もふもふパワー
この世界に来てから初めての休日となった日も過ぎ去り、俺とコンの異世界生活は五日目を迎えた。
俺は、朝目を覚ますとコンを起こして準備もそこそこに宿を出てギルドへと向かっていく。昨日黒モヤボアアンから切り離した黒い鈴について何か分かれば教えてくれるとのことだったので、結果がどうなったのか気になるところだ。
「何か少しだけでも判明してたらいいなぁ……」
「こゃぁー……」
俺が、そんなことを考えていると頭の上からコンのあくびが聞こえてくる。コンは、かなり眠たいのか何度もあくびをしているようだ。
「コン、大丈夫か?」
俺は、頭の上にいるコンに手を伸ばしてその頭を撫でる。
「こゃ……」
「コン? ……ってもう寝てる!?」
コンは、短く反応するとすぐに寝息をたてて寝てしまったのだ。昨日は、元気に動いていたコンだが、もしかしたらこれまでの疲労がたまっていたのかもしれない。
俺は、コンを頭の上からおろして、コンが寝やすいように両手で抱きかかえると、歩く速度を緩めてギルドに向けて歩いていった。
俺たちは、ギルドに辿り着くと一直線にリリアさんのいるカウンターへと向かっていく。いつもの場所に辿り着くと、そこには昨日同様、机に突っ伏しているリリアさんの姿があったのだ。
「リリアさん?」
俺は、リリアさんに声をかけてみるも全く反応がない。とあるRPGゲームよろしく、ただの屍のようだ、とメッセージが今にも出てきそうな感じである。
「だれが屍っすか!?」
突如、リリアさんは、ツッコミを入れながら起きあがってきたのだ。
「あれ? 俺、口に出してたっけ……」
俺が不思議に思っていると、そんなリリアさんと目が合う。少しの間、俺たちの間に沈黙が続く。
「ユーゴさん? ……もしかして、ここはギルドの受付っすか!?」
リリアさんは、やってしまったと言わんばかりに再び机の上に沈んでいってしまったのだ。俺は、そんなリリアさんの状態にあっけにとられていると、彼女は、早口で弁解し始めた。
「ユーゴさん、これは違うっすよ。違うっすからね! 誰もそんなこと言ってないのに突然ツッコミを入れたわけじゃないっすから。ゆ、ゆめっす。夢でただの屍のようだって言われてそれにツッコミを入れただけっすから……」
リリアさんは、パニック状態になっているようだ。今も机に突っ伏しながら何かブツブツと言っているようで、彼女の耳はすでに真っ赤に染まっている。
俺は、自分が口に出していたわけじゃないことがわかるとそれにホッとしつつも、こんな状態のリリアさんをほっておくわけにもいかないので、なんとか落ち着かせようとしてみる。
「リリアさん、大丈夫だから……。きっと、疲れてたんだよね。昨日もすごく疲れてたみたいだし、忙しそうだったから……」
「……」
リリアさんは、ブツブツと言わなくなったかわりに何も言わなくなってしまった。これは、失敗してしまったかもしれない。
「……仕方ない。最終手段を使おうか。コン」
「こゃ?」
俺は、つい先ほどから起きていたコンの方を見る。コンは、現状がよくわかっていないのか、首を傾けている。俺は、そのままコンの方をじっと見つめる。
「コン、お前のもふもふパワーで、リリアさんを癒してくるんだ」
「こゃ!」
コンは、よく分からないけど分かったと言わんばかりに鳴いたのだ。
「ありがとう。コン、頼んだぞ」
俺は、コンの頭を撫でると、コンをリリアさんの前へともっていく。
「こゃーん」
コンは、リリアさんに向かって一度鳴くと、彼女の顔をペロペロと舐める。
「ひゃっ! ……コンちゃん?」
リリアさんは、再び顔をあげて目の前にコンがいることに気がつくと、不思議そうにしている。
コンは、そんなリリアさんの様子を特に気にすることもなく、さらに近寄っていき、自分の顔をこすりつけていったのだ。
「コンちゃん、くすぐったいっすよ」
「こゃ!」
「わぷっ!」
くすぐったそうにしていたリリアさんの顔に、コンのもふもふの尻尾が見事に命中したのだ。これには、リリアさんの動きが一瞬止まったものの、やがてプルプルと震えはじめた。
「ふふっ。コンちゃん……、やってくれたっすね!」
リリアさんは、起きあがると、目の前にいるコンを抱きかかえて勢いそのままにモフり始めたのだ。彼女は、ノリノリな様子で、コンを優しくモフり続けている。コンは、嬉しそうに彼女のされるがままにされていた。
コンとじゃれあうリリアさんの顔には、いつもの周りを明るくしてくれるようなそんな笑顔が戻ってきていたのだ。
「リリアさん、少し元気が戻ってきたみたいでよかった……。さすがコンだなぁ」
俺は、内心ホッとすると、そんな彼女と相棒を少しの間見守っていたのであった。
もふもふパワーは至高なのです




