№ 31 ケレス、白山で小さき王都再会する
アクベンスの洞窟に入ったケレス達に誰かのすすり泣く声が聞こえて来た。
その声に気を盗られたケレスに大きな雪の塊が襲いかかる。
その雪の塊を投げつけた犯人と遭遇したケレス達は……。
ケレス達はアクベンスの洞窟の入り口まで来た。
すると、アクベンスの洞窟は噂通り本当に氷で出来ていた。
そして、アクベンスの洞窟の入り口はケレスの身長より少しだけ高いぐらいだったので、
ユルグから降りてケレス達はアクベンスの洞窟に入る事となった。
それからアクベンスの洞窟に入って暫く歩くと、中は縦も横も広く、
さらに洞窟の中というのに明るく、足元がはっきりと見えた。
「へぇ、中はこんな感じなんだ!」
そんなアクベンスの洞窟をケレスが呑気に見渡していると、誰かのすすり泣く声が聞こえ、
「へっ⁉ 誰かいるのか?」
と、言って、その声に驚いたケレスが声の主を探していると、
「小童よ‼ 気を付けるのじゃ‼」
と、ケレスの帽子の中から長の叫び声が聞こえ、
「えっ⁉ 長殿? どういう……」
と、ケレスが言ったその時、ケレスは腕を思いっきり引っ張られた。
すると、ケレスがいた場所に、ドシャーン‼という音と共に、ケレスより大きな雪の塊が落ちてきた。
「でえぇーー⁉ な、何だ、これ⁉」
その雪の塊だったものを見たケレスが腰を抜かすと、
「大丈夫か? ケレス!」
と、ケレスの腕を引っ張ったジャップから言われ、
「兄貴、助かったぜ! でも、これは一体、何なんだ?」
と、ほっとしたケレスが立ち上がって言うと、
「さあな。だが、氷の番人って奴の仕業かもな」
と、言ったジャップは身構え、
「ヒャーーーゴ‼」
と、エーリガルは何かを知らせる様に叫んだので、
「エーリガル⁉ どうした?」
と、叫んだケレスがエーリガルを見ると、エーリガルとユルグは何かに警戒している様だった。
そして、ケレスがエーリガル達が警戒している方を見ると、
ケレスの膝くらいの高さの二足歩行の何かが数体いて、ケレス達を睨んでいる様だった。
「何だ⁉ こいつ等‼」
そいつ等をまじまじと見たケレスは思わずそう叫んだ。
何故なら、キーキー鳴くケレスの膝くらいの大きさの奴等は薄手の着物を着て、裸足に草履をはき、
色白の肌で透き通る様な青色の瞳を持った人の子供の様な姿をしていたからである。
だが、その短髪の白髪の頭から一本の角が生えており、どう見ても鬼だったのだ。
「きーーー‼」
そして、そいつ等の数体が共鳴する様に鳴くと、
そいつ等の頭の上にケレスより大きな雪の塊が出来、それはふわふわと宙に浮いていた。
「はっ⁉ 何であんなのが浮いてんだ⁉」
それを見たケレスがまた腰を抜かし、そう叫ぶと、
「きーーーーーーー‼」
と、子供の鬼も叫び、宙に浮いていた雪の塊がエーリガルを目がけ飛んできたが、
「エーリガル‼」
と、叫んだケレスの心配をよそに、エーリガルはいとも簡単に自身の牙でそれを打ち砕いた。
「エーリガル! スゲエ‼」
だが、そう言ったケレスの顔が綻んだのも束の間、
「ケレス‼ 気を抜くな‼ こっちにも来るぞ‼」
と、ジャップの叫び声と共に、ケレス達を目がけいくつもの雪の塊が飛んで来て、
「でえぇ⁉ また来るぅ‼」
と、叫び、ケレスが自身の頭を守る様に身構えると、
「でりゃぁーーーー‼」
と、ジャップが叫びながらその雪の塊達を自身の斧で打ち壊した。
「兄貴! スゲエ‼」
そして、ジャップの雄姿を見たケレスが喜ぶと、
「きーーーーー‼」
と、数体の子供の鬼が悔しそうに叫び、さらに多くの雪の塊を発生させ、
それ等がケレス達をとり囲む様に集まってきた。
「げえぇ‼ どうすんだ、兄貴?」
万事が休止、腰が抜けたままのケレスが、ジャップとその雪の塊を交互に見ると、
「全部、壊すしかねえだろ‼」
と、言ったジャップは戦闘態勢を崩さなかったが、
「そんな無茶な‼」
と、言って、ケレスがジャップを止め様とすると、
「その通りじゃな。小童……」
と、帽子の中から冷静な長の声が聞こえ、
「……全く、悪戯がすぎるぞ、餓鬼共よ」
と、長の静かな怒りに満ちている声が聞えると、不思議な事にその全ての雪の塊は粉々に砕け落ちた。
「キィィー⁉」
すると、それを見た子供の鬼は動揺し、子供の鬼同士で騒めき合っていたが、、
叫びながら別の子供の鬼が吹き飛ばされ、氷の壁にぶつかった。
「な、何だ⁉」
そして、ケレスがその子供の鬼を見ると、
「雑魚が……。俺様に攻撃するから、そうなるんだよ!」
と、言ったフェイトが高笑いし出し、
(フェイト……。やっぱ、つえぇなぁ)
と、それを見たケレスの心に複雑な思いが生まれると、
「キイーーーーー‼」
と、他の子供の鬼が、一斉に叫んだ。
すると、そいつ等より大分大きく深い青色の瞳を持った化け物の様な顔をし、腰布をはいて、
二本の角を生やした氷の鬼が二体現れ、持っていた氷の棍棒を振り下ろした。
そして、その棍棒が振り下ろされると同時に洞窟の中は吹雪が吹き荒れ、辺りは一気に寒くなった。
「どえぇーー⁉ 防寒具着てんのに、寒いぃ‼ 長殿ぉ何とかならないのか‼」
それからふるえているケレスが何とかそう言うと、
「まあ、やってみるかのう」
と、帽子の中から長の冷静な声が聞こえ、吹雪は一瞬で消え、寒さはなくなり、
「何か長殿、凄すぎだ! 助かったよ‼」
と、長の凄さでほっとしたケレスがそう言って立ち上がると、
「ふむ。まあ、これぐらい赤子の手を捻る様なものじゃ」
と、長はまたその台詞を言ったので、
「長殿。その言葉好きだな!」
と、笑いながら言ったケレスが両手の指で帽子の中の長を突いていると、
「ギイィィィ……」
と、棍棒を持った一体の氷の鬼が、徐にケレスに近づいて来た。
「いぃっ‼ な、何かあいつ怒ってる⁉」
そして、その氷の鬼の迫力に焦ったケレスが後退りすると、
「ケレス! 下がってろ‼ お前の相手は俺だ‼」
と、怒鳴ったジャップがケレスの前に立ち塞がり、棍棒を持った氷の鬼を睨みつけたが、
何故か、そのジャップの前にラニーニャが立ち塞がり、
「姉貴⁉ どいてろ‼」
と、ジャップはラニーニャをどかそうとしたが、ラニーニャはジャップを見つめ、首を横に振った。
「姉ちゃん⁉ どういうつもりだ?」
そのラニーニャを見ていたケレスが動揺し動けずにいると、
「おい⁉ たぬてぃ‼ 離れろ‼」
と、フェイトの怒鳴り声が聞こえ、ケレスがフェイトの方を見ると、
たぬてぃの影踏みによりフェイトの身動きは止められており、
「姉ちゃん⁉ どういうつもりだ‼」
と、ラニーニャの謎な行為の真相を知りたいケレスが叫んでラニーニャの傍に行こうとしたが、
「これっ‼ あの娘を見守ってやるのじゃ‼」
と、怒鳴った長からケレスは髪を引っ張られ、
「痛たたた‼ 長殿?」
と、叫んだケレスの身動きが停められるとラニーニャは先程フェイトが飛ばした子供の鬼の所に行き、
優しくその子供の鬼の頭を撫でた。
すると、
「キイィ?」
と、その子供の鬼は不思議そうに鳴いてラニーニャを見つめたが、
ラニーニャが優しく笑い掛けた後 治癒術を施すと、
「キイイ⁉」
と、鳴いたその子供の鬼の傷は治り、その子供の鬼の周りに他の子供の鬼達が集まって来た。
そして、その子供の鬼達は一斉に嬉しそうな声を出し飛び跳ね、
それからラニーニャは先程の棍棒を持った氷の鬼の所に行き、膝を地面につけ頭を下げた。
「ね、姉ちゃん⁉ 危ない‼」
それを目にしたケレスが叫んだが、
「ヒャーーーゴ‼」
と、ラニーニャの傍に集まって来たエーリガル達、三体が一斉に鳴くと、
それを見た棍棒を持った氷の鬼はラニーニャ達を暫く見つめた後、棍棒を下げ、戦闘態勢を解いた。
「ギィ……」
そして、寂しそうに鳴いたその棍棒を持った氷の鬼は何処かへ行こうとしたが振り返り、
ラニーニャ達を見つめてきたので、
(何なんだ?)
と、思ったケレスがその棍棒を持った氷の鬼を見ていると、
もう一体の棍棒を持った氷の鬼がラニーニャに近づいて鳴き、ラニーニャの服を引っ張ってきた。
それからその棍棒を持った氷の鬼と目を合わせたラニーニャは軽く頷き、
その棍棒を持った氷の鬼の案内で何処かへ行こうとしたので、
「あっ⁉ 姉ちゃん‼」
と、ケレスはラニーニャを呼び止めたが、ラニーニャはそのまま行ってしまい、
「おい、ケレス! 追いかけるぞ!」
と、ジャップと、ケレスはラニーニャの後を追い掛けた。
そのラニーニャは棍棒を持った氷の鬼の案内でアクベンスの洞窟の奥へと歩いて行き、
その後にエーリガル達が行き、その後をケレス達は続いた。
(何処に行くんだろう?)
そう思いつつもケレスは黙ってラニーニャ達の後を続いていたが、
「キイィーーー!」
と、数体の子供の鬼がケレスの周りに集まって来て、
ケレスの掌ぐらいの雪玉をケレスの顔にぶつけてはしゃぐ様に鳴き、
「うわっ、冷たっ⁉ びっくりした!」
と、言って、ケレスが顔に付いた雪を拭うと、さらにその子供の鬼達は、はしゃぎ出した。
「何なんだ?」
そして、その子供の鬼達を見たケレスが首を傾げていると、
「こやつ等は、雪ん子じゃ。雪の精霊で、かなりの悪戯好きでの……。
はしゃぐのが趣味みたいなものじゃて」
と、まだ帽子の中にいる長から教えられ、
「はしゃぐだって⁉ あの雪の塊をぶつけ様としたのがかぁ?」
と、少し前の事を思い出し言ったケレスの目が見開くと、
「まあ、あれは違うじゃろうて。
今は小童達に警戒心を持ってはおらぬので、はしゃいでおるだけじゃ」
と、長は冷静に説明した。
「そんなもんかい‼」
少々苛立ったが、改めてケレスが雪ん子達を見ると、どうやら彼等は全部で八体いて、
棍棒を持った氷の鬼を加えると、全部で一〇体いた。
「なあ、長殿。あの氷の棍棒を持った奴も、雪ん子なのか?」
その大分見た目が違う彼等を見て気になった事をケレスが聞くと、
「いいや。あれは、氷柱鬼じゃな。
氷の精霊で雪ん子とは違って、かなり乱暴者じゃて。
気を逆立てぬ事じゃな。あの氷の棍棒で氷柱にされてしまうぞ?」
と、帽子の中にいる長から教えられ、
「そうだったのか……。危なかった!」
と、言ったケレスが胸を撫で下ろすと、
「ふむ。そろそろ着いたみたいじゃぞ」
と、長から知らされ、
「着いたって、何処にだ?」
と、ケレスが言うと、先程も聞えたすすり泣く声がまた聞こえてきた。
その声を良く聴くと、その声は少年の様で、
「嫌だ……。何で、俺は生まれてきたんだ……」
と、泣きながら言っていたので、
「どうしたんだ? 何でそんな事を言ってるんだ?」
と、言ったケレスは首を傾げた。
そして、ケレスはその理由を考えた。
だが、答えは出なかった。
そんなケレスが足を進めるとケレス達の前に氷の台座が見え出し、
その上に真っ白い小さなウリ坊が蹲っていた。
「あれは、もしかしてゴンズ様か?」
それを見たケレスがそう言うと、
「そうじゃな。小童達の言葉を借りるならば、新生ゴンズといったところじゃ」
と、長の声が聞こえ、
「やっぱり、ゴンズ様は代替わりを成功させてたんだ!
けど、何で泣いてんだ?」
と、言ったケレスがまた首を傾げると、
「ふむ。まあ、それは当人に聞くしかないじゃろう」
と、また長の声が聞こえ、
「当人って……」
と、言って、ケレスが新生ゴンズを見ると、
新生ゴンズは俯いたまま、駄々をこねる様に泣き続けていた。
(ゴンズ様はどうしたんだ?)
この時のケレスには新生ゴンズの気持はわからなかった。
だが、この後ケレスはその理由を知る事となる。
ケレス君。
今回はちょいと冒険っぽくしたかったの♪
久しぶりに戦闘を書きたかったしね!
でも……やっぱり君を格好良くは書けなかった……。
えっ? いつもいつもだらしないケレス君を書くなって?
うーーん……。
それは無理なご相談だねぇ~
それがケレス君だもの♪
あっ⁉ でもでも、次からは少しは主人公っぽくなるかもよん?
期待しててね!
そゆ訳で、 次話のタイトルコールいっとこ!
【ケレス、争いの後に望みを掴む】にゃのだ☆




