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絶望転生令嬢 血パンの味と本の虫  作者: 和琴
天才少年と監獄の令嬢、絶望の序章を添えて
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3/20

その3:天才少年 フィエル・マクダニア

いつものように階段をふわりと降りると、そこに立派な服を着た少年がいた。

茶色く薄い布を被り、白と青が映える。

茶色い髪だ、青い瞳だ。


この世界基準では高級そうな色合いの服の少年が

目の前にいた。


このゴミ捨て場の隣の通路に、なんで。


私の姿を…見られてしまった。


「アカズノトビラ・チカヨルベカラズの謎解き、完了だな。

天才の俺に解ける謎無しってね。」


どいて、どいて!邪魔!!

私の進路をふさぐように少年が動く。

無駄にすばしっこくて焦りばかりが貯まる。


「…?」

少年は首を傾げ、私の腕を掴んだ。


…あつい!!!

驚いて振りほどくと、少年はひらめいたようにポケットから

紙を出して、魔法で凹みを付ける。


*

喋れないのかい?

筆談しよう。

*


アントワーヌが同じ技法で殴り書き。

*

チカヨルベカラズ

*


思いっきり紙を投げつけて、

お手洗いに立てこもった。


****

俺の名前は、フィエル・マクダニア。11歳。

こう言うのもなんだが、天才少年だ。


王位継承権も持っているが、そんな事より

世界の謎を解き明かすのが俺の性分。


最近某有名学園で、チカヨルベカラズの幽霊というのが

アカズノトビラに居るという噂が絶えない。

外側から見ようとしても建物に囲まれていて

良く見えないようだ。


これはそそる謎だ、軽く考えても幾つかのパターンが浮かび上がる。

魔法の実験

生物の研究

はたまた人の監禁拘束か


ともかく俺は、交換学生に立候補し

その学園を調べることにしたのだ。


確かに学園に行くと、その空間はあった。

だがクラスメイトに聞いても何も釈然としない。


「倉庫だぞ。」

とかそんな事を言われて。


そんなわけはない。

食事の際、何処に運ばれるかを見た。

職員室で入れられて上がっていたあれは何だという事になる。


俺たちが食べている、野菜や肉のある給食と違った。

あの質素なパンとスープしか見えない、

職員の手作りを疑うほど雑な食事は何だ。


その時点で俺は、人がいることを確信した。


そして見取り図を確認する。

部屋は確かに倉庫と記載されていた。

その付近の部屋の寸法を測る。

怪しまれないよう、一定間隔で進むよう鍛えた歩法で図った。

この建物の中央に空間がある。間違いない!


問題は、どうやって行くかだ。

まさかあの扉しか道がないわけじゃないよな。

マスターキーを盗むのは恐らく簡単だが

そんな事をするリスクを取るのは美しくない。


一番人が来なさそうな場所を調べた。

ゴミ捨て場…

雑に置かれた紙の束を退けると人が通れそうな穴があった。


何でこんなものが?

余りにも隠し方が雑過ぎる。


だから周りを見渡した。

監視も誰もいない。

…入ってみよう。

入った後、少し穴が見えづらいように工夫した。


中の空間に入ると、そこは結構広かった。

梯子があって3階まで伸びている。


上に見上げていくと、大きな花が見えて

失礼だから目をそらした。

礼儀的に見てはいけないものだと知っているだけだが。


そして着地するころに言い放つ。


「アカズノトビラ・チカヨルベカラズの謎解き、完了だな。

天才の俺に解ける謎無しってね。」

なぜなら謎(ミステリー)がすぐに解けて無くなってしまうからだ。


ってね。

****


私がトイレから出ると、少年は消えていた。

代わりに紙があった。

**

君の正体を他人に明かすつもりはない。

意図的に隠しているなら、触るのは見せないほうがいいからだ。

謎は他の人に残しておく…つもりだ。

**


この少年…私たちが

死ぬかもと焦っていることを見越して…?

ただ単にナルシスト?


「良かった…」

アントワーヌの囁きに複雑なものを感じる。

それは明確に、人に対するものだった。


思い出した、小学生時代を。

こんな事すら…出来ないこの檻。


でも”…つもりだ”という言葉が引っかかった。

こういう考えすぎるタイプの男子って

絶対後で口を出してくるよね。


そう考えるとアントワーヌの背がピンと伸びた。

ごめん、脅かしちゃったね。

大丈夫…だと思うから。


そしてその懸念は、少しずつ現実になっていく。


****


俺は、会話出来たのだろうか。

頭の中で文章にまとめる。

一応明かさないと約束した以上、こうするしかない。


自分の部屋の寝床は、

まるで雲のように柔らかい、素晴らしい。

だがあの少女の扱い。


俺は敢えて床の上に降りた。

これだろう、考えるのなら。

彼女の事を。


この学園にいることが出来るのは後1日だ。

実質的に、聞き込みも不可能だろう。

2日連続は、さすがに怪しまれる。


女子たちも執拗に寄ってきて面倒だった。

俺はブランチ3、国王からはかなり遠い親戚の親戚だって言うのに。

それか金や権力目当てか。


戻そう。


彼女の名前も知らない。

身長は俺と同じぐらいか。

胸は少しだけあるな、他の女子と同じだ。

同い年かもしれないが断定はできない。


在学者数は350。

机の数は380だった。


全員が隠されてるわけじゃなかった。

退学者はそこそこいることが分かっていた。

数字の差分は参考にならない。


勉強の難易度は他と比べれば高めだ。

自分には楽過ぎるが、時々驚きもある。


そんな中、なぜこれほどまでに

この少女が学園生活から隔離されているのか…

逆に少女の立場に立って考える。


閉鎖環境について考えるとき、面白い思考法がある。

あなたがその立場で、その収入でその文化の中に入った時

どう暮らしますか?という思考法だ。


例えば基本的な食糧が月収で500食は購入できる国があったとする。

その国は貧困とは無縁と言えるのだろうか。

いや、外から見ただけではわからない。


中に入ってみて…その労働が14時間労働だったらどうだ?

そうじゃなかったとしても、物資自体が不足していないか?

そうやって苦しくなる職業を人々が主要な選択肢としていないか?


それを見ることで、数字の裏の生活を思い浮べることができる。


今回の場合…

彼女は率先して学園に協力し、学園も積極的に彼女を隠している。

あれは人に会いたい人間の反応じゃない。

一言で何て言うかな。


怯え。


その言葉に自分でも驚いた。

俺に怯えていたのか。


食事の質も明らかに質素だ。

よって彼女が特権階級という筋はないと見る。


倉庫、まあこの部屋名称は断定できないからいい。

問題は、彼女が降りてきたのが

明るい時期とはいえ夕方7時だってことだ。


俺は2時間前に、とっくに授業が終わっていた。

あそこが部屋なら、2時間何をしていた?

…教室で一人でやることなど、決まっている。


話さず、あんなゴミの匂いのする通路で暮らす?

あそこの間取りを考えるとかなり手狭なはず。

壁の端の方の余剰スペースみたいなところだ。


頭の中で纏めると…



〇〇〇〇〇〇〇←生活寮

  連絡橋    壁壁

倉庫教室教室教壁★(小さな部屋だ)

細い空間

ゴミ捨て場部屋部屋部屋


それこそ横になれば終わり、箪笥があれば良い方じゃないか。


なんだこれは、息がつまる。

あの穴は先生達が出入りしているのか。


そうだ、重要なのは「アカズノトビラ」の噂だ。

夜8時に幽霊の影が見えたという噂。


まさか…早い方だったのか、勉強の終了が。


そういえば、先生達があの穴を使っているなら

噂があるほうが不自然だ。

既に先生達が何かしているとバレているはず。


まさか、教材をあの食事の荷台から、運んでいるだけでは?


体が震えた。こんな事があっていいのか。

俺だって少しは人の気持ちが分かるつもりだ。


ずっとかすかな物音しかしない教室。

筆談しか出来ない少女。

消えない噂。

それが早2年。

同い年なら、初等部の就学期間は3年。


なんてことだ。

****


お手洗いを済ませ、私は再び教室に。


本を読みながら感じる味は血の味だ。

口を切ったわけではないけど、トレイの鉄の味かな。

残しておいたパンを齧りながら、中等魔法知識の、第二段階を叩き込んでいく。


それが済んだら今度はお掃除。

ゴミ捨て場の所に、こっそり押し込める穴がある。

もし埃がたまり切ったら、そこに押し込む。


お姉さんがいるから、私は寂しくない。

むしろ一緒に暮らしていて、楽しかった。


それが伝わったのか私の毛が逆立った。

時々声、ほとんどは体の感覚で会話する。


それにしてもあの人。

何だか運命を感じた。

結婚するならあの人がいい。


お父さんとあの人なら、あの人がいい。


草田さん、ネル、お母さんの次に好きだ。

妹たちは可愛いけど、あんまり会話できなかったし。

"家族"じゃなかったから、違和感があった。

ヘステス先生はいい人だけど、お人形だからね。


あの人に、

お手洗いに行きたいのもあって怒っちゃったけど

筆談に切り替えてくれて、気を使ってくれて

私の事情まで察してくれて…凄く、凄く苦しい。

あの人は苦しくないんだろうな、うらやましいな。


月明かりの下で、汚いけど指を舐ってみた。


月明かりの下で人を思いながら月を見る、

ただのお姫様ごっこ。


あの人はお人形さん?

今後会うことはないのかな。


ただ腕が熱かった。


ネルは中等部の宿舎に移動してしまった。

私は立場上、永遠に初等部かすぐさま軍隊に行くか。

決まってる、軍隊に行く。

そうすれば名が無くなっても食べては行ける。

返金も出来る、教育費の。


災厄も近いと聞いている。

ヴァームホームの悪魔の開放が。

昔は魔法の取引も出来ていたらしい悪魔たち。


でも今は、虫に脳を侵され、数百年に一度

這いあがってくる地獄からの亡者になり下がっていた。


強力な虫たちを引き連れてくる悪魔の群れは

これまでもこの世界の歴史に大きな影響を及ぼしてきたらしい。


その為にこの辺境の貴族達は、血をこうやって厳選してきた。

私みたいな知識だけの才能無しは、

こうして戦いに身を投じる。


妹たちの様な才能あふれる子は種になる。

世界を続けていくために。


やっぱり結婚は無理。

ふわりと空中に飛び出し、ゆっくりと地面まで降りて行った。

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