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姫さまと青年

「パティ……君は一体どこへ行ってしまったんだい?」


 ロニーはロッキングチェアに座り揺れながら、赤い首輪を見つめていました。この首輪はパティに付けようとして用意したものでしたが、結局一度も使用したことがありません。


 パティを最後に見たのは、あの雪山での出来事でした。崖に落ちていくパティの小さな姿を見て、ロニーは思わず身を投げ出したのです。その後の事は彼も曖昧にしか思い出せません。


「あれは……パティだったのかな?」


 最後に見たあの白い髪の少女。彼女がパティに思えて仕方ないのです。ですが、オオカミが人間になるなどありえません。それに後から聞いた話だとロニーと共に、あの行方不明となっていた王女も救出されたと聞きました。なぜ、あの場所に王女が居たのか不思議ですが、王女とパティは似ている色を持つと友人のオーリスが言っています。最後に見たあの少女はもしかしたらパティではなく王女なのかもしれません。


「でも……それなら今日会った少女は一体……」


 今日。オーリスに連れられてやってきたあのご令嬢。そのご令嬢も白い髪と琥珀の瞳を持っており、しかもあの時の少女に似ていました。しかも名前もパティと名乗っていたのです。


「ねぇ、パティ……君は普通のオオカミじゃなかったのかい? それだとしても君は一体何者なんだろう……」


 自分が見たあの少女はパティなのでしょうか? それとも王女? はたまた今日出会ったご令嬢?

 

 そんな時でした。遠くから犬のような鳴き声が聞こえます。……いいえ、犬ではないとロニーは気づきました。思わず席から素早く立つと、扉を開け放って外へと出ます。


「……パティ?」


 あれは幻でしょうか? 月明かりに照らされた森に挟まれた小道を、この家に向かって一匹の白いオオカミが走ってきます。


「パティ!!」


 ロニーもまた彼女に向かって走りました。そして彼女に近づくと思いっきり抱きしめます。雪の上で膝が濡れることすらかまわずに。


「パティ! 良かった! もう君には会えないのかと思っていたよ!」


 ロニーが彼女をぎゅっと抱きしめれば、それに答えるようにパティがロニーの顔に頬を寄せます。


「……くすぐったいよ。でも良かった」


 ひとしきり抱き合った後、パティに向き直ります。そしてふと片手に持ったままだった首輪を見るとそれを付けようとしました。パティは嫌がること無く、その首輪を付けてくれました。白い毛に覆われたパティなので赤い首輪がよく目立ち、よく似合います。


「パティ、君が何者でも、たとえ人間だとしても関係ない! もう何処にも行かないでくれ! 頼むから、お願いだから……もう僕の側から離れないでくれ!」


 そう言ってロニーはまたパティを抱きしめました。


「ロニー……それは本当なの? わたしがオオカミじゃなくても人間でもいいの?」


「あぁもちろんだよ……だから…………――あれ?」


 ロニーはそこで固まります。そしてどこか抱きしめている存在を確かめるように撫でました。以前のようにフカフカの毛がありますが、なんだが少ないように感じます。そしてどこか形が大きくなっており、まるで人間みたいでした。


 それから抱きしめるのを止めて身を引きます。そこには白いオオカミではなく、あの時見た白い髪を持つ少女が居ました。一つ違うのは首元に赤い首輪をしていることでしょう。


「……えっ? パティ?」


「ええ、そうよ……あら、いつの間にか人間に戻っているわ」


 そこでパティも気がついたのか自分の体を見渡します。そんな少女をロニーはしばし驚くように見ていました。


「あはは……君はオオカミにしては人間ぽいなって思っていたけど……まさか本当に人間だったとは」


 ロニーはどこか納得するように笑いました。ロニーはパティと生活している中で、どことなく気づいていたようです。今まではパティはオオカミなのだから、それはありえないと思っていました。ですがこうして目の前で人間になった所を見て、あぁやっぱりという納得の気持ちが先に出たようです。


 それでも内心はとても驚いているようで、これはまだ夢の続きなのかと少し思っているようでした。


「パトリシア様!」


 遠くからそんな声が聞こえてきます。どうやら居なくなったパティを探しに来た者達のようです。


「あぁ、まったく本当にこういう時だけ有能なんだから……ごめんなさい、戻らないと行けないわ」


 そう言ってパティは立ち上がりますが、その時にロニーに手を掴まれました。


「……戻るってどこにだい? 僕から離れたら駄目だよ、パティ」


 まるで懇願するようにロニーは言います。そんなロニーにパティは安心するように言いました。


「大丈夫よ、もうあなたから離れないわ。だってこれを付けてますもの」


 パティは首元に触れます。赤い首輪の金具が月明かりに照らされて光っていました。美少女の白い首筋に目立つ赤い首輪。その首輪は今の人間の彼女には少し不釣り合いでした。どことなくロニーは首輪を付けてしまった事を後悔し、申し訳なく思います。外そうかと思いましたが、きっとパティは外すつもりはないでしょう。


「でも……」


「なら、ロニーがわたしに付いて来るのはどうかしら? まだあなたとは喋り足らなかったの。それにわたしの家にも来てほしいわ。そして両親にも会わせてあげる!」


「……そうか、それならいいか。分かった君に付いていくよ、パティ。僕も君の事が知りたいからね」


 そのパティの申し出にロニーはすぐに頷きます。


「それじゃ行きましょう、ロニー!」


「あ、待ってよ、パティ! そんなに強く引っ張らないでよ!」


 パティは座り込んだロニーの手を引っ張って立たせ、そのまま手を繋いでロニーと共に歩いていきました。


 ――その後、ロニーがパティの正体に気づいて今まで以上に驚いたのは、言うまでもありません。

















「ねぇシンシアちゃん……これはどういうことなんだ?」


 木の影に座り込んだオーリスが、胸に抱いたシンシアに問いました。王女が居なくなったと聞いて必死に探していたオーリスですが、途中でシンシアの姿を見つけると、王女捜索をほっぽり出して猫を追っかけたのです。そして辿り着いた先で見たのは、先ほどの光景でした。


「あの白いオオカミってパトリシア姫だったの? えっでもまさかそんな事ないよね? ねぇ!?」


「……ニャー」


 どこか慌てた様子のオーリスを見つめなから、シンシアはただニャーと鳴いて答えるのでした。






雪の国のオオカミ姫 おわり

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