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第三章 しがないコンビニ店員

 ……厄日だろうか……?

 二日連続しているので違うとわかっていても、己が不運のあまり、こじつけたくなった佐々誠也、当年とって十九歳。

 思い返すと、海を越えたこの大学に来たときから災難は始まっていた気がする。彼の実家の人々は揃いも揃って世間知らずのうっかりさんだった。

 彼らは遠方に進学した誠也のために、おそらく毎月きちんと仕送りをしてくれている。……"おそらく"というのは、彼らがこの地方にはない銀行の通帳に振り込んでいるようで、通帳記入すらできないからだ。これではせっかくの仕送りが受け取れない。全く持って、うっかりである。

 いわんや、授業料がどうなっているかなど――考えるだに怖ろしい。

 国公立の大学とはいえ、授業料はそれなりの金額だ。せめてこれだけはきちんと支払ってくれているものと思いたい大学一年の秋である。

 せめて電話連絡、或いは手紙で連絡したい気がする。世間知らずでは実家の人たちに負けていない誠也は、大抵の銀行は提携を組んでいることを最近知ったが――自分ひとりだけ自由を得た罪悪感と、これ以上実家に負担をかけるのも……という遠慮から、振り込まれた金に手を着ける決意がつかないでいた。

 とりあえず生活費は、拝み屋とコンビニのバイトでまかなえている。……かなり苦しいが。

 誠也が厄日かと疑いたくなったのは、昨日受けた拝み屋の依頼が、簡単そうだったのに一日で終わらなかったことからはじまる。

 昨日、原因不明の目標消失で駆けずり回った。バイトの時間、ギリギリまで粘ったのに手がかりすら掴めずじまいだった。コンビニの深夜から早朝にかけては、手当が付くので稼ぎ時である。これは絶対に外せない。仕方なく続きは後回しにするつもりでバイトに行った。

 ところが災難は続いた。

 深夜のコンビニは、治安の面からしてふたり一組が常である。

 が、しかし。

 待てど暮らせど相方が来ない。

 引継が現れないのに、前の時間のバイトは帰宅してしまった。

 誠也はひとり、仕事の合間を縫って相方に問い合わせた。すると彼は風邪でダウンしたらしい。こうなると這ってでも来い、という無理は言えない。

 困り果てて、今日は休みの先輩を呼びだした。

 何を隠そう依頼人の恋人――藤宮羽矢斗だ。

 彼はこんな時間帯なのに嫌な顔ひとつせずに引き受けてくれた、いい人である。依頼も羽矢斗経由の知り合いなので、感謝してもしきれない。頭が上がらないとはこのことだ。なんとしても依頼は成功させたいという誠也の意気込みとはうらはらに、今度は誠也の引継の人間がなかなか現れない。

 予定では、もうとっくにバイトの時間が終わっている。休日の朝なのに、今日に限って客がどんどん入って忙しくなる。……客から洩れ聞こえた話をつなぎ合わせると、この近辺で行方不明者が出て野次馬が集まったらしい。商売繁盛、大変結構。だけど出来ることなら自分のいないときにしてくれッ、と身勝手なことを胸中で叫んでいた。

 早くしないと久々の依頼が失敗に終わってしまう。信用第一の商売だ。ただ一度、されど一度の失敗の影響は大きい。

 帰りたくてそわそわしている誠也の様子に、レジ打ちをしていた羽矢斗が微苦笑した。

「佐々、もう上がっていいぞ。さっき暇そうなやつらを呼び出しておいたから……追々来るだろう」

 あまりにわかりやすい態度に、見かねたのだろう。

 だけど苦笑の滲んだ口元には呆れではなく、仕方ないなぁというあたたかさがあった。

「ええ、ではこれが終わったら」

 先輩の有り難いお言葉に感謝しながら、せめて今やっている仕事だけはきちんと終わらせておこうと、棚の整頓をする誠也の動きに加速がついた。この先輩だからこそ、中途半端なことをしたくなかった。

 誠也の心情を察したのか、羽矢斗の苦笑が一点の曇りない笑顔に変わった。

 心を和ませる"天使のような"笑顔に、誠也の顔もほやんと日和る。

 ――もし、尊敬する先輩がどうやって"暇そうなやつら"を呼び出したのかを誠也が知っていたら、間違いなく羽矢斗の背に黒い翼と、三角形の先端がついた角やら尻尾やらが見えたことだろう。

 例え幽霊が見えたところで、分厚いフィルターがかかっている誠也の眼には先輩の本性まで映らなかった。

 ぽかぽかあたたかくなった心で、誠也はてきぱきと仕事を片づける。

 その時、ガーッと自動ドアが開いた。手元から顔を上げた誠也はお客さんの姿に、明るく元気にスマイル0円、やけくそ気味で挨拶をする。

「いらっしゃいませ、こんにちは!」

 レジ周りの清掃をしていた羽矢斗の手が止まる。彼は怪訝そうな瞳で、整頓を続ける誠也を見た。

「佐々、どこに挨拶してるんだ?」

「え?」

 訝しむ羽矢斗に誠也が驚いた。彼は入り口を指さして、

「でもそこに……」

 お客さんがいるじゃないですか――と続けようとして、途切れた。

にゃ~ん

 店内に侵入して来た黒い猫が一声鳴いて、誠也は静かに顔をひきつらせた。

 そこには猫しかいなかった。

 但し――羽矢斗の視界には。

「……」

「幻でも見えたか? ……おまえ、疲れてんだよ。それはこっちでなんとかしておくから、早く家に帰って寝ろ」

「…………そうします」

 行き場を無くした指をおろすと、おぼつかない足取りで店の奥に引っ込んだ。――件の幻が驚いて、彼に注視していたのにも気づかずに。

 後ろでは羽矢斗が猫を追い出そうと、ほうきでやさしく掃いていた。

 ふらりよろりとたばこ臭いロッカールームまで来た誠也は、頭痛を感じてこめかみを親指でマッサージした。

 見間違えるなんて、本当にどうかしている。指摘されたとおり、本当に過労で感覚が鈍ったのだろうか。

 羽矢斗は知っているはずだ。誠也が"見る"人だと。

 それなのに彼はその事に一度も触れない。客の手前か"疲れているから"と誤魔化してくれまでした。

 ……本格的に頭が上がらなくなりそうだ。

 誠也は機敏な動作で制服から私服に着替える。

 早く家に帰って……この分だと仮眠もとった方が良いな……探索はそれからだ。

 頭の中で予定を組み立てながら、裏口から出た。

「お兄さん、靴紐ほどけてるよ~」

 黙考しているときに突然言葉をかけられて、誠也は深く考えずに自分の足元を見た。

「え……?」

 靴紐は、ほどけていなかった。

「…………」

 ざーっと音を立てて血の気が引いた。だらだらと汗が流れていく。

 誠也が地面を見下ろしたまま硬直していると、伸びてきた華奢な手に、はしっとセーターの袖を掴まれて。

 恐る恐る顔を上げた先に、にしゃりと笑う"幻"の姿があった。

 ……やっぱり厄日だ……。

 青年は心の中で、滝のような涙を流した。





 黙々と、脇目もふらず、ただひたすらに左右の足を交互に動かす。

 ……悪夢だ。

 アスファルトで舗装された道を驀進する誠也の後ろから、無邪気な少女が小走りについてくる。

「ねーねー、おにーさんはお坊さんなの?」

 不正解。

 声には出さずに返答する。

 坊主頭だからお坊さんとは安直だ。もっとも、誠也を見た人は大半はそう思うのだが。

 無視を決め込んでいる青年にめげず、少女は懸命に話しかける。

「お兄さん、ボクが見えるんだよね~?」

 見えない。むしろ見たくない。

 律儀に心の中で答えながら一心不乱に驀進する。

「今ねー、自分の身体探してるの。お兄さん見かけなかった?」

 まるでその辺にほいほい落ちているような口調に、誠也は仰け反りそうになる。

 コンビニ客が行方不明者がどうのと話していたことが、この少女と関係あるのかも知れない。……ないかも知れないが。

 ――いや、だから自分には関係ないのだ。

「ねーねー、なんか良い策ないかなー」

 あったらこっちが知りたい。

「あ、まだ名乗ってなかったね。ボク、由比美蕾っていうの。"ちゃん"付けはやめてね。んー、でもお兄さんに"さん"付けされるのも変だから~、美蕾くんって呼んで♪」

 ついて来てほしくないのについて来る"幻"は、訊きもしないのに勝手に名乗り、注文まで付けた。

 彼女は走って誠也の前まで来た。ひょこひょこ結わえられた髪が跳ねる。

「そんでね、後ろで他人の振りしているのがボクのお姉さんで、芹華っていうのー」

 ……他人の振りをされている自覚はあったのか。

 思わず振り向いてしまいそうになった誠也は、なんとか自分の頭を正面にとどめた。

「お姉さんはボクを幽霊だって決めつけるんだけどね、自分じゃ全然そうは思えなくって……お兄さんはどう思う?」

 ――俺もこんなに存在感がはっきりしていて自己主張の烈しい幽霊は初めてだよッ!

 怒鳴りつけたい衝動を抑えるのに忍耐力を総動員する。

「おにーさん、おにーさん、おにーさんってばー!」

 言うことが無くなったらしい。大声の呼びかけになる。

 ちょっと耳が痛いが、これで安心してただまっしぐらに自室へ向かうことが出来る。

 安堵した誠也は歩調を緩めることなく突き進む。

 無視されてもめげない幽霊は、ちょっと考え込んで戦法を変えた。

「………………そんなに無視すると悪戯しちゃうゾv」

――ずざあっ!!

 土煙をあげて思いっきり後ずさった青年が、そのまま街路樹に激突した。

 立派に挙動が不審の彼に、たまたま存在してしまった通行人が退いた。"良識ある"大人は見ない振りを装ってそそくさと通り過ぎていく。

「勝ったー! ……でも複雑ー」

 何をすると思われたんだろう……。

 色々な複雑な胸中を抱えて美蕾は万歳した。

「……ッ!」

 蒼白になった青年は、してやったりと笑む少女に、悔しげに唇を噛みしめる。そんな彼を慰めるように、離れたところにいた芹華が歩み寄り、ぽんと彼の肩を叩く。

「スッポンに噛みつかれたと思って諦めて下さい。アレは一度喰らいついたら離れませんから」

 秋なのにブリザードが吹き付けた気がした。

 極寒のような冷ややかな声音で慰められても、慰められたとは思えなかった。

 スッポンって……自分の妹だろう、いいのか?

 心の中のツッコミは誰にも知られることなく。

 ……変な姉妹……。

 幽霊に、目を付けられたが、運の尽き。

 語呂がよろしいようで。

 つきまとわれ、あげく振り回されて、誠也は己が不運を嘆いた。




 妙な物がたくさん並んでいた。

 美蕾は、目をきらきら輝かせながらきょろきょろしていた。

 予想以上に綺麗な部屋に驚いていた芹華は妹を見て呆れた。

 勝手に触らないのはなけなしの理性か。もし美蕾にしっぽがあったら、しきりに振っていそうだった。

 ――ごちそうを前にした犬みたい。

 犬を飼ったことはないがそんな感想を抱く。

 誠也の部屋は大量の書籍と、美蕾の喜びそうな物で溢れていた。

 タイトルを見た限りでは法学関連が多い。それに混じって、古びた和綴じの本がいくつか。

 国籍不明の妙な物は、芹華には興味がない。

 芹華はワンルームの狭い部屋をザッと観察して、首をひねった。

 物は多いのに、不思議と生活感がない。チリ一つないほど整理整頓されているからだろうか。

 その理由は妹の一言で判明する。

「お兄さん料理しないの?」

 衣食住の、食が欠けている。鍋など調理器具はある。が、しかし。新品同様。

「…………食材があれば」

 誠也が呻いた。流し台の隣にある冷蔵庫のコンセントが抜かれること長い。

 自分の部屋に由比姉妹を案内する羽目に陥った青年は心の中ではらはらと涙を流しながら、思いの外行儀のよい姉妹に、適当に座るようにすすめた。

「あれ、神棚だ。お坊さんじゃなかったのかぁ」

「俺はしがない、いちコンビニ店員ですッ」

 佐々誠也十九歳。自分が普通だと主張したいお年頃。哀しいことに誰もそれを信じてくれない。それも当然。下宿先に神棚など備わっていないし、しかもこの北の大地で青々とした榊が捧げられているのはもっと稀だ。

「神棚って、どうして上にあるかな……神と上を掛けているのかな?」

 素朴な疑問をぶつけてきた由比妹に、

「いや、それは後世のこじつけだろうな。今はもう区別してないけれど、昔は"み"の音が二種類あって、神の"み"と上の"み"の音が違ったから」

 誠也はついつい律儀に答えた。

「そうなんだぁ」

 素直に納得し、感心する美蕾。

 誠也は綺麗な"音"で話す。

 それは声そのものではなく、まして訛りの有無でもなく。一音一音を大事にして話している。それを美蕾は綺麗だと感じた。

「それで……訊くけれど、幽体離脱したのはいつ?」

 仕事をする顔つきとなった青年に、姉妹も表情を引き締めて今朝からのことを話し始めた。




 半ば脅すようにして仕事を交代することに成功した藤宮羽矢斗はビニール袋を片手に、滅多に行かない後輩宅へ向かった。

 使えるものは何でも使うというしたたかさが彼にはあるのだが――何故か誠也の目には人徳に映るようだ。

 それがとても面白いので、羽矢斗はあえて後輩の誤解を解こうとしない。

 記憶を辿りながら、羽矢斗は忍び笑った。

 誠也は時々、ちょっと抜けている。

 誰もいないと思いこんで羽矢斗には見えない"誰か"と会話していたり、あらぬ所を睨め付けていたりする。

 例の噂に至っては――どうせ世界は同じでも、ひとりひとりの見方が違うんです。藤宮先輩はコンタクトですよね? ……俺と先輩の見えている世界は、先輩がコンタクトを付けているときと付けていないとき程度の差ですよ――などと全く否定になっていないことで誤魔化そうとしていた。

 しかしそういうのは誠也のボケの範囲内である。目新しい考え方に感心すらした。目に見えるものではないけれど、人の感情に聡すぎる己に辟易していた頃だったから、何でもないことのように語られて、力が抜けた。

 だけど……。

 青年は先ほどの様子を思い出して、微かに眉を顰めた。

 通常、誠也はほぼ完璧に、その"何か"について、見ない振りを装うことが出来る。

 知り合って半年近くが経過しているが、彼が公衆の面前で失敗したのは、今回が初めてだ。

 羽矢斗が現在、手みやげ持参で後輩の家に向かっているのは、かねてからの心がかりにそれが結びついたからだ。

 ……昨夜――正確には一昨日。恋人の真紀が、不安そうな顔で泊まりに来た。

 弱みにつけ込むようなことを厭った羽矢斗は何も訊かずに望みのままに振る舞ったが――終始、青い顔をして思い悩んでいた彼女は、それとなく……彼女にしてみればだが、さり気なく誠也のことを聞き出そうとしていた。

 結びつける材料は、充分だった。

 そう――目に見えなくてもわかってしまうものが、自分にもあるから。

 考え事をしていると、目的地へ到着した。

ぴんぽーん♪

 気の抜けるようなチャイムの音が響く。

「はーい」

 涼やかな声が間をおかずに届いて、扉が内側から開かれた。

「先輩!? どうかなさったんですか?」

 出迎えた、全てを呑み込む闇色の瞳が驚きに瞠られる。

「あ、……っと、中に……」

 部屋に招き入れようとした誠也は、そこで躊躇いを見せた。

「悪いな、取り込み中だったか。僕のことは気を遣わなくて良い、忘れ物を届けに来ただけだ」

 羽矢斗は手にある袋を差し出す。

「忘れ物? って、あ……」

 押しつけられてつい受け取ってしまう誠也。それはずっしりと重く、覗き込むと中身は食料詰め合わせ(但し賞味期限切れ)であった。

 本当は処分しなければ無いのだが、相手は苦学生。店長を説得して――店長がそれをどう感じたかはさておき――分けてもらったのだ。

「ありがとうございます!! すごい……こんなにたくさん!」

 誠也は感動のあまり目を潤ませながら、これで何日過ごせるだろうとつい計算してしまう。

 以前、規則だからと店長に断られたことがあるので、誠也はこれもまた羽矢斗の人徳が成せる技だと感心した。……知らぬが仏だろうか、これも。

「腹が減っては戦は出来ないだろう。――健闘を祈ってるよ」

 自分に出来ることは、遠回しな支援だけだ。

 ばさっと荷物を取り落とした音を背後に、楽しげな笑みを口元に浮かべた羽矢斗は次なる目的地へと向かった。




 コンビニ弁当をほおばって、時々自分で入れたお茶を飲み飲み、また弁当を攻略していく。

 またたく間に弁当が空になっていく。まるで欠食児童の食事風景のようだ。

「……そいえばお姉さん、買い物したっけ?」

「いや、買い損ねた。あんたもなにか食べたいの?」

「んーん、見ているだけでお腹いっぱい」

「……だよね」

 姉妹が茫然と見守る中、ご飯の一粒までをきちんと腹に収めた青年は、ぱんと柏手を打って、深々と礼をした。

 彼は残りのお茶を飲み干す。

「さて、行くか」

 立ち上がった誠也を二対の瞳が見上げた。

「どこに行くの?」

「君たちには悪いけれど先約があるんだ。その依頼を果たしに」

 彼の肩に、どこから現れたものか――白い鳥が飛来する。

 ……きれい!

 ふわふわの純白羽根、優美な曲線を描く首筋が美しい。

 眼を細めて鳥に魅入っていた姉妹だが、不意に、美蕾が顔色を変えた。

 真綿のような白に刺激され、忘れていた記憶の断片がよみがえり――叫んだ。

「思い出した! ボク、この鳥見たことあるよっ」

「気のせいだろう」

 式神は、生身の人間には見えない。まして彼女たちは幽霊のたぐいを見たことがないはずだ。

 気のせいだと決めつける誠也に、美蕾が常にはない強さで反撥した。

「違う、絶対この子だ! そうだ……ボクが土手から落ちたのって、この子にぶつかりそうになったからだよ!」

「――っ!!」

 誠也の脳裏に、ひとつの可能性が浮かび上がる。

 不自然に消失した目標。何故か生身のまま式神を見た少女。

 険しさを増した表情で棚を漁り、誠也は狭いテーブルの上に地図を広げた。

「どこで行方不明になったのか教えてくれっ」

 切迫した声に、忙しく地図を読みとった少女は、一点を指さした。

「ここ、ですね」

 妹よりも先に、芹華が教えた。美蕾はどっちが北で家がどの辺かという段階で、つまずいていた。

 芹華が示した場所は、誠也が目標を見失った場所と一致する。

「繋がった……」

 手のひらを握りしめた青年は押入を開け、リュックに道具を詰め込む。

 ――彼女の身体はおそらく、乗っ取られた。

 鴉によるめくらましは、到底行方不明になれそうにない場所で姿を隠すための時間稼ぎに間違いないだろう。

 美蕾の魂が抜けかけていたから式神が見えたのか、魂を抜けた身体を乗っ取られるとわかっていたから式神が見えたのか、どちらが正しいのかわからないが、今は事の正否を追究している場合でもない。

 準備を整えた誠也は道具を取り出し易いよう左肩に引っかけると、戸惑う少女たちに告げた。

「行こう。君たちもこの件の当事者だ」

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