番外編 龍宮 アルトの憂鬱 8
アルトはラニーニャの祖父と話し合う事となった。
そこでラニーニャの祖父から罵倒されてもアルトの揺るぎない覚悟を伝える。
すると、ラニーニャの祖父から一六年前の真相を聴かされ、そして、アルトが出した答えとは……。
アルトを玄関先で怒鳴りつけたのはラニーニャの祖父だった。
そして、そのラニーニャの祖父の部屋でアルトは彼と正座し向かい合って話す事となったが、
先程よりか幾段か緩んだ表情とはいえ、無言の彼からはまだアルトに圧力が掛けられていた。
だが、アルトはその威圧感に負けず彼の目を真直ぐ見つめた。
すると、彼の思い口が開いた。
「お前さんは、龍宮の者じゃな?」
まずは、彼のこの問いから始まった。
「はい。先程も申した通り、僕は龍宮家 レサトが嫡男、龍宮 アルトです。
以後、お見知りおきを」
その問いに、アルトがこう答えると、
「お前さん……、何が目的じゃ?」
と、問うた彼の目は鋭いものへと変わった。
「僕の目的……ですか?」
目的という言葉を聴いて、アルトは答えに迷った。
何故なら、目的等なかったからである。
だから、
「目的なんかありません。僕は、先輩の傍で先輩を守る。
僕は僕にそう誓ったんです!」
と、アルトは、はっきりと己の覚悟を伝えた。
すると、そのアルトの覚悟を伝えられた彼からは暫く黙った後、乾いた笑いが生まれた。
「何がおかしいのですか?」
その彼の笑いで一瞬アルトの息が詰まると、
「おかしいに決まっておろう? お前さん、チビが何者か知っておるのか?」
と、笑い終えない内に彼から問いが投げられ、
「チビ? チビとは、先輩の事ですか?」
と、アルトが確認すると、
「そうじゃ。あの娘の事じゃ」
と、言った彼からは笑い声が消え、代わりにアルトに殺気が向けられた。
そして、アルトに何も言わせる間もなく彼はこう告げた。
「あの娘はの……、世界に災いを齎す者じゃ!
お前さん達を不幸にする、災いの現況なのじゃ‼
そしてあの娘こそが一六年前の大恐慌を引き起こした張本人なのじゃ‼
龍宮の者、この意味がわかる、かの?」
彼から告げられた事実は、アルトの想像を超えていた。
ダーナであるラニーニャが昴から堕とされた理由。
そして、龍宮家の者が、ラニーニャの存在を知らなかった理由。
その理由はこれだったのだ。
これ程までにラニーニャが重き十字架を背負っているとはアルトは到底想像出来なかった。
だが、アルトは腑に落ちないでいた。
それは、彼が告げた事がアルトが辿り着いた真実とは真逆だったからである。
納得出来ないアルトはアルトが辿り着いた真実を彼にぶつけた。
すると、彼からはまた乾いた笑いが生まれた。
「龍宮の者よ、笑わす出ないわ‼
その様な戯言を言うなんぞ片腹痛いわ!
他の誰かに聞かれ恥を掻く前に水鏡の国に帰る事じゃな‼」
それからアルトは彼から腹を抱え笑われた揚句、こう罵倒された。
それでもアルトは怯む事なく彼の目を真直ぐ見つめた。
「何じゃ? 恥ずかしくなり、ぐうの音も出らぬのか?
ならば、帰るが良い!
それがお前さんの為じゃからの……」
すると、そんなアルトに彼が労わりの心を見せたので、
「断ります」
と、涼し気な顔でアルトは告げ、
「な、何じゃと⁉ お前さん、自分が何を言うとるのかわかっておるのか?」
と、アルトから告げられた彼はその大柄の体を揺らす程 動揺してしまったが、
「はい、先程も申した通り、僕は先輩の傍で先輩を守る!
例え、先輩が僕達に災いを齎そうとも、僕は僕にそう誓ったんです。
誰が何と言おうと、これだけは譲れませんから!」
と、アルトは揺るぎないアルトの覚悟を伝えた。
そのアルトの覚悟を聴いた彼は暫しの間、魂が抜けた様に呆然となっていたが、
「お前さん……。そのつまらん覚悟で、龍宮を捨てる事になるのじゃぞ?
いや、命ですら、捨てる事になるのじゃぞ……。
お前さんの未来は、無くなるんじゃ……。
お前さんは、世界の全てを敵にまわすのじゃぞ?
そんな事で良い訳がなかろう……。
お前さんまで苦しまんでもいいんじゃ‼
この苦しみは儂等だけで良いんじゃ‼
頼むから、儂等を放っておいてくれ‼」
と、話した後、アルトに深々と頭を下げた。
彼の言葉、態度からは彼等の苦しみが伝わってきた。
二人寄り添って生きてこなければ、彼等は生きて来れなかったのだろう。
アルトにもその気持ちだけはわかった。
だが、彼等が背負っている苦しみがここまでだったとは想像出来なかった。
そんな想像も出来ない苦しみを背負った彼等にどんな言葉を掛けても月並みにしかならない。
それがわかっているアルトに出来る事は、こうしかなかった。
「申し訳ありません。僕は先輩と約束したんです。
先輩の傍にいると。一緒に乗り超えると!
ですので、僕は、あなた方を放っておく訳にはいかないのです」
そう、アルトは彼に優しくこう語り掛け、
「ほんの少しだけで、いいんです……。
僕にも、その苦しみを背負わせてください
お願いします」
と、続け、彼同様深々と頭を下げた。
アルトは頭を下げている間、瞳を閉じ願い続けた。
ラニーニャと、その祖父の力になりたい。
ラニーニャ達の支えとなり、ラニーニャ達が穏やかに笑っていられる世界をつくりたい。
そう、願い続けた。
すると、
「キャ?」
と、いつの間にか傍にいたバルが、「大丈夫?」と言う様に鳴いたので、
「バル君……」
と、顔を上げたアルトがバルを見て言うと、
「キャァ!」
と、鳴いたバルから、アルトは大切な事を教えられ、
「……そうだね。 君もいるんだ!」
と、それを言葉にしたアルトは笑った。
そして、
「先輩のお爺様、どうか顔を上げてください。
どんなにあなたが懇願しようとも、僕達はあなた方の傍にいますから!」
と、アルトが、アルトとバルの意思を伝えると、
「お前さん……」
と、やっと顔を上げて呟いた彼の顔は苦しそうだったが、
「キャァ!」
と、その彼にバルが鳴いて駆け寄ると、
「バルや……」
と、言った彼の顔は穏やかになり、優しくバルの頭を撫でた。
それから暫くしてアルトは彼ともう一度話す事となった。
「では、スレイプニルとは馬のお姿をした精霊神なのですね」
そこでアルトがそう確認すると、
「そうじゃ。スレイプニル様は鬣は枯れ葉色で、体毛はオリーブ色での。
瞳は美しい山藍すり色を持たれておるのじゃ。
それが黒いまつ毛の間から覗かせておる」
と、彼は事細やかにスレイプニルの説明をし、
「では、彼の命はいつ、尽きるのですか?」
と、アルトが聞き難い事を尋ねると、
「はっきりとはわからぬが、もうじきという事だけはわかっておる……」
と、鎮痛の面持ちの彼からそう返答があり、
「そうですか……」
と、胸に何かが刺さったアルトが眉間にしわを寄せ唇を噛みしめると、
「せめて、あの娘が生きている間にそれが訪れてほしくなかったの……」
と、彼はぽつりと呟いた。
すると、彼に寄り添っていたバルが彼の顔を見上げて悲しそうに鳴き、
その声を聞いたアルトの胸に刺さっていた何かは、アルトの心にまで到達した。
大切な人に、先立たれる。
これは、とても辛く苦しい事だ。
自分であんな事を言ったものの、アルトの大切な人がそうなった時、
逃れられない宿命という言葉だけで果たしてその現実を受け入れる事が出来るのか。
誰かが傍にいて、何が出来るのか。
アルトは自問自答し続けた。
すると、
「龍宮の者。そう気負いこむ出ないわ」
と、そんなアルトは彼から優しく声を掛けられ、
「申し訳ありません……」
と、言えたアルトの心に何か刺さっていたものの痛みは軽減し、
「いいんじゃよ。お前さんはさっきチビを救ってくれたんじゃからの。
それだけで儂は本当は満足しとるんじゃから」
と、言った言葉とアルトの左肩に置かれた彼の手からもその痛みは軽減され、
そのおかげでアルトはまた彼と真直ぐ見つめ合って話す事が出来た。
そんなアルトと彼の話し合いは夜更けまで続いた。
「一つお聞き致しますが、先輩のお爺様。
あなたは、ダーナですか?」
アルトは彼と話し合う中で、最後にこの問いをぶつけた。
何故なら、この問いはかなり重要なものだったからである。
「いいや。儂はダーナではない」
しかし、彼の返答はこうだった。
彼の返答は期待外れだったのだ。
それが顔に出てしまったアルトが一つ溜息をつくと、
「なあに。お前さんが心配しておる事にはならんよ。
そこは、あの娘の力を信じても良いぞ」
と、穏やかな顔の彼はこう話を続け、
「そうですか……」
と、言ったアルトは胸を撫で下ろしたが、
じゃが……」
と、彼は言葉を詰まらせたので、
「ですが、ダーナの神話、ですね?」
と、アルトが彼が詰まらせた事を代わりに言葉にすると、
「さすが龍宮の者じゃの……」
と、言った彼は深い溜息をついた。
代替わり。
これは、いつ、何所で行われていたのか、明確な資料は残っていない。
それは、然う然う代替わりが行われないからである。
代替わりで残っている資料はダーナに語り継がれし神話のみなのだ。
そのダーナに語り継がれし神話の中において、
ダーナと豊かになった土地は何者かにより狙われ奪われている。
そう、ダーナは、誰かに危害を加える力はない。
故に誰かが守らなくてはならないのだ。
しかし、その誰かとは今はアルトと彼しかいないのである。
(代替わりで何かが起こる……か……。
一体、何が起きるというのか?
でも、ここは宝珠の国の守り神がいるから大丈夫のはずだ!
だけど、何なんだ……、この気持ちは?)
アルトは見えない恐怖に襲われていたのだ。
想像も出来ない何かがアルトのすぐ傍にいて、今にも襲いかかって来そうだった。
その恐怖に押しつぶされない様にアルトが平静を保っていると、
「全く……、何故に、こうも辛い事ばかり続くのかの……。
何故に、あの娘ばかりに辛い事が訪れるのじゃろうな……。
まあ、全ては儂のせいなんじゃが……」
と、言った彼から、また乾いた笑いが生まれ、
「それは、どういう……」
と、彼の乾いた笑いが耳をかすめたアルトは彼の正体に近づき、言葉を詰まらせた。
「そうじゃ、龍宮の者よ。
儂が、あの娘に重き荷を背負わせたのじゃ。
全ては、儂があの様な事を言わなんだければ良かったのじゃよ……」
すると、アルトの顔でもう戻れないと察した彼はそう言った後彼の正体を明かした。
その彼にアルトがもう一度、アルトが辿り着いた真実をぶつけると、
彼はすんなり一六年前の真相を話したのだ。
「そ、そんなの、間違ってる……」
そして、あまりにも簡単に一六年前の驚愕の真相を聴かされたアルトは脱力し、項垂れた。
アルトが辿り着いた真実は間違っていなかったのだ。
それに、彼もその真実を知っている。
だが、何故か世界は真逆の道を進んでいたのだ。
それなのに、彼もラニーニャも何も言わずに生きて来ている。
「どうして昴の者達に言わないのですか?
それに、水鏡の国の者にだって訴えれば……」
何とかこの間違いを正そうと顔を上げて言ったアルトだったが、
「今更、遅いんじゃ……。何もかもな」
と、言った彼の全てを明らめている顔を見ると、アルトはそれ以上何も言えず、
「それにの、その様な事はあの娘が望んでおらんのじゃよ。
龍宮の者。これ以上あの娘を傷つけぬ為にも、あの娘の望みを叶えてやってはくれぬか?」
と、言った彼の願いをアルトは受け入れるしかなかった。
そして、アルトが承諾した事を確認すると、穏やかな顔の彼は立ち上がり、
「今日はもう遅い。泊まっていきなさい」
と、言って、部屋を出様としたので、
「あ、あの、どちらに?」
と、顔を上げたアルトが尋ねると、
「もう一人の客人の所じゃ。ふぅ、さて、どうしたものかの……」
と、答えた彼の顔は曇った。
彼は、ケレスについて迷っている様だった。
ケレスをここまで巻き込んでしまい、後戻り出来ないのはわかっているが、
彼はこれ以上ケレスを巻き込みたくないのだ。
その気持ちはアルトも同じだった。
だが、ここでラニーニャとケレスを引き離す事は果たしてラニーニャの為になるのか。
当然、それは間違いだ。
「先輩のお爺様。僕が先にケレスに話しても宜しいでしょうか?」
そう確信しているアルトが立ち上がってそう言うと、
「お前さん、何を……」
と、足を止めて言った彼は少し動揺の色を見せたが、
「ケレスに何を言っても、彼はここに残ると言いますよ?
姉ちゃんを放っておけないとか何とか言って、ね。
ですから、ここはまず僕に任せてくれませんか?」
と、ケレスと対話する事を決めたアルトが彼の隣に並んで言うと、
「すまぬの……」
と、呟いた彼の足はそれ以上その場から進まなかったので、
「いいえ。ケレスは無知な所が多い。
ですので、僕が少し享受して参ります。
その後は、彼が決める事ですので……」
と、言ったアルトは彼に一礼し、足を進め様とした。
すると、アルト達の前から ぴゅーけんが不機嫌そうに歩いて来た。
「ぴゅーけん君、どうしたんだい?」
その ぴゅーけんが心配になったアルトがしゃがんで ぴゅーけんと目を合わせ聞くと、
ぴゅーけんは頬を赤くし何かを訴える様にアルトを見つめたので、
「そうか……。ケレスは相変わらずだね」
と、ぴゅーけんの意思を汲み取る事が出来たアルトはそう言って一つ溜息をつき、
「ぴゅーけん君、彼に代わって謝るよ。
だから、そんな顔をしないでくれ」
と、優しい顔のまま ぴゅーけんにそう言うと、ぴゅーけんは、こくんと頷いた。
「では、僕はケレスの所に行くよ」
そして、そう言ったアルトは立ち上がり、ケレスがいる部屋へと向かった。
アルト君。
今回は重たい場面ばっかりだったけど、やっぱり君は格好良いね♡
書いていて幸せな気分ににゃる♪
それに比べどこぞやの主人公は……(汗)
まあ、この後投稿するお話では彼も少しは主人公っぽい処が見れるんだけど……。
ぅうん? その話にはアルト君は出ないよ?
いやいやだって、その話ではアルト君とあの主人公達とは別行動だもの!
うえっ⁉ 達って、誰か他にもいるのかって?
……説明すんのも難しいので読んでみてくだされ☆
そんな本編の話のタイトルは【ケレス、白き山で小さき王都再会する】だ!




