その25:まるで生贄。少女はその使命で魂を焦す
整然とガラスの中で浮いて輝く光の魔法。
黒や紫の煙を放ち、大量のガラスのような羽を生やした悪魔の剥製が目に入る。
草田さん、呪いのお店みたいだね。
店主の姿はないが、ヤハリン隊長が跪くのを見て私もそれに従った。
暫くして…目の前の蝋燭の煙が歪んだ。
3000…と記載があった。
ヤハリン隊長が3000ペルス(この国の通貨)を箱に入れると、悪魔の剥製を被ったローブの何者かが揺れながら現れる。
「その娘の呪いのことか。」
しわがれてるけど、ハリのある女性の声。
私の性別、一瞬で見破られた。
何か…違う!
「流石です。悪魔の呪い喰い、ベルフォーヌ様」
ベルフォーヌ様、覚えよう。
草田さんが息を潜めたのを感じた。
きっと隠れてる、本能的な直感で。
「その娘には3つの呪いが掛かっておるな。」
全てを見透かすような青と赤と緑と…虚空の光。
その瞳と一直線に私は繋がった。
「娘に掛かっている呪いはぜい弱だ。
今にもあふれ出し周囲に危害を与えんとしている。
娘よ、お前は呪いから逃げてはいけない。
それが己のためだ。」
暗く…邪悪で…すべてを見透かすような大穴に
魂まで吸い込まれるような。
一瞬、何人かの幻影が頭に過る。
その人達の幻影が…もし呪いから逃げる代償なら…
「どうすればいいですか。」
私はその悪魔が羽ばたくのが見えた。
「選択は三つだ。
一つ目はお前が呪いを…最低でも一日14時間以上受け止めること。」
14…時間…
「そうでなければ呪いがあふれ、術者の側が自滅するだろう。
それも周囲の人間を巻き込んで。」
背筋がぞくっとした。
上手く思い出せないけど辛うじて、良い人はいたはず。
だって生きてるもの。
「二つ目の選択は…生を諦め
悪魔となることだ、私のように。」
ベルフォーヌは腕を思い切り振った。
見えた…きれいな皮膚が。
しかし…闇の霧が包み込み、いつの間にか剥製を纏った姿に戻っていた。
違う、この人が悪魔を被って成り代わったんだ。
「さすれば呪いを召喚陣にして邪悪を喰らいつくせるだろう。
そして力と、呪いを得る。」
よくわからない。そんな怖いことは、出来ない。
「三つ目の選択はお前の魂を頂いて私がそれを代行する事だ。
当然私にとってはかなりの報酬となる。
願いをできる限り…一つ叶えてやろう。」
…
魂が無くなったら草田さんを置いていくことになる。
草田さんを渡すことなんて、出来ない。
「このまま逃げたら。」
何となく返答は分かっていて口にする。
聞かないと分からないから。
「不幸になる。
私には見える、死神の鎌が。」
そう言う事だよね。
草田さんが隠れている以上、私が決めるしかない。
…草田さんは悪くない、凄くいい判断だと思う。
本当にこの人は…恐ろしい。
ヤハリン隊長が黙ったままなのも異常だ。
今は、他の者が話してはいけない。
不気味な不文律がそこにあった。
「私は、呪いを受けます。」
幻影たちを見て、そしてベルフォーヌさんを見てわかった。
私は悪魔たちと戦うことが目的だった気がするって
朧げながら思い出して。
選択肢は…1しかなかった。
「では、その人形をくびに括れ。
ネックレスにすればおのずと呪いを受けられるだろう。」
アントワーヌの髪人形をベルフォーヌさんが浮かして掴んだ。
そして黒い…爪のように小さな棘の付いた何かに括る。
まるで処刑台のように、どす黒く血を流す人形。
その棘の周りに透明な鉱石の結晶がまとわりつき、
包み込んだ。
「前へ。」
前へ。
途中足がすくみ、立ち止まった。
ぎしり…木がしなる。
目を閉じて開くと、まるで深紅。
血の霧が纏わりつくように感じた。
「前へ…」
再び一歩歩むと私は兜を撫でられた後、鎧に直で手を通された。
まるでそこには何もないかのように、透明な鉱石を纏った
血の棘のネックレスが首を通った。
ゆっくりと慎重に悪魔は手を放す。
ゾクリ、体に走る衝撃。
強烈な呪われた感覚。
その時に私の首元にあった、緑の玉に悪魔が一瞬触れると爆発的に輝きだした。
瞬間、黒い霧が晴れ、ベルフォーヌの両手の皮膚が露になった。
若く美しい緑髪の女性が見えた気がする。
「そうか、お前は…」
悪魔はたじろぎ、一歩引きながらも頭を振り
理性を取り戻した。
すると緑の玉の輝きも止まった。
「どうすれば呪いを受けられますか。
どうすれば…一瞬でもいいです。
呪いを回避できますか。」
14時間という事は、呪いを受けない時間もあるはず。
私は問う、それで答えを待った。
「無い、お前は元凶が止まるまで
一生檻の中だ。
つまり寝るとき以外、すべて。」
意識が空転しそうになった。
もうパン以外のものが食べられないなんて。
それに、急にあのサラダがまた食べたくなってきた。
ミミズも、幼虫も。
石も鉱石も…全部喰らいつくしたくなる衝動に駆られた。
目の前のベルフォーヌさんでさえも。
ううう、胃液が上がってきそう、それによだれが勝手に垂れる。
「呪いが止まった時はそれを店にも持ってこい。
受けた呪いの分、報酬を渡そう。」
何それ、食べたい。
「呪いの側では明らかに異常が発生しているはずだろう。
もしそれで呪いが止まれば…
その異常な食欲も、パン以外の食材を食べると体が破裂する呪いも消えるはずだ。」
いま…なんて?
「パン以外の食材を食べると体が破裂する呪いだ。
嘘ではない、忘れずに過ごせ。」
その言葉は真実だ、そう魂に語り掛けられた。
私は、返す言葉が分からなかった。
2歩下がると、景色が黄色く戻る。
驚いた、さっきまで赤い血が漂っているように感じたのに。
「べルフォーヌ様、呪いの話は。」
ヤハリン隊長が、ひと声。
「もう終わった。
その娘に聞け。」
そうして闇は蠅となり、店の中に消えていった。




