶対に翌日の朝まで起きない自信がある。ここで寝てしまったら、大変だ。フランツも立ち上がると、少しはまともな火球を作れるようになろうと練習に励むことにした。
ちなみにここまですでに一時間を要している。
アンナはようやくトマトが冷めるまで待つ決意を固めると、トマトから離れた。竈に小さなフライパンをかけてオリーブオイルを熱し、タマネギとベーコン半分を炒める。勿論塩と胡椒も忘れない。
「ベーコンいい匂い~」
うっとりと匂いをかいでいると、今日の疲れが全て吹っ飛んでいくようだ。
「あ、やだ焦げちゃう」
慌てて中身を皿に開けると、アンナは先ほどトマトの湯むきをしたまま放りっぱなしのミルクパンのお湯を、フライパンにかけて洗い、綺麗に拭いた。再びオリーブオイルを投入。残りのベーコンとキノコをフライパンに入れてまた炒める。再びベーコンのいい香りが立ち上る。
この料理の全体像は未だ見えてこない。
そのころリッツとフランツは、待つのにすっかり疲れていた。やることがなくて待ち疲れというのは辛いもんだ。
「フランツ、暇だから何かやろうぜ」
「……リッツ、練習台になってくれるかい?」
リッツは大きく首を横に振って断った。フランツの練習台になるということは、火球の的にされるということだ。
「駄目だろうね」
「駄目に決まってんだろ! 火傷するわ!」
しばし考え込んだ二人は、何気なくアンナの方を見た。どう見てももうすぐ出来る雰囲気ではない。
「フランツ……剣術練習したくないか?」
「は?」
唐突なリッツのひと言に、フランツは困惑した。
「僕が?」
「お前以外いないだろ」
しばし考えたフランツは頷いた。それくらいしか、有益に二人で出来る暇つぶしはなさそうだ。あとはカードをやるという手もあるが、有益ではない。
「分かった。どうするんだ」
やる気になったフランツに、リッツは足下に転がっていた木の枝を放って寄越した。長さ五〇センチほどだろうか。
「俺は鞘付きのままこの大剣使うからな。お前はその小枝で、俺に打ちかかってこい。俺、攻撃しないからな」
「…? 意味が……」
「つまり、お前が俺の体のどこでもいいからその小枝で触れたら勝ちってこと」
言うが早いか、リッツは大剣を構えた。攻撃はしないけど、剣で防ぐと言うことか……。
「かかってこい!」
リッツの挑発的なひと言に、フランツは真剣な表情で小枝を構えた。
こうして二人の剣の稽古が始められた頃、湯むきしたトマトを刻み、オリーブオイルとニンニクを熱したミルクパンに移して、アンナはようやくトマトを煮始めた。これがトマトソースになるのだ。
「焦げないでね」
呟きながら木べらでかき混ぜる。これがまた時間がかかる。煮始めてから三十分、ようやく形が崩れてきた。
「煮えたらハーブを入れるんだよね」
ハーブを入れてから更に一五分。塩胡椒を加え、木べらでよく叩きながらソースにしていく。一時間近くかかって、ようやくトマトソースが完成した。
「あ、お湯沸かなきゃ」
今度は、いそいそと大きな鍋にお湯を沸かし始める。これがまた沸騰するまで時間がかかるのだ。ようやく沸いたところで、アンナはパスタを取り出した。
「ええっと、これを一二枚茹でるっと」
アンナは鍋の中にラザニア用パスタを放り込んだ。
「それで、くっつかないように混ぜるんだよね」
木べらでラザニアパスタを混ぜる。
「あれれ、くっつくよ?」
困惑して尚もかき回す。
「そっか、塩、塩入れるんだっけ」
アンナは塩を入れるとまたパスタをかき混ぜる。
「はがれないよぉ」
仕方ない、木の枝と木べらを使ってパスタをはがすと、今度はくっつかないように混ぜる。パスタがゆであがる頃には、調理開始から三時間が経過していた。
「遅いな……」
リッツとフランツは、取り合えずしばしの休憩を取っていた。勿論フランツはまだリッツから一本もとれていない。反対に、休憩しようというリッツの声が聞こえず、頭に一発食らってしまった。
「何をつくってるんだろう」
フランツの疑問はもっともだ。二人ともだいぶお腹が空いてきた。夕方にここへ来たのに、今はもう夜も遅い。
「アンナーっ、飯まだかー!」
たまらずにリッツがその場から声をかけると、アンナの返事が返ってきた。
「もうちょっとだよ~!」
「はぁ……」
どちらともなくため息が漏れる。
「なぁフランツ、何かつままないか?」
リッツの提案ももっともだ。まだかかるなら何かをつまんでもバチは当たるまい。
「いいと思うよ」
空腹に耐えきれず、フランツも同意する。
「行くか」
「ああ」
二人は夢中のアンナの横を静かにすり抜け、食料が入っている鞄に手を伸ばした。
「あ、そういえば……」
リッツが呟いて、鞄の中から包みを取りだした。
「薫製……」
フランツも思い至った。あの鶏の丸ごとの薫製だ。
「なんだ、お前も気が付いてたのか」
「リッツも?」
とりあえずそのまま食べられるのはこの薫製ぐらいだろう。パンは明日の朝食だし、野菜を丸かじりするわけにもいかない。
「喰っちまおうぜ」
「そうだね」
珍しく二人の意見が一致した。普段ならどちらかが制止するはずなのに、相当の空腹が彼らの理性を麻痺させてしまったのだ。
リッツは、手元にあった短いナイフを取り出すと、鶏を解体し始めた。解体したそばから食べている。フランツも、手を伸ばす。だが近くで食べている二人に、アンナも流石に気が付いた。
「あ~っ! 何食べてんの! もうすぐごはんできるのに!」
アンナの怒鳴り声を聞くことは珍しい。これは結構怒っているのかもしれない。リッツとフランツは、正直ものすごく驚いた。
「は、腹減っちまってさ」
たじろいでリッツが言い訳した。口に薫製が入ったままのフランツも、黙ってリッツに同調し頷いた。
「ひどい! 私一生懸命作ってるのに~!」
「い、いや、勿論アンナの料理楽しみにしてるぞ、な、フランツ」
「ああ」
必死の二人に、目に涙を浮かべたアンナは、許す様子を見せない。
これは困った。アンナにひと言確認すればよかった。腹減ったから食べてもいいかとひと言言っていれば、この怒りは起きなかったかもしれない。
「もうすぐ出来るのに~!!」
アンナの料理は九割方完成していた。ラザニアを鍋に敷き詰めて、一番上にチーズをかけた。あとはサラを竈から出して、竈の中で数分焼くだけなのだ。
「私の料理より、鶏の薫製の方がいいんだ!」
「いや、違うぞアンナ」
オロオロとする二人につかつかとアンナは近寄ってきた。思わず一歩引いてしまう。
「これがあるからいけないんだよね!」
確かにこれ以外に、そのまま口に出来る物はない。
「いや、そういうわけじゃ……」
薫製に突き刺さったままのナイフをそっとしまって、リッツは笑みを浮かべて見せたが、今のアンナに通用するわけがない。
「こうしちゃうから!」
アンナは鶏の薫製を持ち上げた。
「わ、馬鹿捨てるなよ!」
リッツが思わず声を上げたが、リッツの想像とアンナがやろうとしたことは別だった。
アンナは鶏の薫製をラザニアの入った鍋に丸ごと突っ込んだのだ。
「!」
リッツとフランツは一瞬言葉を失った。そのままアンナは感情にまかせて鶏の薫製をぐいぐいと鍋に押し込んでいる。隙間から溢れるトマトソース……。
大惨事だ。
「アンナ……中身出てるぞ」
トマトソースと中身であるベーコンやタマネギが鍋からはみ出てきた。
「いいもん! このまま焼くもん!」
アンナは、垂直に伸びる鶏の足からようやく手を放し、上からチーズを載せた。
「サラちゃん、出て」
竈からサラを出すと、鍋を竈の中に押し込み、周りに小枝で山を作った。
「……アンナ切れると困るね」
小声で呟いたフランツに、リッツは頷いた。
三日目、アンナ・マイヤースの献立。
鶏の薫製が突き刺さった
大量の具だくさんラザニア
リッツに手換え品換えでなだめられ、なんとか機嫌が戻ったアンナは、ちょっと後悔していた。
フィリア直伝のラザニアが、グロテスクな品物に変わってしまったからだ。
「こんなはずじゃなかったのに~」
嘆くアンナを苦笑しながらリッツとフランツは見つめていた。
「さあ、喰おうぜ」
まず、こんがりとチーズが焼けた薫製を取り出した。
「お、これはこれで美味そうじゃん」
リッツはそういうと、薫製を皿に載せ、ナイフで丁寧に切り分けた。薫製とトマトソースとチーズがなかなかマッチしている。
「うん、悪くない」
フランツも満足そうだ。アンナは予想外に出来てしまった鶏を食べて満足そうに笑った。これで完全に機嫌も直ったようだ。
「薫製ってこうやって食べても美味しいね!」
「ははは、そうだな」
力無く笑ってリッツはラザニアに取りかかった。それにしても大量にある。
「アンナ、何人分作ったんだ?」
聞かれたアンナは、きょとんとした顔をした。
「え? フェリアさんが作った通りだよ」
リッツは考え込んだ。確かにフェリアが作ってくれた覚えはある。
「まさか、その時フェリアさんが作ってくれたとおりの分量じゃないよな?」
おそるおそる聞くと、アンナは益々困惑した顔をした。
「そうだよ? え、駄目だった?」
二人のやりとりを見ていたフランツは、そっと鍋の中を覗き込んだ。大量だ。思わずリッツを見てしまう。リッツは力の抜けた顔でへらへら笑っている。
「お前な、フィリアさんが作ってくれた量は、六人前だぞ……」
「そうなの?」
「俺たち三人と、フィリアさん、モリスさん、遊びに来ていた村長の分と、あとおかわりもあるって言ってから、実質七人分ぐらいか……」
「そっかぁ。考えなかったよ!」
腹一杯食べても尚残るラザニアに、三人は途方に暮れた。もう食べられなくなったところで、リッツは二人に提案した。
「……明日の朝飯と昼飯にしないか?」
勿論もう食べられない二人に異論はなかった。
「アンナ、お前が背負っていくんだぞ鍋」
リッツの言葉にアンナは頷いた。それが作った人の責任というやつだろう。そんなわけで、アンナは鍋を背負うひもをリッツに用意して貰った。
「きっと朝パンに付けても美味しいよね」
アンナの脳天気なひと言に、リッツとフランツはうなだれた。
翌朝食、具だくさんラザニア。
翌昼食、具だくさんラザニア。
「しばらくトマトソースはいいな…」
「ああ」
「そうだね~」
突撃! 旅路の晩ご飯1 完
本当に作って食べるだけのコメディでした(^^)
私はこういう話が好きです。
次回から3巻が始まります。またまた長い話ですので、ゆっくりとお楽しみいただければ幸いです。




