FILM.45 新たな出会い
ここ最近、スマホのカメラアプリとフォトアプリを必ず開いている。カメラで写真を撮り、フォトアプリで最新の写真を確認したり過去の写真を振り返る。写真で溢れた日常をしばらく送っていたそんなある日のことだった。
「このカメラ気になる?」
「……え?」
俺はとある男性店員に話しかけられた。その人の名札には「S. K」と書かれている。彼の名前のイニシャルだろうか。
「君、よくここに来てくれてるよね?」
「あ……はい」
下校途中の俺は今、最寄り駅にある大型施設の家電量販店に来ている。カメラに興味を持ち始めてから、このショッピングモールに足を運ぶことが増えた。今までは何か用事がありそのついでに行くことが多かったが、今は何の用事もなくただカメラを見に行くことの方が多い気がする。
「カメラ好きなの?」
「……好き……かも……です」
「あはは。でも曖昧なんだ」
「いや、好きです……!!」
店員は「ごめんごめん」と優しそうに笑っていた。「好き」という言葉を強引に言わせたように感じてしまったのか、手も合わせている。
「制服着てるってことは学生さんか。写真部とか?」
「写真部ではないです。というか、帰宅部です。友達は写真部ですけど」
「そうなんだ」
片村が写真部に入部しているため全く興味がないというわけではない。実は無記入だが入部届はすでに学校から受け取っている。
「俺も写真部だったなー。懐かしい」
「え、そうなんですか?」
「うん。カメラは学生の頃からやってて今も続けてるよ」
「……」
彼の「続けてる」という言葉が無意識に俺の中に残る。普通ならそこまで気にすることもないはずなのに。
「……いいな」
「ん?」
「あ、何でもないです。ごめんなさい」
「何か悩みとか?俺でよかったら話聞くよ」
首を右に傾げながら俺に聞こえるくらいの声量で聞いてきた。
「俺、今まで長く続いた趣味がないので、羨ましいなって。俺の周りにはそういう人多いから、自分が情けないです」
―写真とか写真を撮ることが好きか嫌いかの問題だから、お前は十分だよ
片村はこう言ってくれたけど、俺は満足することは出来なかった。片村の言葉に納得はしている。彼の言いたいことは分かっている。それでも、俺が「情けない」という思考に陥るということはそういうことだと思う。現に、目の前に並んでいるカメラたちを金額を理由に買わない自分だ。頑張って理由を探し、これ以上深くカメラに魅せられないよう自分で自分を抑えている。
「好きなことがあるのは素晴らしいことだと思い込み過ぎなんじゃない?」
「そうかも知れませんけど、でも、実際そうじゃないですか」
「うん。俺もそれは間違ってはないと思う。でも、それを求めて苦しむのは違うんじゃない?」
「……」
家電量販店でする話とは思えない。お店に来ている他の客や店員もまさか、こんな話をしているとは思わないだろう。
「……学校は、楽しい?」
「はい。楽しいです」
「それは、よかった」
よく行く店の店員ではあるが、赤の他人でしかないこの店員。なのに、どうしてだろうか。俺はこの時、この人のことが気になってしまった。
「……あなたは、どうだったんですか?」
「え、俺?」
「はい。……あ、すいません。言いたくなければいいですけど」
彼は「そんなことないよ」と腕を組んで言った。
「楽しかったよ俺も、学生時代。でも高校卒業して大学生になってから、ああすればよかったこうすればよかったとか後悔ばかりしてる」
「……後悔、ですか」
彼の視線が少しずつ床に向く。それにつられるように俺も視線を下げた。家電量販店にいるからなのか彼の影がより黒く見えた。
「例えば、どんな後悔ですか?」
「シンプルだよ。もっと友達と遊べばよかったとか、もっと勉強してればよかったとか」
「……そういう後悔は俺でもします。なんなら毎日……」
「だよね」
目が合った俺たちは友達のように笑い合った。名前も知らないこの人には不思議と壁を感じない。なのに、言葉が詰まる。それは自分が持っていないものを持っているからだろうか。
「……ってか、ごめんね。カメラ見てたところ邪魔しちゃったよね」
「いえ、そんなことないです。むしろ、いろいろ話せて楽しかったです」
話しかけられた時とは違う優しい笑顔を浮かべて「俺もだよ」と返事をしてくれた。
「……あの、今もカメラやられているんですよね」
「うん。やってるけど」
「一つ聞いていいですか?」
「いいよ。何?」
突然の言葉に彼は驚いていたが、寄り添うように答えてくれた。
「……写真好きの人は人を全く撮影しないことってあるんですか?」
俺の質問に彼は瞬きを繰り返していた。




