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FILM.48 合宿

あれから何事もなかったかのように日々を過ごした。片村も何も言わなかった。普通に話しかけてきてはカメラの話ばかり。それでも、カメラを持つと少し怖くなる。これは今までの人生で俺が育ててきた「すぐに手放す」という呪いだろうか。


夏休み。いつもより少し早い時刻に目覚めた。設定した時刻に鳴る目覚まし時計を止めてカーテンを開ける。ジリジリと日差しが今日も差し込む。朝食を食べ着替えた俺はスーツケースを持って玄関の扉を開ける。

「カメラはちゃんと持った?」

「うん、リュックの中に入ってる」

「いってらっしゃい」

「行ってきます」

家を出発し駅に向かう。スマホでメッセージアプリを開き、片村に連絡を入れる。

「どんな写真が撮れるかな……」

この日は写真部による夏休みの合宿が行われる日だった。俺は夏休みに入る前に写真部に正式に入部した。入部する前に母に伝えると、入部を許してくれた。いろいろ言われるのではないかと思っていたが、そんなことはなかった。しかしカメラは新しく購入はせず家にあったデジタルカメラを使うことが条件だった。

「そんなもの今はいらない」

新しいカメラなどいらない。俺には「自分は写真部の部員だ」という事実があればいい。自分が本当にやりたいことが何なのか。初めて自分で知り、深く知りたいと思った。今の俺には物理的なものは重要では無いのだ。


片村や他の部員たちとも合流し合宿が始まった。普段の俺とは交わることのない風光明媚な景色に囲まれる二泊三日、ひたすら写真を撮りまくる。許される限りの時間をカメラに捧げる。美しい景色に出会った瞬間、仲間と一緒にポーズをして写真を残す瞬間、傍目からはどうでもいいと思われる瞬間。何気ない一瞬一瞬を俺はカメラに残し続ける。


―写真に映した“その瞬間”っていうのは1秒過ぎたら過去になる。それを止めることが出来るのって、もう奇跡だよね


片村の言葉を思い出した。これはポエムではない。写真をやっていると分かる。これは事実だ。笑っている人がいても、その笑顔はずっと続くものではない。美しい景色を見ても、それはずっとあるものではない。何十年先にその笑顔、その景色を残せるのは、写真だけだ。

「写真ってすげーな……」

言葉で言われるよりも、こうして自分で体験すると彼の発言の重みを感じる。自分のカメラとは違う、初めて持った片村のカメラの重さのような。自分には釣り合わない重さ。向こうにはさまざまな写真を撮りながら先輩たちと楽しそうにはしゃいでいる片村が見えた。眩しいその無邪気な姿が俺には心が温かくなった。そして気づけば俺は自分のカメラに片村の姿を収めていた。

「いい感じ……」

初めて自分の写真に満足した。初めて自分の写真が「上手」だと思った。先生が「集合写真を撮る」と生徒を集合させている。この日の撮影を終えた俺たちは集合写真を撮影し宿に向かった。


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