№ 5 ケレス、家族旅行に行く
ケレスは王宮生活を始、ヒロの命令により、昴に家族四人とクリオネ、たぬてぃと行く事になった。そこで、意外な人物も昴に行く事となる。
ケレスの王宮生活は始まったが、あまりにも別世界での生活は合わなかった。
(うーぬ……。部屋は広すぎだし、椅子やら机やら、全て如何にも高価だし……。
落ち着かない‼ 何とかしなくては‼)
こうしてケレスに慣れない生活を変えたい気持ちや、自立したい気持ち等が募っていき、
ケレスはジャップやニックの力を借り住む場所と働き口を探し始めていた。
しかし、現実は厳しかった。
(時給はまあまあ良いけど、イザヴェルの家賃、メッチャ高い‼
こんなんじゃ生活なんて出来ない……)
ケレスが机で物件等の資料を見ながら悩み、はぁーっと、溜息をつくと、
「どうしたんだい、そんなに大きな溜息なんてついて?」
と、相変わらず爽やかなニックから声を掛けられ、
「ニックさん⁉ 中々、良い条件がなくって……」
と、言ったケレスが苦笑いをすると、
「そうだね。王都での生活は簡単じゃないから」
と、ニックから、あっさり言われてしまい、
「はは……。ですよねぇ……」
と、言って、ケレスが、また溜息をつくと、
「そんな事でアカデミーにいけるのかい?」
と、言ったニックは何かの資料をケレスの前に置いた。
「これは?」
ケレスがその資料に目を通すと、
その資料には、アカデミーの学科や試験日程、制服について等の内容が書かれてあった。
「これは今年度の物だけど、何かの参考になるんじゃないかと思ってね」
そして、爽やかに眼鏡を少し上げたニックから言われ、
「えっ⁉ どうして俺がアカデミーにいきたい事を知ってんですか?」
と、驚いたケレスが尋ねると、
「君のお姉さんに聞いたんだ」
と、爽やかに答えたニックを見て、ケレスは気になっていた事を尋ねてみる事にした。
「あの、ニックさん……。あなたと姉ちゃんって、どんな関係なんですか?」
それを尋ねた後でケレスが、じぃーとニックを見ると、
「ケレス君。僕は、アカデミーの医学部を出てるんだ。
アカデミーでは、一年生と二年生との合同ゼミがあってね、
僕が二年生の時、君のお姉さんは一年生で、そこで君のお姉さんと会ったんだ」
と、一瞬答えに困った様だったが、ニックは説明し、
「へぇぇ。そういうのがあるんだ……」
と、ケレスが感心していると、
「ケレス君、君もいずれいくんなら、何か他に聞きたい事はないのかい?」
と、ニックは話をはぐらかしたので、
(姉ちゃんとの事、何かありそうだけど、これ以上はやめておこう!)
と、ケレスは空気を読み、
「じゃあ、殿下とはどんな関係なんですか?」
と、話しを変えた。
すると、
「おいおい……。今度は、ヒロの事かい? まあ、良いが。
ヒロもアカデミーを出ていてね、僕と同期なんだ。
そこで彼に絡まれてしまって。そこからこういう関係さ!」
と、ニックは教えた後、ふっと笑い、、
「昔から変わった人だったんですね」
と、言ったケレスも、ふふっと笑うと、
「かなりの変わり物だけど、良い奴さ!」
と、ニックは爽やかに笑いながら言ったが、
「誰が変わり者だって?」
と、何所からともなくヒロの声が聞こえ、
「えっ⁉ 殿下?」
と、ケレスが辺りを見渡すと、ヒロは何故か窓から入って来た。
「えぇっーー⁉ 何してんですか‼」
突然のヒロの登場にやっぱり叫んだケレスに、
「そんなに喜んでくれるとは!光栄だ!」
と、してやったりという顔をした悪戯好きのヒロは喜び、
「ヒロ。行儀が悪いぞ」
と、言ったニックは相変わらず澄ました顔のままだった。
(この変わり者達には付いて行けない!)
その変わり者の二人をケレスがそういう目で見ていると、
「ヒロ、悪戯も良いが、何か彼に話があるんじゃないのかい?」
と、ヒロを見たニックから言われ、
「ああ、そうだった! ケレス、お前明日暇だろ? ミューに付き合え!」
と、唐突に真顔になったヒロはケレスに注文し、
「はっ⁉ いきなり何を言い出すんですか?」
と、ケレスがパチクリと瞬きしてそのヒロを見て尋ねると、
「明日、ミューを昴に向かわすんだ。だから、付き合え」
と、ヒロからとんでもない答えが返ってきた。
「ヒロ⁉ ミュー様をもう昴に向かわせるのかい?」
そのヒロの注文は、あのニックでさえ驚かせ、
(昴だって⁉ 何でそんな所にミューが行くんだ⁉)
と、勿論、ケレスも心臓が飛び出る程驚き、また、ケレスに謎が増えた。
昴とは、この世界の中心で、多くの精霊神が住んでいる場所である。
そこには、世界樹と言われる世界のマナの大元になる木があり、
その世界樹は、世界で一番偉い神、光羊の神 アマテラス神が下立つ場所となっている。
そして、世界樹を守り、祈りの力で神々と交流できる者をダーナと呼び、
昴は、ダーナが住んでいる里でもある。
こんな事ぐらいはケレスでも聞いた事はあるが、ダーナはとても高貴な存在とされており、
会える事等はなく、まして、ケレスが昴に行く事等、以ての外だった。
「あの……、何故ミューが昴に行くんですか?」
まだ鼓動が速くなっているケレスが尋ねると、
「それは、ミューの為だと今は言っておこう」
と、ヒロはあまり教えてくれず、
「じゃあ、俺は何故行くんですか?」
と、一呼吸したケレスが尋ねると、
「「何か不都合な事でも?」
と、答えたヒロから鋭い眼光で睨まれ、
(うわぁ……。怖っ‼ あの目には、逆らえない‼)
と、ケレスは、しぶしぶ同意するしかなかった。
そんなケレスはその日の夜、中々眠れなかった。
(何故、昴みたいな所にミューは行くんだ? 王家の事? それとも…………)
と、ケレスが考えても答えは出ず、
「だあぁーーっ‼ やめやめ‼ もう、こんな時間じゃないか⁉ 明日、起きれなくなる‼」
と、叫んで瞳を閉じたが、結局、ケレスの睡眠時間は一時間にも満たなかった。
そして、次の日の朝、ケレスは瞼が半分しか開かず、太陽の光が憎かった。
それでも、
「ケレス、おはよう。良く眠れた?」
と、言いながらケレスの部屋に来たミューは元気そうで、
「おはよう。俺は、眠れなかった……」
と、言った寝ぼけ眼のケレスを見て、
「そうなんだ……。でも、ケレスが緊張してどうするの?」
と、言ったミューは呆れてしまったが、
「俺は緊張してたんじゃない‼ どうしてお前が昴なんて所に行くのかを考えてただけだ‼」
と、ケレスが開きそうにない瞼を精一杯開け言うと、
「ケレス……。私達、今日アマテラス様の御加護を享けに行くの。
それを享けれないと、私は、この国の女王になれないから……」
と、言ったミューはケレスを思いつめた様な目で、じっと見つめた。
その言葉を聴いたケレスの眠気は飛んだ。
そして、
「大丈夫だって! 絶対に、享けてみせるから‼」
と、言ったミューは明るく笑ってはいたが、
(ミューの奴、また無理してるな……)
と、ケレスは感じ、
「ミュー。俺も行くから!」
と、今の自分に言える最大限の事を言うと、
「ありがとう、ケレス」
と、言ったミューの顔は穏やかになった。
それから支度を終え、今日の集合場所である謁見の間に着いた。
すると、
「おーい、ケレス! 遅いぞ? 一番近くから来れたくせに!」
と、陽気なジャップに手を振られ、
「兄貴⁉ どうしてここに?」
と、言ったケレスが目を丸くすると、
「俺だけじゃないぞ。姉貴も、いるぜ!」
と言った、ジャップの隣には、
「ケレス君。おはよう」
と、眠っている たぬてぃがのっている大きめの荷物と、ラニーニャがいて、そう言われた。
「姉ちゃん、おはよう。てかその荷物、どうしたんだ?」
そして、ケレスがその荷物を見て聞くと、
「だって、初めてみんなで遠出するんだよ? あれも、これもって考えてたら、つい……」
と、目が少し充血しているラニーニャは、恥ずかしそうに答え、
「もしかして、姉ちゃんも眠れなかった?」
と、ケレスが、ははっと笑ってつっこんでみると、
「へへっ、バレた? 今朝も早くから目が覚めちゃってさ。
お弁当に何を入れようって考えてたんだ!」
と、ラニーニャは照れながら言った。
しかし、四人で他愛ない話を続けていると、
「本当に馬鹿じゃないの? 日帰りにそんな大荷物抱えてさ。
それに、食事ぐらい龍宮家で提供されそんな物を食べる事なんてないのに」
と、人を馬鹿にする様な言い方をし眉間にしわが寄っている龍宮 アルトが現れた。
「お前は、龍宮 アルト⁉ 何でいるんだ?」
その龍宮 アルトを見たケレスは嫌悪感たっぷりな顔で叫び、
「何だ? ケレス、知り合いか?」
と、言ったジャップは興味津々な顔で龍宮 アルトを見たので、
「知り合いじゃあない‼ すごぉーく嫌味で、性格が曲がった奴で、関わらない方が良い奴だ‼」
と、龍宮 アルトを紹介したケレスの息は粗くなってしまい、
「君……。随分、失礼だね。今日は僕が案内してやるって言うのに」
と、言った龍宮 アルトも嫌悪感を前面に出した。
「な、何だって⁉ 何でこいつなんだ‼」
驚きの発表にまたもや、ケレスが叫ぶと、
「ケレス落ち着いて‼ 今日、私達が行かなきゃいけない所は彼の力がないと行けない所なの!」
と、言ったミューがケレスを宥めたが、
(よりによって何でこいつ⁉ 大体、今日は昴に行くんだぞ? こんな奴なんかが行ける訳ない‼)
と、龍宮 アルトに対する苛立ちをケレスは抑えつけるだけで精一杯になり、
顔がさらに引きつってしまったが、
「まあ、今日は初めての家族旅行だ。楽しくいこうや!」
と、言ったジャップから、ポンッと右肩に手を置かれると、ケレスは、苛立ちを抑える事が出来た。
それからケレス達は五人+二体で昴に向かう事となり、王宮の外に出た。
そして、
「なあ、兄貴。どうやって昴まで行くんだ?」
と、聞いたケレスがジャップを見ると、
「あれに乗って行くみたいだ」
と、ラニーニャの荷物を抱えたジャップは答え、ある物を指で差した。
ジャップが差した先には、立派な青い海の様な色をした飛行機があった。
「あれか……。俺、飛行機に乗るのって初めてだけど、何か変な形をしてるな」
そして、思った事をケレスが言うと、
「変わってて悪かったね! これを唯の飛行機と思わない事だね。
いいかい? これは僕の自家用機で水陸両用の飛行艇さ‼」
と、眉間にしわを寄せた龍宮 アルトから説明され、
「自家用機だと⁉」
と、雷が落ちた様な衝撃が走ったケレスはまた思わず叫んでしまい、
(世の中には自家用機を持っている金持ちが本当にいるんだ……)
と、現実を見せつけられたケレスは肩を落とし飛行艇に乗り込んだ。
そんなケレスが乗った飛行艇の中は、まるで豪華な家だった。
飛行艇というのに広い部屋に豪華な家具一式が揃い生活出来る空間となっていて、
さらに別の部屋まである様だった。
「スゲエ‼ これ、お前の飛行艇か?」
その部屋を見渡しながらジャップがはしゃぐと、
「君……、聞いてたのかい? 僕の飛行艇って、言ったのに?
まあいいさ。僕はこれで毎日アカデミーに水鏡の国から通ってるんだ」
と、龍宮 アルトはジャップと目を合わせずに教え、
(はっ⁉ これで毎日通ってるだと⁉ 金持ちの考えは、わからん‼)
と、悔しがっているケレスが歯ぎしりしていると、
「これで通うのって大変じゃない? 凄いね」
と、言ったラニーニャは驚を息にのせ吐いた。
すると、
「除籍になった君から心配されるとは思ってもみなかったよ」
と、言って、龍宮 アルトはまたラニーニャを馬鹿にしたが、
「アルト。姉貴は除籍になんかなってねえぞ?」
と、透かさず、ジャップに言われ、
「君も騙されてるだけじゃないのかい? それより、呼び捨てはやめたまえ!」
と、言って、龍宮アルトがジャップを睨むと、
「何で姉貴が俺に嘘をついてるって思うんだ? アルト?」
と、言ったジャップから龍宮 アルトは笑われた。
「僕が先に聞いたんだ‼ それに僕を呼び捨てにするな‼」
そして、そう言った龍宮 アルトの眉間のしわはさらに深くなったが、
「なあ、アルト。姉貴はアルトが思ってるより凄い奴だぜ?」
と、それに怯まずジャップがラニーニャを褒めると、
「君さ……。何で他人を信じれるんだい?」
と、言った龍宮 アルトは声を震わせた。
すると、
「姉貴は、家族だ! それに、俺達、四人共な‼」
と、ジャップは自信満々に答えたが、
「そんなの答えになってないよ……」
と、龍宮 アルトは言い残し、部屋を出てしまった。
「どうしたんだ? あいつ、具合でも悪くなったのか?」
そんな龍宮 アルトをジャップが心配したので、
「兄貴‼ あんな意地の悪い奴の心配なんかしなくてもいい‼」
と、ケレスは助言したが、
「あいつは良い奴だと思うがな……」
と、ジャップから意外な事を言われ、
「何言ってんだ‼ あいつは……」
と、ケレスが、まだ龍宮 アルトの悪いところを言いかけると、
「姉貴、腹減った。弁当、作ってくれてんだろ?」
と、言ったジャップはケレスとの会話を終わらせ、
「うん! 今日はサンドイッチを作ったんだ!」
と、言ったラニーニャは荷物から弁当箱を取り出し、それを開けた瞬間、
パンと、野菜の香りが広がった。
すると、
「おっ! 俺の好きなカツサンドあるじゃん‼ いただきっと‼」
と、言ったジャップはカツサンドを取ったが、
「お兄ちゃん⁉ 手を洗わなきゃ‼」
と、注意したミューからお手拭きを渡され、
「すまんな。ミューは、何にするか?」
と、手を拭きながらジャップがミューを見て聞くと、
「うーんとね……、私はタマゴサンドがいいな!」
と、答えたミューはタマゴサンドを取った。
(何だ。みんなも朝食食ってねえんだ……)
そして、ケレスが三人のやり取りを見ていると、ケレスの腹の虫が、ぐうぅーっと鳴り、
「ケレスも食べようよ! 美味しいから!」
と、ミューに促され、ケレスもサンドイッチに有り付いた。
それからサンドイッチを食べながら色々と四人で話した。
「ケレス。お前、アカデミーにいくんだな?」
その会話の中でジャップに聞かれ、
「ああ、いく‼ 絶対に‼」
と、勿論ケレスがそう答えると、
「そうか……」
と、言ったジャップはラニーニャを見て、それからケレスを真直ぐ見つめ、
「俺達、いつも応援してるからな!」
と、言った言葉はケレスに強い勇気を与えてくれた。
すると、窓の外に綺麗な虹が出現した。
「凄い‼ あの綺麗な虹がケレス君を応援してるみたい‼」
その虹を見たラニーニャが声を弾ませると、
(こんな形だけど家族旅行って良いな!)
と、ケレスも何だか自分の未来があの虹の様に輝けるものに思えてきた。
それから暫く、四人+二体で虹を眺めていると、遠くの海に島が幾つか見える様になり、
「おっ! 見えてきたぞ‼ あれが、水鏡の国の島々だ‼」
と、ジャップが知らせた。
そして、島々がはっきりと見えてくると、そこは宝珠の国とは別世界だった。
青い海は太陽の光を反射し海面でキラキラとその太陽の光の破片は散らばって輝き、
その海の輝きと島々の雄大な自然の美しさの緑は互いを引き立て合っていた。
暫くケレス達がその世界に見入っていると、
「そろそろ着水するから、座ってくれるかい?」
と、いつの間にか傍にいた龍宮 アルトが冷たく言った後、
飛行艇は、水鏡の国で一番大きな島にある湖の上へと着水した。
ケレス君、初めての家族旅行は、どう? 楽しめてる?
なっ⁉ 家族水入らずなのに、邪魔が入っただって⁉
まあまあ、そんな事、言わないで楽しんでくだされ!
そんな家族旅行後半の話は、【ケレス、旅先で光と闇を知る】だ……。
って、光は、わかるけど、闇って何だろう……。