その24:自由の旅
ーーこうして私達の
日銭を稼ぎながらの奇妙な旅が始まった。
都市は驚くほどに広くて、思わず山への階段を上り、かなり登った頂上で見渡した景色はより大きな山と街の白だけじゃなかった。
植物の緑や黄色、時々目立つレンガの赤や時計台があって吹き付ける風に口角が緩んだ。
そんなところでも仕事はあって、今度は運搬。
他の人は重そうにしてたけど、私はなぜか重くなかった。
草田さんが何か言いたそうにしてた気がしたけど、気にしない。
ずっとずっと、こんな日々が続けばいいな。
今度は山小屋の見張り番、朝まで火を焚いて過ごす。
「現代と比べると、やっぱつれぇわ。」
薄く霜がついた光景を見ながら草田さんがわざわざ声を出して呟いた、ヤハリンさんはうとうとで気づかれていなかったけど。
坂道を駆ける、休日のような日常
私の心に深く刻まれた…初めての三日間。
役に立ちながらゆったり歩む旅は…自由。
もしもそれが、許されるなら…美味しいものをヤハリンさんと共有したかった。
でも草田さんは微妙な顔だったな。
変わらないって、そんなにどれも。
むしろ美味いモノがあっても体が慣れてなくて翌日お腹を壊すから幸福度が下がるんだって。
"刹那の思い出のなにがいいんだろうねぇ?"
その言葉がなぜか、すごく面白かった。
私だって、好き勝手してる自覚あるのに…草田さんもヤハリン隊長も。
何も言わなかった。
ただ、笑顔で…草田さんはしんみりと。
どこか既視感のあるほどに、静けさを感じた。
でも、山小屋を超えて再び街の景色が見えると、その旅は終わりを迎えたことは嫌でも悟った。
赤色のひび割れた大地が広がる荒野。
それを遮る城壁を境に、頑丈そうな建物の群れが広がり、反対側の山には城や屋敷があった。
「アサコ、ここが…ヴァームホームとの境目、
厄災が起きる場所よ。」
ヤハリン隊長の言葉で私の視線は勝手に何もない荒野に向いた。
「呪いにもゆかりがある、悪魔からの防衛基地よ。」
言葉を失いながら、ただその光景を見渡していた。
――その光景を見て…絶句しているアサコの中で観察する。
細々とした悪魔が、大地に点在しているように見えた。
それは蠢いていたから。
そして兵たちもせわしなく動いている。
だが、まだだ。
その時じゃない。
私が今まで勉強していた記憶だと
空が赤く染まり一斉に飛び出してくるはずだ。
そして…この悪魔たちは前兆。
だからアサコも災厄が近いって聞いてて
それを討伐するために覚悟をしてきたんだった。
「まずは呪い、ですよね。」
ヤハリン隊長に聞いた。
多分鎧の後は…
「その後、ここで傭兵として働くのよ。
訓練しながら警備兵をして。
その後…悪魔討伐部隊に参加する。
この舞台は誰でも大歓迎、背景は問われないから。」
――「ここで、人の役に立つんだ。」
乾いた声が出て驚いた。
3日前までなら何も思わなかったと思う。
でも知ってしまった。贅沢を。
昔のことも思い出せなくて、
なんのために戦うかもよくわからないのに。
「まさか、呪いの経過を見ながら
お金を稼ぐためよ。黒騎士アサコ。」
なんだ、それならよかった。
私…なんでだろう。頭が痛い。
そして徐々に丘を降りていき…
何というか生々しい軍事都市に降り立った。
白い道路は人々の矜持か、対抗心か。
路上にはボロボロの服を着た子供たちが大人に声を掛けている。
鎧の騎士たちが酒を飲み…殴り合い。
瘴気に当てられたように排他的なその暗い街道に
懐かしさを覚え、頭を抱えた。
”変わるね。”
草田さん…お願い……
――黒騎士として。
見かけた悪でも見ないふりをしないといけないこともある。
ケンカを止めるのも、乞食やよからぬ行動を止めるのも。
「まずは呪いの治療からね。
あの酒場の裏の通りに、凄い呪術師がいるのよ。
ここまでの数日間で貯めた資金はそのために。
足りなきゃもっと集めればいいのよ。」
暗い街道を前を向いて進む。
突然棍棒を持ち、頭を塗った男が歩いてきたので剣を構えた。
「お姉さん、こっちの店来ない?
稼げるぜぇ?」
「傭兵なのよ、事情があるの。」
相手の目は見開いていて、狂気の笑みを浮かべている。
カンカンと音を立てて石の地面を叩く棍棒が不気味だ。
「代わりに死んでくれるならまあいいか??
いや、どこに行きてえんだ?
ちょっとした日銭をくれれば案内するぜ…この辺は
俺らが占領しちまったからよ。」
信用して…良いの?
「あら結構。あの呪い使いは簡単には退かせないでしょう??
呪われたい?」
隊長の言葉が頼もしい。
「へ、んなわけねぇだろ。じゃな。」
何だったの。
背中を向けて帰る不良は、間違いなくOLの私も見たことのない世界。
ゲームの宗教施設にでも居そうな危険な香り。
これが…本物の危険地帯。
油断させておいて、金を取ろうとしてきたし。
「行くわよ。」
(迎撃用に、今だけ魔法も準備して。)
そうヤハリン隊長に囁かれて、
”アサコ、見るな。寝て。”
そう指示してアームガードに魔力を注ぐ。
…というのも、この数日間実験していたから。
*私が魔法を使っても呪いがひどくなるのか。*
そんな事はなさそうだった。
アサコさえ気づいていなければ。
だから…剣技が未熟な未だ今は
魔法も使って戦う。
そして細い路地を進み、角を曲がる際に幾何学バリアを起動しながら
身を乗り出す。
…剣!!
思わず刃を握りしめて止めた。
バリアが無ければ怪我はしただろう。
「言ってただろ?俺らが占領したってよ。」
コイツ…緑色のモヒカン。ここは世紀末か?
同じく目を見開いて…狂ったように口の血を模したタトゥが不気味だ。
私はその剣に魔力を込める。
するとぐにゃっと曲がって剣は落ちた。
その剣は石だったからだ。
「お、おめえ…やるじゃねぇか。」
私はその石を炭にして証拠隠滅した。
溶かしたように…見えただろうか。
ずずずずず…虫の音に左右、そして上を見ると
ヤハリン隊長が魔法で土埃を飛ばし、ヤンキー座りしていた男たちを
追い払っていた。
GATIかよ。占領してたって。
「行くわよ。」
そうして駆け込むように、緑色の扉の…
サビれた窓の店に飛び込んだ。




