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146 コアなリスナー

 VRゲームから配信しているとき、リスナーのコメントはほとんどが応援してくれる者だったが・・・。

 中には攻撃的なコメントもあった。顔が見えないことをいいことに、日ごろのストレスをぶちまけるようなコメントだ。

 水瀬深雪も俺も人気はあったが、目立つため、嫌な言葉も多く投げられていた。

 人格否定、あら捜し、容姿の悪口・・・挙げたらキリがない。


 セレナだった部分の深雪が残酷なのは、彼らへの恨みを消せなかったからだろうな。


「主要キャラになれないRAID学園の生徒は、リスナーが少ないから、批判すらない。無関心ってことだよ。だから、メンテして、リスナーの注目を集めるようなキャラになる予定だった。僕はそうゆうのが嫌いだったから、運営側でも浮いた存在だったよ」

 グレンが歩きながらつぶやく。

「蒼空はダークヒーローとして、需要がある。正直、水瀬深雪と同じくらい、大切にされているキャラだ。どんなに無茶しても、君が消されることはない」

「あいつらは、また消されたりするのか?」

「いや、今は結花の行動で手いっぱいだ。悪魔との契約があるだろうし、うかつに触れないよ。召喚した悪魔のことすら、何もわかっていないからね」

 『リーネスの馬車』のギルドの建物は、地獄から戻ってきた者たちの治療スペースになっていた。中にはRAID学園の生徒もいるらしい。



「思ったよりも静かですね」

 深優が窓から中を覗こうとする。

「深優はテイアと待っていてもよかったんだけどな。深雪とジルと顔を合わせたくないだろう?」

「私は、私です。もう吹っ切れましたから」

 凛とした口調で言う。

「そうか」

「んー大丈夫だ。今ここにいる運営側の人間は2人。僕と同じ考えの・・・まぁ、変わった人たちだけど、悪い人たちじゃないから」

 グレンがゴーグルを出して何かを確認する。

「ほかの奴らはどうしたんだ?」

「たぶん、向こうの世界で今回の事情説明してる。知っている通り、このゲームは五感で体感できるVRゲームだ。肉体ごとこっちに転移してきているようなものだから、地獄に堕ちた多くのプレイヤーが生死不明の状態。向こうの世界ではヤバいことになってる」

 グレンが興奮を抑えきれないようだった。

「あ、ごめん。不謹慎だってわかってるけど、僕は結花が起こしたこと、嬉しい・・・というか、ざまぁって思ってるんだ。このゲームはクリエイターの手を離れた。支配できるって思ってるほうが・・・・」


 バタン


 急に、ドアが開いた。

「蒼空様!」

 ヒナが表情を明るくして駆け寄ってくる。


「ヒナ」

「さっき、蒼空様の声が聞こえましたので、絶対近くにいると思って走ってきました」

「よくわかったな」

「あれ? そこにいるのは、水瀬深雪? じゃないですよね?」

「私は深優です。心は違うつもりでも・・・やっぱり同じですよね。紛らわしいですか?」

 深優が少し落ち込んでいた。

「僕の技術で・・・んー。例えば、髪の色とかなら簡単に変えられるけど」

「いいです。この髪、気に入っているので。ありがとうございます」

 白銀の髪をつまみながら言う。

「ヒナ、RAID学園の生徒はここにいるんだろう? 大丈夫か?」

「RAID学園の生徒は、私含めて13人ほどいますが、ほとんどが地獄に精神を持っていかれていて・・・治療を受けています」


 キィッ・・・


 うわぁ あぁあぁぁぁ ぁぁぁぁぁ

 死ぬ死ぬ、助けてくれ、死・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ


「!?」

 入った瞬間、悲鳴が響き渡った。

「今、恐怖を取り除く魔法を使っています。落ち着いてください」

「う、うわぁぁぁぁぁぁ。やめてくれ、やめてくれ」

「すぐに良くなりますから」

 エルフ族の少女が、体を掻きむしっているドラゴン族の2人に、緑の光を与えていた。腕の傷は治っていたが、精神は中々戻ってこないようだった。


「死の神は誰もいないのか?」

「保護のルーンを持つ死の神が来てくれて、何回か回復を促していたのですが、ちょうどさっき、休憩に入ってしまったようで・・・」

「・・・・・」

 RAID学園の生徒だけで52人、このギルドにいる者が100人程度。

 いくら死の神でも、数日で対応するのは不可能だろう。


「ヴァイスの話だと、力尽きて眠ってしまったようです。でも、すごい力でした。しゃべることすらままならなかった一部の者たちが、あんなふうに回復に回っているのですから」

 室内のテーブルや椅子は端に寄せられて、助けられた者たちが互いに回復する場所となっていた。エルフ族が中心となって、治療に当たっているようだ。


「ヴァイスはどこにいる?」

「多分、このギルドの屋上で、他の死の神たちといます」


 うあぁぁぁぁぁぁぁ


 ひと際、大きな声に振り返る。

「大丈夫。治るから、2人とも大丈夫だから」

「駄目だ。俺は、もう、やっていけない。だって、うあぁぁぁぁぁ」

「・・・・・・・・・・」

 ハルトとユウマが青白い顔で、壁のほうに座っていた。

 ヒナタの呼びかけも無視して、自分の顔を引っ搔いている。

「ハルト! 傷が広がっちゃう」

「いいんだ。俺は、死ぬんだ。地獄に堕ちたんだ。地獄、悪魔地獄悪魔地獄悪魔・・・うあああぁぁぁぁぁぁ」


 ゴンゴン ゴンゴン


 ハルトが発狂をして、壁に額を打ち付けている。

 ユウマは焦点が合わないまま、何かをぶつぶつ言っていた。 

 ヒナタが泣きながら、治癒魔法を唱えている。

「・・・そこが、RAID学園の生徒たちのいる場所です。この『リーネスの馬車』のギルドマスターからここで治療を受けるようにと」

「・・・これが・・・」

 グレンが一歩前に出る。


「主要キャラとされた生徒の姿」

 RAID学園から消されなかった生徒たちは、数人しかまともな精神を保てていなかった。

「こいつら、治らなかったのか?」

「死の神シズからは、気を失ったまま地獄に行ったRAID学園の生徒よりも、起きた状態で地獄に行った生徒のほうが、治りが遅いのだと聞いています。彼らは一回の治癒じゃ、戻らなくて、何度か治癒をしなくてはいけないらしいです。ヴァイスは治るって・・・」

 ヒナが辛そうな表情を浮かべた。


「・・・私の父も、地獄に連れていかれたようですね」

「そうだな」

「お母さんとも連絡取れなくなりました。こんな・・・」

 言いかけた言葉を吞み込んで、ふっと視線を逸らした。


「RAID学園の生徒がこんな風になるなんて・・・信じられない」

 グレンが呆然としながら言う。

 回復に当たっているのはヒナタともう一人中等学部の子だけだ。

 分厚い本で調べながら、杖を回していた。

「想像以上だな。ぼ・・・僕も何か調べてみるよ。こんな・・・辛くて見ていられない。彼らは、僕も『イーグルブレスの指輪』に入る前に、よく配信を見ていた子たちばかりで・・・」 

「グレン!!!」

 眼鏡をかけた男と、スーツを着た顔立ちの整った女がグレンに近づいてきた。 


「ミナト、ユカリさん。僕、ここに今来たところで・・・」

「あぁ!」

「?」

 ユカリと呼ばれた女がいきなり俺の前に立つ。


「貴方が闇の王、蒼空。天路蒼空ね!」

「・・・そうだが・・・」

「私の推しなの。最推し。コメントもよくしてたの。あぁ、うれしい。うれしい、私どうしたらいいの? こうやって会えるなんて」

「!」

 いきなり抱き着いてきた。

「ちょっ・・・・」

「うわー蒼空に触れてる。私、蒼空に触れてるなんて、そんな夢みたい」

「ユカリさん! 今はそれどころじゃないので・・」

「あ・・・蒼空の匂いが・・・こんな匂いしてたのね。すごい、こんなことを体感できるなんて・・・」

 グレンが無理やり引きはがした。

「気持ち悪がられますよ。というか、もうストーカーの発言じゃないですか。嫌われますよ」

「き、嫌われるって認知されてるってことよね。それはそれで嬉しいかも」

「怖いですって!」

 グレンの言葉を無視して、ユカリがうっとりとこちらを見つめている。


「蒼空様のファンは濃いですね」

「濃いというか・・・」

 配信するたびにスパチャを投げてくれる人の中に、彼女もいたのだろうか。

 そういえば、SNSで俺の祭壇を作っているとかいう女の人の投稿を見かけたことがあったな。祭壇ってよくわからないからスルーしていたが・・・。 


「ごほん」

 ヒナが咳ばらいをして、俺の横に並んだ。若干、不機嫌になっている。

 深優が、急に短剣を出して、刃先をぼうっと見つめていた。

 なんか、2人とも殺気立っているような・・・。


「俺はミナト、彼女はユカリ、ともに『イーグルブレスの指輪』の運営側の人間だ。気を悪くしないでくれ。ユカリは、これでも仕事はできるんだよ。ただ、推しとの距離感がつかめていないだけで」

 ミナトがため息交じりに間に入った。グレンがユカリに、俺を指さして、必死に何かを説明していた。 

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