№ 30 ケレス、白山の騒めきに耳を傾ける
フェンリル山で続いている騒めきに耳を傾けたケレスは意外な人物から向かうべき場所を示された。
そして、その場所に向かう事になったケレスは向かう間にまた大切な事に気付かされる。
そんなケレスが向かった場所とは……。
フェンリル山に轟くフヴェルゲルミル達の騒めきは続いていた。
それはケレス達に何かを知らせる様なものだった。
「何だ⁉」
そして、気になったケレスが窓の外を見ると、ラニーニャが血相を変え外へ行こうとしたので、
「姉貴⁉ どうしたんだよ?」
と、ラニーニャの手を掴んだジャップが聞くと、ラニーニャは何かを言いたそうにしたが、
「落ち着けよ‼ 何が言いたいんだ?」
と、言った、わかってやれないジャップではなく、ラニーニャはケレスを見つめてきたので、
「姉ちゃん……」
と、呟いたケレスはそのラニーニャの目を真直ぐ見つめた。
それからラニーニャが何が言いたいのか、ラニーニャの気持を汲み取る事に集中した。
そして、ラニーニャと目を合わせたケレスは少し考え、
「もしかして、ゴンズ様に何かあったのか?」
という答えになり、それを言うとラニーニャは小さく頷き、
「姉ちゃん。ゴンズ様の所へ行くんだな?」
と、ケレスがまたラニーニャの気持を言葉にすると、ラニーニャは大きく頷き、
「わかった。けど、俺も行く。準備をちゃんとして行こう!」
と、言って、ケレスも頷くと、ラニーニャは微笑んで頷いた。
すると、
「ちょっと待て‼ どういう事だ?」
と、動揺したジャップがケレス達の間に入って来たので、
「俺もわからないけど、ゴンズ様に何かあったんだ。
姉ちゃんが心配する様な何かがね!
未来の母さん。俺達に防寒着を貸してくれませんか?」
と、説明したケレスが未来の母に頼むと、
「わかりました。用意しますね」
と、言った未来の母は快く了承してくれ、ケレスはその準備に取り掛かろうとしたが、
「おい、ケレス⁉ 行くって言っても、何処に行けばいいんだ?」
と、肝心な所に気付いたジャップから聞かれ、
「それは……」
と、答えに困ったケレスはそれ以上何も言えなかった。
何故ならゴンズの居場所等知らなかったからである。
だが、そんなケレスに意外な人物が助け舟を出してきた。
「ははっ、これだから へなじょこは駄目なんだ! 俺様が教えてやんよ!」
そう、ケレスに助け舟を出したのはフェイトだった。
そんなフェイトは意地の悪い顔でケレスとジャップとの間に徐に入ってきたので、
「フェイト⁉ お前、ゴンズ様の居場所を知ってんのか?」
と、そのフェイトをケレスがじっと見て聞くと、
「ああ、知ってる。へなちょこに教えるのはもったいないが、アクベンスの洞窟だ!」
と、フェイトは澄ました顔で教えたが、
「アクベンスの洞窟?」
と、その場所を知らないケレスが首を傾げると、
「アクベンスの洞窟っていうのはな、フェンリル山の山頂付近にある洞窟の事だ。
ただし、そこはかなり危険な場所にあってな、人が行くのは難しそうだ……」
と、話したジャップの顔は険しいものへと変わっていた。
「そうなのか⁉」
すると、そのジャップの顔を見たケレスの顔は引き攣ってしまい、
「あれぇ? へなちょこは怖気ずいたのかい?」
と、それを見抜いたフェイトから小馬鹿にされ、
「そんな事、あるか‼」
と、恥ずかしくなったケレスが怒鳴って反論すると、
「とは言ってもな、ケレス……。アクベンスの洞窟に行くのは、人の力だけでは無理だぞ」
と、言ったジャップは大きく息を吐き、
「どうしてだ?」
と、言ったケレスがジャップを見ると、
「アクベンスの洞窟はフェンリル山の山頂付近の氷で出来た洞窟で、
その付近までも氷で出来てやがるんだ。
そして、そこには氷の番人がいるとされてる。
何ものも」アクベンスの洞窟に入れない様にしている万人がな」
と、ケレスを真直ぐ見つめてジャップは説明した。
「氷の番人?」
そして、ケレスがジャップと目を合わしたままその続きを待っていると、
「まあ、実際見た奴なんているのかさえわからん眉唾話だが、
アクベンスの洞窟が氷で出来てるのは確かだ。
どうやって行くのか見当もつかねえ。それに、山頂付近は天候もヤバそうだしな……」
と、ジャップからさらに厳しい現実を教えられ、
「じゃあ、どうすればいいんだ⁉」
と、言ったケレスが頭を抱えると、
「ヨルちゃん達がいる! ヨルちゃん達に任せろ!」
と、自信満々の未来が話に入ってきた。
「ヨル達なら行けるんだな!」
すると、その言葉を聞いたケレスの顔は明るくなり、
「そうだ!」
と、言った未来は右腕を突上げ、
「ヒャーーゴ!」
と、ヨルが未来の隣で、「任せて!」と言う様に鳴いたので、
「よし! ヨル、頼んだぞ!」
と、ヨルを信頼したケレスは言って、各々、準備を始めた。
それから準備を終えたケレスが暖炉がある部屋へと戻ると、皆が丁度集まり、
「さて、行くか!」
と、ジャップのこの言葉で、アクベンスの洞窟へと向かう事となった。
しかし、外は牙砥を見た時は晴天だったが、今は薄暗く視界が悪くなる程吹雪いていた。
そんな中、アクベンスの洞窟へはケレスはユルグに、ジャップと乗り、
ラニーニャはエーリガルに、フェイトと乗って、未来はヨルに乗って行く事となった。
そんな一行はエーリガルを筆頭に、ビュービューと吹雪く中、走ってアクベンスの洞窟を目指した。
「しかし、凄い吹雪だな!」
その吹雪の中、ケレスがゴーグルを拭きながら言うと、
「そうだな。ここまで吹雪くと、前がどうなってんのかわからんな!」
と、言ったジャップは子供の様にはしゃいでおり、
「兄貴⁉ そんな呑気に言うなよ……」
と、言ったケレスは呆れ、上目でジャップを見ると、
「まあまあ、落ち着けよ! ユルグ達がいるし、ベコもいるんだ。心配ないだろう!」
と、それでも陽気なジャップからケレスは右肩をバシバシ叩きながら言われ、
「兄貴……」
と、言って、さらに呆れたケレスから大きな溜息が漏れると、
「これこれ! 儂を忘れてはおらぬか?」
と、ケレスの帽子の中から、長の声が聞えた。
「長殿⁉ いたのか⁉」
そして、その声に驚いたケレスが見上げると、
「相変わらず小童は忘れっぽいのう! 前も助けてやったと言うのに……」
と、ケレスの帽子の中から鼻先だけを覗かせた長からぼやかれ、
「頼りにしてるに決まってる!
ところで長殿。今度も代替わりが失敗になりそうなのか?」
と、長の声に安心したケレスが聞くと、
「ふむ……。今度はそういう事ではなさそうじゃ……」
と、言って、長は言葉を濁し、
「じゃあ、どういう事なんだ? ゴンズ様に何かあったんだろ?」
と、言ったケレスが首を傾げると、
「何かあったという訳ではないみたいじゃが、あまり良くない事になっておる」
と、長はまた、答えにならない答えを言ったので、
「意味がわからない‼ 姉ちゃんが行けば何とかなるんじゃないのか?」
と、苛立って言ったケレスの語気が強まると、
「小童は質問が多い‼ 行けばわかる事じゃ‼
じゃが、今度もあの娘がどうにか出来るかなんぞはわからんぞ‼」
と、怒鳴った長はケレスの帽子の中でケレスの髪を引っ張ったので、
「痛たたた‼ 長殿! やめてくれ‼」
と、言いながらケレスが頭を押さえると、
「なあ、ケレス……。俺にはお前達の話は良くわからんが、何でも姉貴が出来る訳じゃねえんだ。
それに、俺達は姉貴の願いを叶える為に行くんだぞ? そのところ、わかってんのか?」
と、少し低い声のジャップから大切な事を教えられ、
「兄貴……」
と、ケレスはジャップのその言葉で、それ以上何も言えなくなった。
それからケレス達は何も喋る事なく、アクベンスの洞窟への道をユルグに乗って進んだ。
(俺、何か勘違いしてた……。
グラニュー様の時だって、俺は姉ちゃんを頼っただけで、何もしていないのに……)
その道中、ケレスが下を向いて考え込んでいると、また長から髪を引っ張られ、
「痛たた⁉ 何すんだ長殿‼」
と、叫んだケレスが顔を上げると、
「まぁた、その様に暗くなってからに‼」
と、帽子の中にいる、長に叱られ、
「だって……。俺、何も出来ないし。頼ってばかりだし……」
と、言ったケレスがまた下を向くと、
「はぁ……。いちいち、その様な事を言いよってからに……」
と、溜息交じりに言った長は帽子から出ず、
「良いか、小童よ。前にも言うたが、小童は唯の人の子じゃ。
何でも出来る訳がなかろう?
それに、今回小童を頼ったのは、あの娘の方じゃ。それを忘れるでないぞ‼」
と、そのまま帽子から出ずにそう伝え、
「長殿?」
と、その言葉でそう言ったケレスが上を向くと、
「しっかりせぬかぁ‼ その様な顔をしておっては、あの娘の頼みを聞けぬと言っておるのじゃあ‼」
と、怒鳴った長はケレスの髪を強く上に引っ張った。
「痛いって‼」
だが、頭を押さえながらも気合いを入れられたケレスは一つ息を吐き、
「そうだな……。しっかりしなきゃな、俺‼」
と、言いながら笑って頷くと、
「ふむ。わかれば良いのじゃ!」
と、満足した長の声が聞え、
「長殿。いつもありがとう!」
と、その声に向かいケレスが礼を言うと、
「ふむ? 急にどうしたのじゃ? 気持ち悪い……」
と、言った長の身震いした振動が伝わって来たが、
「素直な気持ちさ! それに、まだやらなきゃいけない事はあるんだし!」
と、ケレスがその振動を振り払う様に顔を上げ言うと、
「そうじゃな!」
と、長の声が聞えたその時、
「ヒャーーーゴ‼」
と、エーリガルが何かを知らせる様に叫んだ。
「どうしたんだ、エーリガル?」
そして、ケレスが、エーリガルに顔を向けると、
「着いたみたいだ」
と、静かにジャップから知らされ、目の前に氷の洞窟が見えたので、
「あれが、アクベンスの洞窟か?」
と、その洞窟に目をやったケレスが言うと、
「恐らくな」
と、ジャップが言って、ケレス達はアクベンスの洞窟に近づいて行った。
ケレス君!
いや~ラニーニャちゃんから頼られちゃって羨ましい!
少しは頼りがいがある男に成長したのかな?
だったら、アクベンスの洞窟の探索も任せられるね!
んっうん⁉
うわわっ⁉
アクベンスの洞窟ってあんな奴がいたのね……。
いやいや⁉
こっちの話だから、ケレス君!
気にしない 気にしない!
そんな次回の話のタイトルは【ケレス、白山の小さき王と再会する】だよん♪
って、小さき王って誰?
ちなみに番外編も投稿するので、こっちもよろしくにゃのだ☆




