FILM.21 描く
最近このクラスで初めての席替えを行ったが、私の前になんと上田くんが来た。当時は「あまり変わらないね」と2人で笑いあっていた。変わったところがあるとすれば席の位置だ。最初の席は廊下側だったが、今は窓側になった。おかげで日光が気持ちいい。窓側の席は好き嫌い別れるところだと思う。その理由には太陽の光を「気持ちいい」と感じるか「痛い」と感じるかというところではないだろうか。眩しくてカーテンをしてしまうときもあるが、私は窓側の席はすごく好きだ。
そして放課後。太陽が西に傾き始めている。この時間はいつも教室に1人残って絵を描いていたが、席替えをしてからはそうではなくなった。
「はい、これ」
「上田くん、勉強するんじゃなかったの……?」
「市川が絵を描いてるから俺も描く」
「え、私のせいなの……?」
「うん」
「で、何これ……」
毎度、上田くんの画力には驚かされる。
「これは市川」
「え、私……!?」
と言いつつも、成長はしている。きちんとモデルの特徴は捉えているが、それを上手く表せていない。
「市川も何か描いてよ」
「え、やだよ。試験だって近いのに。勉強しないと」
「いいじゃーん……。休憩ってことでさ、ほら、これに俺描いてよ」
どこかで聞いたことがあるような台詞と渡された1枚の紙。初めて片村くんに会ったときのことを思い出した。1人でいたいのに別の人がいるという点においては状況も少し似ている。
「……分かった」
「よし」
上田くんに「あまり動かないでよ」と注意すると「分かってるよ」と笑っていた。以前から静かに描いていたので、堂々と描くことは緊張する。
「今まで、市川が教室に残ってこそこそ何かしてることは知ってたけど、まさか絵を描いてたとはな」
上田くんのよく分からないポーズを描きながら会話を続ける。
「勉強だってちゃんとしてます」
「今してないじゃん」
「仕方ないじゃん。上田くんが言うんだから」
「まあ、そうだな」
この子供同士の喧嘩のようなどうでもいい内容で毎回話をしている。
「市川……と、上田……?」
「え?」
顔を上げるとそこには片村くんがいた。
「片村じゃん、どうした?」
「え、あ、いや……えっと……」
上田くんは席を立ち、言葉に詰まる片村くんに駆け寄る。
「あ、ちょっと上田くん……!?」
まだ描き終わってない。動かないでよとあれほど言ったのに。そう思った矢先、自分のしたことを気付いたのか彼はそそくさと戻ってきた。
「悪い、市川。動くなって言われてたのに」
「そうだよ……、今度こそ動かないでよ。はい、ポーズ取り直して」
「了解ってあれ、こうだっけ……」
「ちょっと早くー……」
ポーズで彼の手が迷っている。そうなるのも頷ける。彼のポーズは私もよく分からないから。
「何してるの、2人で?」
そして私の元にやって来た片村くんが私を見ている。
「市川が俺のことを描いてくれてんの」
「え、上田のことを……?」
「ちょっと、いいよ言わなくて……!!」
片村くんは少なくとも上田くんよりも私のことを知っている。私が絵を自己満足で描いていること、人に絵を見せることはしたくないこと。自分でも矛盾していることは分かっている。だが、上田くん相手にはその壁も低く感じてしまった。
「……へー、よかったな」
「あ、そうだ。片村見てこれ。俺が描いた市川」
「これ……?市川なの?」
「らしい、描いてくれたことは嬉しかったけど、ちょっと傷つく」
「え、まじで?」
「っていうか、上田も残ってるの珍しいな」
「まあね。最近はずっとかな」
見えたわけではない。だが確実に、上田くんは今この教室に漂っている空気を一気に凍らせた。
「そうなんだ……」
片村くんと一瞬だけ目が合った。その眼差しは光を持たなかった。
「俺、そろそろ行くわ……」
「じゃあ、また明日な」
「うん……」
そして、片村くんが教室を出ていった。彼の影が私たちの影より暗く見えた。




