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137 エキシビジョンマッチ

 ヒナの父親が関わったのだろうか。

 このトーナメントの主催者だ。

 数値を操作して俺をこの場に立たせたとしてもおかしくない。


「・・・・・・・・」

 ヒナは結花たちのところへ戻っていた。不安そうにこちらを見ている。

 グレンが俺を指して、興奮気味に何か話していた。


 ワアァァァァァァァァ


『皆さんの投票で決まったエキシビジョンマッチ!! きっと、お二方なら、素晴らしいバトルを見せてくれるでしょう!!』

『すごいです。皆さん、どんどん拡散してくださいね』

 えまとりまが観客席とコメント欄を煽っている。

 観客席から身を乗り出して、バトルフィールドを見つめていた。Aグループのトーナメントでマンネリ化していた空気が、すっと研ぎ澄まされる感覚だ。


「おぉ、やっぱり水瀬深雪だよな。俺も彼女に投票したんだ」

「確かに彼女はAグループ前半戦のMVPだね」

「いや、俺はハンスだよ。どこのギルドにも所属しない孤高の戦士。このバトルで深雪に勝てば、さらに人気が出るんじゃないか?」

「私もハンス推し。圧倒的な力を見せつける余裕とか・・・」

 バトルフィールドに向かう途中、予選通過者のいる観客席から、ちらほら投票の話が聞こえた。


 エキシビションマッチの存在を知らなかったな。

 俺がバトラーに配布されたモニターの通知を切っているからかもしれないが。


「じゃあ、ここからは公式配信で見てね。終わったらまた配信するから」

 バトルフィールドの中央に立つと、深雪が個人配信を切っていた。

 こちらを見て、指文字を作る。


『なんだかすごいことになっちゃった』

『まぁ、適当に盛り上げて、フィールドから降りる』

『了解』

 袖で手がカメラに映らないようにしながら、指文字で会話する。


『ん? どうしましたか?』

 りまが深雪に近づいていった。

「えっと、緊張しちゃって。詠唱の練習を・・・」

『なるほど。水瀬深雪でも緊張するのですね。ハンスは大丈夫ですか?』

「俺は特に問題ない」

 手袋をはめる。えまがこちらを覗き込んで、首をかしげていた。


『では、他のバトル同様のルールとなります』

「はい」

『是非、素晴らしいバトルを期待しております』

 りまとえまが下がって、杖を空に向けた。


 パァン


 ― 天界のシュリア ― 


 深雪が剣を出して、地面を光り輝かせる。バトルフィールドを煌々と照らした。ステータスアップの魔法か。

 深淵の剣を出して、炎をまとわせる。


 ― 業火のホール ―


 ゴオオォォォォォ


 深雪が出した魔法を添うようにして、炎を燃え上がらせた。

 地面を蹴って、上空から斬撃を放つ。


 キン キン キン キィンッ


 光の剣を使って、全ての攻撃を打ち破った。深淵の剣を振り下ろす。


 カンッ


「やっぱり強いね」

「いきなり光魔法を使うなよ。俺が闇魔法を使わなきゃいけなくなるだろうが」

「そっかだった。ごめんごめん」

 深雪が剣を押して、ふわっと下がった。バトルなのに活き活きとしている。

「じゃあ、これならいいよね」

 瞬時に、剣を氷属性の魔力でコーティングして打ち消した。


 しゅうううううううぅぅ


『何が起こったのか見えませんでした。今のはリプレイで後で見ましょう!』

『いきなり、ものすごい戦いになってまいりました!!』

 えまとりまが興奮気味に話す。


 さすが、前回戦ったよりも明らかに強くなっているような気がするな。

 深雪が地面を蹴って、剣を振り下ろした。


 キィンッ


「随分と楽しそうだな」

「だって楽しいもん!」

 剣と剣がぶつかり合う。風が巻き起こり、勢いでカメラが振動していた。


「なんだか、蒼空とこうやって戦うの初めてじゃない気がするの」

「何回か戦ってるからな」

「やっぱりそうだよね」

 深雪は俺の剣の軌道を全て読んでいた。

 炎をまとった剣は、深雪の持つ氷の剣とぶつかるたびに魔力が削がれている。

 闇魔法を使わざるを得なくなりそうなくらいに・・・。


「遊んでる場合じゃないだろ。派手な魔法を使って、とっとと終わらせて・・・」

「蒼空は私には敵わないよ。だって、蒼空の配信見てたから、攻撃パターンを覚えてるの」

「!」

 自信ありげに、ステータスのバフの魔法陣を展開していた。

 全然、バトルを終わらせる気が無いな。


「甘く見るなよ」


 剣を大きくして、灼熱の風を巻き超した。



 ブワァァァァァ ジュウウゥゥ


 黒煙で、深雪が見えなくなった。一瞬、煙が金色に輝く。



 ― 氷華演舞ドラクル― 


 ザザザザザッ


「!!」

 複数の氷の柱が地面から突き出てくる。飛びながら避けて、真ん中に降り立った。

 全て避けたはずだったが、マントの端が少し凍っていた。


「私、氷魔法は得意なの。深い深い雪のような真っ白な魔法が・・・」

 背後から深雪が剣を下ろしてきた。


 カンッ


 深淵の剣で受け止める。炎は剥がれて、闇属性の刃が出てきていた。

「闇の部分が見えてるね」

「まぁな。このまま来るなら、俺も闇の力を使わなきゃいけなくなるだろ」

「じゃあ、2人で力を解放して、この闘技場を混乱させちゃう?」

 いたずらっぽく笑う。

 観客席からはかつてないほどの、歓声が聞こえた。今の状態は、いつ俺が闇魔法を使う者だとバレてもおかしくない。闇の王だとは、思わないだろうが・・・。


「コメント欄で、またサーバー重くなっちゃうかもね」

「・・・そんなことしたら”パパ”が怒るんじゃないのか?」

「”パパ”は私の味方だもの。それに、私には記憶装置があるから大丈夫」

 深雪が剣を切り返してきた。勢いで、氷の柱に亀裂が走る。


「大丈夫って・・・」

「せっかくのバトルなんだから、互いに本気でいこうよ」

 この戦闘の感覚は懐かしかった。

 RAID学園にいたときは、一度もゲーム内でバトルしたことは無かったのにな。


「・・・・・・」

 手袋に左手を当てた時だった。


「!?」

「どうした?」

 突然、深雪の攻撃が緩む。


 トン


 深雪が地面を踏むと、キラキラとした雪を吹き上げた。

 顔が冷たくなる。カメラが雪で覆われて、モニターが真っ白になっていた。


『っと、見えなくなってしまいました』

『今の魔法は初めて見ましたね。皆さん、すぐ戻りますので』


「?」

 深雪がカメラが無いことを確認して、こちらに近づいてくる。

「今、RAID学園の生徒が一人、消えたの」

「生徒が?」

「うん。数秒後には、記憶が消されちゃうかもしれないから・・・」

 白銀の髪についた雪が、落ちていく。


「中野結花」

「!?」

「彼女の名前が消えてるの。名簿から」

「結花が・・・・・?」

 慌てて、観客席のほうを見る。

 ヒナの横にいたはずの結花が、いなくなっていた。


「不本意だけど、ここで・・・」

 戸惑っていると、深雪が自分の周りに炎を巻き起こした。

 剣を地面に下ろして、炎で剣を焼く。


 ジュワアアアァッ


 氷が音を立てて解けていった。


「いったん、勝負はお預け。蒼空は戻ったら、結花のことを確認して」

「あぁ、わかった」

 煙が晴れていく。

 深雪がカメラが近づいてきたのを確認して、手を挙げた。



「降参です! ごめんなさい! 戦闘不能になってしまいました」

 氷をまとっていた剣は、自分で起こした炎で黒く焦げていた。

「・・・・」

『記憶装置に、消えた時間と名前を記録してる。確認したら、さっきの場所に来てね』

 深雪が指文字でささっと伝えてきた。剣を仕舞いながら、頷く。


「すみません。エキシビジョンマッチに招待していただいたのに」

『そんなことありません。素晴らしいバトルでした。結果はどうであれ、トップ2人に相応しかったです』

『わぁ、この剣の焦げ方・・・あの、雪煙の中でこんなバトルがあったのですね。カメラに映らなかったのが悔やまれますね』

 えまが悔しそうにドローンのカメラを見つめていた。


『エキシビジョンマッチの勝者は、ハンス!!!!!』

 りまが声を上げると、観客席から割れんばかりの拍手が沸き起こった。



 オオオオオオオオオオ



「すごいものを見たな。最初にハンスが放った炎・・・あんな火力初めてだ」

「あの水瀬深雪を倒しただと!?」

「無所属ギルドからこんな奴が出てくるなんて」 

 張り付いて見ていたギルドの者たちの話声が聞こえた。


 俺はまだ結花のことを覚えている。忘れる感覚も無かった。

 でも、あの場所にいないということは・・・。

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