パニクりました
当然ですね。
キャパオーバーですよ。なのににこにこ笑顔のマリージア様理解不能でマジこわい。『だっておかわいらしくて』なんてハートマーク飛ばしてそうな愛らしい口調でおっしゃられても愛でられているらしい私はただひたすらに恐怖体験真っ只中でしてよ!
オハナシアイでわかったことは類似な世界観(魔法なし科学文明現代日本)を持つ前世記憶がお互いにあること。マリージア様はこの世界観をもつゲームをご存知ではなく『小説のようね』とにこにこしてらっしゃいました。
あー、アレだ。アレ。
無知ゆえの原作クラッシャーだ。
気がついたら拐かされたあとの街外れの廃屋で、自分の衣装と周囲の様子の違和感から単独脱出したそうです。廃屋に出た途端出会った親子連れに助けを求めたそうです。マジかよと思わずにはいられないくらいの行動派過ぎではありませんか?
「私はその時点までの今の家族を覚えていませんけれど、覚えていなくても異分子とも言える『私』を家族と言い切り愛してくださる家族を愛さずにはいれません。ですから家名に傷をつける行動も自衛できない状況も私は認めることができないのですよ。……あと、私かわいいですから飾らないのもったいないと思いません?」
つまり、マリージア様はご自身の外見が愛らしかったので原作クラッシャーにお成りになったと。
「髪の手入れも礼儀のお稽古も舞踊も武術もひとつひとつがんばり身につけていくほどに成果が出ますの。まぁ、殿下との婚約は破棄してしまいますと当家の家名に関わりますから、殿下にコナをかける方が出ればお誘いしているんですよ」
あー、殿下のハーレムにっすか。
でも成果が出るからやる気が滾るのはわかるな。だから私もやり過ぎ注意だし。
マリージア様の誘拐事件はおーじさまが七歳の時の事件だ。マリージア様は当時五歳。私と同じ年に生まれてるので年齢把握が楽。
王城で遊んでいた王子さま(アンド取り巻き)たちがこっそり城外に遊びに出て賊に襲われるという事件。一歩遅れて追ってしまったマリージア様が魔力を暴走させて王子さまたちが保護される。しかしその時、マリージア様だけが拐われており、翌日保護された時には王子さま以外には心を許さない傷物令嬢になったというのがゲームでのストーリーだ。
初対面の王子様に『責任をとって嫁にする』と見舞いの場で宣言されて王子様と知らなかったマリージア様は一度はお断りになったそうですが、拒否されたら執着されたらしいです。原作と逆じゃん!
あー、その先はわからないでもない。
だってマリージア様自分磨きに勤しんだってことは美人だし、かわいいし、努力家だし、噂によるとかなりの才女でかつ、女性からファンクラブ作られてるようなカリスマじゃん。むしろよくコレだけ揃えて王子様卑屈にならなかったな。
いや、一番そのカリスマに下っている? それでいいのか。おーじさま。
「よくわからないけれど、そのゲームの本来の流れとは違う進み方をしているのね? じゃあ類似世界のイフパターンワールドみたいなもの。つまり、私達が、選んだ行動が私達の未来を決めるのね」
イフパターンワールド?
「ああ、並行世界、パラレルワールドとも言うかな。例えばその日選んだ靴下の色が違うだけとか、条件が合わずに出会いの機会が失われたとか些細な差異が運命を変えていくの」
「ゲームの分岐みたいなもの?」
「そう。選んだ装備で難易度が変わるような感じ」
にこにこ説明くださるマリージア様はこの世界を表現したゲームは知らないけれど、なんだかよくわかってらっしゃる?
「主人公?」
そっと私を見てマリージア様が囁く。
私はしょうがないので頷く。
「殿下、さしあげますね」
にっこりマリージア様。
すみません。
確かに王子様は攻略対象ですが、いりません。
私の恋愛対象は別なんです。
「辞退させて頂きます」
「あら。殿下おかわいそう」
ほんとにな!




