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その孤児は魔術の真理を知っている  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
4章

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第50話 偉大な兄の助言


 最近、一番上達したスキルは何ですか? と問われれば、僕は迷わずに『土下座です』と答えるだろう。


「貴方、何を考えていますの?」


「大変申し訳ありません」


 目で人を殺せるんじゃないかってくらい怒り散らすリゼさんは、仁王立ちしながら僕を見下ろす。


 対し、僕は滑らかかつ自然な動作で額を地面に擦り付けた。


「相手は貴方を殺そうとしていた人でしょう!? そんな人の、む、胸を触るだなんて!」


「仰る通りでございます。しかし、不可抗力でした」


「不可抗力だったとしてもあり得ませんわ! ど、どうせなら私のを……」


「はい?」


「何でもございませんわ!」


 顔を赤くしながらプイと顔を逸らす彼女を見て、頭を下げながらもちょっと笑ってしまう。


「どうしたら許してくれますか?」


「…………」


 彼女は両手を合わせてゴニョゴニョと動かしながら、チラチラとこちらを見てくる。


「……今後もずっと家まで送ってくれたら許してあげますわ」


「学園の帰りですか?」


 問うと、彼女は黙って頷く。


「分かりました! お安い御用ですよ!」


 僕はシュタッと立ち上がって「任せて下さい!」とサムズアップ。


「そ、それでもちょっと許すだけですからね! 今後も私のお願いを聞いてもらわないと困りますわ!」


「はい、構いませんよ。僕にできることなら何でもしますから」


「ふ、ふーん! そう! 考えておきますわ!」


 リゼさんはプイと顔を逸らし、ズンズンとマリィさんの元へ行ってしまう。


 ただ、彼女の背中はどこか嬉しそうだ。


 明日には普通に接してくれそう。


「大変だったな、カイル」


 リゼさんからのお説教が終わると、同情の篭った声音で肩を叩いたのは殿下だった。


「別に君が悪いわけじゃないんだがね」


「はは……。まぁ、はい」


 苦笑いで言う殿下に対し、僕も苦笑いを浮かべてしまう。


 だが、僕だってそこまで鈍感じゃない。


 リゼさんがどうして怒ったのかは分かっているつもりだ。


 あれやこれやと難しいことは考えず、ただ単純に彼女の気持ちを考えるだけなら――正直、嬉しい。


「しかし、土下座までしなくてもよかったんじゃないか?」


「いえ、甘いですよ」


 殿下に「チッチッチッ」と指を揺らす。


 そして、幼い頃に学んだ知識を披露するのだ。


「女の子が怒っていたら、たとえ自分が悪くなくても謝るべきです。それが一番丸く収まります」


 かつて、兄さんに教わった『偉大な兄が教える女の扱い方 その一』がこれだ。


 たとえ自分のせいじゃなくても、自分が関係なかったとしても、怒っている女性に謝罪して落ち着かせること。


 何が悪かったなどの議論などは不要なのだ、と兄さんは一筋の涙を流しながら言ってたっけ……。


「……金言だ」


 何故かカーク君は深く深く、何度も頷いていた。


 もしかして、彼もマリィさんとの間で似たようなことがあったのかな……。


「私も心に留めておこう」


「そうしろ」


 殿下の言葉にも即頷いていらっしゃる……。


「話は終わったか?」


 マリューさんに声を掛けられ、頷きを返すと彼女は大きなため息を吐いた。


「一体、どうしてこうなった? 教会が消え失せておるのも、あの小娘の仕業か?」


「はい」


 ここでマリューさんに事の始まりから説明する。


 特に強調したのは『コード』と呼ばれる相手の術だ。


 あれは僕らアレテイア・ホルダーの魔法と同等の威力・現象を引き起こす術であることを強く語った。


「魔法のように制限のない現象を引き起こす術だと思いますが、彼女の言っていた通り魔法とは別種の術です」


 彼女の起こした現象は精霊の力を借りていない。


 本人が言っていた通り『大いなる存在』という別種の何かから力を借りて発動させているのは、発動と同時に『煌めき』が見えなかったことも証拠となるだろう。


「大いなる存在とはなんじゃ?」


「さぁ……? ただ、彼女はそう言っていました」


「うーむ……。精霊を殺せる存在。それから力を得たコンキスタ・ドールという存在、か」


 確かに『アレテイア・ホルダー』に似ている、と彼女は唸る。


「一旦そこまでにして、王城へ行きませんか?」


 殿下はその場で考え込んでしまったマリューさんに声を掛けつつ、教会のあった方を指差す。


 そこには現場へ到着した騎士達がいて、集まって来た王都民を必死に抑えている様子があった。


「さすがに目立ちます。父上にも現状を報告しませんと」


「そうじゃな。場を移そう」


 当然ながら僕も連行され、話し合いの場は王城の――国王陛下の執務室というとんでもない場所に移されてしまった。


 執務室には現場にいた僕ら全員、そして国王陛下とカーク君の父親であるアルバルド騎士団長様が同席。


「……なるほど。状況は理解したよ」


 国王陛下の前でガチガチになりながら状況を説明すると、陛下は目頭を指で揉み始める。


 深いため息を吐く姿や息を吐く間なんてゼイン殿下にそっくりだ。


 いや、殿下が陛下に似ていると言うべきか。


 アルバルド騎士団長もぶっ太い腕を組みながら「ううむ……」なんて唸っちゃうし。


 というか、カーク君って母親似なのかな。お父さんとあまり顔が似ていない気がする。


「さすがに教会が消滅するとは思わなかったな」


「ええ」


 ――なんて現実逃避していると、陛下と騎士団長が揃って僕に顔を向ける。


「確認なんだが、戦った女性は黒魔術師のことを『別口の指示を受けた』と言ったんだね?」


「はい。そう言っていました」


「となると、コンキスタ・ドールとやらは黒魔術師達と仲間、あるいは協力関係にあるということか」


 これは厄介だぞ、と陛下が横の騎士団長に視線を向ける。


「言い方から察するに、コンキスタ・ドールの方が黒魔術師よりも立場が上なのでしょうな」


 現在、過去に起きた黒魔術師関連の事件だけでも大問題になっていたのに、そこへ『コンキスタ・ドール』という上位の存在まで現れた。


 今までの問題が更に大きくなる可能性がある、と陛下は語る。


「しかも、ただの魔術師じゃない。アレテイア・ホルダーのように魔術式を構築せず、魔法と同等と思える力を振るう存在だ」


「問題はコンキスタ・ドールという名称が個人を指しているのか、組織なのか。仮に個人だとしてコンキスタ・ドールとやらは複数いるとしたら……」

 

 騎士団長の言葉に陛下はまたしても大きなため息を吐く。


「最悪も最悪だ」


 ため息を吐いて、それでも足りないとばかりに陛下はソファーの背もたれへ体を沈めてしまった。


 ――魔法と同等の力を持ち、アレテイア・ホルダーを殺せる存在。


 そんな人間が複数人もいれば、優位性は失われてしまう。


 アレテイア・ホルダーが対抗できなかったとしたら、コンキスタ・ドールが黒魔術師達と共に大陸中で大暴れしてしまったら。


 大陸の情勢は大きく崩れるだろう。


「しかし、対抗はできたじゃろうが」


 唸る国王陛下と騎士団長に比べ、マリューさんの顔には焦りがない。


「カイルがおるじゃろうが」


 そう言って僕を見るマリューさんに続き、陛下達の視線も集まった。


「話の中で相手のコードとやらを破ったと言っていたね。それはどういうことだい? 魔法なのか?」


「それは……。その……」


 どう説明するべきか。


 ありのまま説明して、僕は信用を保てるのだろうか。


 不安を抱えるせいでなかなか言い出せずにいると、横に座っていた殿下が僕の肩に手を置いた。


「大丈夫だ。君を信じると言った言葉に嘘はない。私達も君を裏切りはしない」


 殿下に続き、リゼさん達も頷く。


「実は――」


 みんなに背中を押され、僕はありのままを陛下へ説明した。


「……記憶か。マリュー、どう思う?」


 記憶にない記憶、と言えばマリューさんだと陛下も認識しているのだろう。


 僕が見た記憶は、マリューさんがいつも口にしている「アレテイア・ホルダー」の記憶なのかどうか。


 問われたマリューさんはお茶請けのクッキーを一枚口に放り込むと――


「知らん」


 一言だけ言い放つが、陛下は「もう少し詳しく」と頭を抱えながら言った。


「私の記憶にコードなどという存在は出てこない。だから知らん。カイルが見たという記憶に関しても知らんとしか言えんし、アレテイア・ホルダー由来のものかのかも分からん」


 だが、とマリューさんは言葉を続ける。


「どうであれ、カイルは私の弟子だ」


 彼女は真っ直ぐ、陛下の目を見て言った。


「それは私も承知している。彼は息子の友人なのだからね。同時に私が守るべき国民の一人でもある」


 そして、間髪入れずに陛下も言葉を返す。


「ならば、問題はあるまい。我々はこれまで通りに動けばよいだけじゃ」


 新たな敵が現れたとしても、国防を強化しながら若い世代を育てるのだ、と彼女は語る。


「むしろ、面白くなってきたわ。アレテイア・ホルダーの力と、それを殺す力を同時に使えるとはな」


 マリューさんは僕の髪をぐしゃぐしゃと撫でる。


「本当に良い拾い物をしたもんじゃ! さすがは私! 普段の行いがいいからこそ、こんな面白い子を弟子にできたんじゃのう!」


 イーヒッヒッヒッ! と笑うマリューさんを見て、初めて「この人が師匠で良かった」と思えたかもしれない。


「ん? なんじゃ、カイル。泣きそうになっておるのか? 私が師匠でよかったと思ったんじゃろう?」


「ま、まさか……」


 本当は泣きそうになっちゃったけど絶対に泣かないぞ。


 泣いたら「感謝せい! 感謝の分だけ私の研究に付き合え!」とか言いそうだから。


「なんじゃよ~! 恥ずかしがるなよ~!」


 顔を見られないように背けると、今度は僕の頬をツンツンと突きまくってくるではないか。


 くそ……。今、マリューさんの顔を見たら確実に泣く。


 普段は適当なことばかり言うロリペタババエルフのくせに……。


「今、私のことをロリペタと言ったか?」


「い、言ってませんよ……」


 本当か? 顔見せろ、と言われるが絶対に向くもんか。


「と、とにかく! 父上、まずは情報収集から始めましょう」


「うむ、そうだな」


 殿下と陛下が頷き合い、一先ずは現状の治安維持を優先と結論を下す。


 騎士団では同時に敵の情報を探る準備を始める、とのこと。


「アレテイア・ホルダーを殺す存在か……」


 僕がアレテイア・ホルダーである以上、コンキスタ・ドールとの戦闘は避けられないのだろう。


 もしも、次に彼女と遭遇した時……。


 僕はどんな選択をすればいいのだろう。


 僕自身が生きるために彼女を殺すのか? それとも別の選択肢があるのだろうか?


 今からちゃんと考えないといけない。


ここまで読んで下さりありがとうございます。

4章は今回の投稿で終了です。


次章の投稿はリアルの都合で遅れる見込みです。

出来るだけ早く再開できるよう頑張ります…。


少しでも面白いと思って下さいましたら、ブックマークや☆を押して応援してくれると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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