それでも
ザッザッザッ
「君は本当に素直だね」
歩きながら答える。
「まあそういうところがいいんだけど」
「......。以外と驚かないじゃないか」
「ある程度予想はしてたしね」
海の方を見ながら喋り続ける。表情は見えない。
「余命が見えるかー。全知全能の神じゃん」
「別に全知全能ではない」
僕も立ち上がって彼女に近づく。
「羨ましくもあり、同情もあるな」
「え?なんて?」
「独り言」
僕も彼女の隣に並ぶ。
少しの沈黙が訪れる。
風が頬を掠める感覚がなんとも心地よい。
なんとも言えない清々しい気分だった。
彼女に隠し事を一つ昇華できたからかもしれない。
「......。そろそろ行こうか」
僕は先に歩き出す。
「待って」
「ん?」
「最後に一つだけ教えて」
聞いたこともないような震えた声で聞いてきた。
「君の余命は......何年なの?」
「っ......それは......」
長い沈黙が流れた。
暗闇のせいで彼女の表情がよく見えない。なんて答えようか悩んだ。嘘をついて誤魔化そうかとも考えたが、どういう嘘が彼女にとって最善のものか分からなかった。
かといって本当のことを教えるのは嫌だった。理由は他にはない、とにかく嫌だった。思考を巡らせるうちに彼女が先に口を開いた。
「ごめん、やっぱり忘れて......」
小走りでホテルに帰って行く。
やってしまった......。
彼女が言っていたように寝て起きたら海が全てを消し去ってくれないか。無駄なことだとは分かっている。それでも願わずにはいられなかった。




