ポムポムの果実
その後、俺はホットミルクをもう一口だけ飲むと、一旦机の上にコップを置いた。それと同時に、マスターが俺の前にやや底が深くなったお皿を置く。俺は何だろうと思い、その皿を除くと中には、ホットミルクが入っていたのだ。
「お客様、そこのもふもふちゃんにどうぞ」
厳つい顔をしたマスターが、再び俺の服からひょっこり顔だけ出していたコンの方を示して言った。コンもおそらく自分用だということが分かったのか、俺が何かを言う前にお皿の前に行き、ペロペロと飲み始めたのだ。最初は、ちびちびと飲んでいたコンであったが、それがおいしいと分かったのか勢いよく飲み始めた。
コンが必死になって飲んでいる姿は、とても愛らしく、見ていて癒されるものだった。そのように感じたのは、どうやら俺だけではなく、クラリッサさんもマスターもコンの姿を見て、ほっこりとした表情を浮かべている。そして、マスターはその表情のまま俺に向けて言葉を発した。
「コホン。お客様、こちらのミルクはサービスでございます。ご覧の通りですが、もふもふちゃんが飲んでいる姿には、とても癒させていただきましたので、むしろこれほどのお代はございません」
どうやらコンが飲んでいる姿がお代替わりでいいようである。
俺は、マスターに頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、とんでもございません」
マスターは、グラスを拭きながらコンの方を幸せそうに見つめていた。
その後、俺はクラリッサさんと少し話をしながら過ごし、そのまま彼女とはギルドで別れた。
俺は、ギルドを出るとそのまま宿の方へと向けて歩き始める。まだまだこの街について知らないことは多いので、本当は探索したいところではある。しかし、はじめての依頼と戦闘でかなり疲れてしまったので、宿までの道で適当に見ていくことにしたのだ。昨日は、お金もなかったので、通り過ぎながら見ることしかできなかったが、今日はお金も手に入ったので、その分じっくりとみることができるだろう。
コンは先ほどミルクを飲んで回復したのか、今は俺の頭の上で昨日同様キョロキョロとしている。すると、とある店の方向でコンの目線が止まった。特にあてもなかったので、俺はコンが興味を示した店に向けて歩き始める。
店の前まで辿り着くと、ズラリとおそらく果実だと思われるものが並んでいる。コンは、俺の頭の上から下りると、一瞬俺の方を振り向くと、そのままお目当ての物目掛けて走っていった。その姿は、まるでついてこいと言わんばかりであったので、コンの後へと続いていく。
コンは、ある物の前で尻尾を左右に振りながら待っていた。俺はなんだろうと思い、それを見てみる。真っ赤な果実でどこかリンゴに似ているような気がする。
俺とコンがその赤い果実を見ていたら、奥の方から店員であろう愛想が良いおばちゃんが出てきて俺たちに言葉をかける。
「あんたたち、それはポムポムの果実だよ!買うのかい?」
「ポムポムの果実?」
俺は、おばちゃんの言葉を聞いて首をかしげた。ポムポム?リンゴじゃないのかと思いつつも俺は彼女に聞き返す。
「あんたたち、ポムポムの果実を知らないのかい?今どきめずらしいねぇ~。これはね、甘さと少しの酸っぱさがあってジューシーな果実だよ」
とりあえず食べてみな、とおばちゃんが腰につけていた包丁で、その場で切って俺たちに渡してくれる。せっかくの好意なので、ありがたくいただき、食べてみる。彼女の言っていた通り、少しのすっぱさの後、口の中にジューシーな味わいが広がる。
「うまい。というか味もやっぱりリンゴに似ている気がする」
「そうだろう!新鮮なポムポムだからね」
おばちゃんは、笑いながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。これが地味に痛い。
コンもポムポムが気にいったのか、並べてあるポムポムに手を出そうとしている。俺は、コンを持ちあげて、自分の頭の上におくと、彼女にポムポムの値段を聞く。
「おばちゃん。これ一ついくら?」
「これは一つ10リンだよ」
「じゃあ二つちょうだい」
ちょっと待ってな、とおばちゃんは言うと店のおく方へと入っていった。
コンもそうだが、俺も気にいったので買ってみることにしたのだ。コンと俺でそれぞれ一つずつである。
おばちゃんが、戻ってくると、その手には二つのポムポムとカットされたポムポムを持っていったのだ。
「こっちのカットした分は、そっちの狐ちゃん用のサービスだよ。それじゃあポムポム二つで20リンだよ」
「ありがとうおばちゃん。はいこれ20リン」
そう言って、俺はおばちゃんにお金を渡して、彼女からポムポムを受け取ったのだった。




