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 時計を見ると七時三十分。もうすでに夕食や入浴を済ませてある。

消灯の十時三十分までは自由時間だ。

なかなかに長い自由時間だが、僕は迷わずラウンジに行って本を読むことにした。部屋で読んでもいいのだが、気まずい空気を作る空調機が部屋にいるのは良くないだろうという僕なりの配慮だ。偉そうなことを言っているが実際にはこのホテルに入った時からここで本を読むことは決めていた。そんなことを思い出しながら僕は本を開き、読み始めた。



「ふぁーあ」

 十分ぐらいたった頃だろうか、館内放送がなり、目を開けるとそこには数字があった。底知れない不穏な空気を出す、紛れもない「一」だ。


「あー!やっと気づいた。それにしても流石だね。なかなかの集中力」

僕はもう一度視線を本に落として読んでいるふりをしながら考えた。なんで彼女がここにいるのか。

「もー無視しないでよ!なんだかんだちゃんと話すのは久しぶりだね。一ヶ月ぶりぐらいかな?もう私の余命における十二分の一が終わっちゃったよ」

一ヶ月たってもこの能天気ぶりは変わらないようだ。変わるはずもないが。

「どうしてここにいる?いや、どうして僕がここにいると分かった」

ここに来ることは誰にも伝えていない、それにこのフロアには僕を除いて誰一人、学校の生徒はいなかった。

「ふふふ、私の勘。君ならこういうところ好きそうなんじゃないかなーと思って。ふふふ、すごいでしょ」

「まったく、こんなこと出来るなんて全知全能の神しかいないよ」

「ふふふ、じゃあ私は神だね」

えらく上機嫌なようだ。髪がまだ湿っているため入浴した後、乾かさずにこちらへ来たのだろうか。

「ちょっとさ悪さしない?高校生らしく」

「やめておく。僕の人生はまだ長いからね。こんなところで怒られたら先生に目をつけられて終わりだよ。それに高校生は悪さをするっていう偏見はなんだよ。もっと合理的な理由を持ってくるんだね」

「もー頭固いなー。ちょっとぐらいいいじゃん!残りの人生が短い私に付き合ってよー」

「他のやつを連れていけよ。こんな理屈やろうじゃなくて喜んで行ってくれるやつと一緒にいた方が楽しいだろ。まだそっちの方が合理的だ」

「違う!君と行くのに意味があるの!君と話をしたいの!」



バツが悪くなり、目線を少し上に向ける。

「一」......か。何回見ても恐ろしさは変わらない。禍々しく、寒気を覚える。

闇は闇のままだ。もし自分は光のない洞窟に置いていかれたらどうするだろう。

道標もなく、先も全く見えない。怖くて仕方がないのではないか。

せめてヒカリゴケぐらいにはなってやろうか......。


「バレたらお前のせいにするからな」

「うん、大丈夫。行こっ!」

やっぱり僕は相当なお人好しかただのバカだ。

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