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FILM.22 ノスタルジー

「ただいまー……、階段しんどい……」

「走ってきたの……?」

「うん、だって早く教室戻りたかったから」

片村くんが教室を出てからしばらく、息を切らした茉由が来た。乱れた前髪を整えている。

「罰ゲームだから仕方ないだろ。じゃんけんで負けたお前が悪い。んで、買ってきてくれたか?」

「はいはい……。莉桜はメロンパンで、上田は焼きそばパンだよね」

「ありがとう、茉由」

「どういたしまして」

ここ最近は上田くんと共に茉由も教室に残るようになった。

「あれ、莉桜は上田くん描いてるの?」

「うん。描いてって言われたから」

「へー、でも、やっぱり上手いなー」

「ありがとう」

茉由はいつも褒めてくれる。そんな彼女の言葉には裏も表も無いことは分かっている。今なら素直に受け止めることが出来る。それはあの時きちんと話せたから。当時の私には考えられなかった。それくらい苦しかった。

「ねえ、前から思ってたんだけど、市川って何で部活入ってないの?そんなに上手かったら楽しいだろうに」

「私もそう思う。実際楽しいのに」

上田くんの話に茉由が相槌を打っている。

「いろいろあるの。茉由は知ってるでしょ、当時のこと」

そう、唯一知っているのが茉由だ。

「あー……あれね。あの時は本当にごめんね莉桜」

「いいよ、別に。茉由は間違ってない。本当のことだから」


―莉桜のそういうところ、見てるとマジでイライラする


脳裏に過る。中学。美術部。そして茉由の本音。自分で自分に蓋をしていたことに気付かされた。

「昔何かあったの?」

「まぁいろいろ……。ひと悶着ありまして……。でもあれは完全に私が悪かった。今思うと本当に恥ずかしい……」

茉由は何も悪くない。といったところで全てが無くなるわけではない。むしろ火に油を注ぐだけだ。おそらく私の弱さが茉由との関係に徐々にヒビを入れた。そしてあの日、完全に決裂したのだ。

「私が莉桜に『イライラする』って言っちゃって」

「……うん。その後美術室出ていったよね」

「そうそう。さすがにその日部活に戻りづらくて、ストレスも溜まってたし帰ったの。そしたらさ莉桜が私のやつ片付けてくれてて」

「懐かしいね……」

上田くんは私たちの話を静かに聞いていた。

「でもその後、莉桜と改めてきちんと話して仲直りしたもんね」

「うん。きちんと話せてよかったよ」

この教室には優しい風が吹く。大好きな友達の声と先ほどまで少し痛いクーラーが風が心地よかった。

「ねえ、その話もっと聞きたいんだけど」

「絶対しません」

「えー。じゃあちょっとだけでいいから」

「ダメ」

この会話はしばらく続いた。上田くんと茉由の和やかな輪に囲まれながら私は1人、当時のことを思い出していた。

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