FILM.46 カメラ好きについて
「……写真好きの人は人を全く撮影しないことってあるんですか?」
「……え、……それは自分が生きてる中でってこと?」
「……はい」
こんな質問をされるとは思っていなかっただろう。パチパチと瞬きを繰り返す彼を見ながら、俺は彼の回答を待った。
「……どう……だろうね。ごめん、俺は分からない」
「そうですよね」
「分からない」と言っておきながら、腰に手をかけ必死に答えを探している様子に俺はこんな質問をしたことを申し訳なく思った。
「俺は人を撮影することに『楽しい』と思ってカメラを好きになったから、一概にこれが正しいとは言えないけど、人を全く撮影しない人はあまりいないんじゃないかな」
「友達に撮ってほしいとお願いされても?」
「お願いされたら尚更だけど……」
彼は自分の回答にどこか納得していない様子だった。
「カメラマンって言ってもその中にはもちろんジャンルっていうのもあって。人の撮影をする人、建物を撮影する人、虫や動物など生き物を撮影する人みたいな感じ。それでもこれはあくまでも仕事としてのメインだからプライベートで別のものを撮影することだってあるし。カメラを好きになるきっかけって多分人それぞれだからどの過程でその職に出会えるのかは誰も分からないと思う。でもやっぱり、カメラ好きにとって人って身近にある被写体だからどんな人でも一度は撮ってしまうと俺は思うよ」
深い話を慎重に理解しようとすると同時に、この人のカメラへの愛と理解を感じ胸の奥が少し痛かった。もしここにいるのが俺ではなく片村ならこの人とたくさん語り合い楽しく話すことが出来るのだろう。
「そういうのって撮りたくて撮るって感じですか?」
「うん。それはもちろんだけど、一番はやっぱり感情じゃない?」
「感情……ですか」
朗らかな笑みを見せながら彼はゆっくりと頷いた。
「『この瞬間を撮りたい』とか『この人を撮りたい』みたいな。なんて言うか……、言葉にするのは難しいし伝わるように分かりやすく省略すると、身体が勝手に動くって感じかな」
「身体が勝手に……。ってそんなことあるんですか」
「そう思うでしょ。意味分からないよね。言葉で言われたら『は?』って思うじゃん?でも、これがあるんだよ、しかも言葉のまんま。気づいたらカメラを手にして、気づいたらその方向にカメラを構えて撮影してた」
彼の目がキラキラ輝いている。そんな風に語れるということは過去にそんな経験をしてきているからだろう。それがどんな経験なのかこの日はあえて聞かなかった。
「俺も、そんな経験が出来るといいな」
「うん。出来るよ、きっと。いや、絶対」
「絶対……。そうですかね」
「うん。絶対」
お世辞でも彼の口から出る「絶対」という言葉が心に響く。
「……それじゃあ、また来ます。今日はいろいろありがとうございました。お仕事中に長々とお話してすみませんでした」
「全然いいよ。平日だしそれに今日はお客さんも少なかったし。それに内容はどうであれお客様対応は大事な仕事だから心配しないで」
「いや、でも、後半はほぼほぼカメラの話じゃ無かったですけど……」
「じゃあ、次また来てくれたときはもっとカメラの話をしようか。それまでに俺は君がいつカメラを買いに来てもいいようにもっとカメラ勉強してくるからさ」
カメラを包むように優しく持ち上げながら彼はそう言った。「俺がカメラを買う時」、それはいつ来るか分からない。それに名札から彼がカメラ担当の店員だということはもう分かっている。カメラの知識を蓄えたところでそれを活かせるのは俺だけではない。ここに来るカメラを買いに来たお客さんたちだ。
「……はい」
俺は一礼してお店を出た。そして彼は優しく手を振って本来の仕事に戻っていった。店を出たがその後すぐ戻ると彼は新たに別のお客に話しかけ笑顔で対応していた。一瞬聞こえた「テレビはこちらがおすすめです」という彼の声に、彼はカメラだけでなく家電のことなら今の時点で何でも知り尽くしているのではないかと思った。




