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145 52人の・・・

「皆さんは、一度捨てられました。ここにいる方たちは、近未来指定都市TOKYOおよび、クリエイターの方からRAID学園の生徒に相応しくないと判断されたんですよ」

 深優がフードで白銀の髪を隠して、岩の上からRAID学園の生徒たちに話していた。

「は? どうゆうことだよ」

「RAID学園にとって、不要ということです。詳細を説明すると・・・」

「そんな、わけわからないゲームキャラの話なんて聞かないわ。貴女、壊れたアンドロイドとかじゃないの?」

「・・・・・」

 深優が一歩下がる。


「私たちが捨てられたなんて、そんなわけない。待ってて、今、通信を復旧させるから」

「でも、何があったのか・・・俺ら、どこにいたんだ?」

「モニターを出せばわかることだって。今、自分たちがどの位置にいるのか」

 自分たちがどうゆう経緯で、『アラヘルム』の樹の下にいるのか理解している者はいなかった。

 深優の説明も、全く聞こうとしない。


「残念だが・・・」

 深優の横に並ぶ。

「彼女の言うことは本当だ。君たちは捨てられたんだよ。正確には、メンテナンスを入れて、キャラ立ちするよう、作り変えるはずだったようだ」

 52人の生徒に向かって話す。

 若干、高等学部の生徒が多いようだった。


「あ、あ、天路蒼空!?」

「本物か?」

「闇の王になったって・・・」

 俺の顔を見ると、表情を変えていた。


「そうだ。俺は元RAID学園の生徒、天路蒼空だ」

 周囲がざわついた。

 深優が、ふぅっと息を吐く。

「!?」

「お前がRAID学園を裏切ったって聞いてる!!!」

 短髪の男が、ずけずけと近づいてくる。高等学部の紋章をつけていた。


「よくも近未来指定都市TOKYOを・・・」

「あの、待ってください。今はそうゆうことしてる場合じゃないというか。蒼空君は悪くないと思うんです。だって、私、昔ゲームで助けてもらったことあって」

「俺もだ。俺も違うゲームで蒼空君に助けてもらっ・・・」

「うるさい。先生が言ってただろう? こいつを捕えてから」


 ガッ


「!!!!!」

 剣を構えようとした男の、胸倉をつかんだ。


「俺は天路蒼空だ。実績を残してるのもわかってるだろ? 敵うと思うな」

「っ・・・・」

「クゥザ!!」

 少し突き放して、男から離れる。岩の上に立って、生徒たちを見下ろした。


「混乱するのも無理はない。だが、RAID学園の先生たちは、地獄にいった」

「地獄!? そんなわけ・・・」

「俺は冷静に状況を伝えたいだけだ。お前らを救った、結花のためにな」

「・・・・・・・」

 生徒たちが顔を見合わせて、戸惑いながら、静かになっていった。



 RAID学園は元々、ゲームにおける主要キャラを育成するために作られた機関であったこと。

 主要キャラになれないと判断された、ここにいる52人はメンテナンスを受ける予定だったこと。

 近未来指定都市TOKYOは、実験的に電子空間の中に作られ、外の人間たちによって管理されていたことを話した。俺たちが外の人間とは違い、人工知能で動いていることも・・・。


 すべては、グレンに確認を取った話だった。

 生徒たちが混乱して取り乱すと、深優が横で補足をしてくれた。


「結花はお前らを・・・RAID学園の生徒たちをこちらに戻す代償として、闘技場にいた全員を地獄に連れて行った。魔鬼イブリという悪魔を召喚してな」

「結花・・・って、中野結花だよな? あの子が・・・?」

「そうだ。結花も一度は不要キャラにされた」

「・・・・・」

「彼女の行動は、誰も予測していないものでした。なので、この世界は、今、停止状態。クリエイター含め、運営が対応にあたっています」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 全員が沈黙していた。

 どうしたらいいのかわからない表情で、呆然としている。


「・・・蒼空君は、このこといつ知ったの?」

「俺もこの世界の中にいるうちにわかっていったことだ。初めから知っていたことじゃない」

 アラヘルムの樹が大きく揺れる。


「RAID学園が主要キャラか・・・信じたくないけど、なんか、言われて納得したな」

 さっき掴みかかってきた、クゥザが頭を掻きながら言う。

「だって、みんなも変に思っただろう? プレイヤーに会ったとき、なんか会話がずれてるっていうかさ。それに、毎回いろんなゲームに入ってスコアを伸ばして、配信して注目を集めてって繰り返して・・・」

「だよな。ゲームは強制だったし、入りたいゲームも選べないし。スコアの低い者は人権が無いというか、誰にも相手にしてもらえないしさ」

「考えてみれば・・・私、配信してもほとんど誰も来てくれなかったから。いつもランキング下のほうだったし、闇の王復活で招集されたから『イーグルブレスの指輪』に入ったけど・・・・」

 暗めの女の子がぼそぼそと呟いた。


「そっか、私、いらないキャラだったんだ。いらないキャラ・・・」

「リナ・・・」

「そうゆうことでしょ? ここにいるみんな、いらないキャラ。メンテナンスなんて嘘よ。きっと、私たちを廃棄物みたいに潰すつもりだったのよ!」

 リナが目を真っ赤にして叫ぶように言う。

 杖を出して、自分のこめかみに杖先を立てた。


「じゃあ、自分で死ぬ。みんなもそうしたほうがいいよ。変にメンテなんて入って、自分が自分じゃなくなるくらいなら・・・・」

「落ち着いてください」

 深優がふわっと飛んで、リナの杖を掴んだ。


「は、離して! あんた、RAID学園の生徒じゃないんでしょ!?」

「・・・・・・・」

「この苦しみは、RAID学園の生徒じゃなきゃわからない! 自分を否定されたってこと。存在を否定されたってことなの!」

 リナに同調するように、すすり泣く声が聞こえた。

 どうにも発散することのできない感情で、叫び声をあげる者もいた。


「私は・・・・」

「!?」

 フードを脱いで、メガネを外す。サファイアのような目で、リナをじっと見つめた。


「水瀬深雪のコピーです。彼女はクリエイターの思い入れがあるキャラなので、私は予備のキャラとして作られました」

「っ・・・・・」

「深雪のコピー、深雪2、いろんな名前で呼ばれましたが、今は深優と名乗っています。深く優しいという、私だけの名前です」

 リナがゆっくりと手を下ろした。

 生徒たちが静まっていく。


「私は周りから見たら、ただのコピーです。水瀬深雪の記憶も残っていますから、コピーなのは変わらない事実なのです。でも、私は私です。私は自分で自分を、廃棄したりはしません。大切な、名前を与えてもらったので」

 深優が一瞬だけこちらを見てほほ笑んだ。

「自分を不要だなんて思いません」

 一切、迷いのない口調で言う。


「・・・・・・・・」

「俺はRAID学園にあまり思い入れが無いし、お前らをどうにかしたいと思ったのも、ただゲームのシナリオに乗るのが不満だったからだ」

 グレンが遠くのほうで、胡坐をかいてモニターをいじっていた。

 テイアが俯きながら、鉄球を抱えて泣いている。


「でも、結花はお前らを救った。自分が地獄に行くのと引き換えにな」

「・・・・・・・・・・」

「なぜなのかはわからない。でも、救われた肉体を無駄にするな。人工知能だって、感情はあるだろ。主要キャラだろうが、サブキャラだろうが、雑魚キャラだろうが関係ない。お前らはお前らだ」

 マントを後ろにやって、背を向ける。

「これからどうするかは自分で決めろ。他の生き残ったRAID学園の生徒は、ギルドの建物にいる」

「あの・・・蒼空君は、これからどうするんですか?」

 目の細い少年が話しかけてくる。


「・・・俺は、結花を連れ戻す方法を考える」

「蒼空様、お待ちください」

 深優が生徒たちに一礼して、ついてきた。

 死の神の張った結界の残像を軽く掴んで離した。蜘蛛の糸のように薄く光る。





「あ、ソラ。この子さっきから泣いててさ。僕が聞くのもアレだけど、大丈夫なの?」

「テイアは泣いてないのです。あくびをしたのです。あくびが止まらないだけです」

「あくびって・・・」

 グレンがゴーグルを切って顔を上げた。

 テイアが鉄球を抱えて、背を向ける。ずっと泣き続けてるのか。


「テイアは”強い”から問題ない」

「!」

 強いという言葉にぴくっと反応していた。顔を上げて、涙をこらえている。

 深優が呆れたような表情で見つめていた。


「ねぇ、話してきたんだろ? どうだった? RAID学園の生徒たちは、受け入れられそう?」

「さぁな。一応、現時点で知っていることはすべて話した。あとは、あいつら次第だ」

「そっか」

 グレンが草むらに手をつく。


「でも・・・・まぁ、普通に考えて、無理だよね。自分が必要ないキャラでメンテ入りそうになったなんて、腹立つのは当然だよ。僕だって同じ立場だったら・・・そうだな。死んで転生したいって思うかな」

「・・・・・・・・」

 深優が心配そうに、RAID学園の生徒たちのいたほうを眺めていた。


「深優、お前はやっぱり優しいな」

「え?」

「考えてること、聞けてよかった」

「わ、私は・・・ただ、私の思っていることを話して・・・別に、優しいわけではありません。あのまま、変な死に方するような人を見たくなかっただけです」

 深優がちゃんと自分の意志を伝えられるようになったとはな。

 もう、こいつの中に、水瀬深雪は居ないのだろう。


「そうか、君は・・・」

 グレンが深優の顔を覗き込む。

「・・・深優・・・深優か。なるほど、君は水瀬深雪のコピーって聞いてたけど、全然違うね。新しい名前をもらったからなんだ」

「・・・・・・」

「正直、僕とは話しにくいかもしれないけど、仲良くしてよ。確かに運営側の人間だし、君の慕ってる”パパ”とは良好な関係じゃないけど・・・ほら、所詮モブキャラだからさ。運営側の中でも、全然影響力は無いんだ」

 警戒する深優に、軽く笑いかけて手を伸ばした。


「できれば、クリエイターじゃなく靴磨きのグレンとして覚えてほしいんだけど」

「っ・・・・」

「・・・あはは、そんな都合よくいかないよね」

 深優が俺の後ろに隠れると、グレンが手をひっこめて、肩を落としていた。

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