不思議な子
放課後、僕は本を読むふりをしながら彼女を観察した。偶然にも夕日の差し込む教室には僕と彼女しかおらず、僕の方が席が後ろだったため観察は行いやすかった。それにしても「一」という数字なんてまったく見たことがない。それこそ一年に一度見るか見ないかだ。それがまさかクラスメイトだなんて、なかなかの確率である。顔や話している様子を見ていた感じ、病気を患っている様子はなさそうだ。おおよそ事故やなんらかの事件に巻き込まれてしまうのだろう。そう思い、本に視線を移そうとすると急に彼女が席を立ち、こちらに向かってずんずんと歩いてきた。
「ねえあなた、さっきからずっと私のことを見ているけれどなにか用なの?」
「別に、ただ気になったから観察していただけ」
「観察?こわ〜もしかして私のこと好きなの?まだ出会って一日も経っていないけれど、なかなかだね」
なんて癪に触る言い方だろう。仕方がないので触れまいが。
「お前のことを好きだとは少しも思っていない。勝手な憶測で物事を決めつけるな。非合理的だ」
「えーそっかー私結構いろいろ考えて喋ってるんだけどなー。まあいいや。君、たしか輝生君だよね?好きな食べ物は辛い物、私とおんなじ」
まさか十秒以上覚えているやつがいた。
「そうだけど何か?」
「明日ひ......」
「忙しい」
こんなやつに貴重な土曜日を献上するわけがない。
「ねえ最後まで聞いてよ!明日の土曜日、どこか行かない?」
「だから明日は忙しいって言ってるだろ」
「ほんと?じゃあなんで明日は忙しいの?理由を教えて?まさかとりあえず忙しいって言ったら諦めてくれるだろうとか思ってないよね?」
めんどくさい、なんでこんややつに絡まれないといけなんだ。
「今絶対めんどくさいやつだなって思ったでしょ!」
「思ってない」
「思ってる顔をしてた」
「顔で判断するのはよくない。理由に欠ける」
「分かった、もういいから。じゃあなんで来てくれないの?」
「逆にこっちが聞かせてくれ、なんで僕は行かないといけないんだ?もし君が理由をプレゼンしてくれるなら考えてやらんこともないが」
彼女が黙ったので目を逸らして窓の外の景色を見た。風に煽られた桜の木々の下を生徒が通っている。自由に空を舞う桜の花びらを目で追いながら思った。僕も花びらのようにこの場から飛んで逃げ出したいと。そうこう考えているうちに彼女が突然叫んだ。
「いっけなーい、先生に職員室に来いって言われていたのにすっかり忘れてた。早く行かないと」
そう言いながら彼女は大して荷物の入っていなさそうな鞄を大袈裟に背負って教室を駆け出して行く前にこう言った。
「じゃあ明日は十二時にこの学校の前の桜の並木に集合。お昼ご飯でも一緒に食べよう。君が行かないといけない理由は私の秘密を一つ教えるから。以上!」
「おい」
その声に止まることはなく彼女は颯爽と教室を去っていった。やはりあれは病気を患っているわけではなさそうだ。それにしても逃げ足だけは早いもんだ。口実を考えるのは遅いくせに。そして都合のいい女だこと。向こうはこちらのことをペットか何かと勘違いしているのかもしれない。他人とあまり関わらないために自己紹介を適当にやったのに意味がないではないか。あんなめんどくさいのに捕まってしまった。しかし飼い主に引き取られたペットはどう足掻いても支配から逃れることはできない。これ以上考えても時間の無駄だ。そう思った僕は大して重くない鞄をスッと背負い、ゆっくりと教室を出た。




