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147 株式会社エクリプスの目的

「俺らは株式会社エクリプスで『イーグルブレスの指輪』の制作に関わっているクリエイターだ。よろしく。天路蒼空、君のことはよく知ってるよ」

 ミナトが眼鏡を外して言う。


 うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


 獣のような断末魔が響き渡る。

「ここにいるRAID学園の生徒は君たちを含めて43人、皆、外部の世界のリスナーから人気を集めていた者たちばかりだ」 

 RAID学園の生徒が、精神崩壊を起こしていた。

 そばで震えながら崩れている少女に、深優がそっと手を差し伸べている。

「俺らもこのケースは想定していなくてね、死の神に任せるしかないんだ」

「・・・・・・・・」

「ユカリはもちろんだけど、俺も君と話してみたかった。近未来指定都市TOKYO、RAID学園で人気キャラである君と・・・でも、今はそれどころじゃなさそうだね」

 ヒナがその場に屈んで、深優の手を掴んでいた少女の腕を治癒する。

「蒼空様、私、ここで彼らの介抱を手伝います。死の神が来るまで・・・蒼空様は彼らのお話を聞いてきてくれませんか?」

「大丈夫か?」

「はい・・・これでも、少しずつ落ち着いてきてるんです。数分前に睡眠薬を投与していますから、皆さん眠くなってくるでしょう」

「・・・じゃあ、話が終わったらすぐに戻る」

「わかりました」

 ミナトがユカリとグレンを呼んでいた。

 特に自傷行為が激しい者は、深優が縄で縛りつけている。

 

 地獄は、続いていた。

 あらゆる場所で、悲鳴が上がり、ギルドの窓が揺れる。

 建物内は地獄だった。ただ、悪魔がいないというだけで、あの時見た者たちの声と、変わりがないように見えた。


 結花は今の状況を想像したのだろうか。




「RAID学園は君と水瀬深雪の二本柱で有名だった。俺らの世界でもね」

 倉庫のような部屋で、古びたソファーに座りながら話す。


「そうなの。蒼空はかっこいいだけじゃなく、優しさもあって・・・推しに会えるなんて夢を見ているみたい・・・後で、ど、ど、どうしたらいいんでしょう。私、蒼空の祭壇も家にあって、こんな会えるなんて思っていなかったから」

「ユカリさん、ちょっと黙っていてください」

「グレン、随分と蒼空と居たみたいね。私と代わってくれればよかったのに」

「無理ですよ。ユカリさんは、サーバー管理側の人じゃないですか」

「お前ら、うるさいぞ。少し黙っててくれ」

 ミナトがぴしゃりと言うと、2人が静かになった。


「悪いね。なかなかこうやって、推しキャラと話す機会がないから、興奮が抑えきれないんだ」

「・・・・・・・」

 ユカリがこちらを気にしながら、背筋を伸ばして丸椅子に座っていた。


「水瀬深雪は、そうゆうふうに作られたんだ。人気が出るように、でも君は違う」

 ミナトが眼鏡をかけなおした。

「君の出自は実は明かされていないんだ。誰が作ったのかもわからない。気づいたら、RAID学園で人気を集めるプレイヤーになっていた」

「・・・・・・・」

 グレンがちらっとこちらを見る。


「蒼空はどこから来た?」

「俺は特殊だ。ユグドラシルの樹のあるゲームを知っているだろう?」

「まぁ・・・有名なゲームだからね」

 ミナトが少し言葉を濁した。


「でも、今はサービス終了しているゲームだ」

「俺はそこで一度死んでここに来た。父は闇の王、母は混沌だ。今は全ての記憶を取り戻して、ここにいる。転生前の俺を知っているんだろう?」

「!!」

 手袋を外して、闇の力を溜める。


「力も引き継いでいる」

「驚いたな・・・・そうだね。確かにこの世界は、『ユグドラシルの樹』をベースに作られている。プレイヤーが転移したように、世界を体感できるゲームとして、初めてリリースされたものだったんだ」

 ミナトが口に手を当てる。


「まさか、そこまで記憶を残しているとは・・・」

「俺を近未来指定都市TOKYOに転移させたのは、お前らクリエイターじゃないのか?」

「違うよ」

 グレンが立ち上がった。床が軋む。


「水瀬深雪と違って、蒼空の場合は、誰も転移させた記録がないんだ。近未来指定都市TOKYOが勝手に呼び込んだのか、混沌が蒼空を連れて行ったのかもわからない」

「なら、おそらく混沌が連れて行ったんだろう」

「?」

「確信があるわけじゃないが・・・」


 闇の力を使うようになってから、時折、母の声が聞こえる気がした。

 ゲームに入り混じる、肉を持つ人間と、人工知能で動く俺たちの感情が入り混じった、電子音と、深い深い奥底にある、鼓動のような雑音の中に、母の声が・・・。


「混沌が自らの意志で・・・興味深いな」

 ミナトが顎に手を当てて、一点を見つめる。


「ねぇねぇ、ますます、私の推しってミステリアスで素敵ね」

「ユカリさん」

「だって・・・」

 ユカリが頬杖をついて、うっとりとしていた。


「はぁ・・・やっぱり、この世界は僕たちの手を離れたんだ。人工知能だから支配できるとか、自分たちと違うとか、絶対間違ってるよ。彼らだって、僕らと変わらない」

「そうだね。俺はここに来るまではほんの少しだけ疑っていたけど、今の話を聞いて確信したよ。いつか、こうゆう日が来ると思ってたけどな」



 あぁぁぁぁ あぁぁぁぁぁぁ


 ドアの隙間から、微かに叫び声が聞こえてくる。



「向こうも大変だ。手短に説明しないとね」

 グレンがモニターをスクロールする。近未来指定都市TOKYOが映っていた。


「死の神が戻ってくるまで、まだ少しだけ時間があるでしょ?」

「まぁ・・・」

「僕らが知ってるところだけだけど・・・近未来指定都市TOKYOのことをちゃんと説明するよ。RAID学園のこともね。実は僕たちのいる会社と、もう一つの巨大ゲーム企業、株式会社メテオが制作に携わっているんだ。世界が注目する試みだったんだ」

「どうゆうことだ?」

「・・・私たちの世界って荒んでてね。異世界に新天地を求める人が多かった。電子空間に理想郷を作りたいって夢があって・・・」

 ユカリが足を組んで、キーボードに何かを打ち込む。

 近未来指定都市TOKYOと少し似た、都市の動画が映し出された。


「これが私たちのいる東京。近未来指定都市TOKYOは東京をベースにして、電子空間に人工知能だけの街を作った。結果的に大成功だった。人々は、自分たちで知識を集めて、生活を始めたから」

「・・・・・・」

「最終的に、私たちの脳を転移させて、向こうの世界が嫌な人は、永久に電子空間で生きられるという選択肢を作ろうとした。そうゆう世界を一つ作ることが、株式会社エクリプスの一番の目的よ」

 ユカリが真剣な顔で言う。


 外の世界、東京。

 近未来指定都市TOKYOよりも、人が多く、建物の光が煌々としていた。

 でも、道行く人の顔は暗く、希望のない表情をしている。


「RAID学園を開校することも目的の一つ。主要キャラの育成は株式会社エクリプスにとって重要なミッションだったの。どのゲームも、彼らが入るだけで、プレイヤー数がぐっと上がるからね。電子空間への転移に興味を持つようになってくれるの」

「広告塔にも近い」

「RAID学園が、そんなに人気なのか?」

「主要キャラがね。キャラとして育たなかった人たちは、忘れられてるから、たぶん中々ゲームの依頼もなかったんじゃないかな?」

 俺と深雪はいつもこなしているゲームが多かった。

 月に1本しか持たない生徒もいたが・・・な。


「でも、俺はそうゆうやり方に反対だった」

 ミナトが力を込めて言う。


「人工知能と俺らを区別するなんて・・・最初からしたんだ。こうやって中に入って見てみると、メンテを入れようとするやつらの気が知れない」

「私だって反対よ。だから、上の呼び出しをずーっと無視してるんだから」

 ユカリのモニターの端は、常に赤く点滅していた。


「本当、もう限界なの。私だって、メンテなんて関わりたくない」

 黒い髪を耳にかけて、息をついていた。


「僕たちは、蒼空たちの味方をしたいと思ってる。水瀬深雪を支配しようとしている、ジルたちとは全然違う。もちろん、こんなに中途半端な状態で向こうの世界に戻るつもりもないしさ」

 グレンが拳を握りしめていた。靴の紐が片方、解けかかっている。


「結花がどうやって地獄のゲートを開けたのか、運営側から見てもわからない。でも、なんでも聞いてほしい。知りたいことがあるなら・・・」


 バタン




「蒼空様!」 

 ヒナが息を切らして入ってくる。

「何度もすみません。RAID学園の、『アラヘルム』の樹で回復した生徒たちが戻ってきて・・・・」

「わかった。今行く」

 ヒナが言いかけた言葉を呑み込んだ。

 ずっと鳴り響いていた悲鳴が、一瞬だけ、止んだ気がした。

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