断章
幼い頃。振り向くといつもすぐ後ろに、哀願するような茶の瞳があった。
大きな目で、必死に訴えてくる、不躾な眼は。
ただ、淋しいと叫んでいた。
置いて行かないでと、訴えていた。
少子化の影響か近所には子供がほとんどいなくて、自然、遊び相手は家族となる。嫌でも相手をさせられた。
とろくさい相手に辟易して置いていくと、そいつは泣いた。
すぐ、泣いた。
うるさいくらい、泣いていた。
どうしてそんな簡単に涙を流すのだろう。
時には苛立ち、意地悪をした。湿った空気を鬱陶しく思いながらも不思議だった。
今なら――なんとなくわかる気がする。
そいつには自分しかいなかった。
そいつには、それしか、引き留める手段が思いつかなかった。
だけど昔はそれが甘えにしか映らなかった。実際、甘えん坊だったし、辛く当たることに躊躇いもしなかった。
孤独から成したものだと、気づくことが出来たのはそいつが学校に行ってからだ。
相変わらず友達は少ないらしいが、親しい友人が出来て、本という自分の世界を発見してから。
無闇に家族に甘えることをしなくなった。――その必要がなくなったから。
その時、安心したのを覚えている。
つきまとわれて煩わしかったから、荷物がなくなって安堵した。
だからきっと。
――そいつが死んでもきっと自分は悲しまない。
その確信が胸にあった。
それなのに、どうして――現在。
失わないための方向に、自分は動いているのだろう……?




