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幸せ

 彼女について行くと小さな公園があった。まさか公園だとは思っていなかったため少し驚いた。彼女はブランコに座り、こちらを見てくる。どうやら僕も座らないといけないらしい。僕がブランコに腰を下ろすと、彼女は話し始めた。

「私さ、ずっと君に謝らないといけないと思うことがあって」

「校外学習のこと?」

「うん、ちょっと無責任にいろんなこと聞きすぎたなって。君のことを何も知らないのに辛い質問までしてしまって......それがすごい申し訳なくて......本当にごめん」

思わず下を向いて歯を食いしばる。彼女はずっと僕のことを考えてくれていた。僕があの夜、質問に対して無意識にしてしまっていた表情について、彼女はすべて自分のせいだと考え、自分を責めていた。

それなのに僕は......自然と避けようとしていた......。

「ごめん、怒ってるよね」

「違う!君は悪くない、悪いのは全部僕だ。余命の能力についても、君のことなんか考えずに自分の言いたいことだけを言ってしまった。それによって君がどれだけ傷ついたかも考えずに」

彼女の表情は見れない。

「そっか......君は本当に優し子だね。自分のことには目もくれず、他人のことだけを考えられる。本当にすごいと思う」

傷が抉られる。

「そんなことは少しもない。君こそ優しいじゃないか。クラス内ではみんなのお願いを嫌な顔一つもせず率先して行動している。明るい性格をしていてクラスのムードメーカーじゃないか」

いつにも増して早口になる。

「そうだね......そう見えるよね......」

違和感を覚える言い方だ。ブランコを少しこぐ音が聞こえる。

「あと一年を自分のしたいことだけをやって過ごしたいとか思わないのか?クラスに貢献してばっかりで、全然自分のやりたいことが見えないような気がする」

「あはは、そうだね。そう見えるかー」

顔を上げて彼女の方を見る。ちょうど夕日が彼女を照らしている。髪に反射する光が眩しい。

「君もあの夜正直に一つ秘密を教えてくれたから私も一つ、自分のことについて話そうと思う」

彼女は大きく深呼吸をする。

「私はさ、端的に言うと人が怖いんだよ。家族、友達、友人、彼氏、たくさんの人と関わってきたけれど、誰一人として相手の底を見れる人なんていなかった。そりゃ人の考えている事なんて分からなくて当たり前だし、相手が全てのことを私に教えてくれるわけじゃない。いくら家族といえども、お互いの全てを知ることはできない。そう理解していてもやっぱり人が怖いんだ。何を考えているか分からない恐怖、私にとっては毎日が戦争だった。いつ、誰が寝返りをして私の事を嫌いになるのか。こんなに笑顔で話しているけれど実はスパイで裏では私の事を売っているんじゃないかって」

彼女の声が少し震えているのが分かる。

「それに......。いや、何でもない。とにかく私はそんなことばかり考えて生活していた。そんな状態から抜け出すために私は何もかもを周りに合わせるようになったの。話すテンポ、好きな色、好きな食べ物、曲、恋愛の価値観、歩くスピードまでありとあらゆるものを周りと揃えてきた」

こっちを向いた彼女の表情が強張る。

「するとね?自然と人は集まってくるものなの。いわゆる『いいやつ』だから。私に話したら何でもストレスなく話せる。価値観が一緒だから話していて楽しい。ずっと聞いてくれるから相談しやすい。私としては嬉しかった。やっと認めてもらえたんだって。でもたまにふと思うの。本当の私って誰だろう、って。そうなるとだんだんやりたいことがなくなってくるの。だから私は今困っている。あと十一ヶ月しかないこの余命をどう使えば良いのか。私には私自身がよく分からない」

彼女はそっぽを向く。

「って思ってたんだけどね」

よく聞き取れない。こんどはこちらを向き直す。


「私は今、幸せだよ」

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