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ほら吹き少年と司祭  作者: 山風勇太
第三章 信頼するということ
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駆け回る

 模擬戦を行うようになって、一ヶ月と少し。ここのところ、ブラドロの勝ちが続いていた。

「ブラドロさんは防御手段があるから」

 ヘレが解説する。

「接近したら、レッコー君はほとんど何もできないしね」

「そうだな、このところの戦いを見ていると」とタウロン。

「負けてばっかじゃ、つまんないわよね――」

 アリーシャはそう言いながら、二本の木剣を取り出した。

「そこで、これを用意しました!」

「何です?」

 レッコーが訊く。

「訓練用の木剣だ」タウロンが説明する。「魔法がかけられていて、人を打った時、衝撃が緩和される」

「兵団の備品なの。管理を担当してるフォンケルにお願いしたら、しぶしぶ貸してくれたわ」

「……剣術道場のを借りられないか、頼んでみることにしよう」とタウロン。

「大丈夫、今度はヘレに、お願い、させるから。そしたらフォンケル、喜んで貸してくれるから」

「なんで?」

 ヘレが不思議そうな顔をする。

「鈍いんだから! ほんと、鈍いんだから!」

 アリーシャは楽しそうに言いながら、ヘレの尻をバシバシ叩いた。

「ところで、なんで二本あるんですか?」

 ブラドロが訊いた。レッコーがブラドロに対抗するために使うなら、一本で良いはずである。ロアーク拳法は、両手剣と同時には使えない。

「もちろん、わたしが参加するためよ!」

 アリーシャが、にこやかに言った。

「何が『もちろん』なんだね?」とタウロン。

「いやあ、あの結界、一度試してみたかったのよねえ。ね、レッコー君、相手してよ」

「……まあ、良いか」

 タウロンはそう言うと、呪文を唱え、結界術を発動させた。

「あれ、この時間って、ぼくの修行のために――」

 ブラドロの言葉を無視して、アリーシャがレッコーを引っ張っていく。

「ブラドロさん」

 と、アイナが声をかけた。

「この岩を削って、ベンチを作ってくださらない?」

「……」



 結界に囲まれた空間で、レッコーはアリーシャと向き合った。

「レッコー君」

 アリーシャが言う。

「相手と距離がある時は、剣は左手に持って、右手は魔法のために使うの。魔法剣術の基本よ」

「なるほど」

 レッコーは返事をして、木剣を左手に持ち替えた。

「じゃあスタート!」

 アリーシャはそう言って、右手をレッコーに向けながら、迫ってきた。

 レッコーが、慌てて魔力弾を撃つ。が、アリーシャはそれを横に跳んでかわし、そのまま距離を詰める。そしてレッコーの腹を、木剣で打った。

 打撃の鋭さのわりに、痛みはそれほど感じなかった。しかし、痛いことは痛い。

 アリーシャはすぐに、距離を取り直した。

「まだやるのか。勝負はついたようだが」

 タウロンが、結界の外から怒鳴った。

「まだやるの!」

 アリーシャが大声で返事をする。

「ね、レッコー君、まだやれるわよね」

「……はい!」

 レッコーは答えると、アリーシャに右手を向けた。



「あらあら、レッコーったら、あんなにバシバシぶたれて……」

 三人掛けくらいのベンチにヘレと並んで座りながら、アイナが言った。

「でも、なんだか、楽しそう。気のせいかしら」

「レッコー君は、頭で考え過ぎる」

 ヘレが言った。

「けど、あんなにバシバシやられたら、いちいちじっくり考えていられない。だから考える前に動く。それで、考えることから解放されるんじゃないかしら」

 そこまで言って、ヘレは、アイナがびっくりしたような顔をしているのに気付いた。

「なに?」

「いえ、タウロン様と同じようなことを言うから、ちょっとびっくりしたのよ」

「……わたし、あの人嫌い」

「ええ、わたしも嫌いよ」

 アイナはそう言って、ヘレの長い髪をなでつけた。

(この二人がなんで気が合うのか、不思議でしょうがなかったけど、こういう仕組みだったのか……)

 ブラドロは思ったが、口には出さずにおいた。

「――アリーシャはブラドロさんと違って、めちゃくちゃに攻め立ててる」

 ヘレが言う。

「レッコー君もそれに応じてる。だからいつも以上に、考えることから解放されてるんだと思う」

「レッコーは、いつも、悩み続けている……」

 アイナが顔を曇らせ、呟いた。

 タウロンはちらっとアイナの顔を見やったが、すぐに結界の方へ目を戻した。レッコーとアリーシャは、疲れた様子も見せず、駆け回っていた。



「あーあ、さすがに疲れたわねえ」

 レッコーと共に戻ってきたアリーシャが、言った。結局レッコーは、有効な攻撃をひとつも入れることができなかった。

「というわけで、ヘレ。ブラドロさんの相手、よろしくね」

「分かった」

 ヘレは短く答えると、無表情なまま、つかつかとブラドロに歩み寄った。

「怖い! 怖いですよ!」

 ブラドロがわめく。

「大丈夫。手加減するから」

 ヘレはそう言うと、ブラドロの腕をつかんで引っ張っていった。

「じゃあ、わたしとレッコー君は、二人で休憩」

 アリーシャはそう言って、レッコーを連れてどこかへ行こうとした。

「あ、それならわたしも……」

 アイナが、とっさに声をかける。

 だが、アリーシャはそれを押しとどめた。

「いいの、司祭は」

 言って、アイナの顔を覗き込むように、ちょっと顔を近付ける。

「別に、取ったりしないわよ。今日はちょっと、貸しといて――わたしのいない時に、好きなだけイチャイチャできるでしょ?」

「イチャイチャ……!?」

 そして、アイナが顔を真っ赤にして絶句している間に、レッコーを連れてさっさと行ってしまった。

(みんな、勝手なことばかりしてくれるな……)

 タウロンは、ちょっと苦笑した。

(まあ、別に良いが)



エーデ「ブラドロさんて、女の尻に敷かれるタイプね」

ブラドロ「尻に敷かれてるのは、ベンチだよ」

カドル「うまいこと言おうとしなくて良いよ……うまくもないけど」


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