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物語る。  作者: 桃巴


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物語る。33

珍しく、第三師団長が調合室を使っていると副師団長セレスに聞き、ルキオは調合室をノックする。

どうぞ、と中から言われ、ルキオは扉を開けた。


「……」


なぜかわからないが、部屋の片隅に立てかけられている箒に目がいく。


「ルキオ師団長、どうしました?」

「あ、ああ……」


第三師団長がルキオの様子を窺っている。


「あの箒は?」


本来の目的ではないが、どうしても訊きたかったのだ。


「気になりますか?」

「あ、いや。ああ、そう……掃除道具が必要なのか?」


掃除魔法具は普及しているし、清掃魔法だって第三師団長にはできるのだから。

何より、なぜ調合室にあるのか、と。


他にも不釣り合いな物に目がいく。

姿見……魔境だ。それにオルゴール。


「呪い返しに使った道具ですよ」

「は?」


「箒は呪いを掃くため。魔境は呪いの首謀者を映し出すため。オルゴールは……呪いを鎮めるため」

「……」


ルキオはジッと道具を見る。

箒をへし折りたい気持ちになるのは、なぜだろうか? 


『偽ルキオだから、偽ッキオ。ニセッキオってどうかな?』


今のはなんだ?

まただ、また遠ざかろうとしている。

待て! 過ぎていくな! 留まってくれ!

ルキオは無意識に万能薬を握りしめていた。


『ニセッキオは私の箒だもん』

あの声だ。

『自分に抱きつかれている光景を、自分が見てるんだぞ! 気味悪いだろ!?』

私の声だ。


「ルキオ師団長?」


第三師団長の声に引き戻される。


「だ、い……じょうぶ、だ」

『だ、い……じょうぶ、だ』


自分の声が重なった。

あの日の自分の声と。


『泣くな』

『……泣いてないもん! 煙が目に染みただけ』


『やせ我慢め』

『それを言うなら、そっちでしょ!』


『あの女が近くにいる』

『大丈夫。もう、考えないで。わかってるから』


『私のことだけ考えて』

『すごい殺し文句だな』

『そ、私、ルキオ殺しにかかるから』


『今から、私、第三師団長の所に転移するね。魔眼に『呪い祓い』を手伝ってもらいたいから。一緒に戻ってくるから、待ってて』

『……ああ』


ルキオは金色の光の中に吸い込まれていく『声』を手繰り寄せた。

首元の真っ赤な宝石のネックレスへと。

そこに『緊急避難』させていた。


『『緊急避難術式発動』って念じれば、安全な場に逃がしてくれる。私から弟子に継承しとくね。私も師匠から継承したからさ。私が戻ってくるまでの間……耐えないで、念じて』

『待つさ』


『ここで、お前を待つ』

『うん、わかった。じゃあ、行ってくる』


「第三師団長、何を隠している? いや、私は何を隠している。違う……私を殺したのは誰だ?」


ルキオは万能薬を手にしながら、両手で顔を覆った。


「ルキオ師団長」


第三師団長が口を開く。

ルキオは顔を上げた。


「本当の奇跡は、奇跡が起こったことを知らないで、日常が進んで軌跡を紡いでいく……今です」


ルキオは腑に落ちた。

現状にピッタリな言葉だ、と思ったから。

違和感に目を瞑り、既視感を無視し、今の流れに身を任せれば、どんなに楽だろうか。

きっと、平穏に流れていくはず。

いや、楽なわけがない。

平穏なんて訪れはしない。

あの声が聴こえない未来の方が苦しいから。悲しいから。悔しいから。……焦がれるのだから。

『ここで、お前を待つ』

自分の言葉に縛られるな、とルキオは自身を鼓舞した。


「認知される奇跡は奇跡じゃない。それは、努力の結晶。成せたことは、奇跡じゃなく必然。運命でしょう」


第三師団長がルキオに期待するようにそう続けた。

ルキオは第三師団長の言葉を噛み締める。


「ああ、私は運命を探しに行く」


ルキオは違和感でも既視感でもなく、運命の正体を見つけに行くと決めた。


「どこへ向かうのか、お訊ねしても?」


第三師団長が、同じ台詞をルキオに言った。

ルキオが思い浮かんだのは星空だ。


「新領域の山に行く」

「そうですか。では、これを」


ルキオは第三師団長から箒を受け取った。


「白魔女がいたら、渡してください。魔女には箒が定番でしょう。お見知りおきの手土産に。魔力登録をお願いしてください」

「……わかった」


第三師団長の話の切り替わりに戸惑いながらも、ルキオは箒を手に山奥の小屋へと転移したのだった。




小屋の出入口に箒を立てかける。

扉の貼り紙はそのままだったから。

ルキオはなんとなく、開かずの扉に手をかけた。


カチャ


「……」


解錠されたことに息を呑む。

だが、中から反応はない。


ルキオは少しだけ扉を引いてみた。

やはり、中からの反応はなく、ルキオは扉を開けた。


『師匠からお墨付きをもらったジンジャーティーだよ。飲んで』


リビングのテーブルと椅子が視界に入った瞬間に聴こえた。


壁には薬棚と素材棚。

その下のテーブルには調合器機がある。


「万能魔法薬」


薬棚、素材棚、テーブルいっぱいに並んでいた。


「『私の』だ。第二調合室いっぱいに置かれていたじゃないか……」


ルキオの声は震えていた。

小屋を見回す。

畳まれて吊るされているハンモックが目に入る。


『私が暖炉の方だし!』

『お客が暖炉の方だろ!』


「そう、だった」


ルキオは暖炉横のハンモックを見つめる。


『ここに……、ぃて……ね』


繋がった手の温もりが、胸を熱くした。


『……ああ』


なぜ、こんな大事なことを失っていたのだろうか……ルキオは、嗚咽を抑え込む。

まだ、声しかルキオに戻っていないのだから。


ルキオは、小屋に飾られてい置物(ガラクタ)の魔法具を見る。

そして、気づいた。


「『砂時計』がない」と。


言った瞬間にルキオはあの時に戻った。

第一師団塔だ。

自分は寝台に丸まって耐えている。

第三師団長が微動だにせず、立っている。

自分も止まっていた。

ただ、『呪い』だけは生きている。


『ルキオ……さよならだよ』


一筋の涙だけが視える。


『元に戻ろうね』


手の温もりが消える。


『聖なる力よ、新たな軌跡に導き給え。呪いを祓い給え。守給え。幸給え』


聴こえる、聴こえるのに、視えない。

愕然とする。

楽になったのに、胸が苦しい。

声の主はどこにいる!?


「っ! なぜだ!? なぜ視えない!? なぜ、なぜ! なぜ…………、わかっているさ。呪いを祓うために。私のために」


ガタン


奥から物音が聞こえた。

ルキオはバッと音の方を見る。


ニャーゴ


黒猫がタッタッタッとルキオの横を通り過ぎる。

そのまま、出入口の閉まっていた扉をすり抜けていった。


「待て!」


ルキオは黒猫を追って、出入口の扉を開けた。


「旦那、もう夜ですぜ」


白猫を抱いた怪しげな男がいた。

辺りは確かに暗い。

ルキオは警戒する。


「万能薬は届きましたかい?」


男が白猫を降ろしながら言った。


「お前は……」


カイトの話を思い出す。

白猫を抱いた怪しげな行商人から、万能薬を譲られた、という話を。

だが、ルキオは知っている。この行商人を。知っているはずなのに、わからない。


ルキオはポケットから万能薬を取り出す。


行商人が頷いた。


「だが、飲む必要はない」


ルキオはハッキリと言った。

『呪い』はもう『祓われた』のだから。

あの声が祓ってくれたのだから。

守ってくれたのだから。

幸せを願ってくれたのだから。


「旦那、勘違いしちゃいけねえ。万能薬っていうのは、何事にも万能ってことだ」


行商人が空を見上げる。


「聖なる光が旦那を導くはずだ」


ルキオも夜空を見上げた。

星空が広がっている。


「あっ」


星空が引き金となった。


『今日は力場を案内する。師匠がそう言ってた所。言い方を変えるなら、パワースポット』


「……力場だ。そうだ、そうだった。パワースポットに行った。星空を見上げながら、手を繋いで」


左手に握っていた万能薬が温かくなる。

ルキオは左手に視線を下ろした。

万能薬の蓋が取れていて、金色の光が流れ出ている。

それは、ルキオを導くようにあの日の痕跡を示していた。


「いってらっしゃい、旦那。俺はここで見送るぜ」


行商人が手を振る。

白猫がヌャーゴと鳴いて、小屋に入っていった。




次話完結です。

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