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その14:それぞれの思いを、弔いに

――コン、コン


フィエル様の部屋をノックした。

今日の結果を、起きていたら伝えたくて。

カチャン。


私は声もかけれずに、ずっとひれ伏していた。

永遠のように感じた。


カタン。


そのまま扉が閉じる。

許してもらえないなんて。


何て事をしちゃったんだ。

お父さんに頼ってこんなことして。


「ううう、わ、ああああ…」


カチャン。


「毎日五時間、アントワーヌに祈りでも捧げて見たらどうだ。

少しでも材料は…集まっただろ。”悪徳令嬢”。」


……フィエル様…、おかしい。

でも、思いを。

伝えるには。


私バカだから分かんないよ。


「うーーうーうっう」


あんとわーぬ、フィエル様を虜にするなんて

どれだけ賢かったの。


私は…全く思いつかない。

祈りを捧げてみよう。


朝に2時間、夜に3時間。


アントワーヌ…


――あの”悪徳令嬢”には…


自分で考える力もない、ただ言われたことをやるだけだった。

だからこそ逆に、俺の中でも罪悪感が沸き上がってしまう。


コイツを本当に、今回の事件で詰ってもいいのだろうかと。

もちろん、あいつが2年4か月もアントワーヌを閉じ込め、

俺の目の前であいつを…


だが、床に突っ伏して許しを請う子供でもある。

どう扱えばいいのか、結論が出なかった。


今回コイツと、学園全体は…おとがめなしになってしまった。

一切の調査も、討論も必要なく。


俺の腹の虫が許さない、だから冷たく当たった。


…やはり俺はどうしても、許すことができないらしい。

考えただけで吐き気がする。


本当は悪徳令嬢に当たるぐらいなら…学園長ごとぶちのめす方が正しい。

だが、この学園ではアントワーヌと同じような軍閥貴族の子供が

沢山いることを考えると…手が出せなかった。


どうすればいいのか、頭の中で分かっている。

でもその結論を心に収めるのが、悔しくて仕方がなかった。


――「メリストス…か」

ネルは窓辺にて考える。

あの時の光景とは違うけれど。


「あの子が、アントワーヌを」

アントワーヌなら恨まないだろうな、と思いながら。


「許すわけないでしょなんて」

私が。勝手に言って。


「許してね、アントワーヌ。」

身勝手な”お姉さん”でごめんね。

アントワーヌ。


「でも、もしさ」

もしもまた、この世で出会えたのなら。


「私は、世界の果てにでも飛んでいくから。」

その時は…


「またいろんな話をして、一緒になりたいな。」

ただ、私がさみしいだけかもしれないけれど。


「フィエル君も待ってるしさ。」

絶対好きだよあの子。アントワーヌ。


「アントワーヌ…」


――五日後…

私は学校の食堂で、パンとサラダを目の前にしていた。

優雅な彫刻が並ぶ食堂で、もう一人しかいない友人カロンに見つめられて。


…シャリ。

友人に背中を擦られながら一口だけサラダを食べた。

飲み込みながら涙をこらえ…そして父親が来るのを待った。

パンは鞄に入れて、後で食べるために残しておいた。


「メリストス…おおお!」


父親に撫でられて、その手が気持ち悪くて押し返す。


「サラダ、一口食べました。」


「すごいじゃないか、アントワーヌにそのまま打ち勝て。」

本当は全部食べることも出来そうだったけど

もし全部食べていたらこの瞬間に吐いていたかもしれない。


上機嫌で呪い部屋に向かう父親を、きっと私も

ぼーっとしたあの目で…見つめていた。


フィエル様が天才なんて、もう言わない。

きっと私に、適当な解決策を言ったんだ。


私が…殺人者だから

思い付きを適当に投げつけて来るしか無かったんだわ。

だから、フィエル様も私達と同じなんだって。


今の本当の病気の原因はどう考えても

父親(あいつ)。


――止められない。

父親(あいつ)を止められない。


アントワーヌ、何で死んでしまったの。

もしあの日に…私が戻れたなら。


即座に呪いの蝋燭なんて倒して、全ての呪いを

私が引き受けたかもしれない。


「メリストス、どうしましたの?」


友達に返事するよリ先に、まず祈りを捧げた。

アントワーヌに、弔いの祈りを。


――アントワーヌに弔いの祈りを。


花が咲き誇るブルーテルの屋敷の、その中。

アントワーヌの実家では、その光景に

似つかわしくないほど激しい教育にあの子の妹が曝されていた。


「おかあさんー!!」


「勉強なさい!弟に殺されたいの!!」

雇った家庭教師の声が聞こえる。


アントワーヌは静かだった。

今となってその事実が悔しさとなって込み上げた。

あの子は教師無しで、本だけで最高峰の魔法学園に行って見せた。


アントワーヌは偉い、私の娘は二人ともいい子。

本当は様子を見に行くべきなのかもしれないけれど

アントワーヌの事を知ってしまった。

選別の為更に仕込まれた、お腹の子も気になってしまう。


フィエルという少年から、アントワーヌの行方を

手紙で尋ねられた。

…家名まで失い、草原の真ん中に放置されたらしいと。


返事をするついでに、あの子がどう勉強していたか聞いた。

…嘘だった、全て嘘だった。


学園に入ってから、関わったのはたったの3人足らず。


私とマリアと、フィエル君と、ネルさんと、ヘステス先生…

それがあの子の人生、11年間で人として関わった全員だった。


少し気になるのは、ぬいぐるみが破られていたこと。

あの子がネックレスを持っていたなら、

もしかしたら怪我をしていても止血を…出来たかもしれない。


もしそうなら…

「好きに生きて、アントワーヌ。

お母さんもうあなたを縛らない。

妹が全部、あなたの負担を引き受けるから。」


頭の中は、もう整理が付かなかった。

私もまた、この花の牢獄の中で唯一の楽しみを失った。

今はただ、災厄の時を待っているのかもしれない。


アントワーヌですらだめなら、いったいどんな子供なら家主になれるのだろう。

ただ、未来が見えなかった。

それぞれの弔いの中、アントワーヌは姿を消した。


人生で関わった全員が、アントワーヌについて全て知っているわけではない。


でも、それでもアントワーヌのその姿は


”惜しい”と思わせるだけの力を持っていた。


それが…彼らには、痛くて痛くて仕方なかった。


そして魔法少女クサダは、歩み続ける。

ただひたすらに広い、未知の大地を。

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